匠を訪ねて~薩摩焼 伝統的な薩摩焼の中で見出す自分の個性
2017年5月9日 青山スクエアで制作実演中の柳信一郎さんを訪ねました。
薩摩焼:柳信一郎
薩摩焼は、16世紀末に薩摩藩主が連れ帰った朝鮮の陶工によって、作られたのが始まりと言われています。
薩摩焼には白薩摩と黒薩摩と言われる陶器があり、それぞれ使っている土も違うのが特徴です。また、苗代川系、竪野系、龍門司系、西餅田系、磁器系など、同じ薩摩焼でも系統は様々あります。
薩摩焼の道を進むきっかけ
昔から近くにあった薩摩焼
柳さんのお父様は、白薩摩の絵付けをしている人です。
そのため、幼少のころから柳さんは絵を見続けていたこともあり、絵を描くのが好きな子ども時代を過ごしました。
お父様は後を継いでほしいとは言わなかったため、柳さんもお父様と同じ道を歩む気はなかったそうです。
ですが鹿児島大学に入ると自然に陶芸を専攻し、気が付くと薩摩焼の道を歩み始めていたとおっしゃっていました。
ろくろの違い
薩摩焼は分業制で、ろくろをする人と、絵付けをする人は別の人というのが一般的です。
柳さんのお父様は絵付けをする人だったため、家には絵付け用の窯がありました。
ですが、柳さんはろくろも絵付けもする人として仕事を始めたため、大学を卒業後、本焼き(ろくろ)用の窯も買ったそうです。
絵付け用の窯と本焼き用の窯では出る温度が違い、本焼き用の窯の方が高温が出るようになっています。
伝統的な薩摩焼と個性
目指すもの
柳さんの目指す薩摩焼は、伝統的な薩摩焼を絶やさないこと。そして、伝統技術を活かして、自分の個性を表現することだとおっしゃっていました。
伝統的工芸品の指定を受けているものはたくさんありますが、昔からの伝統をそのまま生かしているものが少なくなってきていると、柳さんは感じています。
確かに時代は移り変わっており、今の人に合わせた物づくりも必要です。
ですが、だからと言って昔から続いているものを断ち切ってしまうのは、また別の話。柳さん自身も、昔のものをそのまま作るということはせず、ちゃんと継承したうえで、自分のスタイルを確立させたいとおっしゃっていました。
妻と作る薩摩焼のアクセサリー
薩摩焼も新しい形への取り組みを忘れていません。
柳さんが作るのは、アクセサリー。ろくろと絵付けはご自身で行っていますが、金具の部分は奥様が作っており、夫婦で協力し合っています。
父親の背中は、やはり広い
柳さんが「伝統的な薩摩焼」にこだわるのには理由があります。
柳さんのお父様は、白薩摩の伝統的な絵付けをされている方で有名だったからです。幼いころから、伝統的な薩摩焼の絵付けを見て育っているので、革新的すぎるものを見ると違和感がぬぐいきれないのでしょう。
柳さんが描く図柄は、植物から生物まで様々あります。どれが一番、というものは特にないそうですが、今は人物を描くのが楽しいとおっしゃっていました。
ただ、植物も、生物も、人物も、どれもどこか懐かしい感じがするのに、現代人が見ても古さは感じません。柳さんの伝統への愛と新しいものを作り続けていく気持ちが、絵にも表れているのでしょう。
白薩摩の作り手が少ない中で
白薩摩の土と黒薩摩の土
薩摩焼をおおざっぱに分けると、白と黒にわかれますが、白薩摩の土には不純物が含まれていません。
不純物が入っていると綺麗な白色を出すことができないからです。
柳さんは、そういった部分にも白薩摩へのこだわりがあります。
ただ現在は、普段使いにするとシミが突きやすいという難点があるため、これを何とかできるような造りにしていきたいとおっしゃっていました。
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今回お話をしていただいた柳さんは企画展「初夏遊宴 伝統のわざでくらしを楽しく」に出展しています。
5月17日までの間、ほぼ毎日制作実演をしていますので、ぜひお話を伺いながら、こだわりの薩摩焼を見てみてください。