新潟漆器

新潟県

江戸時代の初めに他の産地から漆塗り技術が伝わり、寛永15年(1638年)に現在の古町に椀店と呼ばれる塗り物の専売地域が定められて、保護政策がとられました。
文政2年(1819年)の文書には塗師職人の名称を見ることができます。新潟は北前船の寄港地として物資や文化の集散地でしたので、漆器作りもさまざまな地方からの多彩な技法が発展しました。

  • 告示

    技術・技法

    1 下地は、木地に生漆を塗布した後、切粉地や錆を全面につけること。

     

    2 各塗の技法
    (1)花塗にあっては、次の技術又は技法によること。
     イ 中塗をした後、研ぎをし、上塗をすること。
    (2)石目塗(黒銅塗・青銅塗・茶銅塗・四分一塗)にあっては、次の技術又は技法によること。
     イ 漆を塗布した後、微細の炭粉を石目塗にあっては平均に、黒銅塗、青銅塗、茶銅塗、四分一塗にあっては斑模様に「炭粉蒔」し、「粉留」をすること。
     ロ 研ぎをした後、色漆を塗布し、再度研いだ後、「摺漆」を繰り返すこと。
    (3)錦塗にあっては次の技術又は技法によること。
     イ 「型置」は、麻ひもを束ねたものを用いて、呂色漆を不規則紋様に叩き塗ること。
     ロ 黄、朱の色漆を塗布後、緑漆を塗布し、青息の状態の時にすず粉を摺り付け、木地呂漆を塗布すること。
     ハ 研ぎをした後、木地呂漆を塗布し、錦の紋様を研ぎ出すこと。
     ニ 仕上げは、「摺漆」、「銅摺」後、「摺漆」、「磨き」を繰り返すこと。
    (4)磯草塗にあっては次の技術又は技法によること。
     イ 「型置」は、中塗及び研ぎをした後、たんぽを回転させるように黒の絞漆で磯草の紋様をつけること。
     ロ 各色漆を塗布した後、磯草の紋様を研ぎ出すこと。
     ハ 仕上げは、「摺漆」、「銅摺」後、「摺漆」、「磨き」を繰り返すこと。
    (5)竹塗にあっては次の技術又は技法によること。
     イ「竹節付」は、錆で竹の節模様(親節、溝、枝節、根節)を成形すること。
     ロ 錆研ぎ後、中塗用の色漆(煤竹、青竹、胡麻竹)を塗布すること。
     ハ 上塗は、研ぎをした後、上塗用の色漆を塗布し、胡麻竹の場合はこの上から炭粉を蒔くこと。
     ニ「模様付け」は、研ぎをした後、割肌とり、小口付け、地肌引き、イガ付け、胡麻付け等の模様を付け、「真菰蒔」及び「真菰落し」を行うこと。
     ホ 仕上げは、「摺漆」を繰り返すこと。

     

    原材料

    1 木材は、ホオ、カツラ、トチ、ケヤキ、又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

    2 漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    新潟漆器には多彩な塗りの技法があります。
    ここでは、新潟漆器を代表する塗りのひとつ「竹塗」の工程をご紹介します。

    素地には朴(ホウ)、桂(カツラ)、欅(ケヤキ)、栃(トチ)などの木が用いられます。

    工程1: 木固め

    素地に生漆を塗り十分浸透させます。生漆が浸透することで木に防水加工が施されます。
    素地に接合部分がある場合は、その部分に米糊と生漆を練り合わせた「糊漆(のりうるし)」で麻などの布を貼り付けて補強することもあります。

    素地にある隙間や細かい傷などの窪みに、ヘラを使って「刻苧(こくそ)」と呼ばれる充填物を埋め込み表面を整えます。
    刻苧は、生漆に糊状にした米飯と小麦粉そして木屑を混ぜ練り合わせて作ります。

    工程2: 錆付け

    珪藻土(けいそうど)を焼いて固めた「地の粉」や砥粉(とのこ)を水で練り、生漆を混ぜて、「錆(さび)」と呼ばれる粘土状の下地を作ります。

    (1)下地塗:ヘラなどを使って錆を素地全面に均一に擦り付けます。
    (2)研ぎ:錆が乾いて固まったら、水で濡らした砥石(といし)で表面を研いで滑らかにします。

    (1)下地塗と(2)研ぎを何度か繰り返すことで、素地を丈夫にし形状を安定させます。

    工程3: 竹節付け

     
     

    (1)専用のヘラで素地の表面に錆を盛り付け節の隆起を作ります。
    (2)竹の節の溝となる部分をノミで削り、節らしく見えるように形を整えます。
    (3)枝節や根節など、竹の細かい部分の質感も錆を盛って作ります

    工程4: 錆研ぎ

    錆が乾いて固まったら、水で濡らした砥石で表面を研いで滑らかにします。

    工程5: 中塗り

     

    中塗用の色漆は煤竹色・青竹色・胡麻竹色の3色。それらを必要に応じて使います。
    色漆を刷毛で全面に塗り、乾燥風呂と呼ばれる専用の室(むろ)に入れて乾かします。
    漆が凝固するためには程よい湿気や温度が必要なため、室の温度は摂氏20度前後、湿度は70%前後の状態に保たれています。

    工程6: 中塗研ぎ

    中塗が乾いて固まったら、水で濡らした砥石で表面を研いで滑らかにします。

    工程7: 上塗り

     

    上塗用の色漆も煤竹色・青竹色・胡麻竹色の3色あります。青竹色・胡麻竹色については中塗用の色漆と同じですが、煤竹色は中塗用のものとは若干配合が異なります。
    上塗用の色漆を刷毛で全面に塗り、乾燥風呂に入れて乾かします。
    胡麻竹色の場合は、上塗の漆が乾く前に炭粉をふるいで蒔きつけた後、乾燥風呂に入れて乾かします。

    工程8: 研ぎ

    上塗が乾いて固まったら、水で濡らした砥石(といし)で表面を研いで滑らかにします。

    工程9: 模様付


    竹の表面を表現する地肌模様をつけます。
    地肌模様の筋は、研ぎの後に筋引き棒を使って引く場合と、筋引き棒を用いず上塗の際に刷毛で表現する場合があります。
    さらに、必要に応じて他の部分の質感を表現します。
    竹を割った時の断面の様子や竹の切り口の細かい粒模様は、粘り気のある漆をヘラや刷毛で乗せて表現し、イガや節付近の斑点などは蒔絵筆で描きます。

    工程10: 真菰蒔(まこもまき)

    節の部分を中心にして周囲にぼかすように透明漆を塗ります。生乾きの状態のうちに、真菰というイネ科の植物を乾燥させ粉にしたものを筆で蒔きつけます。
    真菰粉を蒔いた部分は茶褐色になります。
    煤竹色にする場合は全体に真菰粉を蒔き付けます。
    真菰粉を蒔き付けたら乾燥風呂に入れて乾かします。

    工程11: 真菰落し

    研ぎ用の炭を粉末にしたものと水を刷毛に付け真菰粉を蒔いた面を研ぎます。
    研ぐことで余分な真菰粉を落とし竹の節の自然な風合を表現します。

    工程12: 摺漆(すりうるし)

    生漆を全面に摺込み、乾燥風呂に入れて乾かします。
    摺漆を何度か繰り返し艶やかに仕上げます。

    工程13: 完成

     
     
  • クローズアップ

    多彩な技法から生まれる豊かな表現力?新潟漆器

    本物の竹や石と見紛うばかりの質感、暗い水中で揺らぐ海藻の様子、見るものを幻惑する緻密な虫喰い模様、しっとりとした肌合いの表面に降り立つ柔らかな光。
    漆はその塗り方によって実に様々な表情を見せる。新潟では、江戸時代から多彩な技法を駆使した個性豊かな漆器が作り続けられている。
    漆器づくりの面白さに惹きつけられ職人となって5年目、期待の若手職人として活躍中の井村篤史さんにお話をうかがった。

     

    質感までもを表現する塗りの技

    井村さんが得意とするのは「竹塗」。「新潟漆器」を代表する技法のひとつだ。よく製作するという竹塗の箸を手にすると、その精巧な質感の再現に驚かされる。節や肌合いは竹そのものだが、形は角箸ならではのすらりと伸びた四角錐。竹では有り得ないはずの形のものが、竹の質感を持って存在する。その不思議さに思わず見入ってしまう。
    筋や節目など竹独特の質感は塗りの技法によって表現される。素材は栃や朴などの木地。そこに、下地用のぺーストを盛り付けて節や筋を作る。飴色が趣深い「煤竹」や爽やかな緑が清々しい「青竹」、そして斑点が面白みを生む「胡麻竹」などさまざまな竹の色合いは、調色した漆を丹念に塗り重ねて表現する。木地が竹に姿を変えていく光景は魔法のようで、見ているだけで胸が踊る。
    竹の風合があまりにリアルに表現されるため、漆で作られていることに気付かない人も多い。また、なぜ竹そのものを使わないのかと言う人もいる。「竹塗」は単なる再現の技ではない。実物では得ることのできない理想の竹の姿を創り出す技なのだ。

    変塗(かわりぬり)の宝庫

    「竹塗」をはじめとして新潟漆器には様々な塗の種類がある。石のような質感を持った「石目塗」や波に揺れる海藻を思わせる「磯草塗」、不定形の緻密な文様が金色に煌めく「錦塗」、滑らかな表面が落ち着いた光沢を湛える「花塗」、その他にも新潟漆器には優に百を超える技法がある。表現力豊かなこれらの塗は「変塗」と総称される。多彩な技法から様々な製品が創り出される新潟漆器は「変塗の宝庫」と呼ばれている。
    新潟漆器の中には日本各地の漆器の技法を見ることができるという。江戸時代、新潟は諸国の物産を乗せて廻る船が集まる海運の拠点だった。物資や文化と共に新潟には全国各地の漆器がもたらされた。それらをもとに新潟の職人たちは独自の技法や表現を生みだし、個性豊かな漆器を作り出したのだ。
    現在でも新潟の職人たちは、昔からの長い歴史と伝統に支えられた技を守る一方で、先人たちと同様に日々技法に工夫を重ねながら作品を作り続けている。

     

    • 磯草塗


    • 花塗


    • 石目塗


    • 竹塗


    • 錦塗

    組み合わせで広がる漆の表現

    新潟漆器では異なる種類の塗を併用した作品を見かけることが多い。こうした塗を井村さんは「合わせ塗」と呼ぶ。どんな塗を組み合わせるかは職人の感性と技術次第。そこに作り手にとっての面白さや楽しさ、そして難しさがある。
    「塗りの組み合わせを考える時が一番楽しい」と井村さんは目を輝かせる。彼が塗の組み合わせを考える時、中心となるのは「竹塗」だ。「竹塗」に他の塗を合わせることで様々な表現が生まれる。それが面白いのだという。そんな「合わせ塗」の面白さが、漆器職人への道を歩ませた。最初は単なる手伝いのつもりだった。それがいつしか本業となった。「面白さにハマったんですね」と井村さんは爽やかな笑顔をみせる。

    竹塗と紫檀の合わせ塗

    伝統の技法を現代的なデザインに活かす

    井村さんは、自分自身が作り手になるまで、他の一般的な若者と同様あまり漆器に関心をもっていなかったという。だからこそ、若者の目線で「普段に使いたいと思うような漆器」を作ることを意識している。漆器の仕事を始めたばかりの頃には、今風な色使いの作品を作ったこともあった。しかし、自分の作った今風の作品よりも、40年以上職人をしている父親が作った伝統的な技法の作品の方がお客さんの反応が良かった。「意識しすぎて漆っぽさがなくなっていたんですね」と当時の作品を振り返る。
    以前は「親父は伝統、自分は若い人向き」と無意識のうちに分けて考えていたという。職人となって5年、父親の勝さんと共に仕事をしているうちに、最近は考え方が変ってきた。勝さんの手から生まれる作品には漆ならではの魅力が満ちている。その魅力の源は伝統の技法と職人の技だ。技は一朝一夕で身につけられるものではない。あらためて父の仕事に感心したという。
    「伝統の技法を使って、漆の魅力を活かした今風のものを作ること」それが現在の井村さんの目標だ。

    • イベント会場での実演

    • 「漆の講座」実技風景。講師は小磯稔・新潟大名誉教授

    職人プロフィール

    井村篤史 (いむらあつし)

    昭和49年、新潟生まれ
    会社勤めを経験した後、父親である漆器職人井村勝さんの仕事の手伝いを始める。その後、本格的に職人の道へ。同じ仕事をするようになってからは、勝さんとは職人同士として話が弾むようになったという。作品づくりのかたわらにイベントや展示会での実演など「新潟漆器」の広報活動でも活躍中。新潟市漆器同業組合が市民向けに開講した「漆の講座」では、実技アシスタントとして参加。明るい人柄で漆器づくりの楽しさを伝えている。

    こぼれ話

    ヌリドン参上

    新潟漆器には、その魅力を広く伝えるべく誕生したキャラクターがいる。その名は「ヌリドン」。ヌリドンは、新潟漆器の広報担当として、東西南北、日本中のあらゆるところに出かけていき、時には実演までしてしまう。地元、新潟では、すでに小学生の間では人気者だ。実は、このヌリドン、モデルはインタビューに登場した井村さんだという。

    ■名前:ヌリドン(ぬりどん)
    ■生年月日:不詳
    ■職業:新潟漆器の職人及び広報担当
    ■住所:新潟県
    ■性格:温和・勤勉・頑固(一度思いこんだらてこでも動かない)・一見無愛想だが親切・義理堅い・意外と新物好き
    ■ライフワーク:新潟漆器の特徴を分かり易くみんなに理解してもらうことと、新しい新潟漆器の可能性を模索しつつ、生活の中に浸透させていくこと。

概要

工芸品名 新潟漆器
よみがな にいがたしっき
工芸品の分類 漆器
主な製品 盆、箱、座卓類、花器、茶器
主要製造地域 新潟市、加茂市
指定年月日 平成15年3月17日

連絡先

■産地組合

新潟市漆器同業組合
〒950-2021
新潟県新潟市西区小針藤山16番9号
TEL:025-265-2968
FAX:025-265-3144

http://niigatasikki.jp/

特徴

花塗、石目塗、磯草塗、錦塗、竹塗などの多彩な塗りが特徴で、中でも竹塗は、下地の際に錆で竹の節等を作り、その上に色漆で竹の肌や模様をつけるという他の産地では見られない塗りです。

作り方

美しく丈夫な漆器を作るためには、まず木地を充分に乾燥させてから、木地作りを行います。出来上がった木地は、全体を丈夫にするための下地づけから始まり、中塗り、上塗りと塗師の手によって、何度も漆が塗り重ねられます。

totop