甲州水晶貴石細工

山梨県

約千年前、美しい眺めで知られた「御嶽昇仙峡」の奥地から水晶原石が発見されたことが始まりです。
発見当時は原石のまま置物等として珍重されていましたが、江戸時代中期には、神社の神官たちが、京都の「玉造」に原石を持参し、加工させるようになっていました。江戸時代後期になると、玉造り職人を迎えて、鉄板の上に金剛砂(こんごうしゃ)と呼ばれるダイヤモンドのように硬い石の粉末を蒔いて宝石を磨く方法を導入したことで、甲州水晶貴石細工が始まりました。

  • 告示

    技術・技法


    欠込みは、たがね及び小槌を用いて荒欠き及び小欠きをすること。


    彫りは、次のいずれかによるものとし、製品の底部は、「平面摺り」をすること。

     
    (1)
    器にあっては、鉄ごまを用いる「深肉彫り」及び「平押し彫り」によること。

     
    (2)
    器以外のものにあっては、鉄ごまを用いる「深肉彫り」、「浮き出し彫り」、「透かし彫り」、「線彫り」及び「平押し彫り」のうち少なくとも二つの組み合わせによること。


    みがきは、桐ごま、桐棒等を用いて砂目跡を残さずみがき上げること。

    原材料

    原石は、水晶、めのう、ひすい、黒曜石又は碧玉とすること。

  • 作業風景

    工程1: 原石選別

    何十種類もある原石の中から、作品に一番あったものを選び出します。石の中に表面からは見えないキズやくもりがあるかどうかを見極めるには、長年の経験と勘が必要です。

    工程2: 線引き、切断

    使う範囲の大枠をきめたら石に線を引き、原石切断用の大きな機械で切断します。

    工程3: 絵付け

    仏像が6頭身になるように計った上で、まず顔を石の一番いいところにもっていきます。
    次に肩、手、腕、足、とイメージがわきやすいように描いていきます。

    工程4: 小割(こわり)

    大きかった原石に、高速で回転しているダイヤで切りこみを入れていきます。できるだけ人型に近づけるように、よぶんなところを落としていきます。

    工程5: 粗ずり

    鉄でできた円形の「コマ」とよばれるものを高速で回転させ、色々な種類のコマに取り替えながら、そこに原石をあて、正確な型にすっていきます(する=削ること)。この際石に、カーボランダム(金剛砂(こんごうさ))という研磨剤をかけながらすっていきます。すりは4回行われ、粒の大きい粒子からだんだん細かい粒子に変えていき、4番すりで仕上げます。

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    工程6: 磨き

    今度は鉄ではなく、木のコマでこすって磨きます。鉄でこすったところがザラザラしているので、同じところを全て磨いていきます。硬い木のあとは柔らかい柳や桐でこすります。
    最後にアレキサンという細かい砂で仕上げます。

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    工程7: 仕上げ

    バレル(回転研磨機)の中にチップトン(丸玉研石)と酸化クロム(アオコ)という磨き粉の中に作品を入れ、入れ物自体をを回転させながらツヤを出します。最後の細かいところは手作業できれいに仕上げます。

  • クローズアップ

    職人と石との響き合い、甲州水晶貴石細工

    貴石を用いた仏像彫刻。木彫りとは全く違った加工方法の魅力もさることながら、石と職人さんとの関係も、水晶のような奥が深さを見せてくれる。
    石の魅力に惹かれ続けて数十年の伝統工芸士、小澤さんと詫間さんにお話を伺った。

     

    昔から神聖なものを作ってきたんです

    身延線南甲府駅から5分ほど歩いていくと、軒先に大きな石が山積みされた建物がある。甲州水晶貴石細工、小澤さんの工場(こうば)である。工場へ入ると想像をはるかに超えた原石の山。これらは遠くアフリカやブラジル、マダガスカルから運ばれてくる。「戦後はほとんど、原石は外国からですね。始まりは昇仙狭なんかの水晶だったんですけど、最近はもう日本ではとれなくってね。」と小澤さん。今でこそ外国の石を使っているが、水晶貴石細工自体はここ甲府で、すでに江戸時代から始まっていた。
    「はじめは玉づくりだったんです。それを眺めて宝物にしたり、お寺に奉納したりしてたんですよ。」と詫間さんが教えてくれる。そこから彫刻技術が発展し、現在では仏像はもとより、干支(えと)や大黒様などの縁起物(えんぎもの)、茶道に使う茶器、また別途アクセサリーも製作している。

    石っていうのは地球と一緒にできたもの

    「水晶ってのは山の奥の奥のほうでとれるんですけどね、たまたま何かの拍子に岩の中に水と一緒に閉じ込められて、何千年もかけて育ってくんです。で、ある日突然地震とかで中の水がドーッてでると、中から水晶がキラキラキラーッってね。それはもう、すごい光景だそうですね。」と小澤さんは目を輝かせて語ってくれる。「石っていうのはね、地球が46億年前に生まれた時に一緒に出てきたもんですよ。永い時をかけて自然が育んできたもんだから、キズやくもりがあるのは当然です。石ってのはどんなに科学が発達しても、種をまいたら生えるってことが絶対ない。1回掘ったらそれっきりない、それが石の尊さですよね。」

    数多くある原石の中から1つだけを選び出す

    自ら輝きを放つ、甲州水晶貴石細工

    人類の歴史すらちっぽけにみえてしまうほど、永い永い時をかけて育ってきた貴石類。自然界の偶然がつちかったそれは息をのむほど美しい。小澤さんの工場にある原石を見て、お話を聞き、作品を見ると、これらの貴石が信仰の対象とされていったのかわかる気がする。
    この石で作られた仏像。それは木彫りとは全く違った魅力をもっている。石の上に漆や金箔や塗料など、何かを塗ったわけではない。だが信じられないほどのこの輝きは何だろう。人が上から手を加えずとも、仏像自ら、内側から輝きを放っているのだ。この「神々しい」という言葉がピッタリの輝きは単に原石がいいだけではない。彫る前に気を引き締め、神経を集中させて職人さんが一気に彫ってゆく。そして落ち着いた気持ちの時を待ち、最後に目鼻をスーっといれる。そうして石に新たな命が吹き込まれる。
    自然界の神秘に惹かれた人間が、想いをこめて磨き、彫り上げる。石と職人の響きがあってはじめて、仏像は仏像としての命をもつ。

    トラメで彫られた仏像。内側から光を放つ

    ある日突然わかるんです。「あ・なんだそうか」って

    とはいえ、そういった仏像は誰でも彫れるわけではない。「仏像ってのはね、10年も20年もやった人が作ってもね、仏像が仏像にならないってことがよくあるんです。」と詫間さん。「顔の表情ってのが難しいんです。50年やればわかるっていうのじゃない。悟りをひらかなきゃあかんのです。“あ、なんだそうか”というのがある日突然わかるんだよね。それまでは彫っても彫っても全然わからん。何としてもうまくいかないもんですよ。」こう語る小澤さんでさえ、もう31年やっているが、“わかった”のは7、8年前だという。

    まずは知って、知ったら一度見てください

    太古の昔から神秘性をもった石。その石を扱う貴石細工は今後どのようになってゆくのだろうか。詫間さんはインターネットに明るい未来を感じている。「私たちは作ってばっかりいてね、営業とかしないでしょ。だから全然人に見せる機会がなかったんです。でもインターネットがあれば全国の人の目に届くし、お客さんとの直接の取引になるから業者にマージンもとられなくって、だいぶ安く売れますよね。」宅間さんの息子さんも昨年からこの道に入り、今は水晶細工のホームページを製作中。全国の人に、今まで知れてなかった貴石細工の魅力が知れわたる日もそう遠くない。とはいえこの貴石細工、間近で見てこそ、じんじんと伝わってくる魅力をもっています。ぜひ一度本物を間近で堪能してみて下さい。

    奥深くから輝きを放つトラメの原石

    職人プロフィール

    小澤七朗

     

    詫間悦二

     

     

概要

工芸品名 甲州水晶貴石細工
よみがな こうしゅうすいしょうきせきざいく
工芸品の分類 貴石細工
主な製品 置物、装身具
主要製造地域 甲府市、甲州市、甲斐市、西八代郡市川三郷町
指定年月日 昭和51年6月2日

連絡先

■産地組合

山梨県水晶美術彫刻協同組合
〒406-0032
山梨県笛吹市石和町四日市場1566 帝京大学 やまなし伝統工芸館内
TEL:055-263-6951
FAX:055-263-7235

http://www.suishou.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

天然宝石の特徴を活かした作品が多く、同一作品は他にありません。

作り方

工程は原石の形作りと研磨の2つに大きく分けることができます。鉄ゴマを回しながら「透かし彫り」「浮出し彫り」「深肉彫り」「線彫り」「平押し彫り」の5つの技法を使い分けて彫刻していきます。

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