大阪欄間

大阪欄間の始まりは17世紀初期で、大阪府内の聖神社や四天王寺等にその伝統技法のもととなる技術がみられます。
その後、江戸時代中期には商家を中心とした一般の住宅の茶の間、客間等の鴨居(かもい)の上に、光を取り入れたり風通しを良くするという実用性と、品格を表すための室内装飾として取り付けられました。

  • 告示

    技術・技法


    彫刻欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    下絵は、筆墨等を用いて板材に直接描くこと。

     
    (2)
    彫りは、表裏両面ともに、「立体彫り」によること。

     
    (3)
    仕上げは、「いぼたろう」又はこれと同等の性質を有するもの及び「うずくり」を用いてみがくこと。


    透彫欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    透かし模様の木口部分が板材に対して直角になるように彫ること。

     
    (2)
    「花鳥山水模様」を彫る場合には、下絵は筆墨等を用いて板材に直接描き、彫りは「むく打ち操り小刀」及び「角挽き」を用いて下絵先端細部まで「引き繰り」をすること。


    筬欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    筬の子の割り出しは、「木返し」によること。

     
    (2)
    筬は、「玉縁」にはめ込むこと。この場合において、はめ込みは、「やり越し」によること。

     
    (3)
    「玉縁」は、塗漆すること。


    組子欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    組子の割り出しは、「割り込み」によること。

     
    (2)
    組手切りには、「組手切り台」及び「型板」を用いること。

     
    (3)
    組手は、三つ組手とすること。


    節抜欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    「節抜き」をすること。この場合において、竹は、すす竹とすること。

     
    (2)
    節に接する部分は、「片欠き」をすること。

     
    (3)
    竹の肉質部分は、そぎ取ること。

     
    (4)
    節抜細工は、「玉縁」又は「見切縁」にはめ込むこと。この場合において、「玉縁」へのはめ込みは、「やり越し」によること。

     
    (5)
    「玉縁」及び「見切縁」は、塗漆すること。


    書院欄間にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    下絵は、筆墨等を用いて板材に直接描くこと。

     
    (2)
    彫りは、片面の「立体彫り」によること。

     
    (3)
    仕上げは、「いぼたろう」又はこれと同等の性質を有するもの及び「うずくり」を用いてみがくこと。


    衝立にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    下絵は、筆墨等を用いて板材に直接描くこと。

     
    (2)
    彫りは、表裏両面ともに、「立体彫り」によること。

     
    (3)
    仕上げは、「いぼたろう」又はこれと同等の材質を有するもの及び「うずくり」を用いてみがくこと。


    掛額にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    下絵は、筆墨等を用いて板材に直接描くこと。

     
    (2)
    彫りは、「立体彫り」によること。

     
    (3)
    仕上げは、「いぼたろう」又はこれと同等の材質を有するもの及び「うずくり」を用いてみがくこと。

    原材料


    原木は、スギ、ヒノキ、キリ若しくはクワ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    大阪欄間の製造工程は複雑で、出来上がるまでにとても手間と時間がかかります。
    大阪欄間の特徴として、裏と表の柄を違えることもあり、高い技術を必要とします。そのためには、長い間の修行を積み、様々な技術を身につけなければなりません。
    それでは、木目を生かした代表的な彫刻欄間の製作工程を紹介しましょう。

    工程1: 選木

    欄間の材料となるのは、スギ、ヒノキ、キリなどの銘木で、中でも杉は屋久杉で樹齢1000年以上の古木を使用します。色、木質、光沢の良いもの選んでいます。

    工程2: 製材

    厚さ45ミリメートル以下に製材し、長さは約2メートル・4メートル程度に切ります。

    工程3: 乾燥

    湿気のない、風の当たらない場所で、板を立てて陰干しし、乾燥させます。その際、重なった部分からの腐りを防止するために、板と板の間は3~6センチあけます。板を縦に立てる事で、自然に水分が下がり、乾きます。しかし、日光や風に当てると木肌が荒れ、木割れを起こします。また、よく乾いたものを使わないと、彫刻などの最中に割れてくることがあります。3カ月以上かけて、自然乾燥させますが、木の種類によっては乾くのに2~3年かかるものもあります。

    工程4: 木取り

    1組ずつ墨付け、寸法切りをし、11ミリメートル以上の厚さに削ります。

    工程5: 下絵描き

    原盤に、毛筆で墨によって直接下絵を描きます。型紙などはなく、木目などを見て表裏の絵を考え、図案を決めます。下絵は基礎となるので、充分気を配り、写実的に描きます。

    工程6: 挽き仕事

    ドリルのようなギザギザの細い刃を持った鋸で表裏を通してくり抜き、透かしを作ります。

    工程7: 繰り仕事

    下絵の不要部分を切り抜き、挽き口の荒れを削りながら修正します。機械ではできない複雑な作業が多いので、とても神経を使います。

    工程8: 荒彫り

    図案に沿って大まかに彫りはじめます。

    工程9: 彫り

    平面彫りによって木目を生かした仕上げをします。そして立体彫りによって遠近感・立体感を出します。
    彫りの種類には、下記の3つがあります。
    ・なみ彫り…重なりの区別を付けて彫っていきます。
    ・上彫り…立体感と遠近感を出すために深堀をします。
    ・かご彫り…3重4重と重なって見えるように立体的に彫ります。

    工程10: 面取り

    彫刻面と外周面との境界に区切れを入れます。
    木目の美しさを見せるため、細かく丁寧に磨きをかけます。

    工程11: 磨き加工

    うずくり、いぼたろうで丁寧に磨きます。

    工程12: 額縁組

    額縁を組み、彫りあがった欄間をはめ込んで完成です。

     

  • クローズアップ

    建築工学の高さと装飾性を兼ね揃えた和風美

    17世紀に起源を有する「大阪欄間」は、屋久杉や桐などの天然銘木の木目や色合いの美しさを伝えて300年の歳月が流れた。木造建築住宅の鴨居の上に、採光・通風をよくする実用性と、品格を保つための室内装飾として取り付けられている。

     

    工房は注目度の高い看板でもある

    大阪府下22カ所に工房があり、それぞれで大阪欄間を製作し継承している。古くから大阪市内で営まれている欄間店に伺い、伝統工芸士・吉川氏に話をお聞きした。「私の工房は道路に面したこの店先なんです。ここで、季節の移ろいを感じながら欄間製作をしています。」オフィス街から少し入っただけで、このような昔ながらの欄間店があるとは、思いもよらなかった。ガラス張りなので、仕事の様子が外からよく見える。通りすがりに立ち止まって、その様子をながめて行く人も少なくない。それは、欄間という物を『古めかしく、手の届かない高級品』といったイメージから脱却させ、『もっとオープンで若い人たちも入りやすい世界にしたい』という吉川氏の考えから、この場所に作業場を配置したのであった。彼は毎日、お客のニーズをとらえるために、ここでアンテナを延ばしているのだ。

    一刀一刀心を込めて彫る

    素材を見つめる工芸士の目

    欄間という物は二間続きの和室に施す物であるから、両面とも『表』でなければならない。一つの欄間を作り上げるのにシンプルな物は3日間ぐらい、また、凝った物となると半年から1年ほどかかるという。特に彫刻欄間は手間暇かけて仕上げなければならないが、その分、華麗にして重厚な趣を持っている。大阪欄間の技法は、何もない1枚の板に墨で直接下絵を描き込み、仕上げていく。下絵紙という物はなく、木を見て木目によって、その都度デザインを変えていくというのだ。材木によっては中に空洞のある物もあるが、表面を見ると見当がつくと言うから、さすが工芸士の目は鋭い。欄間の種類は彫刻・透かし彫り・おさ・組子・節抜き欄間などがあり、彫刻欄間の図柄は大きく分けて近江八景などの景色や、松に鶴などの動物、松竹梅などの植物などがある「工芸士により得意とする物がありますし、図柄もみんな違い、それぞれの個性が生きているんです。」

    様々な種類の彫刻刀を使いこなす

    伝統的工芸品の天敵

    かつては工務店の担当者や設計士が、欄間の注文に訪れた。しかし、近年は女性のインテリアコーディネーターからの注文が増えてきているという。「欄間を歴史ある物としてとらえるだけでなく、明かり取りや通気性などの機能を重視し、図柄も新しいお洒落な物を提案してくれます。」レトロなデザインも好評で受注の増加も期待されたが、気密性重視の消防法が、欄間の普及の足を引っ張っている現状だ。さらには、「インターネットなどで新しいデザインを発表すると次の週にはデザインが盗まれて、そっくり同じ物が海外から輸入されてきてしまうんです。」海外からの輸入は、伝統工芸の世界にとって、大きな問題である。

    将来の欄間職人へ

    「おかげさまで器用なため彫ることに関しては、何でもできるんです。」と吉川氏から頼もしい言葉を聞かされた。大きな欄間だけではなく、彫刻額を作ったり、宝石箱に彫刻を施したりもしているのだ。しかし、他の伝統工芸の世界と同じように、大阪欄間も後継者不足に頭を痛めている。現在、工芸士の平均年齢が60才なのだ。「父が欄間職人だったこともありますが、私自身物を作るのが好きなので、この世界に入りました。一人前になるには5年から10年かかりますが、何十年やっていても研究努力は常に必要な世界ですね。これからの欄間職人は、『作家』になっていって欲しいと思います」とこれから生まれてくる大阪欄間職人への夢を語ってくれた。

    • 細かいところは力の加減を十分に行います。

    座面は堀込み式で座りやすく工夫されている

    こぼれ話

    大阪欄間と井波欄間の相違点

    全国で欄間の産地を形成しているのは、大阪と富山県井波町です。井波の場合、欄間は彫刻欄間が主体ですが、大阪欄間には、彫刻欄間、透彫り(すかしぼり)欄間、おさ欄間、組子(くみこ)欄間、節抜(よぬき)欄間、埋込(うめこみ)欄間、書院(しょいん)欄間などがあります。井波欄間は元々居城、社寺、仏閣が使用場所となっていたため、上座に主人が座り、客は下座から見上げるという形態がとられたことにより、彫刻に表裏ができているのです。しかし、大阪欄間は一般庶民の間で普及したことからシンプルな欄間も多くあり、また、表裏も対象に施されているのです。
    床の間の横にある上下の障子の上の部分に入る欄間。玉縁を漆塗りで仕上げた香り玉型、彫刻、透かし彫りなど様々な型があります。廊下側に障子やガラスが入ります。

     

概要

工芸品名 大阪欄間
よみがな おおさからんま
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 欄間、衝立(ついたて)、彫刻額
主要製造地域 大阪市、岸和田市、吹田市、貝塚市、枚方市、茨木市、松原市、摂津市、東大阪市、豊能郡能勢町
指定年月日 昭和50年9月4日

連絡先

■産地組合

大阪欄間工芸協同組合
〒566-0053
大阪府摂津市鳥飼野々1-27-24
木下らんま店内
TEL・FAX:072-646-8470

https://osaka-ranma.com

特徴

大阪欄間には屋久杉の木目を生かした絵画調の「彫刻欄間」、キリの肌と透かし模様が調和した「透彫(すかしぼり)欄間」、模様を表した「筬(おさ)」、「組子(くみこ)欄間」、特異な「抜(ぬき)欄間」があり、日本家屋にふさわしい、装飾と空気交換の機能性を備えています。

作り方

スギ、キリ、ヒノキの木を原材料とし、天然乾燥してから必要な大きさを切り出し、下絵を描く場合には、筆を用いて直接描き、図案の通り挽(ひ)きくりをします。彫りは立体彫りにより、仕上げは「いぼたろう」という蝋(ろう)で磨いて仕上げます。

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