奥会津編み組細工

福島県大沼郡三島町の荒屋敷遺跡において、縄や籠の編み組等の断片が発掘されており、縄文時代より編み組の技術・技法が存在したことが明らかとなっています。
「会津農書」には、会津地方において野草の縄をもって籠を作っていると記されており、「東遊雑記」には、現在の三島町近郊において山菅(ヒロロ)を材料として蓑などの編み組細工が作られていると記されています。また「伊那伊北谷四ヶ組風俗帳」には、マタタビの蔓を細くして「笊」を作り、山ブドウの皮で袋網(籠)を作っていたと記述されていることから、この時代においても、ヒロロ細工、マタタビ細工、山ブドウ細工が日常の生活用品として作られていたことがうかがわれ、今日まで受け継がれています。
福島県大沼郡三島町においては、昭和40年代から高齢化により、編み組細工製造従事者が減少していることから、数百年来受け継がれてきた技術・技法を維持・伝承するとともに自然との共生を目指す生活工芸品を地域産業として振興し発展することを目的とし、編み組細工の技術指導、品質管理、需要開拓等の『生活工芸運動』を重点施策として推進してきており、今日では従事者数も増加してきてます。

  • 告示

    技術・技法

    1 「ヒロロ細工」にあっては、次の技術又は技法によること。
    (1)ヒロロ縄の太さは2ミリメートルから4ミリメートルとし、10センチメートルの長さに縒りが20回以上あること。
    (2)底編み及び立ち上げ編みは、「矢羽根編」又は「棚編」によること。

     

    2 「山ブドウ細工」にあっては、次の技術又は技法によること。
    (1)ヤマブドウの皮は、鞣しを十分に行い、繊維に沿って切断し、幅の調整を行うこと。
    (2)手さげ籠類の底編み及び立ち上げ編みは、「二本飛び網代編」又は「笊編」によること。
    (3)手さげ籠類の縁巻きは、「矢筈巻縁」によること。
    (4)角箱籠類の底編みは、「四つ目編」又は「二本飛び網代編」によること。立ち上げ編みは、「笊編」によること。
    (5)丸籠類の底編みは、「笊編」「四つ目編」又は「二本飛び網代編」によること。立ち上げ編みは、「笊編」又は「二本飛び網代編」によること。

     

    3 「マタタビ細工」にあっては、次の技術又は技法によること。
    (1)材料の下ごしらえは、皮剥ぎ、割き、扱き、幅揃えを行うこと。
    (2)米研ぎ笊の底編みは、二本の材料を一組とする「二本飛び網代編」で編み、一本の材料で「二本飛び網代編」により底を丸くすること。立ち上げ編みは、「笊編」によること。
    (3)小豆漉し及び蕎麦笊の底編みは、二本の材料を一組とする「二本飛び網代編」によること。立ち上げ編みは、一本の材料で「二本飛び網代編」によること。
    (4)四つ目笊の底編みは、二本の材料を一組とする「四つ目編」によること。立ち上げ編みは、「笊編」によること。
    (5)籠類の底編みは、二本の材料を一組とする「笊編」によること。立ち上げ編みは、一本の材料で「笊編」によること。
    (6)製作後は、「寒晒」又は「雪晒」を行うこと。

     

    原材料

    1「ヒロロ細工」にあっては、奥会津の山間部で採取されたミヤマカンスゲ(別称 ホンヒロロ)、オクノカンスゲ(別称 ウバヒロロ)とすること。

    2「山ブドウ細工」にあっては、奥会津の山間部で採取されたヤマブドウの皮で、二枚皮になる前の一枚皮とすること。

    3「マタタビ細工」にあっては、奥会津の山間部で採取された若年の成熟したマタタビの蔓とすること。縁の芯の材料はクマゴヅル又は同等の材質を有するものとすること。

  • 作業風景

    奥会津編み組細工には、ヒロロ細工、マタタビ細工、山ブドウ細工の3つがあります。
    ここでは、マタタビ細工を使ったザルのできるまでをご紹介します。

    <原料>マタタビ
    マタタビは蔓状に成長する落葉低木で、奥会津では昔からザルや籠を編む材料として用いられてきました

    材料の準備

    工程1: 採取

    採取は、マタタビの蔓に身が入る11月初旬から12月初旬に行います。
    作り手は「とりつけ場」と呼ばれる採取場所に行ってマタタビを刈り取ります。
    「とりつけ場」は作り手ごとに決まっており、その中で継続的にマタタビを取り続けらるよう、成長状態を考えながら採取を行います。

    工程2: 皮剥ぎ

    刈り取った蔓が乾燥しないうちに、表面の皮をナイフでていねいに削ぎ取ります。

    工程3: 裂き割り

    専用の道具で蔓を縦に割ります。
    蔓の太さによって4本又は、5本に裂きます。

    工程4: 芯取り

    蔓の芯にある柔らかい部分を、刃先のするどいナイフを使って縦割りにした蔓から削り落とします。これで、細工用のヒゴが出来上がります。

    採取からヒゴ作りまでは、つるが乾燥しないうちに一気に行います。ヒゴの状態にしたものを保管し、細工に使用します。

    編み組

    工程5: 底編み

     

    長さ80cmにしたヒゴ20本を、揃えて縦向きに並べます。
    縦ヒゴに横ヒゴを通し、一辺20本の正方形の面を編み上げます。
    この正方形が底面となり、正方形の四辺からはみ出した部分は、側面の経糸となります。

     

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    工程6: 横編み

     
     

    底面が編めたら、正方形の一番外側にあるヒゴを1本選び、それに側面の緯糸用の長いヒゴを接ぎます。緯糸用ヒゴを正方形の周囲に回してらせんを描くように編み、底面を丸く広げていきます。底編みから7周半ほど編んだら、側面を立ち上げていきます。

    工程7: 縁留め

     

    側面の高さが25cmほどになるまで編んだら、はみ出だしているマタタビを絡ませ縁をとめます。

    工程8: 縁の補強

     
     

    クマゴツルなどで環を作り縁に取りつけます。

    取りつけた環をマタタビで巻き、本体にしっかり固定します。

    工程9: 乾燥

    縁取りができたら戸外につるし、一ヶ月間外気に晒して乾燥させれば完成です。

     

  • クローズアップ

    自然と共にある生活の技~奥会津編み組細工

    福島県奥会津、清涼な空気に包まれた高原は、冬になるとどこまでも白い雪に覆われる。奥会津の三島町では、江戸時代から雪国の農家の冬の手仕事として、山の草木を使った編み組細工が受け継がれてきた。草木は必要な分だけ山から分けてもらう。自然と共にある生活の技が奥会津編み組細工だ。
    高原の爽やかな風が木々を渡る小高い丘の上に、三島町の生活工芸館がある。生活工芸館は、昔から伝わる生活に根ざしたものづくりの技と町の人々の接点として、昭和61年にオープンした施設だ。ここでは奥会津編み組細工をはじめとした様々な手仕事の指導や製品開発などが行われている。いわば三島町のものづくりの要である。ここでヒロロ細工の指導にあたっている長谷川テル子さんにお話をうかがった。

     

    山の草木を材料にして

    奥会津編み組細工は、使用する草木の種類によって、ヒロロ細工、マタタビ細工、山ブドウ細工の3つに分けられる。いずれも奥会津の山に自生する植物だ。ヒロロは沢地などの湿地に生える細長い草で、その葉で作った縄が細工の材料となる。マタタビ、山ブドウはどちらも木などにからまって成長する蔓植物だ。マタタビの場合は枝を薄く削いだものが、山ブドウの場合は樹皮が細工の材料となる。
    ヒロロや山ブドウ細工はいろいろな籠類に、マタタビ細工はザルなどの炊事用具に用いられている。

    自然と共存する工芸

    奥会津編み組細工は、材料の採取から仕上げまでをひとりの手で行う。ヒロロの場合であれば立春から数えて二百十日。季節が夏から秋に向かう頃、作り手は自ら山合いの沢地に入りヒロロを採りに行く。
    ヒロロは宿根の多年草だ。その細く長い葉は、強く引くと根元付近の茎からスッポリと抜ける。細工にはこの抜いた葉の部分のみを使う。
    「取る時は、根まで抜いてしまわないように、足でヒロロの根元をしっかり踏んでから引くんです」長谷川さんが採取の様子を教えてくれる。
    ヒロロは根を地中に残こすことで、何度も同じ株から葉を採取することができる。しかし、良い葉が育つようにするにはそれなりの気配りも必要だ。採取する時には、葉の小さなものは残して大きなものを抜く。その年採取をした株からは、次の年採取はしない。
    「コゴミやゼンマイと一緒ですよ。山菜なんかもひと株に一本は残せっていうでしょう」そんな採取のしきたりは、三島町では誰もが自然に身につけると長谷川さんは語る。
    次の年もその次の年も、山の恵みを絶やさないための知恵がここにある。

    一本の縄から生まれる形

    ヒロロ細工は、ヒロロで作った1本の縄を幾重にも折り返し、それを様々な植物から採った繊維で編み繋いで作る。編み目は細かく、仕上がりはレース編みを思わせる。そこでは植物の質感の素朴さと細工の繊細さが優しく調和している。ヒロロ細工には心和む優しい存在感がある。

    ヒロロ細工の基本は「縄ない」と呼ばれる縄づくりにある。縄は、乾燥して保存しておいたヒロロを水やぬるま湯でもどし、数本ずつ撚り合せて作る。この時、太さや撚り方にムラがあると美しい細工にはならない。縄の太さは2ミリ~4ミリ程。縄をなう人によって多少異なるが、通常乾燥ヒロロ1把で100mの縄ができる。分量としてはセカンドバッグ2個分にあたる。
    「きれいな縄を沢山長く作ることが肝心」と長谷川さんは実際に作業をして見せてくれた。手の平の上で転がされる数本の葉が見る間に細い縄に変っていく。撚りも太さも整った細い縄が、いとも易々と作り出される。聞けば縄ないは小さな子どもの頃からやっているという。奥会津では、ものづくりは人々の生活の一部として脈々と受け継がれている。

    自然の色の美しさ

    奥会津編み組細工では素材の染色は行わない。ヒロロ細工の色合いはヒロロを編み繋ぐ緯糸によって作り出される。緯糸に用いられるのは、モワダと呼ばれるシナの木の皮から採れる繊維をはじめ、チョマやカラムシなどの身の回りに生えている植物。薬味として食卓にのぼるミョウガも茎の部分が緯糸として使われる。これらの素材の色を活かして作品を作る。
    例えば、同じシナの木の皮でも白い部分と赤茶色い部分がある。また、乾燥の具合などで発色も異なる。模様はそれらの素材の色を使って作ることができるから、染色は行わないという。染色を行わなくても、そこには優しい自然の色が満ちあふれいている。柔らかなクリーム色、夕焼け空を思わせる薄橙色、深い森そのものようなモスグリーン。奥会津編み組細工を見つめていると、素材がそのままでも実に豊かな色彩をもっていることにあらためて気付かされる。

    自然と共生する手仕事の技と心を守り伝える

    奥会津編み組細工は、江戸の昔から農閑期の副業として営まれてきた。そこでは、自分たちの財産である山の資源を減らさないよう、配慮しながら「ものづくり」が行われてきた。そうした配慮は今も確かに受け継がれている。山に無理をさせず与えてくれる範囲の素材でものを作る。そこには副業だからこそ成り立つ「ものづくり」の心がある。奥会津編み組細工は「ものづくり」を通して、自然と共生する心を人々に伝え続けている。

    職人プロフィール

    (はせがわてるこ)

    長谷川テル子

    三島町生活工芸館指導員。
    長年にわたってヒロロ細工の生活用品などを製作。平成10年にヒロロ細工の指導員に就任。来館者にヒロロ細工の作り方を指導する他、生活工芸館が行っている新製品の開発などにも携わっている。

    こぼれ話

    始めるのに遅すぎるということはない

    奥会津編み組細工を支えているのは65才以上の人々だ。都市部では高齢者と呼ばれる年齢層の人々も、三島町ではまだまだ現役として期待されている。それまでの仕事を引退した後に、生活工芸館での指導をきっかけに製作を始める人も多い。
    後継者というと若者に目が向きがちだが、高齢化社会に目を向けた三島町では後継者不足の心配はなさそうだ。

     

     

概要

工芸品名 奥会津編み組細工
よみがな おくあいづあみくみざいく
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 手さげかご、抱えかご、肩かけかご、腰かご、菓子器、米研ぎざる、小豆漉しざる、そばざる
主要製造地域 大沼郡三島町
指定年月日 平成15年9月10日

連絡先

■産地組合

奥会津三島編組品振興協議会
〒969-7402
福島県大沼郡三島町大字名入字諏訪ノ上395番地
三島町生活工芸館内
TEL:0241-48-5502
FAX:0241-52-2175

http://www.okuaizu-amikumi.jp/

特徴

奥会津地方の山間部で採取されるヒロロ、山ブドウやマタタビなどの植物を素材とする編み組細工で、山間地における積雪期の手仕事として、日常の生活に用いる籠や笊などが伝承されてきました。 現在では、福島県大沼郡三島町を主な産地とし、ヒロロ、山ブドウ、マタタビ素材とした手さげ籠、抱え籠、肩かけ籠・菓子器・炊事用具などが作られています。自然素材を用いた堅牢で素朴な手編みの良さが特徴です。

作り方

[ヒロロ細工]  ヒロロを綯い縄状とし、その縄を編み、手さげ籠、抱え籠、肩かけ籠などを作ります。編み目が細かく、レース編みのような仕上がりが特徴で素朴さの中にも独特の繊細さがあります。 [山ブドウ細工]  材料となる山ブドウの皮は、栗の花の咲く6月頃に採取する一枚皮が原材料とされます。材料が強靭であり、用途により異なった編みの技法により、手さげ籠・抱え籠・菓子器などが作られます。 [マタタビ細工]  一本の蔓から伸びる肉厚の成熟した1m~3mの枝を材料とし、主に炊事用具として用いられます。水切れが良いことに加え、水分を含んだ材料はしなやかで手を傷つけることが少ないのが特徴です。用途により異なった編みの技法が用いられます。

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