三条仏壇

新潟県

三条地方は「仏都三条」と言われるほど仏教の盛んな土地で、江戸時代中期には、北陸第一と言われる堂宇伽藍(どうがらん)を持つ寺院が建てられました。
造営に際しては、京都から呼び寄せた宮大工、指物師、飾り金具師(かざりかなぐし)の指揮、指導のもとに、地元三条の職人が多数参加しました。
その後、この寺院を中心とする浄土真宗が人々へ広まるのと同時に、この地域で仏壇の製造が始まりました。現在の産地としての土台は、この江戸時代中期に確立されました。

  • 告示

    技術・技法


    「木地」の構造は、「ほぞ組み」による組立式であること。


    なげしは、「弓形なげし」又は「わらび型なげし」とすること。


    宮殿造りは、「桝組み」又は「肘木桝組み」によること。


    塗装は、精製漆の手塗りとすること。


    蒔絵及び金箔押しをすること。

    原材料


    木地は、ヒメコマツ、スギ、ホオ、キリ、ケヤキ、ヒノキ、イチョウ若しくはイチイ又ははこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    金具は、銅若しくは銅合金又はこれらと同等の材質を有する金属製とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    工程1: 木地作り

    厳選された木材を使用し、仏壇の本体をホゾ組み立て(寺院の建築と同じ様式で、釘をつかわずに、木をくりぬき、はめこみ、組み合わせていく)によって仕上げます。

    工程2: 宮殿作り

    寺院宮殿をそのままに桝組による組み立て式で、宮殿の豪華さを作り上げます。

    工程3: 彫刻

    図柄を選定し、木材に数種の彫刻刀を用いて、彫り上げます。

    工程4: 金具作り

    銅・銅合金に数種のタガネを使い、伝統的な手打ち技法により作り上げます。

    工程5: 塗り

    天然の漆を使用し、手塗り技術を数回にわたってほどこし、漆塗りを仕上げます。

    工程6: 蒔絵

    格調高い平蒔絵、錆上蒔絵の技法を用いて仕上げます。

    工程7: 箔押し

    純金箔を用い、光押・つや消し押の技法で仏壇に華麗さを加えます。

    工程8: 組み立て

    分業で仕上げられたそれぞれの部分品を、細かい部分を調整しながら正確に組み立て、完成品として「三条仏壇」となります。

     

  • クローズアップ

    職人にしかできない技で祀る 三条仏壇

    あまりにも当たり前に存在しすぎて、なかなか気にとめることがない仏壇。だがちょっとのぞいてみると、そこはどこまでも奥の深い世界。ここではその仏壇の金具の部分に焦点をあて、金具師の田中さんと塗師の山浦さんにお話を伺った。

     

    金物の町、三条の特徴はやっぱり金具

    仏壇の名産地、新潟県。伝統的工芸品の指定を受けた3つの仏壇の一つがこの三条仏壇だ。三条といえば金物で全国的に有名な町。そんな三条で江戸時代から栄えてきた仏壇は、やはり金具に趣向がこらされている。「仏壇の金具には、扉の外に見える外金具と、なかにある内金具があって、それを一個一個別々に作っていくんです。」と金具師の田中さん。小さいものは5センチくらいから、大きいものは30センチくらいまで、大小様々に異なる形の金具を見せてくれる。「金具師はけっこうやることが多いんです。まず金具の柄、つまり絵が書けなきゃいけない。それから彫金技術、あと化学の技術もいるんです。最後は金具に色をつけなきゃいけないからね。」

    田中さんの工場、引出しの中は道具だらけ

    100本あってもどれを使うかすぐわかる

    さて、この金具部門、具体的に作業はどのように進められていくのだろうか。まず下絵に基づき寸法をとり、銅版に型付けをする。「一枚の銅版の上にどう組み合わせれば一番ムダなく取れるのか、それを考えて線を引くんです。」その後、一つ一つの金具のふちを「ヘリとりタガネ」で彫っていく。田中さんのすぐ横にズラリと並ぶ引き出しをあけると、先端がゆるい半月状のカーブになった「ヘリとりタガネ」が山のように収納されている。この100本をゆうに超える「ヘリとりタガネ」の中から、下絵に描かれたカーブと全く同じものを一本探し出す。「たいへんそうに見えるでしょうけど、実はそうでもないんですよ。何年もやってるとたいして探さなくても、あ、このカーブはこいつだなってわかるんです。自分で作ったものですからね。これ、ヤスリのダメになったのとかで作るんですよ。」金具師さんがつくるのは金具だけでなく道具もだったというわけだ。その仕事の幅の広さには驚きを隠せない。

    100本はゆうに超えるヘリとりタガネ

    練習すりゃできることだけど、熟練しないと仕事にならない

    ヘリをとり、内側に鉛筆で模様を書いたら次はヘリの中を彫る。左手にタガネを持って、銅版の上を金槌(かなづち)でトントントントンたたいていく。2ミリくらいの小さな点を、連続的に絶え間なく打ち、線をつくり出していく。柄を彫ったら残った隙間は魚々子(ななこ)で埋める。「これは丸い点が、魚の子のようにきれいに並んで入っているから魚々子って言うんです。これがけっこう技術がいるんですよ。ある程度のスピードでしていかないとだめだから。」このあとはヘリを切り、形を整え、彫金終了。そして金具の使用場所に合わせて酸化や硫化で色をつけて完成だ。

    本当にいい仕事で違いを明らかにしていきたい

    それにしても仏壇の金具一つでこれだけの手間。手作りの仏壇の値が張ってしまうのもうなずける。「仏壇なんて手間賃のかたまりみたいなもんですよ。」と塗師の山浦さん。「最近は金具もプレスで作れるようになってコストが下がっているんです。中国からの輸入もかなりありますからね。」伝統工芸のどの業界にも広がっているコストダウンという名の時代の波。時の変化とともに変わっていった仏壇業界を見続けながら、山浦さんはこう語る。「安いものを作ろうとしてみんながんばってきましたが、工場生産にしたって工賃の安い国にはとてもかなわない。コストの面では中国にかないっこありません。この時代、もう差別化をはかって生き残るしかないと思うんです。いい仕事をして違いを明らかにしなきゃダメなんですよ。それにそういう需要も絶対にあると思いますしね。」

    仏壇の至るところに意匠を凝らした作品が

    三条は個人でやってるからこそ面白い

    そんな職人もののよさとはオリジナリティだ。「プレスだとそれに合わせて木地をつくるようになるんです。それだと独自性ができないし、好き勝手にはつくれない。うちらはオリジナルを作りたいわけですからね。」
    小規模な産地だからこそ、職人個人の意思できちんとした仕事を貫いてゆける三条仏壇。
    「仏壇には伝統工芸が集約されている」という誇りをもつ山浦さん。職人芸の集約だからこそできる、手作りのいいものが見直される時代に向けて「日の目を見るときがあっても職人がいなくちゃおしまいです。職人の仕事は分業制。どれ一つ欠けても成り立ちません。そんな時代が来るまで自分ががんばれるといいですね。」

    職人プロフィール

    田中裕輔

    金具師の田中裕輔さん。
    お父さんも金具師で、中学の頃から手伝っていた。自宅の中に田中さんの工場がある。

    塗師の山浦日出夫さん。
    山浦さんもお父さんが塗師だった。山浦さんの仏壇店には素晴らしい作品が並んでいる。

    こぼれ話

    仏壇、それはとってもエコロジカル

    仏壇とエコロジー、一見何の関係もなさそうですが、仏壇を「拝む」ではなく「つくる」という視点で見てみると、実はとても環境にやさしいつくりなことがわかります。仏壇は日本に古くからある自然素材でできていて、しかも完全にリサイクルできるのです。「家電リサイクル法」なんていうものができるずっと前から日本に伝わっていたリサイクル。仏壇は日本に永く伝わってきたエコロジカルな精神を改めて教えてくれます。<素材編>

    仏壇全体に塗る漆は天然の塗料です。コーティング、色つけ、金箔等の接着剤としてなど、1つで様々な役割を果たしています。漆は一般的に手塗りされ、本当に必要な分だけつかわれるので、スプレーと違って、ほとんどロスがありません。湿度が高ければ高いほど乾くという、湿気の多い日本に非常に適した素材です。

    仏壇の金具に使われる銅。金具の型をとった後のクズは集めて売られます。捨てればゴミ、分ければ資源とはまさにこのことで、売ると年1~2万円にもなるそうです。型をとったあとの銅は不純物がないので質がよく、すぐに溶かして使われます。
    タガネ
    金具師さんの大切な道具、タガネ。これもまた溶かして、別の切り口のタガネをつくれます。また、使わなくなったやすりを溶かして作ることもできるそうです。

    仏壇に貼られる金箔。金を貼る部屋に飛んだ少しの金箔を集めに来る業者さんも存在します。これもまた金以外の不純物と混じっていないので質が落ちません。

    • この仏壇、全て解体できちゃうのです。

    • 左が真鍮(しんちゅう)で右が銅板のクズ

     

概要

工芸品名 三条仏壇
よみがな さんじょうぶつだん
工芸品の分類 仏壇・仏具
主な製品 金仏壇、宗教用具
主要製造地域 新潟市、三条市、燕市
指定年月日 昭和55年10月16日

連絡先

■産地組合

三条・燕・西蒲仏壇組合
〒959-1262
新潟県燕市水道町1-2-40
高三仏具店内
TEL:080-1195-9445
FAX:0256-62-3756

https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/chiikishinko/1293144348052.html

特徴

寺院宮殿の造りを手本として重んじた正統的な宮殿(くうでん)造り、格調高い本漆塗、金箔押し、優れた飾り金具には定評があります。

作り方

仏壇木地を製作し、彫刻を完成させた後、ほぞ組という組みの方法で組み立てた木地を解体して、堅地下地の加工を施し、各種の漆を塗り乾燥させます。乾燥した後に金粉、金箔を張り蒔絵を施して、各部分に金具を取り付け組み立てて完成させます。

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