宮古上布

沖縄県

今から400年前、琉球の貢物を載せた船が台風に遭い、沈没しそうになったところに、ちょうど乗り合わせていた宮古島の男が、勇敢に海に飛び込み、船の壊れた所を直して、乗組員全員の命を救いました。
琉球王がこの功績を称えてその男を問切坊主としたところ、その妻は喜び、心を込めて布を織り王に献上しました。これが宮古上布の始まりだと伝えられています。

  • 告示

    技術・技法


    次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。

     
    (1)
    先染めの平織りとすること。

     
    (2)
    よこ糸の打ち込みには、「手投杼」を用いること。


    かすり糸の染色法は、「織締め」又は「手くくり」によること。この場合において、染料は、藍又はこれに類するものを原料とする植物性染料とすること。

    原材料

    使用する糸は、「手うみ」のちょ麻糸とすること。

  • 作業風景

    宮古上布は、手で績んだ糸を藍染めしてから織るという手順で作られます。作業は昔から分業で行なわれています。苧麻(ちょま)の栽培、苧績み(ブーンミ)、機締め、藍染め、織り、砧打ちなど、何人もの人の手をへて完成します。分業制には、それぞれが専門の技術をより深く追究でき、品質を高められるという利点があります。絣(かすり)模様が細かいので、一反の着尺を織り上げるのに3カ月はかかります。

    工程1: 苧麻から繊維をとる

    糸の原料は、イラクサ科の苧麻(ちょま、宮古の言葉ではブー)です。風に弱いので、家の裏庭などで栽培します。堆肥を用い、化学肥料は使いません。40日ほどたって150センチをこえたら、根元から刈り取ります。年に4、5回収獲できます。初夏に取れるものが最も品質がよく「ウリズンブー」と呼ばれています。刈り取ったら葉を落とし、茎の表皮をはぎ取ります。アワビの貝殻で繊維以外の部分をそぎ落とします。繊維は水洗いしてから陰干しして乾燥させます。

    工程2: 苧績み

    経糸(たていと)も緯糸(よこいと)も手で績みます。苧麻からとった繊維を爪で細かく裂きます。経糸は髪の毛くらいにごく細く裂きます。結ばないでより合わせてつなぎ、1本の糸にします。次に糸車でよりをかけます。経糸は2本をあわせて1本によります。緯糸は1本です。1反分の糸を一人で績むには3カ月以上かかります。

    工程3: 図案と絣締め

    方眼紙に十字絣で模様を描きます。糸の長さを一反分にそろえる整経を行なった後、絣締めのときに絣がずれないよう糊づけをします。乾いたら、白く残したい部分を木綿糸で括(くく)ります。絣が細かいので、締機を使って括ります。締められた糸はむしろ状になり、絣むしろと呼ばれます。むらなく染色できるように糊を落とします。

    工程4: 染色

    沖縄本島の伊豆味で栽培されている琉球藍を使います。ポリ容器に泥状の藍を入れ、苛性ソーダ、泡盛、黒糖を入れてかき混ぜます。1~2週間たつと発酵して花のような泡が出てきます。絣むしろと、絣の入らない無地の地糸を液につけます。取り出して空気に触れさせて染めていきます。1回染めたら糸をしぼって4、5時間天日に干します。十分濃い色になるまで、20回ほど繰り返します。

    工程5: 仮筬(かりおさ)通し

    染色を終えたら、絣を締めていた糸をとり、洗って乾燥させます。図案に合わせて仮筬に糸を1本ずつ通していきます。

    工程6: 製織

    仮筬を通した糸をきれいに巻き取ったら、綜絖(そうこう)に通してから筬に通して織り始めます。針で縦糸の絣のズレを直しながら、少しずつ織り進んでいきます。熟練した人でも一日20センチくらいです。

    工程7: 砧打ち(きぬたうち)

    織り上がった布は洗濯し陰干しします。両面をイモクズでんぷんで糊づけし、小さく折りたたみます。アカギの台の上に置き、イスノキで作った4キロもある木槌でたたきます。3時間ほど、まんべんなくたたき続けます。この作業によってなめらかで光沢のある布に仕上がります。

     

     

  • クローズアップ

    究極の手仕事が生むしなやかな夏の着物

    手で績んだ糸で織る濃紺の宮古上布は、日本四大上布のひとつとされ、夏の着物の最高級品として、また稀少品として、着物好きの人たちのあこがれになっている。30数年、織り続けてきた平良清子さんにお話をきいた。

     

    わずか1ミリの絣をあわせながら織る

    指をすべらせると、麻とは思えないなめらかさだった。濃紺の布にはしっとりと品のいいつやが出ている。手績みの細い糸を使い、仕上げに「砧打ち」をする宮古上布ならではの手触りである。品の良さの秘密は、細かな絣(かすり)模様にもあった。沖縄のほかの織物は線で柄を作ることが多いが、宮古上布は点描のような手法を使う。白い小さな十文字(十字絣)を無数に織り込んで、紺色の柄を浮き上がらせる。しかも総絣といって、花、亀甲、銭玉などの柄を布全体に繰り返し入れるのが特色だ。
    平良清子さんに織るところを見せてもらった。ふつうの機織りとはリズムがちがう。パッタンパッタンしばらく織ると、手をとめて布の上に身をかがめている。のぞきこむと、針で糸を1本1本すくって白い絣模様のズレを直しているのだった。
    藍で染めた糸には、わずか1ミリほどの白い部分がある。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の白い部分を交差させると十文字ができる。この十文字で模様を描いていくわけだが、織っているとどうしてもズレが出るので、ときどき修正する。気の遠くなりそうな細かい作業である。

    上布を末永く残したいと話す平良清子さん

    女の子が生まれると喜ばれた

    普通の人は一日に数センチ、熟練した人でも20センチくらいしか進めない。一反織るのに3カ月かかる。糸は細く切れやすいので、針ですくうときはとくに注意が必要だ。
    「始めたころは目が疲れて、夜寝る前にポロポロ涙が出て止まらなかったですよ。」という平良さんは、20代後半のとき機織りを始めた。母親も染めと織りをやっていたし、近所の人もみんなやっていたから、自然な成り行きだったという。
    かつて宮古上布は、さとうきび、鰹節と並ぶ島の三大産業のひとつだった。織り手になる女の子が生まれると喜ばれ、手先の器用な子には、食事の支度も洗濯もさせないで織りに集中させた。女の子が二人か三人いれば赤瓦の立派な家が建ったという。現在は年間約30反の生産量なのに対し、昭和10年代の最盛期には年間1万5千反が生産されていた。平良さんが始めたのはそれより後の時代だが、織っている人はまだたくさんいた。

    乾くと切れやすいのでスポンジで湿らせながら

    一人で織る自信をくれたのは台風だった

    最初は、第一人者だった下地恵康さんの工房に通った。切れやすい糸の扱いに慣れるだけでも何年もかかる。当時の指導は厳しく、背中をたたかれながら覚えていった。三年たったころ、大きな台風が島を襲った。工房のトタン屋根は吹き飛ばされ、せっかく織り進んでいた反物が雨にぬれてしまった。仕方なく家に持って帰り、隣のおばさんや母親に手伝ってもらい、乾かして、巻き直して、また織った。
    「たいへんでしたけど、織り上がったときは自信を持ちました。自分でも何とかできるかなと。それからは家で織りました。これしか仕事がないからなのか、好きなのかわからないけど、機から離れたことは一度もありません。」
    その間に三人の男の子を育て上げた。母親が機織りをしていると、子供は不思議と非行に走らないという。

    苧麻から績んだ糸

    90歳になってもまだまだ現役

    宮古上布に使われる糸は、経験豊富なお年寄りが績んでいて、質がよいことで知られている。
    「いい糸を機に乗せて織り始めるときはうれしく感じます。きれいな模様ができると、ひと安心です。」
    逆にうまくいかないと、あれこれ後悔して夜も眠れない。
    「仕上げてホッとする気持ちは、やっている人にしかわからないと思いますよ。20年後?ここでは90になるオバアも織ってますからね。」と平良さんはほがらかに笑った。

    職人プロフィール

    平良清子 (たいらきよこ)

    1938年生まれ。染めと織りに取り組むとともに、宮古織物事業協同組合で後継者の育成に力を注いでいる。

    こぼれ話

    元気なお年よりが支える宮古上布

    宮古上布には細くて均質な糸が使われます。そんな上等の糸を績んでいるのは、80歳以上のおばあちゃんたちです。
    苧麻(ちょま、宮古の言葉ではブー)を栽培し、茎から繊維をとる作業を担当している友利千代さん(83)を訪ねました。家の裏庭が苧麻の畑になっています。肥料はヤギのふんの堆肥。化学肥料は使いません。堆肥作りのために3匹のヤギを飼っています。えさにする草は、農薬がかかっていない海沿いの野原まで刈りにいくそうです。
    友利さんはびっくりするほど元気で、力のいる仕事もみんな一人でやってしまいます。苧麻は背丈より高くなるころに刈り取り、アワビの貝殻で茎の皮をしごいて繊維をとります。乾燥させて、次の作業をする人に渡します。
    繊維から糸を績む人も、80代、90代のおばあちゃんばかりです。繊維を爪で細く裂いて、より合わせてつなぎ、1本の糸にします。
    機織りにも、速くきれいに織れる80代の名人たちがいます。上布にたずさわるお年よりは、病院にいくことが少なく、ボケることもないそうです。彼女たちが培ってきた技術を伝える後継者の育成が今、進められています。

    • 風に弱い苧麻は家の裏庭で大切に育てられる

     

概要

工芸品名 宮古上布
よみがな みやこじょうふ
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地
主要製造地域 宮古島市・宮古郡多良間村
指定年月日 昭和50年2月17日

連絡先

■産地組合

宮古織物事業協同組合
〒906-0201
沖縄県宮古島市上野野原1190-188
TEL:0980-74-7480
FAX:0980-74-7482

http://miyako-joufu.com/

特徴

麻織物ですが、糸は細く、絣模様は精緻で、織り上げた布はロウを引いたように滑らかです。通気性に富み、三代物と言われるほど丈夫で長持ちします。

作り方

苧麻(ちょま)という種類の麻をとり、表皮から繊維を取り出し、糸を紡(つむ)ぎ、糸車で撚(よ)りをかけます。図案を作成し絣締を行います。琉球藍で染め、2~3カ月かけて織り上げ、砧打ち(きぬたうち)し、艶出しをして仕上げます。

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