匠を訪ねて~村上木彫堆朱 伝統を守るのか現代に合わせるのかと葛藤する心
2015年10月6日 青山スクエアで制作実演中の鈴木伸也さんを訪ねました。
村上木彫堆朱の匠:鈴木伸也さん
村上木彫堆朱は新潟県村上市で作り続けられている伝統的工芸品。
彫刻刀で木彫りをし、その上から漆を何層にも重ねて塗るのが特徴です。「堆朱」は朱色をしていますが、作っている家によって朱色に違いがあり、それがその一族のカラーとなっています。また「堆朱」の他に「堆黒」「朱溜塗」「金磨塗」「色漆塗」「三彩彫」などの技法もあり、村上の地を支えているのです。
伝統工芸士として
今年修得した「伝統工芸士」の資格
鈴木さんは村上木彫堆朱を始めてから13年目。
伝統工芸士の資格は12年以上、伝統的工芸品の仕事に従事していることが試験を受ける必須条件となっているので、ようやく去年試験を受けることができ見事合格しました。
鈴木さんが働いている「鈴木漆器店」では、すでに父親が資格を取得しているので、お店では二人目となります。
鈴木さんは29歳まで新潟県の銀行員として働いていましたが、実家を継いでいた長男が亡くなったため、家に戻ることを決意。そしてこの世界に飛び込んだそうです。
始めは昼間に彫りの訓練校に通い、夜に塗りの訓練校に通い、それ以外の時間はお店の仕事をこなすという生活をしていました。
鈴木さん自身、子供の頃は親からも何も言われなかったということもあり、家を継ぐとは思っていなかったので、村上木彫堆朱を習ったことも作ったこともありませんでした。
30歳を目前にして、ゼロからのスタート。道具は昔から家にありましたが、全てが知らないことだらけ。
それでも何とか訓練校を卒業し、その後は父親が作っている姿を見て覚え今に至るそうです。
量産ができない村上木彫堆朱・・・だからこその魅力
バブル時代に機械化が進む伝統的工芸品
手づくりだからこその伝統的工芸品ですが、ものがよく売れたバブル時代には、工芸品業界の一部で量産化を目指して機械化を導入しようという動きがありました。
村上木彫堆朱も時代に乗って機械化をしてみようと試みたのですが、残念ながら失敗。この伝統的工芸品は機械化できないことがわかり、量産化をあきらめて、手づくり一本でいくことを決めたそうです。
ですが時代が過ぎ現在になってみると、手づくり一本で作り続けていた村上木彫堆朱だからこそいいという流れが出てきました。
量産化が当たり前の時代に、一点一点これでもかというぐらいに木を彫刻刀で彫るというのは珍しく、他にはあまりない伝統的工芸品として日の目を見るようになったのです。
鈴木さんも村上木彫堆朱の彫師として、そのことを誇りに思いながら木地に下書きを施してから毎日毎日彫刻刀を持って彫っているそうです。
たくさんの人に知ってもらいたいという思いを持って・・・
この先、鈴木さんが作っていきたいモノとは・・・
制作実演で実際に彫っていた彫刻
最後に鈴木さんにこの先、どのような村上木彫堆朱を作っていきたいですかと聞いたところ、迷っているとおっしゃられていました。
いかにもな村上木彫堆朱の作品も伝統的価値が高いため後世に残していきたいという思いから、昔からの伝統を引き継いで作っていきたいという気持ちがある反面、
若い人たちが興味を惹かれやすいコップや今の生活にあった作品を作っていきたいという気持ちもあるそうです。
伝統的工芸品といえども、やはり売れなければ生活も出来ず、村上木彫堆朱を作ることも出来ません。そういった意味では、使う側の後継者を増やしていきたいとおっしゃっていました。
現在、新潟県でも村上木彫堆朱の使い方を知らない若い人たちがいるので、まずはそこから知ってもらうために、新潟県にある造形大学とコラボをして普及活動もしているそうです。
毎日使っていても飽きない朱色の造形、村上木彫堆朱。
一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
青山スクエアの常設展にも数点ですが置いてありますので、手に取ってみることも出来ますよ。
青山スクエアでは「村上木彫堆朱展~越後村上 伝統の技~」に出展されていましたが、普段鈴木さんは鈴木漆器店で商品を作っています。
オーダーメイドも受け付けていますので、書いてほしい図柄がある場合は言っていただけるとデザインを施して作っていただけるかもしれません。