松本家具

松本家具は、16世紀後半、現在の長野県松本に城下町が出来たころ、商工業のひとつとして始まり、発達しました。
庶民の生活に使う家具として生産され始めたのは江戸末期の頃です。
当初は城下町やその周辺の需要に応じて、箪笥、茶箪笥、食卓等の家具を作っていましたが、交通の発達とともに各地で売られるようになり、家具産地として全国的に知られるようになりました。

  • 告示

    技術・技法


    さん積みによる乾燥は、「積み替え」をすること。


    木地加工は、次のいずれかによること。

    (1)
    たんす及び飾りだなにあっては、次のいずれかによること。


    「わく指物」にあっては、次の技術又は技法によること。
    1)
    わくのかまち(よこかまちを除く。)の見付け及び見込みは、それぞれ25ミリメートル以上、45ミリメートル以上とすること。
    2)
    横ざんの見付けは、25ミリメートル以上とすること。
    3)
    側板及び裏板に使用する板材は、無垢板とすること。この場合において、板材の厚さは、7ミリメートル以上とすること。
    4)
    わくのかまちの接合は、たてかまちと上下のかまちとの場合にあっては三方胴付き2枚止めほぞ接ぎにより、たてかまちとよこかまちとの場合にあっては三方胴付き止めほぞ接ぎによること。
    5)
    とびらを付ける場合には、とびらの部材の接合は、ほぞ接ぎ、かぶせ面ほぞ接ぎ、面腰ほぞ接ぎ、留型雇いさね接ぎ又は本ざねほぞ端ばめ接ぎをすること。
    6)
    引出しを付ける場合には、引出しの部材の接合は、包み打付け接ぎ及び組み接ぎをすること。


    板指物にあっては、次の技術又は技法によること。
    1)
    天板、側板、たな板及び束板に使用する板材の厚さは、22ミリメートル以上とすること。
    2)
    裏板に使用する板材は、無垢板とすること。この場合において、板材の厚さは、7ミリメートル以上とすること。
    3)
    天板と側板との接合は、5枚組以上の前留めあり組み接ぎ、9枚組以上の前留め組み接ぎ又は止め腰付きほぞ接ぎによること。
    4)
    とびらを付ける場合には、とびらの部材の接合は、ほぞ接ぎ、かぶせ面ほぞ接ぎ、面腰ほぞ接ぎ、留型雇いさね接ぎ又は本ざねほぞ端ばめ接ぎをすること。
    5)
    引出しを付ける場合には、引出しの部材の接合は、包み打付接ぎ及び組み接ぎをすること。

    (2)
    座卓にあっては、次の技術又は技法によること。


    天板に使用する板材は無垢板とすること。この場合において、板材の厚さは、9ミリメートル以上とすること。


    天わく組みの接合は、違い胴付き留めほぞ差し鯱栓打ち込みによること。


    天板と吸い付きざんとの接合は、あり差しとすること。


    天わく組みと脚との接合は、三方留め接ぎ又は矩型ほぞ差しによること。

    (3)
    文机の木地加工は、次の技術又は技法によること。


    天板に使用する板材は無垢板とすること。この場合において、板材の厚さは、22ミリメートル以上とすること。


    天板と脚との接合は、板脚にあっては腰付きびょうほぞ接ぎ割りくさび打ちにより、組脚にあっては送りあり連れ雇いさね接ぎによること。


    塗装は、次のいずれかによること。

    (1)
    ふき漆塗にあっては、生漆を繰り返し塗付し、生漆に松煙を混ぜ合わせたものを塗付した後、精製生漆を繰り返し「すり漆」すること。
    (2)
    一閑張漆塗にあっては、「綿引き」、「下張り」及び「布張り」をし、「さび塗」及び中塗をした後、精製漆を塗付すること。
    (3)
    柿渋油ふき塗にあっては、柿渋及び乾性油を繰り返し塗付した後、布でみがくこと。


    金具を付ける場合には、金具の表面は、鉄製のものにあっては、松やに、白ろう及び松煙のすべてを混ぜ合わせたもの、生漆に鉄しょうを混ぜ合わせたもの又は真綿を用いて着色し、銅又は銅合金製のものにあってはみがくこと。

    原材料


    木地は、ケヤキ、ミズメ若しくはウダイカンバ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    金具は、銅若しくは銅合金又は鉄製とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    平行して進行する部分もあり、必ずしもこの順番とは限りませんが、松本家具の一般的な工程を紹介します。

    工程1: 木材

    使用木材の主なるものは、国産材の欅(けやき)、ミズメ、ウダイカンバ、楢、桂、桐材等を材の利点、木肌の力強い美しさを生かして使い分けます。

    工程2: 天然乾燥

    種別分け、桟積、積替え、含水率測定の順を追って約6カ月間、天然乾燥し、含水率を30%以内に落とします。中間期の積替えは、乾燥を平均化させるために行います。含水率の測定には確実性のある絶乾法で行い、特に厚材に関しては、2年、5年と長期天然乾燥を施します。

    工程3: 人工乾燥

    人工乾燥では基本として同材種の積み込みで乾燥機に入炉し、70~80時間の調整乾燥を行い、8~9%に仕上げ、出炉、シーズニング期間をおきます。

    工程4: 図案設計

    図案設計は下絵、縮図、現寸図、詳細図を書き、型紙、型板を造り、特に必要な部分は、実物の型を作り検討します。ロクロ部材も同じようにし、部分的な仮組をできるまで造り、修正を加えて型決めします。

    工程5: 木取加工

    木取加工は材の選別から始まり墨付を行います。横、縦、曲げ切り、厚み幅小割の段階まで加工します。ロクロ逸材の必要なものは型紙を元に加工しますが、仕上がりは伝統的な手挽きロクロの道具にて削りあげます。

    工程6: 錺(かざり)金具

    錺金具類は、銅・銅合金・鉄を各々の型紙、型板により切断し歪取を行い、手鑢がけで型を整えます。色仕上げは、漆または真綿の焼き付けで着色します。引手類などは火造りで型を整え、色付は同様に施し、ロウ磨きで仕上げます。

    工程7: 木地加工

    木地加工に入ると、準備された部材の墨付けから始まり、伝統的組接技法により、接手、組手をつくります。
    刻み終わり仮組のできる段階まで進めます。
    接組手は伝統的な工法の、違胴付留ホゾ差鯱栓接(ちがいどうつきとめほぞさししゃちせんつぎ)、腰付鋲ホゾ接割楔内(こしつきびょうほぞつぎわりくさびうち)、前留蟻組接(まえどめありくみつぎ)、蟻組接(ありくみつぎ)の各種、留型本核ホゾ端嵌接(とめがたほんざねほぞはしばめつぎ)、剣留ホゾ接(けんどめほぞつぎ)、留型ホゾ接(とめがたほぞつぎ)、三方留接(さんぽうとめつぎ)、組接(くみつぎ)、ホゾ接(ほぞつぎ)などそれぞれの箇所に適した方法を使い、加工を施します。

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    工程8: 組立加工

    組立加工に入ると、部材を調整し、仮組を行います。この段階で不良加工箇所を調べて調整加工をし、本組になってから仕上げの困難な場所は、この段階で目地払いなどを確実に施しておきます。本組では必要箇所は糊付けして組み立てます。目針も施したうえで最終的な目地払などを行い、機能も調整して木地の仕上がりとなります。

    工程9: 塗装

    塗装は拭漆塗が主です。拭漆塗は耐久性もすぐれ、最も木の持ち味を生かし、使い込まれるにしたがい一層の味わいをよくすることなど他の追従を許さない利点があります。一閑張(いっかんばり)漆塗はいろいろな方法がありますが、特に机類では甲面の下地に綿を敷くことにより、感触の柔らかさを出し、着色も黒、朱と塗り重ねて、美しい塗りとなります。

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    工程10: 仕上加工

    仕上加工では、錺金具、ロクロ挽部材などを揃えてまず墨付けをなし刻み加工を施します。扉、抽斗など各部の取り付けを行った上で、各部の機能の点検および調整を行い、清掃拭き上げをもって完成品とします。

     

  • クローズアップ

    50年来のノコ

    増田義幸さんは昭和8年生まれ。15歳の時に弟子入りし、以来50年以上にわたり家具を作り続けている。とは言うものの「初めて弟子に入ったところではほとんど親方の子供の子守ばっかりだった」と振り返る。最初の親方の元を離れ2番目の親方についたときに、その親方から増田さんは一本のノコを分けてもらった。ノコは切れ味が悪くなると「目立て(ノコの刃を研ぎ直すこと)」をして使い続けるものだ。増田さんはそのノコをいつも使い続けたのだろう。ノコはもうこれ以上目立てできないというところまで研ぎ減らされていた。毎日使い続けないとここまで減ることはない。増田さんの50年の木工生活が象徴されている道具のひとつだ。

    増田義幸さん。昭和8年生まれ。松本生まれで松本育ちの伝統工芸士。お酒は飲まない。歌わないがよく聞くのは北島三郎。

    「義」の彫り込み

    例えば椅子を作る場合、普通の家具業者の場合は脚を作る人と背もたれを作る人などに分業化されているが、松本家具では一人で最初から最後まで作り上げる。「1から10までやらんといかんから、分業にない難しさがある。でも逆にその分楽しみはある」と増田さんは言う。一人が一貫して作ったということを示すものとして、松本家具ではそれぞれの家具の裏側の目に付かない場所に制作者の「銘」が彫られる。表には出ないが確かな家具を作っているという保証書のようなものである。増田さんの場合は自分の名前から取って「義」。何百回となく彫り続けてきた「義」という字には自信と誇りがみなぎっている。「増田さんが作ったものを今でも使ってますよ」と昔のお客に言われるのもこの銘のおかげである。松本家具は作り手の顔が見える家具である。

    使い込まれたノコ。片側が大きく減っている

    使い込むほどに味わいが増す

    「松本家具の良いところは無垢の木を使うところかな」と増田さんは語る。「無垢」とはベニアでない木のことである。一般の家具のほとんどがベニアを使っている現在、無垢の家具はそれだけでも評価が高い。無垢の木は湿度によって伸び縮みする。その伸び縮みを計算に入れる必要があり、作るには高い技術が求められるのである。「木は伸び縮みするから価値があるし面白みがある。動かない木が良いのならプラスチックで作ればいい」と言う。また「無垢の木で作られたものは丈夫で、使い込むほどに味わいが出てくる。ミズメザクラだと虎斑(虎の模様のように見える木目)が出てきれいなもんだよ。それに無垢の木だから修理がきく。だから良いんだ」と、無垢の木で作られた家具の良さを語った。

    増田さんが手がけたものには「義」の彫りが入る

    「俺は商人じゃないから」

    松本家具の特徴の一つに特殊な加工法があげられる。例えば「違胴付留ホゾ差鯱栓接(ちがいどうつきとめほぞさししゃちせんつぎ)」は竹の鯱栓を打ち込むことにより固く締まる極めて堅牢な組み手である。なぜそこまで堅牢なものを作るのか。「俺は商人じゃないからな。良い品を作ってお客さんに喜んでもらうしかない。使ってもらうことが励みになるんだ」と増田さんは語る。お客第一のモノづくりを続けてきた職人である。また、「修理に持ってくる人がいるのはうれしい。それだけ愛着があるということだろう。それは誇りを感じるね」と胸を張る。この職人の作ったものなら安心だ。そう思わせるだけの条件が松本家具にはそろっていると言える。

    小気味よい音を立てながらノミで穴をあける

    こぼれ話

    堅牢と言われるゆえん

    松本家具は「堅牢な家具」とよく言われますが、その理由は極めて堅牢な仕口(木と木をつなぐ部分の構造)にあります。例えば「違胴付留ホゾ差鯱栓接(ちがいどうつきとめほぞさししゃちせんつぎ)」、通称「鯱留(しゃちどめ)」はその代表的なものです。この仕口は最も高度な技術を要するもののひとつで、日本の木工技術を代表する仕口です。組立時に鯱栓(しゃちせん)と呼ばれる木片を打ち込むことで二つの部材がしっかりとつながる様子を見れば「これぞ伝統技術の妙」と言わずにはおれないのではないでしょうか。構造的に見ると鯱栓を抜かない限りは分解することはできず、かつ、その鯱栓を抜くことは極めて困難ですので、実質的に「壊れない」と言っても過言ではないのです。だから親子3代にわたって使うことが可能なのです。これからの時代、そういう家具をひとつぐらいは持っていても良いかも知れません。
    これぞ伝統工芸の妙。確かな技術が必要不可欠

     

概要

工芸品名 松本家具
よみがな まつもとかぐ
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 箪笥、飾り棚、座卓
主要製造地域 松本市、塩尻市、安曇野市、木曽郡木祖村
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

松本家具工芸協同組合
〒390-0811
長野県松本市中央4-7-5
TEL:0263-36-1597
FAX:0263-32-3802

http://matsumin.com/

特徴

無垢材(むくざい)を使用した色々な種類の製品が、細かく巧みな細工を施され、伝統の組み接ぎ技法によって組立てられます。表からは見えない所まできちんとした仕事がなされ、極めて堅牢な家具です。仕上げの拭き漆は、木目の美しさ、木の温かみを伝えています。

作り方

材料はケヤキ、ナラ、ミズメ等の木の無垢材を使用します。製作は一人の職人が完成まで手仕事によって組立てます。組手接手(くみてつぎて)には伝統の様々な技法が施されています。塗装は拭き漆で、十数回にわたって漆を塗り重ねることで、重厚さと美しさを引き出しています。

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