京仏具

京都府

京都における仏具は、平安仏教を特色付けた最澄、空海の時代の8世紀頃に、その製作が始められたと考えられます。
11世紀初頭には仏師が七条に「仏所」を設け、仏具作りの職人を集めましたが、これが本格的な仏具の歴史の始まりと言えます。

  • 告示

    技術・技法


    木製仏具(木彫仏を除く。)にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    木地造りは、「つえもり」又は「型造り」をし、加工をした後、「仮組み」又は「組立て」をすること。この場合において、加工は、「角面取り」「手がんなによる仕上げ削り」及び「切り口隠し」のすべて又は「透かし彫り」、「地彫り」、「浮彫り」若しくは「付け彫り」によること。

     
    (2)
    塗装は、精製漆を手塗りすること。

     
    (3)
    加飾(欄間、御伝鈔卓及びさき箱に係る場合を除く。)は、金箔押しをすること。

     
    (4)
    欄間、御伝鈔卓又はさき箱で加飾をする場合には、蒔絵、金箔押し又は彩色によること。


    木彫仏にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    原図造りは、「儀軌」及び「木割法」によること。

     
    (2)
    仏体の彫刻は、次のいずれかによること。

     
     

    寄木造りのものにあっては、「木寄法」により荒木取り及び木寄せしたものを「荒彫り」、「小造り」及び「胴ぐり」をした後、「仕上げ」をすること。

     
     

    一木造りのものにあっては、荒木取りしたものを「荒彫り」及び「小造り」をした後、「仕上げ」をすること。

     
    (3)
    台座及び光背の彫刻は、「地彫り」、「浮彫り」、「透し彫り」又は「付け彫り」によること。

     
    (4)
    塗装(木地にビャクダン、カヤ又はクスを使用しているものに係る場合を除く。)は、精製漆を手塗りすること。


    金属製仏具にあっては、次のいずれかによること。

     
    (1)
    鋳物にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    鋳型は、砂型であること。

     
     

    溶湯と接する部分の鋳物砂には、「紙土」又は「真土」を用いること。

     
     

    鋳型の造型は、「挽き型」又は「込め型」(「ろう型」を含む。)によること。

     
     

    鋳型の焼成又は乾燥(「肌焼き」を含む。)によること。

     
     

    鋳物の表面は、「煮込み法」若しくは「焼色法」により若しくは漆若しくは鉄しょうを用いて着色し、若しくは金箔押しをし、又は研磨若しくはめっきにより仕上げをすること。

     
    (2)
    鎚起にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    成形は、一枚取りにより金取りをした地金を伸鎚を用いて「伸打ち」をした後、荒打ち鎚を用いて、「荒打ち」をすること。

     
     

    仕上げは、表面をならし鎚及び木槌を用いて打ちならし、ひずみを取った後、砥石を用いてみがくこと。この場合において、縁は、やすり及びきさげを用いて整えること。

     
     

    鎚起の表面は、漆を用いて着色すること。

     
    (3)
    板金にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    成形は、折り曲げ、彫金、断ち切り、打ち出し及び透し彫りのうち少なくとも三つの組み合わせによること。

     
     

    板金の表面は、「煮込み法」若しくは「焼色法」により若しくは漆若しくは鉄しょうを用いて着色し、若しくは金箔押しをし、又は研磨若しくはめっきにより仕上げをすること。


    仏画軸にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    本紙造りは、「絹本」に墨を用いて下絵描きをした後、墨、顔料若しくは金泥又はきりがねを用いて描くこと。

     
    (2)
    本紙は、「肌裏打ち」をすること。

     
    (3)
    総べり、中べり及び風帯には、金襴又は緞子を使用し、和紙を用いて裏打ちをすること。

     
    (4)
    裏打ちをした本紙、総べり及び中べりは、「取り合わせ」「付け回し」及び「中裏打ち」をした後、「総裏打ち」及び「仮張り」をすること。

    原材料


    木製仏具(木彫仏を除く。)にあっては、次の原材料を使用すること。

     
    (1)
    木地は、マツ、ヒノキ、スギ若しくはケヤキ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

     
    (2)
    金具は、銅若しくは銅合金又はこれらと同等の材質を有する金属製とすること。

     
    (3)
    漆は、天然漆とすること。


    木彫仏にあっては、次の原材料を使用すること。

     
    (1)
    原木は、マツ、ヒノキ、カヤ若しくはビャクダン又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

     
    (2)
    漆は、天然漆とすること。


    金属製仏具にあっては、次の原材料を使用すること。

     
    (1)
    鋳物の素材は、銅合金とすること。

     
    (2)
    鎚起及び板金の素材は、銅又は銅合金とすること。

     
    (3)
    着色剤に用いる漆は、天然漆とすること。


    仏画軸

     
    (1)
    生地は、絹織物とすること。

     
    (2)
    紙は、手漉和紙とすること。

  • 作業風景

    京仏具の製作工程は多岐にわたる分業体制が確立しており、なんと40以上の職種が存在し、各部門を専門に担当する職人たちの技術を総合してできあがります。95名(2001年4月1日現在)の伝統工芸士をはじめとする専門職人の手による高度な技の集大成、それが京仏具です。

    工程1: 木地工程

    厳選された木材で形を作ります。各々の仏具の用途によりヒノキ・スギ・マツ・カエデ・カツラ・クワの材料を使用し、各宗派ごとに定められた形で作ります。

    工程2: 木彫刻工程

    図柄を選定し、ヒノキ、マツなどの木材に、のみ、小刀などで手彫りします。本山の様式に従いながら、須弥壇(しゅみだん)などの限られた範囲に、いかにして生命力、躍動感ある表現をするかが重要な仕事です。彫刻が見る者に心の安らぎを与えるような技術の研鑚が必要です。

    工程3: 仏像彫刻工程

    仏像彫刻の技法には、一木造りと寄木造りがあり、材料にはヒノキ・マツ・カバ・ビャクダンなどが用いられます。一木造りは一本の木から仏像の全身を表現する技法で、木地仕上げの仏像や香木の白檀材の小像を彫刻するときに適します。寄木造りは、大きな仏像を造るときに適し、藤原時代の大仏師・定朝によって完成された大変合理的な技法です。仏像の各部を別材で用意してこれを木寄せすればよく、また像に内刳りを施すことで像の干割を防ぐことができるなど多くの利点があります。

    工程4: 漆塗工程

    形作られた木地の上に下地加工したのち、天然精製漆にて手塗りします。木地の調整から始まり、重要な部分には刻苧(こくそ)を施して布や和紙を貼り下地錆(さび)を何度もつけて、砥石で研ぎ下地を仕上げます。そして、良質の天然漆をろ紙で濾し、下塗り中塗りをして、乾燥後墨研ぎをし表面を整えて上塗りします。

    工程5: 蝋色工程

    漆塗の表面を平らに研ぎ磨いて光沢を出します。蝋色漆などを塗り、さらに研磨して滑らかで豊かな漆黒の光沢を醸し出すもので、炭研ぎ、胴擦り、摺り漆、角粉(つのこ)磨きが必要です。炭研ぎは駿河炭や蝋色炭を使い、平滑緻密に研ぎあげるもので、仕上げを左右する重要な工程です。胴擦り後、摺り漆と磨きを三回繰り返し、特に三回目の摺り漆は薄くかつ十分に乾燥した後磨くことで一段と艶が深まります。

    工程6: 蒔絵工程

    漆で文様を描き、その上に金粉、銀粉、貝などを蒔き、さらに加筆または研ぎ出しするのが蒔絵です。蒔絵には、消し粉蒔絵、磨き紛蒔絵、研ぎ紛蒔絵などの技法があります。細かい金粉を使う消し粉蒔絵は、蒔いて乾燥させる単純工程で使用する粉の量も比較的少量。粗い金粉を使う研ぎ粉蒔絵では、蒔いた上から漆で塗り固めて木炭で研ぎ出さねばならず、使用する金粉の量は百数十倍、工程も時間も数十倍を要します。ほかにも様々な工程が加わり、京蒔絵の表現方法は無限です。

    工程7: 彩色工程

    金粉、顔料、絵の具などで金箔のうえに、または直接下地づくりのうえに色付けします。彩色には、何度も色を塗り重ねる極彩色、淡い絵の具で木の素材を生かした木地彩色、金箔押の上に淡い色使いで描く箔彩色の三種類があります。岩絵具・水干絵具は膠(にかわ)によって彫刻などに定着させます。また絵具の調合が重要な要素で、それによって京都でつくられたものだとわかるほどです。

    工程8: 純金箔押工程

    漆が塗られてきた品物に、漆を接着剤として純金箔を貼り、またはそのうえに金粉を施します。昔ながらの道具を用い、金箔を押す部分に箔押漆を塗り、拭き綿などで全体を均一に拭いていきます。下地漆の乾き具合や、その日の温度、湿度を感じ取り漆の種類や漆の拭き具合、残し具合を決めます。その微妙な漆の粘り具合が金箔押のすべてと言え、「重押(おもおし)」と言われる、京都独特の艶を抑えたむっくりとした重厚な輝きに仕上げます。

    工程9: 錺(かざり)金具工程

    銅その他の地金に手加工にて金彫りをした後、仕上げをし純金加工などを施して錺金具を作ります。錺金具の技法には、大別して、紋様を銅版に線刻した「平金物」(毛彫)と透かし紋様を切り抜いた「透かし彫」、そして立体的に薄肉彫に仕上げた「地彫」の三種類があります。洗練されたセンスとデリケートな技術が要求され、錺金具と本体が調和するよう心がけます。

    工程10: 金属工程

     

    こうして各工程の完了したものが一カ所に集められ、総合的に組み立てられて、はじめて京仏具ができあがります。

     

  • クローズアップ

    明日につなげる伝統の技・京仏具

    芸術品としても高く評価される京仏具。その荘厳な美しさは細分化された工程をそれぞれ担当する専門職人の技の結晶ともいえる。厳しい修行を経てきた職人と明日の職人を目指す若者たち。京仏具の伝統は確実に受け継がれていた。

     

    高級仏具をつくる多岐な分業体制

    各宗派百以上の総本山、三千数百もの寺院があり、国宝や文化財も数多くある京都。ここでは仏具は全国の約8割を生産し、その繊細かつ荘厳な技は、国内はもとより海外でも芸術品として高く評価されている。その品質を底支えするのは、多岐にわたる分業体制。細分化された工程を、それぞれの専門職人が担当するため、パーツの一つ一つに真剣な匠の技が施されるのだ。

    職人のオーラが全身から漂う

    安心できる京都の仕事

    京都山科で仏像彫刻の工房を持つ須藤光昭さんも「京都の仕事は、ほんま安心できます」と胸を張る。「うちで仏像つくるときも、漆塗ってもろたり(=もらったり)金箔張ってもろたり、専門の職人さんとこでやってもらいますが、安心して任せられます。」さらに、京都では仏壇仏具の修理を頼むのも安心だ。「例えば、クスの木でできた仏さんに傷んでいるところがあれば、クスの木を継ぎ足して補修します。」あくまで、もとのお姿に戻す。それが京都の職人の修理の流儀だ。

    親方の技を間近で学ぼうとするお弟子さん

    京仏具職人の心意気

    これだけ心をこめて丁寧に仕事するのは、何より注文してくれた方に喜んでいただきたいから。須藤さんは、「仏さんはありがたいもんですから、皆さんほんまに喜んでくださる。それに恥じないようにしっかりとした仕事をせなあかん、と思います。」須藤さんが心がけているのは「昔からのやり方をきちっとする」ということ。仏像を創作するときも、流行だけに流されない。昔からの優れたものを本や図版で十分勉強しなければならない。奥が深い仕事だ。それだけに仏壇仏具を買おうとしている人には「上辺だけの仕事を見ないでほしい」と願う。「われわれ、さすが京都やな、と思っていただけるようにやってるんですから。」「京都の仏壇仏具は値段が高いと言われますが、仕事の中身をよう見ていただけたら、かえって安いと思っていただけると思います。予算があるなら言うてもろたら、その範囲の精一杯をさせてもらう、それが京都です。」

    父のあとを追う息子たち

    ところで、工房では2人の息子さんを含めた男性3名、女性4名のお弟子さんたちが住み込みで修行に励んでいる。修行を始めて4年という須藤さんのご長男は、「ちっちゃい時からお父さんを見てたし、自然とこの仕事やるもんやと思うようになっていた」と言う。今、息子さんたちが目指すのは、やはり父のような腕のある職人だ。「ともかく親に追いつかな、と思います。」

    いつか一人前に・・・ひたむきに彫り続ける

    「今は一つずつの仕事を大事にするしかない」

    高校卒業後、京都伝統工芸専門学校で仏壇・仏具工芸を学び、弟子入りしたという方は、「学校で学んだことを中途半端にしたくなくて、弟子入りの道を選びました。今は修行が始まったばかりで、与えられたことをこなしていくだけで精一杯だけど、頑張ってやっていきたい」と話してくれた。「いつになったら一人前になれるかなんて全然わかりません。とにかく一つずつの仕事を大事にやっていくだけです。」親方の須藤さんは「10年で、基本をようやくひととおり教えてもらったというところ。一人前になるにはもっとかかるでしょう。」やはり職人への道は遠い。須藤さんは修行中に釣りざおを買っただけで、ひどく叱られたそうだ。「そんなお金や時間があるなら仕事の勉強に使え、ということです。」

    年季を語る大きな親方の手(右)

    喜んでもらえる仕事、ごまかしのない仕事を

    今はそれほど厳しくないが、須藤さんのお弟子さんたちも昼間は仕事、夜は自分の作品作りと忙しい日々を過ごす。「目で見て手で触ってしっくりくる仏さんを。」その感覚をつかもうと努力を重ねる。須藤さんに、弟子に期待する心構えを尋ねると「施主さんに喜んでもらえるような仕事をするということと、ごまかしのない仕事をするということ」という答え。ごまかしのない仕事とは、昔ながらのやり方をきちんと維持していくということ、何年か後には修理が利く、そんなやり方を守るということだ。

    仏像に木片(白い部分)を継ぎ足して修復

    守り育てられる京の伝統

    今はまだ手探りで職人への道を辿り始めた若者達。身に付けなくてはならないことは膨大にあるが、「一つ一つの仕事をきちんとやっていけば、あとから必ずついてくる。」そう信じて彫り続ける姿が、とてもすがすがしい。京仏壇、京仏具の伝統は、きっと彼らが守り育て、さらに飛躍させていくにちがいない。親方も厳しく暖かい眼差しで見守っている。

    職人プロフィール

    須藤光昭 (すどうこうしょう)

    「手に馴染む感触が大事」と須藤さん

    昭和20年生まれ。
    彫刻家錦戸新観氏、仏師佐川定慶氏、仏像塗師小川謙吉氏に師事し29歳で独立。伝統工芸士。

    こぼれ話

     

概要

工芸品名 京仏具
よみがな きょうぶつぐ
工芸品の分類 仏壇・仏具
主な製品 木製仏具、金属製仏具、木彫仏、仏画軸
主要製造地域 京都市、宇治市、亀岡市、城陽市、向日市、長岡京市、木津川市、南丹市
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

京都府仏具協同組合
〒600-8216
京都府京都市下京区東塩小路町607-10
サンプレ京都ビル3階
TEL:075-341-2426
FAX:075-343-2850

http://www.kyobutsugu.com/

特徴

各宗派のもととなる総本山が100以上、3,000余りの寺々や数多くの国宝・文化財に囲まれた環境の中で発展して来た京都の仏具作りは、その多彩で高度な分業の技術を集めた技と心の結晶とも言えるものです。各宗派にはそれぞれのデザインや特別な仕様があります。

作り方

京仏具には、寺院用仏具と家庭用仏具の2つの分野があります。仏具は木製の仏具・金属製の仏具・木彫仏・仏画軸に分けることができます。その種類は1,500~1,600種類に及び、いずれも手作りの一品生産です。大きく分けると木地、木彫、漆塗、蒔絵彩色、箔押し、飾り金具、金属工芸、仏像彫刻があり、さらに分業化され、それぞれの部分品を専門的に加工しています。

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