伊賀焼

三重県

始まりは7世紀後半から8世紀に遡ります。須恵器という土器も焼かれていて、初めのうちは農業用の種壷が作られていましたが、飛鳥時代には寺院の瓦も作られていたと言います。
武士の間に茶の湯が盛んになった安土桃山時代の、伊賀上野の藩主が、茶や陶芸をよく知る人物だったことから、茶の湯の陶器として伊賀焼の名は全国に広まりました。
その後、江戸時代になると小堀遠州の指導で「遠州伊賀」と呼ばれる厚さの薄い製品が作られるようになり、江戸時代中期には、現在の伊賀焼生産地としての基盤が築かれました。

  • 告示

    技術・技法


    成型は、「たたら成形」、ろくろ成形又は手ひねり成形によること。


    素地の模様付けをする場合には、線彫り、布目、イッチン、印花、三嶋手、へら目、トチリ、「松皮」又は「虫喰い手」によること。


    絵付けをする場合には、手描きによる下絵付けとすること。この場合において、絵具は、鬼板又は呉須とすること。


    釉掛けをする場合には、流し掛け、イッチン、浸し掛け、重ね掛け、吹き掛け又はろう抜きによること。この場合において、釉薬は、「灰釉」、「石灰釉」又は「青銅釉」とすること。


    絵付け及び釉掛けをしない場合には、登り窯による「ビードロ」、火色又は「こげ」を現出させること。

    原材料

    使用する陶土は、「青岳がいろ目粘土」、「島ヶ原がいろ目粘土」若しくは「丸柱粘土」又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

  • 作業風景

    伊賀焼の特徴はごつごつした形態と、窯の中で作りだされる自然な文様(窯変)にあります。使用する陶土は「青岳がいろ目粘土」「島ヶ原がいろ目粘土」あるいは「丸柱粘土」といった伊賀近辺で採掘される、少し青みがかった粘土を用いるか、これらの土の成分に近いものを使います。

    製造される地域は上野市、阿山郡島ヶ原村、阿山郡阿山町(丸柱、槇山が中心)、名賀郡青山町など、かつては伊賀国と呼ばれていた地域です。

    工程1: 原土採掘

    原土は上野市近郊、阿山町丸柱、槇山、島ヶ原などで採掘されます。焼きものに必要な土から薪までを揃えられるところで焼きものは発展しましたが、伊賀焼も例外ではありません。また耐熱度の高い陶土を利用することが特徴で、土鍋が多く作られていました。

    工程2: 製土工程

    水簸(すいひ:土粒子の大きさによって水中での沈降速度が異なるのを利用して、大きさの違う土粒子群に分ける操作)あるいは乾式(土を乾燥して粉にし、水を加えて粘土にする)で粘土を作ります。水簸粘土は食器類、乾式粘土はツボなどを作りますが、品によっては混ぜ合わせることもあります。

    工程3: 成形(菊ねり)

    粘土の中の空気を抜き、堅さが均一になるよう調整します。成形はろくろ成形、たたら成形(型を使う)、手ひねり成形が伝統的な技術ですが、紐づくり成形もあります。

    画像をクリックすると動画が再生されます

    工程4: 仕上げ

    少し乾燥させ、品物に取っ手をつけたり、高台の部分を削ったり、装飾を施します。素地(きじ)に模様付けをする(彫刻などをほどこす)場合には、「線彫り」「布目」「イッチン」「印花」「三島手」「へら目」「トチリ」「松皮手」「虫食い手」と呼ばれる模様をつけます。

    工程5: 乾燥

    天日や乾燥室で十分乾燥させます。

    工程6: 焼成

    素焼きは700度~800度で行います。絵付をする品物はこの段階で絵付をします。手描きによる「下絵付」で、絵の具は、「鬼板」または「呉須」を用いるのが伝統的な手法です。施釉は装飾だけでなく、水の浸透や汚れを防ぐ意味でも重要です。釉掛けには「流し掛け」「イッチン」「重ね掛け」「吹き掛け」「ろう抜き」などの手法があります。釉薬には「灰釉」「石灰釉」「青銅釉」があります。品物によっては「焼きしめ」といって施釉しないものもあります。

    絵付や釉掛けをしない場合には、登り窯による「ビードロ」「火色」「焦げ」が出るように焼きます。伊賀焼の特徴的な装飾方法である「灰かぶり」で、これは窯の中の灰が焼きものに自然にかぶり、灰の部分が溶けて文様を作るものです。これにより伊賀焼特有の力強い焼きものが生まれます。本焼きはガス釜、穴窯、登り窯などで行われます。窯の大きさや量で変わりますが、一般的にガス釜で15時間~30時間、穴窯で4~7日、登り窯で4~10日程度かかると言われています。

    画像をクリックすると動画が再生されます

    工程7: 窯だし

    できあがった器が急激な温度変化で割れてしまわないように、窯が自然に冷めるのを待ってから取り出します。

     

  • クローズアップ

    原点は古伊賀の追求

    信楽と山ひとつ隔てた場所にあるにもかかわらず、対照的に静かな伊賀焼の里、阿山町丸柱。「焼きものの花生けの中で、最も位が高いとし、また価ひも高い」と川端康成が語った「古伊賀」の再現を追求する職人を訪ねた。

     

    伊賀焼を外から見て見えたこと

    香山窯の職人、森里卓己さんは窯元の家に生まれ陶器に慣れ親しみ育ったが、学校を卒業後すぐは自動車関連企業で働いていた。時折しも高度経済成長期、自動車産業は花形だった。一方、当時の伊賀焼の主力商品は土鍋。「会社にずっといるのもどうか」と思いつつ伊賀焼を新たな視点で見つめたとき、これからは土鍋だけでなく大量に作っても使われる、なおかつ使ってあたたかみのある手作りの食器が必要とされるのではないかと考え、伊賀に戻り食器類を焼き始めたそうだ。当時は食器を焼く窯も、登り窯を実際に焚いている窯もなかったが、今では多くの窯が食器を焼き、登り窯を再現している。

    近くの伝統産業会館にて

    茶碗の高台部分を削っている

    修行は土練りと器づくり。最初の一年間は昼に土練り、夜は器づくりという生活だった。土練りといってもただこねるだけではない。作るものの大きさによって堅さを変えなければならないし、堅さが合わないとやり直しだった。器づくりも同じ大きさ、形のものを何個も作らなければならなかった。これらは師匠から教わったというより、目で見て、作って覚えていった。

    茶碗の高台部分を削っている

    「言い合いっこ」から生まれる作品たち

    ギャラリーにあるフタつきの灰皿。これはクーラーを使う人からたばこの灰が巻き上がるから作ってほしい、と言われて生まれたもの。最初はフタと本体が一体化していたが、手入れしにくいという意見を聞き、被せる様式に変えた。灰皿をけっ飛ばして灰をこぼして困っている、と聞けば足で蹴っても動かない重い灰皿を作った。同じことを考える人がいるのか、他にも何人かが購入していった。「いろいろな人と話をして、言い合いっこをしないといけない。自分だけ(の考え)だと、自分が思ったままにしかならない。」

    フタつきの灰皿は素朴だが思いやりにあふれる

    伊賀焼の魅力は・・・

    どしっとして、荒々しく、荒々しい中にも優雅さが漂う、これが伊賀焼の特徴だという。しかし今は「形のよさ」や「軽いこと」が求められる時代。伊賀焼の対局にあるとも言える。求められれば作るがあまり自分では気に入っていないそうだ。理由は「大きさ、形は真似できても色は真似できない。形に合う色がある」から。伊賀焼特有の焼き締めの茶色、灰かぶりでできるビードロ釉の緑色は昔ながらの破袋水指(やぶれぶくろみずさし)や花器に一番似合うのかもしれない。灰かぶりは窯の中で自然に作られる。「焼いていて景色の変化が他の焼物よりもいい、と自分では思っている」。

    登り窯は古伊賀を焼くために欠かせない

    使いやすくて心を癒す作品づくりを

    師匠からは「作家気分で作るな」「職人だから使いやすいもの、人の心を癒すものをつくればそれでいい。いいものを焼いていたら、自然と浸透する。それでええやないか」ということを学んだ。森里さんも「作者の気持ちはどうでもいい。和んでくれたら」と考え、後継者(森里さんの甥)にもそれを伝えたいという。もちろん買って帰って飾るだけでなく、使って生活の中に入ってこそだし、伝統工芸の良さはそこにある。「せちがらいで(せちがらい世の中だから)なおさらやね」。

    ギャラリーには様々な作品が並び、楽しい

    古伊賀の再現をめざして

    伊賀焼といっても最近は形や色が様々。森里さんも伊賀焼をはなれたものを作ることがある。しかし原点は古伊賀の追求。30年間焼き続け、いろいろな土や焼き方を試しているが、まだ古伊賀の色は出ないそうだ。その色を出すために、伊賀土を探し続けている。車で走っていても地層があればつい脇見てしまうが、今も見つかっていない。それでも「簡単に見つかってしまったら楽しみがなくなる」と言う姿は、本当に楽しそうだった。

    こぼれ話

    伊賀焼を楽しむ4つのポイント

    1.無釉焼き締めの肌合い
    伊賀焼は釉薬をかけず焼き締めで作られます。伊賀の陶土は耐火度が高く、粘りの強い良質なもので、何度も窯に入れて焼くことで味わい深い器になります。
    2.灰かぶりでできるビードロ釉
    降りかかった薪の灰が高温の炎の中で溶かされ、また陶土から自然に溶け出し、ガラスのような天釉「ビードロ」となります。
    3.へラ目、山割れ、耳
    大きな山割れや豪快なゆがみ、ヘラ目など整った形に手を加えることで器に変化を与え「破調の美」をかもし出します。
    4.火色、コゲ
    きわめて高い温度で焼かれる伊賀焼は、炎の強弱によって火表、火裏に変化のある彩りを残します。また、窯の中で燃え尽きた薪が燠(おき)になり、黒ずんだ箇所を作ります。

     

概要

工芸品名 伊賀焼
よみがな いがやき
工芸品の分類 陶磁器
主な製品 茶器、花器、土器、行平(ゆきひら)、食器
主要製造地域 伊賀市、名張市
指定年月日 昭和57年11月1日

連絡先

■産地組合

伊賀焼振興協同組合
〒518-1325
三重県伊賀市丸柱169-2
伊賀焼伝統産業会館内
TEL:0595-44-1701
FAX:0595-44-1701

http://www.igayaki.or.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

すぐ隣の信楽焼と比べて硬く、また、やや重みがあります。焼く時の窯中の状態によって、焼き物の色や形に色々な変化が表れることを「窯変(ようへん)」と言いますが、この窯変によるビードロというガラス質や焦げの付き具合、そして器そのものの力強い形や色が、伊賀焼の特徴となっています。

作り方

原料の陶土を乾燥したまま砕く方法と、水に溶かして、ふるい掛けする方法の2種類を合わせて使って粘土を作ります。出来た粘土をろくろ、ひも作り、たたらといった技法を使って形にします。そこに布目やへら目等の飾り付けをして素焼したものに、絵付けをし釉薬(ゆうやく)を施して焼き上げます。

totop