2019/10/10(木)

加藤清史郎「雪国を行く」~十日町市編~ 着物産業 風土と共に

俳優の加藤清史郎さん(18)が魚沼地域を巡り、土地の魅力に触れるシリーズ「雪国を行く」。第2弾は十日町市を訪れた。冬には積雪が2、3メートルにも達する厳しい気候は伝統工芸の織物を生み出し、国内有数の着物とまでなった。また着物を作る工程で編み出された技術は、地域名産のそば文化も育んできた。自然景観を生かした、現代美術の国際イベント「大地の芸術祭」も開かれるなど、芸術と文化が根付く地域だ。伝統の技や味を体験した旅の様子を紹介する。

<加藤清史郎 (かとう・せいしろう)> 神奈川県出身。俳優。劇団ひまわり所属。テレビや映画、舞台、ミュージカルなど幅広く活躍している。

「桶絞り染め」に感嘆

 十日町市の織物産業の歴史は、約1500年前に始まったとされる。江戸時代には「越後縮」の産地として知られた。素材も麻から、高級品の絹へと変わり、高度経済成長期の昭和40年代には、全国屈指の産地としての地歩を固めた。

着物の成り立ちを知ろうと、同市明石町にある、地元最大手のメーカー、青柳の工房を訪ねた。

同社はデザインから最終工程まで一貫生産を行う。最大産地の京都では一般的に、織り、染め、友禅…と作業ごとに分業化されている。十日町では大手は一貫生産を行う所が多い。

板場友禅の作業をする職人=十日町市明石町板場友禅の作業をする職人=十日町市明石町

「それは雪国ならではの事情があったからです」。出迎えた、青柳蔵人社長(47)は説明した。

冬は豪雪のため、分業するには資材を運ぶのが難しい。このため1カ所で作る仕組みが、古くから確立された。

雪は十日町の着物作りに味方した。雪の上に糸や布を広げて行う「雪ざらし」は漂白効果がある。雪解け水をたっぷりと含んだ軟水の地下水は、染め物の発色に良いという。青柳さんは「着物の技術は雪のたまものです」と胸を張る。

工房での作業で、加藤さんが特に引かれたのが「桶(おけ)絞り染め」と呼ばれる作業だ。安土桃山時代から続く技法という。

生地の染めない部分を桶に入れてふたをし密封。染める部分は桶の外に出す。染料に、桶ごと漬け込む作業だ。

染料は煮えたぎり、90度近い。そこに重さ約30キロの桶を漬けて、ぐるぐると回す。職人は手袋を2重にし、間に水を入れて、やけどを防ぐ。厳しい作業。加藤さんは「男らしい。格好良い」と感嘆した。

染め上がった柄は、輪郭がほのかににじみ、優しい雰囲気に仕上がる。

液温約90度の染料の中に、絞り染めのハンカチを浸す加藤さん=十日町市明石町液温約90度の染料の中に、絞り染めのハンカチを浸す加藤さん=十日町市明石町

同社のショールームで、加藤さんは着付けにも挑戦した。青柳社長が自身の着物を着せると、袖を両手で持ち、すっと横に広げた。大河ドラマ「天地人」などで、慣れた所作だ。羽織姿になると社長は「立ち姿がきれい。お似合いです」とほめた。

「雪が着物の技術を発展させてきたんですね」と加藤さん。雪国の文化を感じた日となった。

着物姿の加藤さん。幼いころから時代劇に出演していたとあって着慣れた様子だ=十日町市栄町着物姿の加藤さん。幼いころから時代劇に出演していたとあって着慣れた様子だ=十日町市栄町

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加藤さんが作ったハンカチの完成品加藤さんが作ったハンカチの完成品

工房で加藤さんは摺(す)り友禅と絞り染めのハンカチ作りを体験した。青柳明石工房では、着物を作る工程を公開する工場見学を実施している。また見学とあわせ、摺り友禅、絞り染めなどの体験オプションもある。見学料金は工程により異なり2500円~3000円。体験料金も内容により異なり、3500円~11000円。平日のみで、予約が必要。問い合わせは青柳のホームページから、https://kimono-aoyagi.jp/

へぎそば

着物文化の影響色濃く

 地元の食を語る上で欠かせない存在が名物の「へぎそば」だ。地域に根付く着物文化の影響を色濃く受けている。へぎそばの名店「小嶋屋総本店」(十日町市中屋敷)を訪ねた。

つなぎには、織物の糸ののり付けに用いた布海苔(ふのり)を使用。へぎと呼ばれる器への並べ方も「手繰(てぐ)り」と呼ばれ、織物の糸をたぐる動作から来たとされる。まさに着物の美的感性が反映された食だ。「つなぎ、並べ方全てが織物文化から生まれたもの。これだけストーリー性があるそばは、ここしかないと思う」と、社長の小林重則さん(64)。のどごしと歯ごたえの良さも特徴に挙げた。

加藤さんは一口すすり、「歯ごたえがすごく、そばではないみたい。とてもおいしい」と驚いた様子。この土地ではワサビが採れなかったため、薬味にはからしを使う。からしにそばを付けて味わうと、「合いますね」と、はしを次々と伸ばしていた。

小嶋屋総本店で、美しく盛られたへぎそばを味わう加藤さん=十日町市中屋敷小嶋屋総本店で、美しく盛られたへぎそばを味わう加藤さん=十日町市中屋敷

清津峡

岩肌と清流「水墨画のよう」

 日本三大峡谷の一つとして知られる清津峡は、「柱状節理」と呼ばれる、柱のような形状の岸壁と、清津川の流れが、雄大で美しい景観を形成している。

現地には、1996年に開業した観賞用の「清津峡渓谷トンネル」がある。2018年開催の第7回「大地の芸術祭」で、トンネル全体が芸術作品となり、リニューアルされた。アートな空間と自然美が注目を集め、18年の年間入場者数は約18万人に達したという。

トンネルの途中には、渓谷を対岸から眺められる「見晴所」が3カ所ある。柱状節理の岩肌が目の前に広がり、眼下の水流は清らかだ。加藤さんは「日本の水墨画のような印象を受ける」と、景色に見入っていた。

全長750メートルのトンネルの先にあるのがパノラマステーション。床に張った水と、壁面に張られたステンレス板に、外の景色が映る人気スポットだ。渓谷の両岸を一望でき、加藤さんは絶景を前に、しばらくたたずんでいた。

本格的な紅葉シーズン前の来訪となり、「紅葉や雪の時は見え方が違うと聞いた。景観そのものも素晴らしいが、季節や天候が景色をさらに魅力的にすると思う」と加藤さん。「個人的には雪の時に訪れ、岩に雪が積もった様子を見たい」と語った。

パノラマステーションから清津峡を眺める加藤さん。外の渓谷が内部に映り、アートな空間を体験できる=十日町市小出(「Tunnel of Light」マ・ヤンソン/MADアーキテクツ)パノラマステーションから清津峡を眺める加藤さん。外の渓谷が内部に映り、アートな空間を体験できる=十日町市小出(「Tunnel of Light」マ・ヤンソン/MADアーキテクツ)

新潟日報 2019/10/09
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