越前焼

福井県

越前焼は日本六古窯の1つに数えられ、その歴史はたいへん古いものです。
平安時代末期から焼かれ、現在約200基以上の古い窯が発見されています。これらの大がかりな古い窯で、かめ、壷、すり鉢、舟徳利、おはぐろ壷等、暮らしに使う器が焼かれていました。

  • 告示

    技術・技法


    成形は、「ねじ立て成形」、ろくろ成形、手ひねり成形、押型成形又はたたら成形によること。


    素地の模様付けをする場合には、櫛目、はり付け、「へら描き」、印花、「突き刺し」、化粧掛け又は掻き落としによること。


    釉掛けをする場合には、「どぼ掛け」、流し掛け、筒掛け、「散らし掛け」又は重ね掛けによること。この場合において、釉薬は、「壺釉」、「別畑釉」、「土灰釉」、「藁灰釉」「伊羅保釉」、「なまこ釉」、「天目釉」又は「あめ釉」とすること。

    原材料

    使用する陶土は、「青ねば」、「赤べと」若しくは「太古土」又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

  • 作業風景

    越前は六古窯(ろくこよう)にも数えられる歴史のある焼きもの産地です。現在ではさまざまな技法が取り入れられ、多様な焼きものが作られていますが、歴史的にはツボやカメ、すり鉢といった台所用具が作られていたようです。中でも特徴的なことは陶器と磁器の中間のせっ器で、よく焼き締まる土という点です。また、釉薬をかけずに薪の灰が降りかかって溶けて流れ、黄緑がかった自然釉も越前焼の魅力といえます。
    一般的に焼きものの製作工程は土をとる“採土(さいど)”から始まります。その後、不純物を取り除いて均一な粒子になるように粘土を整える“水簸(すいひ:土粒子の大きさによって水中での沈降速度が異なるのを利用して、大きさの違う土粒子群に分ける操作)”を行い、しばらく寝かせます。寝かせることで成形に適した粘りが出てくるのです。これをさらによく揉んで、均一な柔らかさと粘りを出し、粘土の中の空気を追い出す“菊練り”という作業を行います。揉んでいる粘土の形が菊の花びらに似ていることから付けられた名前です。機械化されるまでは、土づくりは根気と力のいる作業でした。
    土づくりが終わるとようやく成形に入ります。成形は形状によってさまざまな方法があります。円形状のものは、ろくろ成形によって作られます。角形や複雑な形のものは、石膏で型を作り、泥漿(すいしょう)を流し込む鋳込成形で行われます。ほかにも手ひねり成形など多様な成形方法があります。越前焼の特徴とも言える高さが1メートルを超えるような大きなツボやカメはろくろで成形することはできません。そのため、直径5から10センチほどの粘土のひもをねじりながら積み上げてゆく輪積み成形によって作られます。作る器が回るのではなく、陶工がカメの周囲を正確な円を描いて回りながら成形するのです。
    成形された器は、焼成されます。越前焼の本来の姿といわれる無釉の焼き締め陶は、赤茶色の器肌が窯の中で焼かれるときに薪の灰が降りかかって、できあがります。
    それでは、大きなカメやツボを作る際に行われる輪積み成形について詳しく見てみましょう。

    工程1: 底作り

    木の台の上に底になる部分の土を据えて底土を作ります。

    工程2: ねじ立て

    右手に径5~10センチメートル・長さ約40センチメートルのより土をにぎり持ち、右手でより土をして底土にひねりつけます。左手は、右手でより土を押す力を支えるとともに、親指でひねりつけたより土の高さをそろえます。底土の周りを左後ろに回りながら一巡します。2段目以降も1段目と同様に繰り返して行きます。

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    工程3: はがたな伸ばし

    外側にできた継ぎ目は板片を用いて上から下へこすり下げて周りを一巡します。つづいて、右後周りで移動しながら、板片で側壁を扇形に広げながらのばします。

    工程4: 乾燥し2、3を繰り返す

    下部ができた時点で乾燥し、上部の重みに耐えられるようにしてから再度ねじ立てとはがたな伸ばしを繰り返します。

    工程5: 口づくり

    できあがった壺(カメ)の口を作る。濡らした木綿布を両手で押さえるように土を伸ばし、口を整えます。このとき指の組み方によって口の形を変えることができます。

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  • クローズアップ

    極上の土が新しい感性を育てる越前焼

    越前焼といえば自然釉の大きなカメを思い浮かべる陶芸ファンが多いかもしれない。しかし、各地から多くの陶芸家を招き入れた現代の越前は、ありとあらゆる手法・作風が混在した自由闊達な風土の陶芸産地に生まれ変わってきた。

     

    中世から続く由緒ある産地は今でも進化を続けている

    陶芸ファンならよくご存じだろう。越前といえば瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前とならぶ六古窯のひとつ。中世から続く歴史ある産地だ。窯の中で灰が降りかかって現れる黄緑の自然釉も特徴とされている。壷、カメ、すり鉢などの雑器中心で茶器は少ないとされてきた。そんな越前焼も昭和46年宮崎村に越前陶芸村ができることで、若手の陶芸家が全国から集まり、様相が一変する。

    お茶も北野さんの湯のみでいただく

    全国でも屈指の良質せっ器質陶土が陶芸文化を発展させる

    「今や越前焼は特徴がないのが特徴ですね。」地元で生まれ育った越前焼職人の北野隆康さんは言う。「越前は土がとても良い。せっ器質陶土で、よく焼き締まるし、成型時の粘りもいい。その土を使っていろいろ自由にやるのが現代の越前焼だと考えています。」現在も全国から陶芸を志す若者がこの地に集まっている。

    「晴耕雨陶、毎日がベトナブリ」

    「今日は雪だから陶ですかね。」と窓を見ておどけてみせる北野さん。もともと実家が農家で作陶活動のかたわら農業を続けている。その名刺には“晴耕雨陶、毎日がベトナブリ”の文字が。「ベトはこのあたりの言葉で土のこと。」
    「トラクターに乗って田んぼを起こしてるときに、次はどんなものをつくろうかと考えています。」半農半陶の生活は北野さんの創作活動のペースにマッチしているようだ。

    晴耕雨陶の暮らしという北野さん

    “イッチン描き”と“掻き落とし”の技法

    北野さんの代表的な作品は、イッチン描きと呼ばれる「ケーキの飾り付けと同じで白い泥を絞り出して模様を描く方法」と掻き落としと呼ばれる「白い化粧土を掻き落として模様を表す方法」。この分野で全国にも名を知られる職人だ。
    「もともと絵や模様を描くのが好き。以前は細かい模様をぎっちり描いていたけれど、最近はラフな感じの絵で深みを出していきたいと思っています。」墨絵を学ぶことで、のびやかで力強い線も作品に活かされている。
    「デザインはパターンが手になじむまで、何度も練習します。それまでは(商品にならず)ダメになるものも多いです。」厳しい目で自らの仕事を見つめる。窯の周りにならんだ“失敗作”は素人目にはどこが悪いのかわからないものも多い。頑とした職人のこだわりを感じさせる。

    さらさらっとイッチン描きを実演

    奥が深い急須作り、いい色に“育つ”焼き締め陶

    さらに83年から87年まで信楽で急須作りを学び、越前の陶土を使った急須も手がけている。急須のみの個展を開いたこともあるという。越前のよく焼き締まる土で作った器は使っていくうちに手の平で磨かれ、すばらしい色つやが生まれる。
    「急須は奥が深い。使ってなんぼのもんでしょ。(口の部分の)水切れがいいのができたときは“やったぁ!”って思います。お客さんも店で買うときにはいいか悪いかわからない。家に戻って使ってみて、“あの急須、よかったよ”って。そういうのを聞いたときはうれしいです。」
    やはり何よりうれしいのはお客さんの反応。「こんな山奥ですからここらは冬場は雪に埋まります。そんな中わざわざ町から買いに来てくれるお客さんもいます。本当にうれしい。それに、焼き締めの土瓶を買ってくださったお客さんが何年かたってから(ツヅラフジ製の取っ手部分の)修理の依頼で送ってくださった時など、しっかり使い込まれていて“いい色に育ったなぁ”って。」

    ユーモラスな魚は「手に馴染んだパターン」

    「考える職人」が信条

    数をこなすだけの仕事はやりたくないという。「考える職人が信条。現代生活に合ったもの、使う人の生活を考えたものを作っていきたい。」自身を“器用貧乏”と表現される北野さん。非常に多才で作品の中にはペン立てなど斬新で現代的な物も。また恐竜や自動車、かわいい猫の置物の姿も見える。「たくさん作ってみて、良い物ができてきたら商品に仕上げます」とのこと。もっともっといろいろなことをやってみたいという北野さんの挑戦は尽きることがない。

    仕事場の棚にはいろいろな作品が並んでいる

    職人プロフィール

    北野隆康 (きたのたかやす)

    越前焼の地元、福井県織田町生まれ。27歳から焼きものを始める。「考える職人」が信条。

    こぼれ話

    越前陶芸村で焼きもの三昧の休日

    越前焼発祥の地、福井県宮崎村に越前陶芸村が昭和46年に誕生。広い敷地に焼きものにまつわる施設が集合した、全国でも珍しい“村”です。豊富な展示物で歴史も学べる福井県陶芸館では、陶芸教室で家族そろって土にふれるのも楽しいし、広々とした公園でののんびりしたピクニックやお昼寝で羽を伸ばせそう。周囲には地元の陶芸家の窯元も多く、陶芸村内には直売所もあります。山々に囲まれた自然いっぱいのフィールドは陶芸ファンでなくてもゆったりした休日を過ごすのにもってこいの場所ですね。さらに毎年5月には陶芸祭りもあるのでぜひ一度訪れてみてはいかが。大自然のなかで育まれた歴史ある越前焼の深い味わいを、あなたもきっと感じとることができるはず。

    • ひろびろとした緑の中に陶芸の施設が集まる

     
     

概要

工芸品名 越前焼
よみがな えちぜんやき
工芸品の分類 陶磁器
主な製品 酒器、花器、茶器、日用雑器、壷、かめ
主要製造地域 福井市、あわら市、丹生郡越前町、三方上中郡若狭町
指定年月日 昭和61年3月12日

連絡先

■産地組合

越前焼工業協同組合
〒916-0273
福井県丹生郡越前町小曽原5-33
TEL:0778-32-2199
FAX:0778-32-3251

http://www.echizenyaki.com/

特徴

釉薬(ゆうやく)を使わずに焼く焼き締めや、灰釉(かいゆう)、鉄釉(てつゆう)を中心とした、素朴な肌触りの陶器です。飾り気のない作り、温かみのある土で焼かれた、暮らしに使う器としての美しさを持っています。

作り方

地元の田の底にある、「青ねば」「赤べと」「太古土」という陶土を主にまぜて陶器用の粘土を作り形を作ります。越前独特のねじ立て成形も、今なお受け継がれています。窯に入れ1,200度~1,300度の高温で焼き上げます。

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