八女提灯

19世紀初めに場提灯という素朴で簡単な絵を描いたものが作られたのが、八女提灯の始まりとされています。
19世紀半ばに意匠を工夫して、提灯に一大革命をもたらしました。19世紀末には、地元で生産される工業製品の中で、提灯が主要な地位を占めるようになりました。

  • 告示

    技術・技法


    地紙加工にあたっては、「ドウサ引き」及び「地色引き」をすること。ただし、白張りのものは「地色引き」をしない場合もある。


    地紙又は絹の加飾をする場合には、「絵付け」によること。この場合において、「絵付け」は手描きによること。


    火袋の加工にあたっては、「型組み」、「ヒゴ巻き」、「張り付け」、「継ぎ目切り」及び「型抜き」によること。ただし、「絹の張り付け」をする場合は、「型組み」、「ヒゴ巻き」、「絹の張り付け」、「継ぎ目切り」、「ドウサ引き」及び「型抜き」によること。


    木地の加工にあたっては、「木地作り」、「塗り加工」をすること。

    原材料


    地紙は、和紙とし、絹は絹織物とすること。


    提灯の骨の素材は、マダケ又はモウソウチクとすること。


    木地は、ホオ、ヒノキ、若しくはマツ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

     

  • 作業風景

    八女提灯の製造工程は、火袋の製作、絵付け、木地づくり、漆の塗り、蒔絵の製作、仕上げ、の6つに大きく分かれ、それぞれがひとつの業種として独立しています。

    手板や加輪など木製の部品、火袋、房、金具はそれぞれ平行して製作されます。完成したそれぞれのパーツは、製作全体の流れを管理する提灯屋に集められ、製品に仕上げられます。

    火袋の製作

    工程1: ヒゴの準備

    八女提灯は、一本の骨をらせん状に巻いて提灯の形を造り出します。そのため、まず竹ヒゴで長い骨を作ります。ヒゴの直径およそ0.4ミリ長さ4.5メートル。これを通常12~25本接いで一本の長いヒゴにします。
    ヒゴづくりは高度な技術と熟練が要求される仕事で専門の職人によって行われます。
    一本のヒゴで成形する方式は「一条らせん」といい、江戸時代に八女で考案されました。

    工程2: 木型の組み立て

    提灯の原型となる木型を組み立てます。木型は、作ろうとする提灯と同じ大きさ、同じ形のものを使用します。この木型にヒゴを巻きつけ提灯の形を作ります。
    木型は、羽と呼ばれる板と、羽を固定するための円盤から成っています。木型ひとつに必要な羽の枚数は、8~16枚。羽の縁にはヒゴを固定するための溝が刻まれています。

    工程3: ヒゴ巻き

    木型の上下に張り輪をはめ、上部の張り輪にヒゴの一端を固定し、羽の溝に沿ってヒゴをらせん状に巻いていき、下部の張り輪で巻き終ります。狭い間隔で乱れることなくヒゴを巻きつけていくのには、熟練が必要です。
    ヒゴを巻き終えたら、提灯の伸縮を制御し、紙の破損を防ぐための糸を掛けます。糸はヒゴの上を這わせて上の張り輪から下の張り輪に渡し、その両端を上下の張り輪に止めます。この時、糸が斜めにならないように気をつけます。この糸を掛け糸といいます。掛け糸の本数は、提灯の大きさによって異なります。

    工程4: 地絹の張り付け

    まず、上下の張り輪から骨4~5本分の所まで絹を貼り、口の部分を補強します。
    次に、上下に渡した掛け糸と掛け糸の間をひと区間とし、その区間のヒゴにショウフ糊を刷毛で塗り、地絹をあてがいます。
    地絹は少したるませて張り、浮き上がったところを刷毛で軽くおさえます。
    先に張った絹が乾いたところで、隣の絹を張れるように、地絹は一間おきに張っていきます。

    工程5: 地絹の継ぎ目切り

    地絹は一間につき一枚。隣の地絹と重なる継目の巾は、わずか1ミリ程度しかありません。地絹を一枚はる度に、掛け糸に沿って余分な絹をカミソリで切り取っていきます。この幅を狭く一定に保つには熟練が必要です。

    工程6: ドウサ引き

    地絹の張りと継ぎ目切りが終わったら、火袋の表面に、絵付けの際の顔料のにじみを防ぎ、表面を艶やかに仕上げるための加工を施します。
    加工には、「ドウサ」と呼ばれるニカワとミョウバンを水で溶きあわせた液が用いられます。
    「ドウサ」を火袋の表面に、刷毛で均一に塗ることで、紙の表面の細かい凹凸はふさがり、滑らかになります。この作業を「ドウサ引き」と言います。

    工程7: 型抜き

    張り付けの済んだ火袋を乾燥させます。乾燥後、火袋の中で木型を分解して羽を抜き取ります。
    型をはずした火袋は、ヒゴとヒゴの間隔を手でつまんで折り癖をつけてたたみ、提灯屋を経由して絵付けの工程に渡されます。

    工程8: 絵付け

    絵付けは絵師と呼ばれる専門の職人によって行われます。絵師は下書きを一切せず、火袋に直接筆描きをします。
    絵付けが済んだ火袋は、提灯屋に渡されます。

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    加輪(がわ)と手板の製作

    工程1: 木地づくり

    薄手の板を曲げて加輪を作ります。上部の輪は板を2枚貼り合わせた「無双輪」と呼ばれるもので、二重構造のため、完成した時に火袋と加輪の接着部分を隠すことができます。
    厚手の板からミシン鋸で手板を切り出します。切り出した手板にはヤスリをかけ、表面を滑らかにしておきます。
    加輪や手板など木製の部材は木地と呼ばれ、これらの作業を専門に行う職人は木地師と呼ばれます。
    出来上がった木地は、提灯屋を経由して漆塗りの工程に渡されます。

    工程2: 漆塗り

    漆塗りは、塗り師と呼ばれる専門の職人によって行われます。落ち着いた風合を出すため、漆は2度塗りします。塗りの終わった木地は、提灯屋を経由して蒔絵師へ渡されます。

    工程3: 蒔絵

    蒔絵は下絵を漆で描き、下絵の漆が程よく乾いてきたところに、金・銀分や色粉を蒔きつけて文様を表現します。金粉の蒔き時は乾き具合を見て判断しますが、その見極めには熟練が必要です。
    蒔絵の他に、光沢のある貝殻を貼り付ける、「螺鈿(らでん)」による装飾を施す場合もあります。
    蒔絵や螺鈿は、蒔絵師と呼ばれる専門の職人によって施されます。
    装飾の済んだ木地は提灯屋に渡されます。

    仕上げは提灯屋で行います。提灯屋には、絵付け済の火袋や装飾済の木地の他に、それぞれ専門の職人の手で作られた房や金具が集められています。
    火袋に加輪を取りつけ、加輪にハト目などの金具を取りつけ、ひもを通して手板を取りつけます。最後に房をつけて完成です。

     

  • クローズアップ

    心なごむ、人と焼物の力強いあたたかさ

    福岡県八女市。市の中心部には、土蔵造りの町家が今なお軒を連ね、江戸、明治、大正、昭和初期と、それぞれの時代の風情を現代に伝えている。お茶屋、味噌屋、和菓子屋といったどことなく懐かしさを感じさせる店と共に、仏壇店や提灯店がいくつも並ぶのは、提灯どころの八女ならではの風景だ。そんな八女の提灯づくりに精通した、提灯メーカー経営者の今村保雄さんに、お話をうかがった。

     

    涼み提灯から盆提灯に

    芙蓉に秋草、孔雀に山水、華麗な筆致で描かれる絵は、八女提灯の顔だ。提灯には薄手の和紙や絹が用いられ、端正な絵越しに灯が透けてみえる。その涼しげな風情が好まれて、江戸時代には、夏夜に涼を呼ぶ提灯として各地で縁側の軒先を彩ったという。
    もともと八女は竹や紙の産地である。それらを使って、江戸時代に提灯づくりが始められたのだ。以来180年に渡り、八女では絶えることなく提灯が作り続けられている。明治時代以降は、主製品は盆提灯となったが、その生産量は現在、日本一、まさに提灯どころである。

    提灯と仏壇

    八女は提灯産地であると同時に、仏壇の産地でもある。八女福島仏壇は、提灯同様、国の伝統的工芸品として指定を受けている。
    「提灯は、仏壇と同じように非常に細分化された分業によって製造されています。私たちメーカーは、別々の場所で行われる工程の橋渡しをし、最終的に全てのパーツを集め組み上げて製品に仕上げます」と今村さんは説明する。
    分業することで、ひとつひとつの工程の技術が熟成されたのは、提灯も仏壇も同じである。灯を覆う火袋をとってみても、骨となるヒゴを巻き上げてそれに和紙や絹を張る職人と、絵付けを施す絵師に分かれている。それ以外の部分も、火袋の上下を固定する口輪や脚・持ち手といった木地の加工、漆塗り、蒔絵装飾などが、それぞれ専門の職人によって行われている。これら数多くの熟練した職人の技の積み重ねから、八女提灯は作り出される。木地や塗り、蒔絵など、仏壇の技術の影響を受けている工程も少なくない。
    盆提灯が仏壇に寄り添うように、その技も仏壇と共にあるようだ。

    手描きの妙技

    数多い工程の中でも、八女提灯を特徴づけているのは絵付けの工程だ。八女提灯の絵付けは手描きによって施される。下描きはしない。絵師の頭の中にある構図に従って、いきなり絵の具で描いていくのである。とはいうものの、絵柄を描いていくときの配置の目安はある。らせん状に巻き上げられた火袋の骨を縦方向でつなぐ糸の筋目がそれだ。筋目のどこに何を描くかを決めることで、全体の配置のバランスをとるのである。
    八女提灯には紙に描かれた図案はない。先輩職人の提灯やサンプルの写真など、立体に描かれた状態のものが見本となる。新しい図案を決める時も、アイデアを描き込むのは、提灯の現物だ。メーカーと絵師とが、白い提灯に実際に図案を何度も描き込みながら打ち合わせをして、最終的な図柄を決めていくという。
    「八女提灯の特徴は、なんといっても手描きの絵付けですから、絵付けの職人さんたちには、その良さを継承していって欲しいですね」と今村さんは語る。

    亡き人への思いを贈る盆提灯

    繊細な絵が描かれた盆提灯は、幽玄な夏の風物として、人の記憶に刻まれている。盆提灯は、亡くなった人の兄弟や付き合いの深かった人が、初盆を迎える喪家のために供養として贈る品だ。盆提灯は、生前の交友関係を物語るともいわれ、数十の提灯が仏前に並ぶことも珍しくはない。贈り物だからこそ、より美しい提灯が求められたのだ。だが、どんなに綺麗であったとしても、盆提灯が飾られるのは、一年の内わずか数日間。たとえ数日間しか飾られないものであっても、そこには亡き人への思いが込められている。人々の思いを形にするために、八女の職人たちは、一年を通して日々盆提灯を作りつづけている。
    最近では、そうした贈り物は、現金でなされることが多くなり、提灯も喪家が自分で買うことも増えてきたという。
    「このごろは、仏壇そのものを持つ家庭が減ってきてしまいましたが、お盆くらいは、仏壇の前に家族みんなそろって先祖を敬うという気持ちを、子供たちにも持って欲しいですね。そうした風習の中に提灯もあるのですから。」と今村さんはしみじみと語った。

    こぼれ話

    提灯とふれあう

    八女市では、毎年9月の秋分の日を挟んだ数日間に、「あかりとちゃっぽんぽん」というイベントを開催している。「ちゃっぽんぽん」とは重要無形民族文化財に指定されている伝統芸能「八女福島の燈籠人形」のことで、この燈籠人形の『燈り』と八女提灯の『あかり』、そして八女が発祥の地である電照菊(註1)の『あかり』にちなんで開催されるイベントだ。期間中は、提灯まつり・あかり絵パレード・地場産まつり・町屋まつりなども催され、八女の伝統文化や産業にふれることができる。
    見所のひとつはあかり絵パレード。沿道に1700~800個の絵つき提灯が並べられ秋の夜を鮮やかに照らす。それぞれの提灯に描かれた絵は、市内の小学生が夏休みの宿題として一生懸命描いたものだ。
    八女ではこの他に、県立高校の授業でも提灯の絵付けが行われている。提灯の産地として、将来を担う子供たちに、できるだけ提灯にふれる機会を作り、後継者を育てようとしている。

    (註1)電照菊ビニールハウスの中に照明を燈して、開花時期を調節した菊。

     

概要

工芸品名 八女提灯
よみがな やめちょうちん
工芸品の分類 その他の工芸品
主な製品 盆提灯、祭礼提灯、献灯提灯、装飾提灯
主要製造地域 八女市、柳川市、筑後市、八女郡広川町、久留米市、みやま市
指定年月日 平成13年7月3日

連絡先

■産地組合

八女提灯協同組合
〒834-0063
福岡県八女市本村425-22-2
八女商工会議所内
TEL:0943-22-5161
FAX:0943-22-5164

特徴

八女提灯は竹骨を一条螺旋式に改め、厚紙を薄紙の八女手漉き紙に変え、内部が透視できるようにして、山水、草木、花鳥などの彩色画描写をしたため、涼み提灯として名声を博しました。八女の土壌で育成された技術、技法を取り入れた昔ながらの素朴な提灯と近代的な盆提灯が作られており、風雅な情緒味に富んだ提灯として全国一の生産量を誇り、製品は広く、全国、海外へ出荷されています。

作り方

提灯の張り型を組立て、張り型に刻んである溝に沿って螺旋状に竹ひごを巻きます。次に竹ひごに糊を付け、地紙(絹)を貼り、紙(絹)の重なった部分を切り落とします。提灯が乾燥したら張り型を抜き、火袋に筆で山水や草木、花鳥などを手描きします。漆を塗り、蒔絵を施した上下の輪や足に火袋をはめ込んだ後、付属品を取り付けて完成します。

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