越前和紙

福井県

今から1500年程前、この村里の岡太川に美しい姫が現れて紙漉(す)きの技を教えたと伝えられています。奈良時代には、仏教の経を写すための写経用紙として重用されました。
その後、武士が紙を大量に使い出す時代になる頃には、紙漉きの技術、生産量も向上して「越前奉書」等高い品質の紙が作られるようになり、紙の産地として幕府や領主の保護をうけて発展しました。近代では、横山大観を始めとした多くの芸術家たちに強く支持され、全国にその名が知られています。

  • 告示

    技術・技法


    抄紙は、次のいずれかによること。

     
    (1)
    局紙にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    「溜め漉き」によること。

     
     

    簀は、金網製の物を用いること。

     
     

    「ねり」を用いないこと。

     
    (2)
    局紙以外のものにあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    「流し漉き」によること。

     
     

    簀は、竹製又は紗製のものを用いること。

     
     

    「ねり」は、トロロアオイを用いること。


    乾燥は、「板張乾燥」又は「鉄板乾燥」によること。

    原材料

    主原料は、コウゾ、ミツマタ、ガンピ又はアサとすること。

  • 作業風景

    工程1: 煮沸

    原料になる三椏、楮、雁皮、マニラ麻を、釜に苛性ソーダやソーダ灰を混ぜて、煮沸します。原料や用途に応じて、ソーダ灰の量と煮沸の時間を調整していきます。例えば、雁皮は光沢があり、薄い紙が漉けるので、かな料紙、高級襖紙などに用います。楮は繊維が長いので木版画用の紙に使います。楮の繊維をそのままの長さで使えるようにソーダ灰を少なくして、煮沸時間を長くします。

    工程2: 塵除、精洗

    煮沸したら原料に混じっているゴミなどの不純物や、繊維自体のキズなどの部分を水洗いしながら、手で取りの退きます。原料になる木の剪定や風などの影響での傷口から雨が入り込むと中の部分まで傷がいってしまいます。そんなふうにして、出来てしまった傷の部分もこの時に全部取り除いてしまいます。

    工程3: 叩解

    原料を欅の板の上に乗せ、樫の棒で叩いてほぐしていきます。そして、さらになぎなたビーターで叩解します。

    工程4: 漂白

    紙によって漂白したり、染色したりします。岩野さんの漉く紙は、自然色だそうです。

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    工程5: 漉槽

    ノリウツギやトロロアオイといったネリを入れます。ネリにも種類があるので、適したネリを使います。また、混ぜて使う事もあります。

    工程6: 抄造

    漉槽を使って紙を漉いていきます。その時に、紙と紙のあいだに糸を挟んでおきます。紙の厚さが均一になるように紙を漉いていくには、熟練された技術が必要です。漉いた紙は、方向を同じにして重ねていきます。また越前和紙には、墨流しという技法もあります。

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    工程7: 圧搾

    何枚か重なると、水分を出します。今は、圧搾機で、上下に圧力をかけて水分を出してしまいます。

    工程8: ヘぎわけ

    挟んでおいた糸を外して、紙を一枚づつ剥がしていきます。剥がした紙は、銀杏の木の板に張り付けて乾かします。昔は天日干しをしていましたが、今は室(ムロ)を使って乾燥させます。

    工程9: 艶出

    用途によって違いますが、艶を出すものは、乾燥をしたら、ロールに通して艶を出して完成させます。

     

  • クローズアップ

    木版画の彫刻家になりたかった少年時代

    門前の小僧として、父の仕事の手伝いをしていた岩野さんは、見よう見まねで紙漉きの技術を身に付けていった。だが、岩野さんの目指す道は他にあった。父の漉く紙は、木版画を刷る専門の和紙であったためであろうか、幼い頃から多くの木版画を目にしてきた岩野さんは、彫刻家の道に進みたかったと言う。しかし時代は、木版画用の和紙の供給が間に合わない。まさに戦後の日本では、進駐軍らが浮世絵を本国に持ち帰っていたときであった。どんどん和紙を漉いていかなければ行けない時に、夢を追っている訳にはいかなかった。家業を継がざるを得なくなっていくのだが、そこで紙漉きだけには留まらず、原料の楮の事や和紙を漉くまでの様々な行程を知っていくうちに、和紙漉きの奥深さに興味を持ち始め、また木版画の専用紙を漉く事に誇りを持ちはじめた。

    岩野さんの仕事風景

    父親を超える

    先代である父親は、和紙漉き職人で始めて人間国宝に認定された。そんな父の横で、一緒に紙を漉いていた岩野さんは、「失敗しても、父に怒鳴られた事も叱られた事もないですね」と振り返る。「怒鳴ったところで、上手く漉けるようになる訳じゃないですから。ただ、よその紙は見に行くなとは言われましたよ」
    最高の原料を使い、熟練の技で和紙を漉いていた父親にとって、浮気する事なく伝統の技法を受け継いで欲しいと願う親心だったのだろう。その思いに応えて、岩野さんは最高の楮の白皮を使い、練りにはのりうつぎに少量のトロロアオイを使っている。父親の頃にくらべて紙の厚さが厚く注文が入る。「厚みを出せば、ゴツゴツした感じになりがちなんですが、そういう紙も漉くようになって、父に近付いたかなって思いますね」と謙遜ぎみに笑う。「紙漉きは、一生一年生で、名人なんていないんですよ。」

    岩野さんは「銀杏板でないと良い艶がでない」と乾燥させる板にまでこだわる

    最高の和紙の為に最善を尽くす

    版画の善し悪しも紙次第。だから、「刷りやすい、仕事のしやすい紙を」と手を抜く事は許されない。日々、真面目に和紙に取り組んでいる岩野さんにとって最高の喜びは、刷り上がった版画作品を見ることと「岩野市兵衛さんの紙しか使えない」という版画家の方々からの声だ。「縁の下の力持ち」として、日本の芸術を支えている。紙漉きは、ごまかしの効かない仕事だけに、「毎日が最善を尽くす事です」と語った。
    岩野さんが人間国宝に認定されたのが、平成12年6月。それ以降、岩野さんの漉く和紙が一部の店で値を高騰させている。「高くなってしまってね、偽物まで出てくる始末ですよ。」と苦笑い。

    越前和紙の継承

    六世紀頃、大陸から紙漉きの技術が伝わってきた。「越前和紙の里は、和紙の発祥地ですからね。だからこそ、この技法を継承していかなければならないっていう思いもあるんですよ」と昔と変わらぬ熱い思いを語って下さった。外国からも紙漉きの技術を学びに来る人がいると言う。家族間での秘密裏に伝統の継承をすることでは、いずれ衰退してしまう。本当に紙漉きの技術を継承するには、民族の枠をも超える必要があるのだ。

    職人プロフィール

    岩野市兵衛 (いわのいちへい)

    九代目岩野市兵衛さん。
    平成12年6月に国指定重要無形文化財保持者となる。

    こぼれ話

    縦2.7メートル、横3.75メートルの巨大和紙奈良薬師寺の越前和紙

    平成12年12月31日に、日本画家の平山郁夫氏が三十年の歳月をかけて完成させた大壁画を玄奘三蔵院伽藍内の大唐西域壁画殿に奉納されました。高さ2.2メートル長さ49メートルの大作を描いたその和紙は、人間国宝、岩野平三郎氏の手漉き和紙です。縦2.7メートル、横3.75メートルの巨大な和紙は日本の和紙業界の常識をはるかに超えるものです。六人がかりで特別に漉かれた記録的な和紙でもあります。

    大唐西域壁画の公開
    平成13年1月1日~13年12月31日まで特別公開(湿度が70%を超えると拝観が中止になる場合もあります)
    拝観時間8:30~17:00(受け付け16:30まで)
    拝観料大人800円、中高生700円、小学生300円
    住所〒630-8563奈良市西ノ京町457
    0742-33-6001、0774-33-6004
    URLhttp://www.nara-yakushiji.com

    • 薬師寺

     

概要

工芸品名 越前和紙
よみがな えちぜんわし
工芸品の分類 和紙
主な製品 木版画、襖(ふすま)紙、印刷、免状、書道、日本画、色紙、封筒、便箋(びんせん)
主要製造地域 越前市
指定年月日 昭和51年6月2日

連絡先

■産地組合

福井県和紙工業協同組合
〒915-0232
福井県越前市新在家町8-44
TEL:0778-43-0875
FAX:0778-43-1142

http://www.washi.jp/

特徴

温かみに満ちた優雅な肌合い、また紙そのものの持つ風格、強靱さ等言葉では言い表せない「生成(きなり)」の豊かな感性を持ち、「日本文化」が息づく和紙です。

作り方

コウゾ、ミツマタ、ガンピ、麻を原料にトロロアオイの粘液を加え、「流し漉き」、「溜(た)め漉き」等の技法で紙漉きを行っています。液状になった紙の材料の入った「漉き漕(そう)」の中で、「漉き桁(けた)」という簀(す)を使った道具を手で微妙に動かします。その微妙な揺り動かしに合わせて「漉き桁」の中の紙の水が簀の上を動きまわることで、和紙の繊維が絡み合い、一枚の美しい紙が漉き上がります。

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