天草陶磁器

熊本県

天領天草では、島内の各村の庄屋家が村民の自活の道を陶業に求めて、江戸初期・中期から磁器と陶器が焼かれていました。
特に優れた陶石が流出された天草では、延宝(1673年~)年間以前から内田皿山焼の磁器が焼かれ、以降、高浜焼等の窯元で磁器が焼かれました。陶器は、明和2年(1765年)に天草郡本土村水の平(現本渡市)で水の平焼が創業するなど、日用の現代感覚に溢れた陶器が継承されています。

  • 告示

    技術・技法


    胎土は、水簸により調合すること。


    成形は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    ろくろ成形、たたら成形、ひも作り成形、押型成形又は手ひねり成形によること。

     
    (2)
    磁器にあっては、(1)に掲げる成形方法によるほか、素地が(1)に掲げる成形による場合と同等の性状を有するよう、素地の表面全体の削り成形仕上げ及び水拭き仕上げをする袋流し成形又は「二重流し成形」によること。


    素地の模様付けをする場合には、化粧掛け、象がん、刷毛目、イッチン、面取り、貼り付け、彫り、透かし、櫛目又は布目によること。


    下絵付けをする場合には、線描き、つけたて又はだみによること。この場合において、絵具は、「呉須絵具」又は「鉄絵具」とすること。


    釉掛けは、「浸し掛け」、「流し掛け」、「吹き掛け」、「塗り掛け」、「杓掛け」、「イッチン掛け」又は「二重掛け」によること。この場合において、釉薬は、「透明釉」、「木灰釉」、「藁灰釉」又は「鉄釉」とすること。


    上絵付けをする場合には、線描き、つけたて又はだみによること。この場合において、絵具は、「和絵具」又は「金銀彩絵具」とすること。

    原材料


    使用する陶土は、天草島内粘土又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    磁器にあっては、天草陶石を使用すること。

  • 作業風景

    天草では地元で産出する陶土や陶石を使って、陶器と磁器の両方が製作されています。
    ここでは磁器のできるまでをご紹介します。

    工程1: 水簸(すいひ)

    採掘した天草陶石を細かく砕き、水を加えて撹拌し、沈殿槽に移します。
    沈殿槽で小石や砂を底に沈め、泥水となった部分をふるい、除鉄機を通して鉄分を取り除きながら別の槽に移します。この作業を「水簸(すいひ)」といいます。

    工程2: 脱水

    除鉄後の泥水を入れた槽の底に沈殿した原土(粘土泥漿)を、素焼鉢あるいは石膏鉢に入れ、水分が適度になくなり粘土状になるまで放置します。

    工程3: 荒練り

    粘土化した原土を足で練って粘土中の空気を抜き、均一な硬さに整えます。

    工程4: ねかし

    粘土を湿度の高い冷暗所で保管し、熟成させる。有機バクテリアによって熟成させることで、粘度を高め、成形性を良くします。

    工程5: 菊練り

    粘土に含まれる空気を丹念に取り除き、作る作品や作者の好みに合った硬さに最終的に調整します

    工程6: 成形

    出来上がった粘土で製品の形をつくります。
    成形には、ろくろを回して形をつくる「ろくろ成形」、粘土を板状にのばし、その板を元に形をつくる「たたら成形」、ひも状にした粘土を使って形をつくる「ひも作り成形」、陶器や石膏の型に粘土を押しつけて形や文様をつくる「押型成形」、道具を用いず手だけで形をつくる「手ひねり成形」などの技法があります。

    工程7: 素地仕上げ

    各種の技法で成形した生地が生乾きのうちにろくろに乗せ、高台や側面の削り加工などを施します。このとき、型仕上げのものについては、合わせ目の仕上げと、水拭きによる表面を滑らかにする加工を併せて行います。

    工程8: 加飾

    素地仕上げの済んだ生地製品に、必要に応じて加飾を施します。
    加飾の技法は多岐にわたり、以下のようなものがあります。
    ・化粧掛け・貼り付け
    ・象がん・彫り
    ・刷毛目・透かし
    ・イッチン・櫛目
    ・面取り・布目

    工程9: 乾燥・素焼

    仕上げや加飾の終わった生地製品は、屋内で自然乾燥させます。
    形状や加飾によっては、状態が安定するまで囲っておく場合もあります。
    屋内である程度乾かしたところで、屋外に移し完全に乾燥させます。この時、加熱による乾燥をさせる場合もあります。
    乾燥が完了したら、900℃前後の温度で焼成します。

    工程10: 下絵付け

    素焼きした生地に、呉須絵具や鉄絵具で、絵や文様を描きます。

    工程11: 釉薬調合

    釉薬には、透明釉、鉄釉、藁灰釉、木灰釉などがあり、各窯で独自の釉薬を調合します。この時、原料にはできるだけ地元で産出するものを使用します。

    工程12: 釉掛け

    素焼き後、必要に応じて下絵を付けた製品に、釉薬を掛けます。釉掛けには、「浸し掛け」、「流し掛け」、「吹き掛け」、「塗り掛け」、「二重掛け」などの技法があります。

    工程13: 窯積み

    窯の中に釉掛けの済んだ作品を入れていきます。
    棚板と支柱で棚を組み、その間に作品を並べます。作品を棚板に乗せる際には、「ハマ」と呼ぶ煎餅状のものを敷き、万が一釉薬が液下しても作品が棚板に付着することがないようにします。
    窯によっては、作品を匣鉢(さや)に入れて積み重ね、降灰その他の付着物や燃料薪の接触による破損を防ぎます。
    作品と一緒に、「色見」と呼ばれる小さなサンプルも窯の中に入れておきます。

    工程14: 焼成(本焼き)

    1300℃前後の温度で15~18時間焼成します。作品によっては、18時間以上焼成する場合もあります。
    焼成方法は、空気を充分に取り入れて燃料を完全燃焼させる「酸化焼成」と、1000℃ぐらいまで温度を上げたところで、空気を少なめにして不完全燃焼状態にする「還元焼成」の大きく2つに分けられます。
    覗き窓から炎や窯の中の状態を見極め、釉薬が溶けてきたら「色見」を鉄棒などで引き出し、釉薬の状態を見ます。
    程よく焼成が進むまで一定時間温度を保ったのち、焚き口をレンガで閉じ、窯を冷やします。窯の冷やし方には、ゆっくりと温度を下げていく「徐冷」と、急激に温度を下げる「急冷」があります。
    窯の温度が100℃位になったところで窯の口を閉じたレンガを取り除き、作品を窯から運びだします。

    工程15: 上絵付け

    本焼きした白磁器の上に、上絵用絵具で絵付けを行います。まず細い筆で輪郭を描き、やや太めの筆で輪郭の中に色を入れていきます。
    中くらいの太さの筆を使って、輪郭を描かずに一気に絵付けをする「つけたて」という技法もあります。

    工程16: 上絵付け焼成

    絵付けの済んだ作品を窯に入れ800℃前後で7~8時間焼成し、上絵用絵具を焼きつけます。

    工程17: 窯出し

    窯の温度が100℃位になったところで窯の口を閉じたレンガを取り除き、作品を窯から運びだします。

    工程18: 検査

    作品に亀裂や欠損などがないかを検査します。セットものの場合は、色が合っているかどうか確認します。

    工程19: 完成

     

     

  • クローズアップ

    天からの贈り物を形にして~天草陶磁器

    透き通るような白い磁器、土の暖かみを感じる陶器。天草では、江戸時代から多種多様なやきものが作られてきた。それらの源は天草の地にある陶石や陶土である。自らの足元にある素材を活かしたやきものづくりは、三百数十年の時代を経て今に受け継がれ、現在では十件の窯元がそれぞれ個性豊かな焼物づくりを展開している。
    その中のひとつ、創業弘化2年、150年以上に渡って天草でやきものを作りつづけている「丸尾焼窯」を訪ね、五代目当主である金澤一弘さんにお話しをうかがった。

     

    時代と共にあるやきものをつくる

    澄んだ青空の下に、コンクリートとガラスを直線的にデザインしたシンプルな建物が映える。その光景は、歴史や伝統という重みよりも今という時代を感じさせる。
    金澤さんは「伝統は革新の積み重ね」という。常にその時代にあったものを作る。そうしたことの積み重ねが、窯元に時代を生き抜く力を与えてきたのだという。金澤さんにとって伝統は守るものではなく、「今」という時間の積み重ねなのだ。

    金澤さんのところでは、シンプルな白磁やシックな陶器、少し風変わりなカラフルな陶器など、素材や製法にこだわらず、さまざまなタイプのやきものが作られている。
    「常に現代性を意識して製作している」という金澤さんの言葉どおり、どれもが今の暮しの風景に良く似合うものばかりだ。
    磁器も陶器も作る。特定の技法やデザインにとらわれない。こうした製作スタイルは天草の陶磁器づくりの縮図を思わせる。

    多様性という選択

    新雪の様に輝く白磁、海鼠の如き釉調が印象的な磁器、温もりを感じさせる陶器。陶器の様な素朴な風合をもった磁器もあれば、磁器の様な存在感を持った陶器もある。天草では窯元ごとにそれぞれタイプの異なる陶磁器が焼かれている。
    やきものが作られるようになった時、天草では「多様性」という選択がなされたのだと金澤さんは語る。どの窯元も同じようなものを作るという方向に進むのではなく、ひとつひとつの窯元が自分たちの思う通りのやきものづくりをしてきた。その結果が現在の天草陶磁器のバラエティの豊かさとなって表れている。
    多彩なやきものづくりを支えているのは、天草の陶石と陶土である。他の産地が望んで使うほどの良質な原材料は、天からの贈り物に例えられる。
    「天草に陶石があるということは、『やきものをしなさい』ということだと思う」という金澤さんの言葉には、天の恵みに対する真摯な気持ちが込められていた。

    天草発のブランド

    金澤さんは天草の地を拠点とし、「ここに買いにきてもらう」というスタンスを貫いている。そのきっかけとなったのは、「工芸は地域と密着して成り立つのが、正しい在り方ではないか」という思いだった。工芸は、気軽に買って、使って、壊れたらまた買うという、生活サイクルの中に在ると考えたのだ。
    どんなに知名度があっても他所の土地では買えない、その土地に行かないと手に入らない。そんなスタイルが、これからのブランドになると金澤さんは考えている。
    「固有の文化や固有の手仕事の沢山ある『地方』こそ、豊かな場所になれるのではないか」と金澤さんは語る。
    現在、天草には10の窯元が存在している。そして天草でやきものをやりたいという若い人も沢山いる。金澤さんの所で修業して巣立っていく人も多い。そうした先に見えるのは、「陶磁器の島・天草」という地域そのもののブランド化なのかもしれない。

    経糸の責任

    天草には、金澤さんの「丸尾焼窯」同様、江戸時代から続く窯元が幾つもある。窯元たちは数々の時代の波を乗り越え、現在まで窯の火を灯し続けてきた。
    「『好き』でやきものの世界に入ってくる人は多い。でも僕はそうした次元ではやっていない」と金澤さんはきっぱりと言い切る。「好き」は「嫌い」になることもあるが、自分たちの場合は、「嫌い」になったからといってやめる訳にはいかない。家業としてやきものをする人々にとっては、「やきものをやる」ということは、次の代にバトンを渡すまで続けるということを意味しているのだという。
    「それが、代を重ねてきたことの重さ」だと金澤さんは語る。
    長く続いた家業もいつかは終わる時がくる。その時、終わらせる決断をした者には家業を終わらせるという責任がある。家業という経糸の中に身を置く者たちは「絶えず他の代と比べられ、そうした中で死んでいく。それが代を繋いでいく仕事の過酷さだ。」と金澤さんはいう。
    金澤さんはやきものの仕事を好きだと思ったことはないが、辞めようと思ったこともないという。「やっぱり『やきもの屋』として生まれてきたんだろうね。」そういって晴れやかな笑顔を見せた。

    職人プロフィール

    金澤一弘 (かなざわかずひろ)

    昭和32年生。20才から熊本県工業試験場の伝統工芸後継者育成事業で技術を修得。
    昭和55年、23才にして丸尾焼窯の5代目当主を継承。
    生活空間をより豊かにする、日用品としてのやきものの可能性を追求し、現代感覚ゆたかな作品を製作している。夫人の美和子さんも女流陶芸家として活躍中。
    丸尾焼窯からは多くの若い陶芸家が熊本県内外に巣立っている。

    こぼれ話

    白い磁器を生む石

    白磁特有の透き通るような質感と輝き。その美しさは陶石によってもたらされる。現在日本で陶石産地と呼ばれる場所は数えるほどしかない。そうした中で天草は質、量ともに抜きんでている。天草の陶石は有田や京都だけでなく、日本全国のやきもの産地で用いられている。
    ひとくちに陶石といってもその性質は微妙に異なる。陶石中の鉄分が多いと磁器は澄んだ白い色にはならない。また、陶石には粘土など他の素材を加えないと成形や焼成をすることができないものもある。
    天草の陶石は陶石中の鉄分が少ないだけなく、他の素材を加えることなく単独で磁器を作ることができるため、より白い磁器を作ることができるのである。
    透明感のある白さで人々を魅了する磁器を生む石。それが天草陶石である。

     

概要

工芸品名 天草陶磁器
よみがな あまくさとうじき
工芸品の分類 陶磁器
主な製品 茶器、花器、食器、装飾品
主要製造地域 本渡市、上天草市、天草郡苓北町、天草市
指定年月日 平成15年3月17日

連絡先

■産地組合

天草陶磁振興協議会
〒863-2505
熊本県天草郡苓北町内田554-1
(有)木山陶石鉱業所 内
TEL:0969-35-0222
FAX:0969-35-0358

特徴

天草陶石は焼成時の収縮度が小さく可塑性があって適度のアルカリを含有するなど、磁器の原料としても釉薬の原料としても理想的な陶石です。透明感のある純白の磁器や、柞灰を使った温かみある磁器です。陶器は釉薬の二重掛け技法による赤海鼠の陶器や、黒釉を使った個性的な製品が多いのが特徴です。

作り方

天草陶石や地元で採れる粘土を原料に主にろくろで成形し釉薬を施して、陶器は約1,250℃、磁器は約1,300℃で焼き上げます。

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