2016.05.06

匠を訪ねて~大阪泉州桐簞笥 桐の良さを最大限に生かすために

2016年5月6日 青山スクエアにて制作実演中の田中美志樹さんを訪ねました。

大阪泉州桐簞笥の匠:田中美志樹さん

大阪泉州桐簞笥は、厚く良質な桐の無垢材を使って作られている重厚感のあるものが特徴。歴史としては今から約300年以上前に作られた文献「難波鶴」によると、大阪の地にあったとされています。

その後、堺の地を経て、現在の泉州に根付くようになりました。今でも大阪泉州桐簞笥は簞笥業界の中でもトップを争うほどのこだわりと質をもった簞笥です。

始まりは小学生の頃

家業のお手伝い

田中さんの家では、お爺さんの時代から大阪泉州桐簞笥を作っていました。そのため、田中さんは小学生の時代からお手伝いをさせられていたようです。

 

何をしていたのかと聞くと、田中さんの家で作られている大阪泉州桐簞笥は全て原木から購入するのですが、トラックで原木を購入してから所定の場所で約1~2年寝かせています。このトラックから所定の場所に原木を運ぶ仕事を、小学生がてらにやっていたそうです。

 

小学生でもできる物なのですか?と尋ねたところ、とても大変だったけど、運び終わった後に外食でうどんを食べさせてもらえたので、それを励みに頑張ったと言っていました。何とも目に浮かぶ情景です。

きっかけはバブル時代

子どもの頃は家の手伝いをしていた田中さんでしたが、次男坊ということもあり、工学部の大学を卒業して半導体の会社に勤め始めます。

 

ですが世の中は、バブル絶頂期。大阪泉州桐簞笥は売れに売れ、どうにもこうにも人手が足りない状態になりました。そこで家から職人として戻ってきてほしいと言われ、3年勤めた会社を辞めて、現在に至っているそうです。

 

田中さんの家ではお店もしているので、実質、お兄さんが店を継ぎ、田中さんが作り手として継ぎ、工房のみんなと一緒に製作に取り組んでいるとおっしゃっていました。

初音の家具

初音ブランドとは

大阪では有名な「初音ブランド」。それを作っているのが、田中さんがいる田中家具製作所です。

 

初音の家具を一番初めに作ったのは、二代目である田中さんのお父さん。『良いモノを造る』という言葉を念頭に、初代の技を受け継ぎ、更に世に広めるために奮闘した結果ともいえます。

 

初音ブランドは大阪のロイヤルホテルに置かれていました。というのも、その昔ロイヤルホテルには「初音」と呼ばれるお店がありました。そこの桐簞笥を作っていたのが田中家具製作所。

 

現在は、初音のお店は無くなってしまいましたが、その名前を田中家具製作所が引継ぎ、商標登録もして初音の家具として売り出しているというわけです。

初音の家具の職人たち

現在、田中家具製作所には田中さんを含めて10人の作り手がいます。そのうち6人は伝統工芸士の資格を取り、毎日毎日桐と向き合って制作に取り組んでいるようです。

 

伝統工芸に携わる人は、年々歳を取っていき、若手が中々入らないというイメージがありますが、田中さんのところには若手の職人の方が多いという特徴があります。田中さんもまだまだ若いですが、10名中6人は田中さんよりも若いというのです。

 

ただ若手は、入ってきた時は伝統工芸を守るという強い信念を持って入社してくるものの、現実を知って離れていく人も多いと言います。

 

田中さんも職人として戻ってきたばかりの時は、田中家具製作所の男所帯に苦労した経験があるので、若手の気持ちもわかると言っていました。

簞笥だけじゃない、様々な桐で作った入れもの

米びつ入れ

お米を入れる桐の入れもの。

 

桐箱に入れることで、かびが付きにくくなります。

 

 

 

 

どっこいしょ椅子

実際に座ることのできる椅子としても代用できます。

 

さらに、桐で出来ている為、女性でも簡単に移動させることのできる優れもの。

 

 

 

 

初音オリジナル桐衣装箱

大事な反物を入れておくのに適した桐の衣装箱。

 

カビや湿気から衣類を守ることができます。

 

 

 

田中さんの桐簞笥にかける思い

きっちり隙間なくつくること

桐簞笥の素晴らしいところは、密閉状態であれば外的要因がどんな状態(雨であろうと、湿気の多い時期であろうと)でも、一定の湿度を保つことができるということ。

 

ものは何であれ、みな「水」の存在によって腐食していくことがほとんど。だからこそ、湿度を一定に保つことのできる桐は素晴らしい材料だと田中さんは言います。

 

そんな桐の特性を最大限に生かす方法は、簞笥の引き出しの箇所に隙間を開けたりしないこと。もちろん、簞笥だけではなく他の家具についても同じです。
お客様に隙間がないので開けづらいと言われても、田中さんは桐の性質を丁寧に伝えて納得していただくようにしています。

 

また物持ちが良く使い勝手のいい家具を作るのに適しているのは、機械で組み立てるのではなく手組をすることだそうです。桐はとても柔らかいので、叩くとすぐにへこみます。へこんだ時に組み込みをして、その上から水を吸い込ませると木は膨張してへこんでいたか所が元の形状に戻るとのこと。

 

この性質を利用しての組み立ては、機械ではまだできないようで、組み方を見るだけで機械で作ったのか、手で作ったのかがわかると言います。手組をしている方が強固な組手を施すこととなり、長い間、安心して使用出来るとおっしゃっていました。

これからもお客様のために

作り手の願いは何十年も使ってくれること

田中さんは簞笥を作るときに、いつもお客様にとって使い勝手がよく、長い間愛用してくれることを願っていると言っていました。田中家具製作所としても、購入後もフォローをしているので、いいものを長い間使うことの楽しみを感じてほしいそうです。

 

そんな田中さんは現在、青山スクエアで行われている特別展「浪花に技あり!大阪地区連合会伝統工芸士会展」に出展されています。会期は5月11日まで。制作体験も行っているので、ぜひ一度きりの良さを田中さんと語ってみてはいかがでしょうか?

※田中さんが所属している田中家具製作所はこちらからリンクしています

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