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TRADITIONAL CRAFTS

甲州印伝Koshu Lacquered Deerhide

江戸時代末期に、現在の山梨県の甲府市にあたる地域を中心にして産地が形成されました。
江戸時代後期に書かれた「東海道中膝栗毛」という滑稽本の中には「腰に下げたる、印伝の巾着(きんちゃく)を出だし、見せる」といった記述があり、当時から甲州印伝が、財布や巾着等の袋物として人々の間で親しまれていたことがわかります。

Deerhide craft products were being made in the area centered on the city of Kofu in present-day Yamanashi Prefecture during the 19th century. By the end of the same century, it is known that deerhide draw-string money bags and purses were well known among people at large as reference is made to them in Tokaidochu Hizakurige, a humorous book published in the 19th century.
Such bags, pouches and purses and other fashion accessories are still being made today. They are soft, strong and light and a fine pattern in natural lacquer is usually applied.

They lose none of their appeal the more they are used and gradually become much loved possessions.

  • 告示

    技術・技法


    革擦りをすること。この場合において、残毛は鏝を用いて焼くこと。


    地色の着色は、藁と松脂を用いる燻し又は浸染により行うこと。


    柄付けは次のいずれかによること。

     
    (1)
    燻しにより地色の着色をするものにあっては、「糸巻き」、「糸絞り」、「防染糊置き」又は「漆置き」(型紙捺染を併せ行うものを含む。以下同じ。)のいずれかによること。

     
    (2)
    浸染により地色の着色をするものにあっては、「漆置き」によること。


    柄付けにおいて、「漆置き」をする場合には、生漆に砥の粉、顔料及び卵白を混ぜ合わせたものを、型紙を用いて山高に盛り上げて置くこと。


    へり返しをする場合には、こばすきをすること。

    原材料


    表革は、鹿皮とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    甲州印伝の特徴はきれいに染め上げられた鹿革と、細かく盛りあがった柄。柄は江戸小紋調の細かい模様を使うため、漆を均等に、少しもムラなくのせていくには熟練の技が必要です。この柄付けがきちんとできてこそ、甲州印伝特有の、ツルツルして盛りあがった気持ちの良い漆の手ざわりが生まれます。この技法を漆付け技法といい、鹿革と漆の優れた特性を調和させた甲州印伝独特の技法です。

    工程1: 染色

    白い鹿革を黒、紺、茶、えんじ、ワイン色に芯染め(ずぶ染め)します。1回のドラム染色で百枚単位を染めます。鹿革は一頭ごこに性質が異なるため、染色にも多少の差が生じますが、これはむしろ天然素材の持ち味であるといえます。

    工程2: 裁断

    一枚革を型紙に合わせて荒断ちします。鹿革特有の角のズレの大きい部分を避け、良いところだけを選んで裁断していきます。多少の角ズレは本物であることの証とされています。

    工程3: 柄付け

    鹿革の上に漆で細かい柄をつけていきます。柄の型紙は江戸小紋と同じく、伊勢の白子で手彫りされた和紙製のものを使います。鹿革の上に型紙をおき、その上から漆をのせたヘラを横に刷り込むようにし、型紙から革をはがすと、鹿革に抜き柄通りに美しい文様が浮かび上がります。漆は単色をのせ、朱、黒、白を主に使います。これを数日間かけてムロ(漆を乾かす部屋)で乾燥させると、硬質な輝きの漆柄が仕上がります。この漆の盛り上がった感触も印伝のよさの一つです。

    工程4: 縫製・仕上げ

    型紙に合わせて正確に裁断した後、ひとつひとつ丹念に縫製します。デザインに合わせて、直線や曲線を自在に縫っていきますが、印伝の革には表面に漆柄の凸凹があるので、ここにも熟練の技が必要とされます。つぎに、ハンマーで縫い目の折返しを整えます。型くずれを防ぐため、当て革などを裏につけます。そして口金やファスナーをつけて仕上げます。
    昔は和装小物や巾着袋、合切袋、などが主流でしたが、現在は、お財布、印鑑ケース、ハンドバックなど、現代の生活様式にあった様々な用途に使われています。

  • クローズアップ

    使い込むうち手放せなくなる甲州印伝

    伝統工芸好きなら誰でも知ってる甲州印伝。戦国時代からの歴史をもち、今現在も老若男女に愛されつづけるお財布などの革小物。人を惹きつけて離さないその魅力とは何なのか、この道ひとすじ60年の赤池孝治さんに伺った。

     

    使い込む程に手になじんで、離せなくなりますね

    袋物屋やデパートのお財布売り場に行くとよくある「甲州印伝」の文字。印伝とは、鹿の革に漆で模様をつけたもの。黒、紺、えんじ、紫などに染められた革の上に、江戸小紋調の柄が付けられ、それが浮かび上がって艶が光る。現在は、財布はもとより印鑑入れ、ハンドバッグ、巾着袋など身近に使えるさまざまな用途に作られている。印伝のさきがけは遠く奈良時代からあり、戦国時代は武将の武具にも使われた。
    こんなにも古くから現在に至るまで人々に愛され続けてきた印伝。その魅力は一体どこにあるのだろう。「鹿革っていうのは軽くて丈夫で柔らかいんですよね。しかも使い込むうちに手になじんでくるのです。」と赤池さん。10年以上使い込んだ赤池さんのお財布を持たせてもらうと、クタっとしたようなやわらかい感触がたまらない。新品の印伝はアイロンがかったYシャツのように固めだが、使い込まれた印伝にはその人の手のぬくもりが染み込んで、ホッとするようなあたたかみが感じられる。「10~20年は楽に使えます。ボロボロになっても修理をして何回も使う人が多いです。」

    財布だけでなく名刺入れも作っている

    印伝ひとすじ60年、「奉公が一番きつかった」

    印伝には染色、裁断、柄付け、縫製の4つの工程があり、赤池さんは主に縫製を担当している職人さんだ。「やっぱり袋物の角を寄せていくのが大変ですよね。角のヒダをうまく、厚くならないように包丁で切って。」薄い布ですら角に凸凹をつけないことは大変なのに、もともと厚い鹿の革。財布など、角や曲線が多い印伝の製品をスムーズに縫っていくには熟練の技が必要だ。
    赤池さんは15歳の時から印伝をはじめ、8年間の軍隊生活を除けば、なんと印伝ひとすじ60年だ。「15歳から5年間年季奉公(ねんきぼうこう)をしましてね。この頃が一番きつかった。その後入った軍隊の方が全然楽でしたね。それまでに鍛えられてたから。仕事ってのを教えてくれないんですよ。“自分で見て覚えろ”って。盗み取りしてくんですよ。自分でどうすれば早くうまくなるのか研究しながら。」

    現在もいたるところで必要とされる、職人の勘

    職人技は教科書のない世界。今では時代が変わり、管理も数値化されてきたとはいうものの、まだまだいたるところで職人の勘は必要だ。「印伝は漆を使いますからね。漆は樹液、生きているものですから、扱いが難しいのです。建物がしっかりしてて湿度と温度が一定だったらいいって訳じゃぁないんです。やっぱり漆をきちんと扱うためには、長年の職人の経験と勘が大切なんですよ。」
    印伝を作るのになくてはならない職人の勘。現在は若い世代と年長者との世代交代が緩やかに行われている。ところで、どのくらいたてば職人は一人前といえるのだろう。「5、6年で一通りのことはできますけど、長年やってこそはじめて正規のものができますからね。満足できるようになるのは30から40歳くらいかな。まぁ60年もやってて、まだわしが満足したことないんだからねぇ。」

    小紋調の印伝の柄は何十種類も存在する

    今の人に使ってもらってこそ意味がある

    今までも固定ファンを持ち続けながら安定的に支持されてきた印伝。もともとがお財布やカバンという形態で、現在の生活習慣に合っていた。だからこそ、こうして印伝は広まり続けていくのだろう。戦国時代から現在まで、生活様式の変化を柔軟に受けとめながら、絶えることなく多くの人に親しまれてきたこの鹿革細工。「自分が仕上げたものを、みなさんが使いいいように思ってくれることが一番うれしいですね。」という赤池さん。伝統的工芸品だからといって骨董品という扱いではなく、今の人に使ってもらってこそ意味があるとの想いのもと、今後もさらにセンスよく、レベルの高い商品作りを目指してゆく。

    こんなおしゃれなハンドバッグも印伝なのだ

    職人プロフィール

    赤池孝治 (あかいけこうじ)

    印伝づくり一筋。
    その豊かな経験は60年をゆうに越える。
    印伝界の歴史の証人ともいえるほどの人だ。

    こぼれ話

    自然素材に自然な味付け「ふすべ手法」

    1回につき10数枚かしかできない、ふすべ手法。天然の革に、時をかけて、人がわらの煙で色づける。だからこそできる、この何ともいえないやさしい味。自然のものに自然素材で人間が味つけをする、そしてそれが粋な、文化になってゆく。自然と人との楽しい関わり。「ふすべ手法」のこの革はそんな日本独自の楽しい文化を思い出させてくれます。

    • タイコに貼られた鹿革の上に糸を巻きつける

    • ふすべ手法でできた製品。やさしい色合い

     

概要

工芸品名 甲州印伝
よみがな こうしゅういんでん
工芸品の分類 その他の工芸品
主な製品 印鑑入れ、財布、袋物、ハンドバック
主要製造地域 山梨県/甲府市、甲斐市、西八代郡市川三郷町
指定年月日 昭和62年4月18日

連絡先

■産地組合

甲府印伝商工業協同組合
〒400-0811
山梨県甲府市川田町アリア201
TEL:055-220-1660
FAX:055-220-1666

http://www.pref.yamanashi.jp/shouko/kogyo/densan/inden_02.html

■関連展示場・施設

特徴

漆模様付けされた、柔らかく丈夫で軽い鹿の皮で出来た袋物は、使い込むほど手に馴染み、愛着が増します。

Koshu inden pouches, made of soft, light and durable deer leather, and coated in a decorative lacquer, are a product that is more comfortable and loved the more it is used.

作り方

大別して2つの方法があります。1. 染色工程のあと、傷が付かないように気を付けながら、必要な大きさに切った鹿革に型紙を用いて漆模様付けして袋物にする。 2. 焼きゴテで表面処理された鹿革をタイコに巻き、ワラの煙でふすべ模様付けして袋物にする。

There are two primary method for making Koshu inden pouches: 1. After dyeing the deer leather, only the necessary amount is cut while taking painstaking care to avoid any damage to the leather. The lacquer pattern is then applied using a stencil, and finally the leather is sewn into a pouch. 2. After treating the deer leather with a hot iron, it is stretched and bound across a drum. Straw is burned to smoke the leather, decorating patterns are applied, and then the leather is sewn into a pouch.