博多人形

福岡県

博多人形の歴史は古く、1600年、黒田長政が福岡城を築いた時、鬼瓦の細工物から焼き物作りの技法を学んだ職人が、優れた作品を藩主に献上したのが始まりと言われています。また、19世紀前半に博多祇園町の住人が作り出した土俗素焼きの玩具人形が、博多人形のもとになったとも言われています。

  • 告示

    技術・技法


    粘土は、水簸をして製造した後、ねかしをすること。


    原型造りには、白土粘土を使用すること。この場合において、肌部分は「みがき出し」をすること。


    型取りには、「墨割り」及び「切り離し」によること。この場合において、型は、石こう型とすること。


    素地造りは、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    「手押し」又は「流し込み」によること。この場合において、「流し込み」にあっては、底張りをすること。

     
    (2)
    切り離し面は、「掻き切りみぞ」を施した後、「ドベ」を塗付して取り付けること。

     
    (3)
    加飾をする場合には、「彫り込み」又は「ドベ打ち」によること。

     
    (4)
    焼成をすること。


    彩色は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    胡粉及びにかわの水溶液を用いて肌部分の「艶ひき」をした後、「毛描き」、着物部の塗り込み及び模様描きをすること。

     
    (2)
    加飾をする場合には、「箔張り」、「盛り上げ」又は「本金みがき」によること。


    面相描きは、面相筆を用いて「口紅入れ」、「目入れ」及び「まゆ毛描き」をすること。

    原材料


    使用する粘土は、油山産粘土又はこれと同等の材質を有するものとすること。


    使用する顔料は、岩絵具若しくは泥絵具又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

  • 作業風景

    工程1: 土ねり

    福岡近郊から掘り出した粘土を乾燥、粉砕、水簸などした後、丹念に練り上げます。

    工程2: 原型

    構想、デッサンが繰り返され、人形の姿が決まります。練り上げた粘土をヘラを使って丹念に仕上げていきます。人形の姿を決める重要な工程で、修練の技が冴えます。

    工程3: 型取り

    原型の部分を粘土の土手で囲み、その中に石膏を流し込みます。細かく分割した精巧な型を作ることで、原型の繊細な表現をより正確に写し取ることができるのです。

    工程4: 生地づくり

    原型から取った石膏の型に、粘土を指で強く丹念に押しつけ、型に貼りつけます。型から外された生地を取りつけ、原型と同じ姿に仕上げ乾燥させます。

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    工程5: 焼成

    電気窯やガス窯を使い、およそ900度で焼き上げます。昭和30年ごろまでは、空吹窯と呼ばれる薪の窯で焼いていました。

    工程6: 彩色

    顔に胡粉を何度も塗り重ねて、下地づくりをします。彩色は着物、帯、模様の順で行われ、さらに人形によって金箔張り、盛り揚げ、本金みがきといった手法が用いられます。

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    工程7: 面相

    面相と呼ばれるこの工程は、作家の魂が人形にこめられ、人形の表情が決定づけられる瞬間です。人形の顔の「艶」と呼ばれる部分へ筆を入れます。

    工程8: 完成

    作品の構想から面相まで、いくつもの工程をかけて完成された手づくりの博多人形。匠たちの技が美しい人形を生み出していきます。

     

  • クローズアップ

    慶びの「ものがたり」を語る博多人形

    結婚、お誕生、事務所開き、新築祝いなどに贈られる博多人形。人形師は、能や歌舞伎に題材をとり、贈られた人への幸せを願う「ものがたり」の息吹を人形に込める。町人文化を受け継ぎながら日本を代表する人形に発展した「博多人形」の世界に魅せられた。

     

    人形師の筆と匠の技が生む博多人形

    九州・博多、室見川(むろみがわ)沿いの閑静な住宅地に、博多人形の伝統工芸士・小副川祐二(おそえがわゆうじ)さんの人形工房を訪ねた。
    博多人形の工程は、まず、人形師が土で人形をつくり、型をとるところから始まる。次に、博多人形の艶やかな肌の風合いを出すために、分子の細かい白色粘土を丹念に練り上げる。粘土を型に貼りつけ、人形の原形が完成、目や鼻といった微妙な表情を崩さずうまく出すためには、ひとつの型で50体が限界だ。大量に作るときは、型をいくつも作る。型から出し乾燥させたものを窯で焼き、ていねいに彩色(さいしき)し、顔の面相を加えていく。仕上がるまで約20~60日、一筆ずつ色を入れると、人形に活き活きとした温かい表情が生まれてくる。

    「鐘馗」(しょうき)平成6年、総理大臣賞受賞。小副川祐二作

    伝統工芸、作家性と経営

    小副川さんは、博多人形業界で仕事をしていた父・善吾さんの影響で博多人形の世界に入った。大学を出てすぐ、師匠である人形師、本田広男さんのもとで修行し、3年後に独立、現在は博多人形業界を代表する作家の一人だ。
    人形師の世界は作家性が重視されるが、工房の経営も重要な仕事だ。博多人形の需要ピーク、昭和58年、新幹線開通のころで、当時は博多観光みやげに飛ぶように売れた。その後、少しずつ需要が減ってきた。従来の人形は平屋の日本家屋向けに作られている。マンションなど住環境が変化し、置き場所がなくなったのが需要が減ったの大きな原因だと小副川さんは話す。
    これに対して、最近では、マンションに気軽に置ける小さな人形や壁掛けタイプのほか、キティちゃん人形や、ダイエーホークス人形など新しい人形を手がける人形師も増えてきている。

    • 人形に面相の筆を入れる小副川祐二さん

    • 原形をつくる。奥では90歳になるお母さんが彩色をほどこす

    博多文化を受け継ぎ、日本文化を伝える

    博多人形の歴史は、17世紀初めにさかのぼる。1600年(安土・桃山時代)、黒田長政の筑前入国と福岡城築城に伴って多くの職人が集められ、素焼き人形が生まれ、現在の伝統工芸の下地が作られたといわれる。江戸時代中期には土型を用いた製作が始まり、博多祇園山笠などの町人文化に支えられてその制作が発展し、江戸後半には全国に流通するようになった。
    博多人形は、もとの名を「博多素焼人形(はかたすやきにんぎょう)」という。明治23年、東京で第三回内国勧業博覧会が開催されたとき、2名の出品者が褒章を受けた。その褒章状には、銘題「博多素焼人形」の「素焼」の二文字が消され、このときから「博多人形」の公称が確定され、日本を代表する人形として「博多人形」の名が世界に知られるようになった。

    彩色を待つ童人形(わらべにんぎょう)

    幸せを願うものがたり

    博多人形には、人形の姿の中にめでたいストーリーを表現するものが多い。種類は大きく「美人もの」「歌舞伎もの」「能もの」「風俗もの」「道釈(どうしゃく)もの」「童(わらべ)もの」に分けられるが、題材が型にはまらずバラエティに富んでいるのは、それぞれの人形師がの独自の趣を表現する常日頃の研究によるもの。洋画、日本画、彫刻、伝統芸能の舞台などから学びとる姿勢が、博多人形の性格に大きな影響を与えている。
    小副川さんも、常に伝統的な演劇を参考にし、そこに新しい発見を求める。地元の博多座だけでなく、大阪や東京へ出張の機会にも、時間を作って能や歌舞伎を観にいく。「人形のしぐさや表情に、ものがたりの精神をどう表現するか、日々探求です」と小副川さんは話す。満足する作品が出来ても、また新しい作品を生み出すために、研究を重ねるのだという。

    「松竹梅」小副川祐二作

    祝い事に「博多人形」を送ってみてはいかが?

    博多の百貨店、岩田屋の人形売り場で「どんなときに贈る人が多いのですか」と聞いてみた。事務所開きの時には、七福神や金色を施した大きなものが喜ばれる。親しい人に女の子が生まれたら、「童もの」の女の子の人形を贈り、雛祭りには七段飾りの横に小さな雛の博多人形を置き、五月の節句には小さな武者で子どものすこやかな成長を願う。
    市内を歩きながら、なるほど、市役所や事務所の窓の奥に、博多人形が飾られているのに出会う。博多人形の世界を知れば知るほど、匠の技が生み出す艶やかな物語りに魅せられた。

    「夢」平成4年、秋篠宮真子さまご誕生の折、天皇・皇后両陛下お買上を賜る。小副 川祐二作

    こぼれ話

    博多へ来るときゃ一人できたが帰りゃ人形と二人連れ

    博多人形は「正調博多節(せいちょうはかたぶし)」にも歌われ、博多土産の代名詞としても全国にその名を知られています。その陰には、博多の代表的な祭りである「博多祇園山笠」など博多の風土に根を下ろし、匠の技を受け継いできた人形師の誇りがあります。
    能や歌舞伎に題材をとった古典的なもの、日本を代表する子どもの無邪気なしぐさを表現したもの、様々な人形が、人々の門出を祝います。最近では、壁に掛けるタイプや、キティちゃん人形、ダイエーホークス人形といったキャラクターものも開発され、人気を集めています。
    博多祇園山笠で盛り上がり、博多座で歌舞伎を観、福岡ドームで野球を楽しみ、中洲で食べて、博多見物を満喫した後は、博多人形と一緒に家へ帰るというのは、いかがですか?

    • 博多祇園山笠

    • 壁掛けタイプ 

    • キティちゃん人形

概要

工芸品名 博多人形
よみがな はかたにんぎょう
工芸品の分類 人形・こけし
主な製品 美人もの、男もの、歌舞伎もの
主要製造地域 福岡市、小郡市、筑紫野市、春日市、大野城市、太宰府市、前原市他
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

博多人形商工業協同組合
〒812-0023
福岡県福岡市博多区奈良屋町10-3
西日本奈良屋ビル602号
TEL:092-291-4114
FAX:092-291-8007

http://www.hakataningyo.or.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

博多人形は美人もの、歌舞伎もの、能もの、風俗もの、道教や仏教の人物像、童もの等に大別できます。博多人形の持ち味・特性は、素焼きに着色する落ち着いた感覚の美しさと、きめ細かい彫り込み等です。

作り方

地元で採れる粘土を練り上げ、デザインに基づき彫り上げて原型を作り、石膏(せっこう)で型取りをします。その型に練り上げた粘土を押しつけ型に張り付け焼き上げます。窯から出した後、彩色する前に下地作りをし、「毛描き」を行い、最後に面相描きをします。完成までには約20日~60日かかります。

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