宮島細工

鎌倉時代初期、神社や寺を建てるために鎌倉地方、京都地方から大工、指物師が招かれました。その技術の流れをくむものが現在の宮島細工です。
県境に豊富な森林資源があり、廿日市地区が木材の集散地であることから、宮島細工は発展しました。

  • 告示

    技術・技法


    「挽き物」にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    木地造りは、ろくろ及びろくろがんなを用いて荒挽きをした後、割れ止めをし、乾燥すること。

     
    (2)
    木地仕上げは、粗仕上げかんなを用いてろくろによる粗仕上げ挽きをした後、仕上げかんな及び平きさげを用いてろくろによる仕上げ挽きをし、仕上げ磨きをすること。


    「刳り物」にあっては、次のいずれかによること。

     
    (1)
    盆製品及び台製品にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    木地造りは、荒刳りをした後、割れ止めをし、乾燥すること。

     
     

    木地仕上げは、丸こてのみ、平きさげ及び丸きさげを用いて仕上げ刳りをした後、仕上げ磨きをすること。

     
    (2)
    杓子製品にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    木取りは、板目を製品の表面に生かすように、割りなた又は「前挽大鋸」を用いて小割りをすること。

     
     

    木地造りは、手斧を用いて「荒木作り」及び「荒木打ち」をすること。

     
     

    木地仕上げは、横削りかんな、縦削りかんな及び平きさげを用いて「顔」を「中刳り」し、仕上げかんな及び廻しかんなを用いて「背」を、小刀、反り台かんな、平きさげ及び柄尻かんなを用いて「柄」を仕上げ削りした後、仕上げ磨きをすること。


    彫刻をする場合には、手作業によること。


    着色する場合には、「錆色染」によること。


    塗装をする場合には、生漆を用いて漆拭きをすること。

    原材料


    木地(杓子製品に使用されるものは除く。)は、ケヤキ、ミズメザクラ、コエマツ、クワ、カエデ、エンジュ、ヤマザクラ、クリ、セン、トチ又はカキとすること。


    杓子製品に使用される木地は、クワ、ミズメザクラ、エンジュ、オニグルミ、トチ、ヤマザクラ、セン又はホオとすること。


    漆は、天然漆とすること。

     

  • 作業風景

    刳物細工(杓子)

    工程1: 木取り

    挽き物と同じように野積みされた木の表面を見て、製造品の材種・用途・寸法に見合う原木を選び出します。出来上がる杓子を想定して切断箇所を決め、手鋸によって表面に印をつけます。この印にそって、切断面が平坦になるように鋸を使って切断し、木口切り材を作ります。木目が生き、かつ歩留まりよく杓子がとれるように、木口面に墨付けをしていきます。墨付けをした木口面にワリナタを置いて、木槌で小割りします。その後、手斧で不要な部分を削り落としていきます。

    工程2: 乾燥

    風通しのよい場所で陰干します。ひび割れやカビに注意しつつ、1~2年ほど自然乾燥させていきます。

    工程3: 中くり

    この乾燥させた材を作業台に固定させ、飯を盛る杓子の顔の部分に曲線をつけるため、まず横削り鉋で横削りします。このときそり具合によって、鉋のそりを調整していきます。飾り用の大杓子の場合は、作業台は使用せず、大小の鉋を使い分けながら作業を進めます。次に横削り鉋の鉋目をとるために、今度は縦削り鉋で縦削りしていきます。顔全体の鉋目をとって、なめらかになるよう、コサゲを使い木目に従って削っていきます。次に、背の部分を背の荒削り鉋を使って、木目にそって丸みをつけるように削って整形します。この背の部分を規定の厚さまで削り落とす作業は、長年の経験やカンの必要とされるところです。背の表面をなめらかにする仕上げ鉋で、木目に従い削ります。顔と背の部分が出来上がると、縁のところを回し鉋で丸く整形します。

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    工程4: 柄つくり

    続いて、柄の部分の工程に進みます。作業台に柄尻をあてがい、顔部と柄部の接点を小刀で削り、柄首部分を形づくっていきます。この時、顔と柄とのバランスに注意しながら削っていきます。次に角を取り除き、裏側に曲線をつけるために、半反り台鉋で荒削りしていきます。その後、丸反り台鉋で逆目にならないように削って、美しい線でしかも握りやすい形となるように整えていきます。柄首と柄の角をとってなめらかにします。

    工程5: 研磨

    サンドペーパーで杓子全体を磨いて、鉋目・逆目を完全に取り去っていきます。研磨は4回も繰り返されて、磨きくずを落とすために水洗いします。さらにその後、3回ほど磨きを繰り返します。

    工程6: 拭きこみ

    磨き終わった杓子には、布で植物油が塗布されて、さらに1日置かれた後、乾いた布で拭き取り、完成です。

    ロクロ細工(挽き物)

    工程1: 木取り

    野積みされた木の表面の状態を見て、製造品の材種・用途・寸法に見合う原木を選び、原木についたゴミなどをたわしで取り除いていきます。続いて製造品の用途・大きさに応じた厚さに鋸(のこ)で挽きます。その後、木の変色を防ぐため、直射日光の当たらない風通しのよいところで2~3カ月、自然乾燥させます。

    工程2: 型取り

    板材の節や亀裂、ゆがみなどを点検し、製品に応じた大きさに円を描き、描かれた円にそって鋸で挽いていきます。この時、木目を活かすためにも、木目の有無が最優先されます。

    工程3: 荒挽き

    製品の原型をつくります。円形に切られた材をロクロにつけて回転させて、10種類の荒挽き鉋(かんな)を使いながら、乾燥時の収縮・ゆがみを考慮してやや厚めに挽いて、外形を整えていきます。

    工程4: 割れ止め

    荒挽きの後、他の面より乾燥しやすい木口面の割れを防ぐために、紙をのりで貼るか、ロウを溶かして刷毛で塗っていきます。

    工程5: 乾燥

    割れ止めした材を1年以上、乾燥させます。

    工程6: 粗仕上げ挽き

    ロクロにはめ込んだ材をおおよその形に仕上げた後に、再び割れ止めをおこないます。その後、もう一度乾燥させます。

    工程7: 仕上げ挽き

    今度は10~16種類の仕上げ鉋で外側面を挽いていきます。

    工程8: 仕上げ磨き

    トクサまたは、サンドペーパーを使って、磨きます。刷毛で水をつけて水磨きした後に、布を使って磨きます。この作業を4~5回くりかえします。

     

  • クローズアップ

    景勝地、安芸の宮島で培われた宮島細工

    高校野球の応援風景で、広島出身の高校がアルプススタンドでおしゃもじをカチカチ鳴らして応援するのはもうおなじみの光景。めし(飯)とる、と縁起をかついだもの。このおしゃもじ=杓子の産地が安芸の宮島であり、宮島細工のひとつ。

     

    神の島、宮島に根付いた木工細工の技

    日本三景のひとつ、宮島は有史以前から海上の守護神をまつり、島そのものが御神体として信仰されていた伝説の島。推古天皇が即位して、この地に社殿を造営。以来千数百年、この厳島神社とともに宮島は歩んできた。古い歴史を持つ宮島に育まれた宮島細工の起源は、五色箸、色楊枝に始まると言われる。これらは、神社の儀式にちなんだ縁起物であった。
    もともと神の島ということで、宮島では農耕や機織りが禁じられていた。その代わりに、租税は免除されていた。島民たちは薪作りなど山仕事に関わる者が多かったようだ。厳島神社の神事や祭礼にあたり、市が立ち、多勢の来島者に対するお土産物として、島でとれる豊富な木を材料とした宮島細工が生み出されてくることになった。

    安芸の宮島「紺碧の海に朱色が美しく映える、厳島神社」

    弁天さまの琵琶から生まれた宮島杓子

    宮島で出家し僧となった誓真は、寛政の頃(1789~1800)弁天さまの持つ琵琶の型から杓子を考案し、その技を島民に伝授した。誓真は日常に使う杓子に、弁天さまの物語性を与え、縁起物としてこの宮島杓子を新たな土産物として生み出したのである。これを機に木工細工が盛んにおこなわれるようになり、ロクロや彫刻、彫りの技術が伝えられていった。時代は移り、明治になると鉄道が開通したこともあって、観光客も増加し、販路も拡張されていった。日清・日露戦争時には、全国から広島の宇品に集まった兵士たちが大勢宮島を訪れ、無事の祈願とともにこの縁起物の杓子や宮島細工をお土産に買い求め、宮島細工の名はこうして全国各地へ知られるようになっていったのである。国内はもとより、海外へも輸出されるようになり、宮島細工は広く愛用されることになっていった。

    宮島杓子「用途に合わせてさまざまな杓子がある」

    木の特徴を生かした宮島細工

    宮島細工には、この杓子のほかに「宮島彫」と言われる、盆や菓子器にほどこされる木彫り彫刻や、ロクロをまわして盆や菓子器、茶托などを作る「ロクロ細工」、ロクロではできない角盆などを手作りする「刳物(くりもの)細工」、シカの背にちょこんと乗ったサルがなんとも愛らしい「鹿猿人形」や、素朴な「宮島焼」といったものがある。木工細工においてはどれも、木本来の木肌や木目などの持ち味を生かしているのが特徴である。特にロクロ細工の挽き物や刳物では、木目を生かすことが何にもまして最優先されることだ。また生活様式の変化にともない、常に新しいデザインにも挑戦している。宮島細工の伝統や特色を生かしながら、技術の向上や新製品の開発などにも積極的に取り組み、展示会も開催している。

    ロクロ細工「木目を生かしたロクロ細工の製品」

    もっとも大切なのが刃物づくり

    ロクロ細工師の高橋さんは、15歳のときから始めてこの道55年。もっとも気を配るのは刃物づくりと言う。「刃物の扱いが熟練の差。切れんのをむりやりやると、ちぎれるようになってしまう。刃物は自分で作らんと。ひとつのものを作るのに、大体10種類くらいの刃を使う」始めたばかりの頃は、先代に作ってもらったそうだが、そのうち自分のくせに合わせて使いやすい刃物を作るようになっていった。生前、先代から直接ほめられたことはついに一度もなかったそうだが、お母様にはこっそりと息子の自慢をなさっていたようだと、亡きお父様をしのんで目を細める高橋さんからは、あたたかい人柄がにじみ出てくるよう。

    「刃物を使い分けての細かい作業」

    作品づくりに一役、趣味の登山

    「その刃物を作るのも、挽きものを作るのも集中力が必要。イライラしとってはいいものはできん。」そんなときは、気分転換に趣味の登山をする。ふるさとの自然が残る宮島の山を歩くと、自然と気持ちもゆったりしてくる。「気持ちがゆったりしていると、いいものができる。木というものは安らぎ、ぬくもりのあるもの。それを作っている自分にもそういうものがないと、使ってもらう人にも伝わってしまう。」以前、ある方から「高橋さんの作品にはぬくもりがある。」とほめられたのは、とてもうれしかったと話す高橋さんから笑顔がこぼれる。「山に登ると、自然の美しさにいつも感動する。それが作品づくりに生かせる。」山の魅力を語る瞳は、まさに少年のように輝いている。この柔軟で鋭敏な感性が、美しいロクロ細工を作り続ける原点なのであろう。

    「気分転換は山歩き」という高橋さん

    職人プロフィール

    高橋百太郎

    伝統工芸士、高橋百太郎さん。15歳の頃から父について挽き物を習い始めた。この道55年の大ベテラン

    こぼれ話

    日常使いに影響する原材料選び

    宮島細工によく使われる原材料の木には、桑(くわ)、ケヤキ、エンジュ、栃(とち)、桜などがあります。いずれも木目が美しく、木質が堅く、狂いがなく、耐久性にすぐれている、といった特質を兼ね備えています。宮島細工の木工製品はどれもふだんの生活で使ってもらって、その良さが実感できるものばかり。このため、原材料の善し悪しが使い心地に大きく影響してくるのです。原料となる木を吟味する職人の目は、真剣に。かつては、地元の宮島に生えている木を加工していたが、今では全国各地から、あるいは海をわたってくる木も珍しくありません。ただ、材料はあちらこちらと変遷しようとも、細工職人に流れるクラフトマンシップは変わることはありません。

    • 大杓子「飾り用の大杓子を刳る」

    • 宮島彫「木の特質を生かして彫っていく」

     

概要

工芸品名 宮島細工
よみがな みやじまざいく
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 しゃもじ、ろくろ細工、刳物細工(くりものざいく)、彫刻
主要製造地域 廿日市市
指定年月日 昭和57年11月1日

連絡先

■産地組合

宮島細工協同組合
〒739-0588
広島県廿日市市宮島町1165-9
宮島伝統産業会館内
TEL:0829-44-1758
FAX:0829-44-1758

http://www.miyajimazaiku.com/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

宮島細工は、しゃもじ製作を始めとして、ろくろ細工、刳物細工、彫刻と、幅広く日常生活に使用される物が多く作られています。製品は木地仕上げが多く、木本来の持ち味を生かしており、自然に育まれた木目の色調や手触りを十分に生かした製品です。

作り方

木取り、木地作り、仕上げ、加飾の工程が基本です。加飾は宮島彫りや天然漆を使った漆拭き、錆(さび)色染等で行います。

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