江戸指物

江戸時代、徳川幕府は多くの職人を全国から呼び寄せて、神田・日本橋周辺に、大工町、鍛冶町、紺屋町などの職人町をつくり手工業を発達させました。
江戸時代の中頃には消費生活の発達につれて、大工職の仕事は楢物師(ひものし)、戸障子師、宮殿師などの職業に分かれていきました。その一つが指物師で、現在に続いています。

  • 告示

    技術・技法


    乾燥は、自然乾燥によること。


    製造は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    木取りには、物差し、差し金、作業台及び手鋸を用いること。

     
    (2)
    接ぎ合わせは、木当て、鉋、長台鉋及び端金を用いて、摺り合わせ接ぎ、相欠接ぎ、雇いざね接ぎによること。

     
    (3)
    削りには、平鉋、長台鉋、筋罫引き及び木口台を用いること。

     
    (4)
    仕口は、鋸、定規、鉋及び鑿を用いて、留め形隠し蟻組継ぎ、蝋燭ほぞ、大入れ継ぎ、組継ぎ、引込み留め継ぎ、三方留めほぞ、胴突きほぞ又はこれらの方法と同等の仕口によること。

     
    (5)
    彫り加工又はくり加工をする場合には、鑿、彫刻刀、くり小刀、廻し引き鋸及び鉋を用いること。

     
    (6)
    組立は、真田紐、金槌、木槌、端金、当木、面取り鉋、平鉋及び丸鉋を用いて、仕口部分に接着剤を塗布して組み立てること。

     
    (7)
    仕上げ削りには、平鉋、面取り鉋及び丸鉋を用いること。

     
    (8)
    研磨には、トクサ、ムクの葉又はこれらと同等の性質を有するものを用いること。

     
    (9)
    塗りは、漆、いぼた蝋、砥粉又はこれらと同等の材質を有するものを用い、拭き漆仕上げ、蝋引き仕上げ又は時代仕上げをすること。

    原材料

    シマクワ、ケヤキ、キハダ、カエデ、ゲンポナシ、キリ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

     

  • 作業風景

    工程1: 乾燥

    材料になる木目の美しいスギ、クワ、キハダなどの材料を普通の材木屋ではなく銘木店から仕入れます。丸太を用途にあわせた厚みに製材して職人の仕事場や家のまわりに積上げ乾燥させます。

    工程2: 木取り

    もっとも木目が美しく見えるように考えながら各部の寸法に木を取っていきます。ここで木目がきまります。そして、罫引き(けびき)という板の厚さをはかる道具やかんな、物指しを使い板を目的の厚さに平らにかんながけをします。

    工程3: 組み手加工

    二枚の板にそれぞれ「ほぞ」と呼ばれる凹凸を切り込む作業です。ほぞの位置がすこしでも違っていると板はうまく噛み合いません。板の側面をかんなでけずり、正確な長さや幅にし切込みをいれる位置に線をいれます。そしてのみ一本でほぞを切っていきます。江戸指物ではもっともむずかしいく職人の腕の見せ所です。

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    工程4: かりがため・組み立て

    組み手加工をほどこした板をくみ、ぴったり噛み合うかどうかを仮に組んでみます。どこか噛み合せの悪いところがないかを丁寧に調べます。チェックが完了したら本番の組み立てをします。組面に薄くボンドをつけドンドンとこぶしでたたいてはめこみ、さらに金槌で打ちつけます。

    工程5: 外部仕上げ

    細かい傷が残っていないか指先で丹念に確かめながら表面をかんなで仕上げていきます。また、角に丸みをつける、といった加飾加工をほどこします。その後、サンドペーパーやトクサという植物を使い表面をなめらかにみがき上げます。最終の確認は「手触り」で決まります。

    工程6: 漆塗り・金具のとりつけ

    仕上げは漆塗りです。漆を塗って一日乾かし、また塗る、といった作業を丹念に何度も繰り返していきます。よほど大きな物以外は漆師(ぬし)にまかせません。漆塗りが終わり金具を取り付けて完成です。

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  • クローズアップ

    江戸の「粋」を今に伝える 江戸指物

    見えないところにこそ手間をかける、それが江戸の「粋」。一本の釘も使わないその技は繊細優美にして丈夫。親から子、子から孫、ひ孫へと代々大切に使い受け継いでいきたい至極の一品「指物」。素材の良さ、木目の美しさを鋭く見極める指物師、井上さんに江戸指物の魅力について伺った。

     

    自然とこの世界に入っていた

    「高校を卒業して一年奉公に出ましたがその後自然とこの仕事を受け継ぎました。3人兄弟ですが他は普通のサラリーマンしてますよ。」と語る井上さんは二代目。身近にあった木材で遊びものが作るのが好きな子供だったそうだ。「おやじはほんとの職人気質。請求書や領収書など書いたことがない。」と振り返る。しかしその父の姿から職人としてのお客様との関係や「どこまで丁寧にやるかで仕上がりが決まる」といったことも教わったそうだ。だからどんな小さな物でも決して手をぬかない。

    伝統を支えてきた「だんな」と「職人」の関係

    指物も基本的にはオーダーメイド。かつて江戸指物が発達した背景には「だんな」と呼ばれる豪商の人々の支えがあった。だんなの希望を聞いて職人は形にする。そして必要な材料費と「あがり」をいただく。「今その関係はありませんね。職人が在庫を抱えているのが現状です。」伝統の技と品質を受け継ぐためにも職人にいい仕事をお願いするといった消費者の側の意識改革も必要といえないだろうか。

    使いこまれた道具の数々

    いいものは人にアピールする力を持っている

    「やればやるほど奥が深いと最近思います。指物に限らず人の仕事が見えるようになってきました。」「指物の技を使って決まったものだけでなくどんどんアレンジして新しいものにも挑戦したい。」と創作意欲もますます旺盛だ。今息子のたけしさんが三代目として修行中、ちょうど10年目だそうだ。「自分も30代のころは生意気なことを言ってました。今息子がちょうどその時期です。そろそろ1回ガツンと言ってやらないと。」そう語る井上さんだがその目はどこまでもやさしい。

    こぼれ話

    武士、町人、歌舞伎役者に愛好され江戸で花ひらいた

    「京指物はお公家さんご愛用の茶道具が多いが、武家、町人文化の江戸指物は用度品が主ですね。」江戸指物の歴史は約400年前江戸時代中期に遡る。幕府は全国から職人を呼び寄せ、鍛冶町、大工町などの職人町をつくり手工業の発達を図った。やがて宮大工から派生し指物師、彫刻師などに分かれそれが「指物」として独立していったという。

    指物と呼ばれる由縁は「物指しを使ってつくる」「板と板を指しあわせる」といったところといわれる。金くぎを使わず、ほぞ(凹凸の切り込み)を組んで板と板を張りあわせるのが指物の特徴。組んでしまえばほぞは外からは見えない。「「粋」に見せるため少し「きゃしゃ」な作りにします。つまり少し薄い板、細い指し棒を使うんです。だからって壊れやすいわけじゃない。」極めて精緻なほぞを切る完璧な技のみがそれを可能にする。見えないところに技をこらす、まさに江戸っ子の「粋」の世界が今に息づいているのだ。

     

概要

工芸品名 江戸指物
よみがな えどさしもの
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 箪笥、机、台、棚、箱物、火鉢、茶道・邦楽用品
主要製造地域 台東区、荒川区、足立区、葛飾区、江東区
指定年月日 平成9年5月14日

連絡先

■産地組合

江戸指物協同組合
〒112-0005
東京都文京区水道2-6-4
マ・メゾン小日向101
TEL:03-3947-2797
FAX:03-3947-2797

http://www.edosashi.com/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

朝廷用・茶道用が発達した京指物に対し、江戸指物は、武家用、商人用および江戸歌舞伎役者用のものが発達したことが特徴です。木材の木目の美しさ最大限に生かし、あまり装飾的になることを避け、すっきりとした造形と堅牢な作りで江戸の粋を表現しています。特に、御蔵島の桑材は、「島桑」と呼ばれて最高の材料であると評価を受けています。

作り方

板材や棒材を、釘を使わずに、ノミや小刀などを使って凹凸を彫り込んで組み合わせることによって作られます。また、板面の縁に手作りの小ガンナでさまざまな面を取ることもあります。 出来上がった品物からは組み手の中は見えませんが、外からは見えないところほど技術を駆使して作り上げられていますので、とても堅牢で数十年使い続けることが出来ます。

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