2019/10/4(金)

10年で売上6割減…衰退した市場から生まれた「陶磁器イノベーション」

無水鍋にコーヒーフィルター…新星が続々登場

10月4日は「陶器の日」。日本の陶磁器「やきもの」は、実は重大な危機に直面している。日用陶磁器の国内生産額は10年余りで6割以上も減少し、金額ベースで中国などからの輸入品にたびたび追い越されるありさまだ。それに危機感を抱いた産地の人たちは、いいものをつくろう、新しい用途や販路を開拓しようと伝統工芸に最新の科学技術を取り入れ始めた。「ハイテク陶磁器」の波がいま、全国に広がっている。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

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日本の「やきもの」文化に新たな風が吹いている

(Photo/Getty Images)

いま、日本の陶磁器産業は危機的状況にある

10月4日は「陶器の日」。「信楽焼」の女性陶芸作家を主人公にしたNHKの朝のドラマ『スカーレット』も始まった。

よく「陶磁器」「やきもの」と総称されるが、陶器は主原料に粘土(陶土)を使って800~1300度の温度で焼き、磁器は主原料に岩石(陶石)を砕いた粉を使い、陶器よりも高温の1200~1400度の温度で焼く。

見た目が厚くて重いのが陶器、薄くて軽く透明なのが磁器で、有名産地で言えば瀬戸、信楽、益子、萩、唐津、デルフトは陶器を、九谷、出石、砥部、有田、波佐見、マイセンは磁器を主に生産する。

国内最大産地の美濃焼や京焼(清水焼)には陶器も磁器もあり、四日市萬古焼は原料を混合して陶器と磁器の両方の性質を持つ「半磁器」を生産している。

陶磁器は、人間国宝がつくる芸術作品の茶器から日常使いの箸休めまで、それこそピンからキリまで。主にキリを集めて産地で開かれる「陶器市」は高い集客力を誇る。老若男女、幅広いファンがいる伝統工芸だが、産業としては現在、存亡の危機に立たされていると言っても決してオーバーではない。

陶磁器の用途は食器など家庭で使われる「やきもの」だけでなく、建築資材のタイルやトイレの衛生陶器のような「建設用」もあれば、電気用品の絶縁碍子(がいし)のような「工業用」もある。産業上の分類では、建設用、工業用以外の食器やつぼや花瓶や置物などを「日用陶磁器」と総称している。

一般財団法人日本陶業連盟(名古屋市)は全国の陶磁器の生産、出荷、在庫統計を毎月公表しているが、2018年1年間の生産金額(1391億円)の種類別のシェアは、タイル、衛生用品がそれぞれ32%と建設用が全体の64%を占める。工業用の電気用品は17%。日用陶磁器の台所・食卓用品は18%、玩具・置物は1%で、その両方を合わせてもシェアは19%程度しかない。

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国内の陶磁器の種類別生産金額シェア

その日用陶磁器の国内生産は2000年以降、かなり縮小した。台所・食卓用品と玩具・置物を合わせた生産額は2003年、782億円だったが、7年後の2010年には395億円とほぼ半減。2014年には300億円を割り込み、最近数年間は300億円に届かないレベルで停滞し、回復の兆しはない。

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「日用陶磁器」の年間生産金額の推移

なぜ、たった10年余りで金額ベースで6割以上も縮んだのか? それは2000年代に入って日常使いの陶磁器の市場が、「器とともに目でも味わう」和食の比率低下のような食文化、生活様式の変化、長引く不況による内需不振、外国製品の流入などが相まって、地すべり的な変化を起こしたからだった。

100円ショップが陶器市になってしまった

この時期に急成長した「100円ショップ」を例に挙げると、棚に並ぶ陶磁器のほとんどは中国製である。

と言っても江西省の「景徳鎮」のような名産地から来るはずはなく、農村部の工場で大量生産される。それでも国の英語名が「チャイナ(china/磁器)」だけに陶磁器づくりでは先史時代以来5000年以上の伝統の蓄積があり、たとえ安物でもそれなりの品質のものはできる。

しかも、日本の100円ショップの本部が企画、デザインして中国でつくらせる陶磁器は、デザインを最新のトレンドや消費者の嗜好(しこう)に合わせるなど「安物感」を拭い去る企業努力を惜しまない。

そうなると、たとえば年配の夫婦が、かつてドライブで行った益子の陶器市で買った小鉢や小皿が割れた時、「意外にいいものがあるから」と、代わりに「益子風陶器」を近所の100円ショップで物色することも起こりうる。

いわば「100円ショップの陶器市化」で、これによって消費は国内産品(益子焼)から海外産品(中国製)にシフトしてしまう。

産地にとっては重大な危機だ。たとえば佐賀県有田市の磁器「有田焼」の販売額は、1991年の約250億円から2015年の約40億円へ6分の1以下に落ち込んだ。有田に限らず、衰退がひどいと「食えない」「将来に希望がない」と若手が見切りをつけて去っていき高齢化、後継者難に拍車がかかる。

陶磁器工房の数も減り、NTT東日本・西日本の「タウンページデータベース」によると、全国の「陶磁器製造」は2006年から2015年にかけて4903件から2900件へ約4割も減少した。

テレビの旅番組で「Iターンして陶器工房を始めました」と笑顔で話す女性が現れて都会人の憧れをかき立てているその裏には、そんな厳しい現実がある。陶芸教室はいま若い世代にも人気が広がっているが、そんなビジネスの現状までは教えてくれない。

危機をもたらした元凶は、よく話題にのぼる「陶土、陶石不足」というよりも、輸入品との競争に敗れたことのほうが大きい。

陶磁器の輸出は江戸時代の長崎貿易に始まり、「ノリタケチャイナ」「陶器人形」がブームになった1910~30年代、1970~80年代の日本は北米向け中心に世界最大級の陶磁器輸出大国だったが、それも今は昔。

財務省「貿易統計」で日用陶磁器に相当するカテゴリーの輸出入データを見ると、2000年以降は輸入が輸出を上回る輸入超過が続く。

2003年の輸入は349億円で国内生産の44.6%だったが、2007年は374億円で65.4%まで上昇。2013年になると輸入350億円に対し国内生産339億円と、ついに逆転した。その後も輸入と国内生産は金額ベースでほぼ拮抗(きっこう)しながら現在に至っている。

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「日用陶磁器」の輸出額、輸入額の推移

輸入が国内生産をたびたび上回っても、悪いことばかりではない。日本産日用陶磁器の輸出は2012年に63億円で底を打った後は上昇に転じ、2018年は127億円と6年でほぼ2倍と健闘している。背景にはインバウンド消費の担い手の訪日観光客へのアピール、海外での広報宣伝活動のような関係者の努力がある。販売額が6分の1になった有田焼も、起死回生をかけて海外展開を進めている。

そして陶磁器それ自体も科学技術大国ニッポンらしく、素材面や機能面で技術革新の成果をとり入れた「ハイテク陶磁器」が次々と現れて、未来への希望の灯をともしている。

有田焼のハイテク陶磁器の星、フッチーノ

渕野陶土(佐賀県有田市)が佐賀県窯業技術センターの指導を受けて開発し、産地問屋の山忠と組んで商品化した軽量強化磁器「フッチーノ」(2001年特許出願、2010年登録)が、有田焼のハイテク陶磁器の星だろう。

チャレンジのテーマは「軽量化」。もともと磁器は陶器より軽くできるが、強度、保温性を保ちつつさらなる薄型化、軽量化を目指して行き着いたのは「空気」の利用だった。フッチーノは内部に5ミクロン以下の気孔が形成され、これが従来の磁器に比べ約30%の軽量化をもたらした。さらに従来の磁器より割れ、欠けに強い強化加工も施した。

ホテルやレストランにある大型食器洗浄機は家庭の手洗いに比べて陶磁器が手荒に扱われるためアルミ原料を配合して焼く「アルミナ強化磁器」の需要があったが、金属が入ると重くなる欠点があった。それに代わるものとして売り込みを図り、成果をおさめている。

軽いフッチーノは重量制限が厳しい旅客機の機内食の食器に採用され、高級感がほしい国際線ファーストクラス用として日本航空を皮切りに大手エアライン各社で採用された。「陶磁器は重い」というイメージを変え、新しい用途を開拓している。

コーヒーショップのスターバックスでも採用されたが、「丈夫すぎてなかなか欠けたり割れたりしないため、追加の注文がなかなか来なくて困った」というオチまでついているほどだ。

無水鍋にコーヒーフィルター…新星が続々登場

佐賀県窯業技術センターが2017年に特許出願した新素材「多孔質セラミックス」を利用し、佐賀県の有田焼や肥前吉田焼(佐賀県嬉野市)の工房ではコーヒーフィルターを発売している。素材の粒子と粒子の間に肉眼では分からない数ミクロンのすき間が空いていて、水を通す。本来、水漏れする陶磁器は不良品だが、それを逆手に取った逆転の発想で新しい用途を開拓している。

「無水調理」という料理の新しいトレンドにうまく乗ったのが美濃焼の「さなえ窯」(一山製陶所/岐阜県土岐市)だ。モロッコの伝統鍋「タジン鍋」をヒントに開発し2013年に発売したセラミック無水鍋「セラ・キュート」は本体とフタの密閉性を高めた土鍋で、フタの重さによる圧力効果、土鍋が本来持つ遠赤外線効果による保温性もある。

機能とデザインが評価され2014年に公益財団法人日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」を受賞した。同じ美濃焼では脱プラスチックの陶磁器製ストローや、フェライト化合物を使う「炭素繊維断熱タイル」も開発された。

ひところ話題だった木質系バイオマス新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」と釉薬(うわぐすり)だけを使った陶磁器を2018年に開発したのが陶あん(京都市東山区)で、京都市産業技術研究所と第一工業製薬の共同研究の成果を伝統の清水焼に生かした。

見た目の透明性、涼感と和紙のような手ざわりを持った新・陶磁器「ゆうはり」としてブランド展開を始めている。大正11年(1922年)創業の京焼の工房もハイテク陶磁器に果敢にチャレンジしている。

建築用、工業用の陶磁器では、汚れにくく洗いやすいトイレが売り物のパナソニックの「アラウーノ」(有機ガラス系新素材)やLIXILの「アクアセラミック」のような素材開発が盛んだ。

日用品の磁器でも過去、動物の骨を混ぜた「ボーンチャイナ」(骨灰磁器)や「ニューボン」(酸化焼成磁器)のようなイノベーションがあった。

それでも全国各地の産地でハイテク陶磁器が続々登場するのは2000年以降のことだ。それは中国製など外国製品の流入におされて陶磁器の国内生産額が6割以上も収縮し、「このまま衰退していくのか?」と危機感が高まっていった時期と一致する。

歌舞伎も、落語も、日本家屋も、日本酒も、衰退して危機に直面した時期、ほかの分野や時には西洋からサムシング・ニューをとり入れることで復活した。守旧派から「邪道」と批判されようと、ただ伝統の上にあぐらをかくだけだったら未来はなかっただろう。ハイテクを活用してもいいものをつくろう、新しい用途や販路を開拓しようという意欲を持つ関係者がいる限り、危機にある日本の陶磁器産業が復活する可能性は、まだ残っている。

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