匠を訪ねて~江戸木目込人形 人形作りの奥深さに惹かれ・・・
2016年1月22日 青山スクエアにて制作実演中の有松亮一さんを訪ねました。
江戸木目込人形の匠:有松亮一さん
江戸木目込人形とは衣裳のひだや布切れの境の部分に、細い溝を彫り込んで、そこに布を入れる(きめこむ)ことから、この名前が生まれました。木目込み人形は今からおおよそ280年ほど前に京都の上加茂神社で生まれたとされています。
この世界に入ったきっかけとは?
元々はサラリーマンだった有松さん
有松さんの家では両親が人形作りをしていました。そのため、小さいころから「モノづくり」には興味があったそうです。
ですが伝統工芸士であるお父様は、人形作りの厳しさを知っていたので、あえて息子に家業を継がせようという気持ちはありませんでした。
有松さんは、そんな両親に育てられたので、人形作りの世界ではなく初めはサラリーマンとして働く道を選んだのだそうです。
気になる「モノづくりの世界」
有松さんはサラリーマンとして仕事を始めたものの、営業という職種だったせいもあって、「モノづくり」とは全くかけ離れた毎日を過ごしていました。そのせいか、『なんか違う』という気持ちが蓄積されていくように・・・。
そして5年前、やっぱり「モノづくり」をしたいと一念発起して、会社を辞めてこの業界へと入ることにし、現在に至っているそうです。
有松さんのいう人形作りの魅力
工程の多さが魅力の一つ
人形作りはたくさんの能力が必要だと有松さんは言います。
例えば人形の形を作るための「造形の能力」。人形の衣装を選ぶ「色彩能力」。人形の表情などを描く「絵を描く能力」。
これらはすべて一人で行う作業なので、どれも出来るようにならないと一人前とは言えません。
ですが有松さんは、たくさんのことを一人でこなさなければいけないところに魅力を感じているそうです。
父親や大先輩の人形師たちの姿勢
有松さんは、この世界に入ってから、父親やすでに80歳を超えている人形師に作り方を教わりに行きました。この二人の言葉が特に心に響いているそうです。
それは、全ての工程を覚えても、「常に勉強が必要」ということ。
今の自分が勉強をしなければという意識を持つのは当たり前のことですが、80歳を超えて現役で人形師をしている大先輩でさえ、「まだまだ勉強をしなくては」と思っていることが、この世界の深さを現していると感じたそうです。
今はまだすべての工程は任せてもらえないものの・・・
顔つくり
人形作りの中でも重要な部分の一つ「顔」。
これは桐の粉と糊を混ぜて粘土状にしたもので形を作って削っていく作業をします。
一番大きな顔が見本のもので、それ以外の顔は有松さんが練習用に作ったもの。
胴体づくり
人形作りの芯の部分「胴体」。
顔と同じで、こちらも桐の粉で作られたものです。
工房で造形作りはまださせて貰っていないそうですが、日々自己流で作っては練習を重ねています。
着色まで施した人形
こちらの人形は、顔の部分が揺れるように作られた新しいもの。
この技法が認められて、今では販売用に作られるようになったそうです。
ちょっとずつではあるものの、だんだんと認められるようになってきたと話されていました。
有松さんが目指す人形作りは・・・
昔と今の融合
最後に有松さんに、今後はどんな人形を作っていきたいですかと聞いたところ、昔からある人形の伝統的な部分をちゃんと引き継ぎつつ、今の人に好まれるようなものを作っていきたいと答えてくれました。
今と昔で大きく変わったのは、生活スタイルだと有松さんはおっしゃいます。確かにひと昔前であれば、雛人形は何段もあるものがすごいとされていましたが、今は何段もあるような雛人形を置くようなスペースがなく、今の家におけるサイズのものが好まれます。
もちろんサイズの問題だけではありませんが、そういった昔と今の違いを捉えつつ、伝統的な技術を使って現代風の新しいものづくりにチャレンジしていくのが、有松さんの人形作りの姿勢だそうです。
そんな有松さんの制作実演が見られる匠コーナー「岩槻江戸木目込人形 有松人形工房展」は1月27日まで青山スクエアで行われています。
ぜひぜひ足を運んで、有松さんとお話ししてみてくださいね。