伝統工芸 青山スクエア

因州和紙

鳥取県

平安時代に書かれた「延喜式(えんぎしき)」に因幡(いなば)の国すなわち因州から朝廷に和紙が献上されたことが記されています。その後、17世紀前半には青谷町で、さらに18世紀前半には佐治村で、藩が使う御用紙として作られたのが、産地としての始まりとされています。
江戸時代には、藩内自給、特に藩の公務で使う御用紙をすべて賄うことを目指して、和紙生産が奨励されました。農業生産力の低い全国各地の山間の農家では、山や野に生えているコウゾ等を主原料として盛んに紙漉(す)きが行われていました。

  • 告示

    技術・技法


    抄紙は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    「流し漉き」によること。

     
    (2)
    簀は、竹製又はかや製のものを用いること。

     
    (3)
    「ねり」は、トロロアオイを用いること。


    乾燥は、「板干し」又は「鉄板乾燥」によること。

    原材料

    主原料は、コウゾ、ミツマタ又はガンピとすること。

     

  • 作業風景

    工程1: 原料

    三椏(みつまた)、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)の原料を水につけて、柔らかくします。次にこの表面についている黒い皮を包丁で撫でるように取り除きます。

    工程2: 煮る

    再び原料を水につけ、繊維を柔らかくしたら、竹、わら、麻などを加え、さらにアルカリ性の薬を入れて、釜で蒸し煮する。

    工程3: 水洗い、晒し(さらし)

    煮えた原料を清流に浸して粗洗いし、繊維質でない部分と残っている薬品部分を取り除く。そして、漂白剤を加えて、原料の色を一層白くし、長時間水洗いして、残っている漂白剤を取り除く。さらにその後、ゴミや漂白できていない所、きずのある所などをていねいに指で取り除く。

    工程4: たたく

    原料の繊維をたたいて、ほぐし、繊維を必要な長さ、大きさに揃える。色のついている紙を作る場合は、この時に染料を加え、温めながら希望の色に染める。

    工程5: 紙漉き(かみすき)

    紙に質に応じて、各種の原料を混ぜ合わせ、紙を漉く元になる液を作る。この液に「トロロアオイ」の根から取り出した粘液を加える。こうしてできた液を「スゲタ」で汲み、紙全体の厚さが均一になるよう、揺り動かしながら、繊維をからめていく。この動作を希望の厚さの紙ができるまで何回も繰り返す。

    工程6: 脱水

    こうしてできた紙を「湿紙(しっし)」と呼ぶ。この湿紙を数百枚積み重ねた紙床を圧縮機にかけて、充分に水分を取り除く。

    工程7: 乾燥

    脱水された紙床から湿紙を1枚ずつていねいにはがし、しわを作らないよう、ハケを使って乾燥機に貼り付け乾かす。

    工程8: 裁断

    乾かした紙は、穴があいている紙、ごみのついている紙など、不良な紙を検査しながら取り除き、決まった枚数にそろえていく。そして、画仙紙、半紙など紙の種類に応じて、それぞれの寸法に裁断する。

     

  • クローズアップ

    千年の歴史と素朴な温もりの因州和紙

    山の緑と海の青さ、そして川の清流に育まれた因州和紙。それは、千年の歴史を持ち、各時代の工芸士たちが、三椏(みつまた)、楮(こうぞ)など、木の皮を手で漉いた素朴な紙は、さながら山の乙女の柔らかい肌を感じさせる。

     

    長い歴史と伝統を守り続けた工芸士の誇り

    昭和6年生まれの伝統工芸士の前田久志(まえだひさし)さんは、パワフルさと前向きさで、ちっともその年齢を感じさせない。前田さんは、江戸時代から代々伝わる『紙すき唄』を唄ってくれた。
    「因州因幡の手すきの紙は、殿の御用でおさめ紙。因幡手すき紙、お殿様に納め蝶の御紋を許される。七つか八つから紙すきなろうて、糊のあい加減もまだ知らぬ。揃いましたよ紙すく音が、赤いたすきもよく揃うた紙は手ですく手は唄ですく、唄は紙すきさんの心意気。」そう唄い終ったあと、「どう、ええ唄やろ。声もいいやろ?」といたずらっぽい笑顔の前田さん。
    「ここ因州の紙は千年以上も前の記録に姿を見せるほど、歴史があるんじゃよ。奥深い山々から流れる豊富な清流と天然の三椏、楮に恵まれた因幡の紙は、年々栄え、慶長時代には朱印船貿易で海外にまで輸出されたといわれているんじゃ。」
    「また近世に入り、寛永5年、美濃の国から全国を回っていた旅僧が、ここで病に倒れてしまった。この土地の純粋で愛情深い村人達は、手厚い看護を施し、旅僧の病気も全快したので、旅僧は、その謝恩のいるしとして、新しい紙すき法を伝授して旅立ったという伝説もある。」と前田さんは因州和紙の伝統と歴史を語ってくれた。

    生涯現役の心意気が迫力の前田久志さん

    「伝統だけじゃなく、品質も日本一じゃぞ。」

    因州和紙のその高い品質も、前田さんの自慢である。その長きに渡る伝統がその証拠でもあるが、特に書道用紙は、きめ細やかで筆運びが滑らかなため、「因州和紙筆切れず」という異名をとるほどの高い評価を受けている。これは、三椏や、楮などの原料の質がよいということと、非常に丹念、丁寧に漉いているためで、パルプ紙では不可能な素朴な味わいを出しているからである。
    また、戦時中は「風船ばくだん」(日本軍の作った直経10メートルほどの気球型ばくだん)にも因州和紙が採用され、前田さんも学徒動員で作ったと話してくれた。

    楮の素材をそのまま生かした前田さんの作品

    伝統にこだわるだけでなく、新しいモノへの挑戦も職人の使命

    前田さんの夢とは、なんと「パリかニューヨークで個展を開くこと」なのである。「わしは、とにかく新しい商品を研究開発していくのが、大好きなんじゃ。うちの紙漉きの機械もわしが考案したし、まだ世に出ていない新しい作品で世界にアピールするのが夢なんじゃ。そのためには、やはり外国で個展を開いてみたいな。」と語る前田さんの目はキラキラと輝いていた。
    「せないかんこと(しなければいけないこと)がたくさんありすぎて、老け込む暇もないわ。和紙の需要が落ちてきたのは事実じゃが、悲観的になったことはないよ。もちろん同業者は廃業していった人も多いが、わしはまだまだやるで。」と、入り口の一番目立つところにかけてあった2枚の「色紙」を指さした。その色紙には、地元のお寺の住職さんが書いてくれたもので『初心生涯』『生涯現役』と書いてあった。

    『初心生涯』『生涯現役』の色紙

    こぼれ話

    因州和紙の伝統技法を昔の絵図で説明した資料を掲載します。

    刈(かる)
    蒸(むす)
    剥(はぐ)
    煮(にる)
    晒(さらす)
    叩(たたく)
    漉(すく)
    乾(ほす)

     

概要

工芸品名 因州和紙
よみがな いんしゅうわし
工芸品の分類 和紙
主な製品 画仙紙、書道半紙、襖紙
主要製造地域 鳥取市
指定年月日 昭和50年5月10日

連絡先

■産地組合

鳥取県因州和紙協同組合
〒689-0332
鳥取県鳥取市気高町勝見670-22
鳥取市西商工会内
TEL:0857-82-0809
FAX:0857-82-0884

http://inshu-washi.com/inshu-washi.htm

特徴

品質の高さには定評があり、書道、墨絵に適した紙である画仙紙、半紙が有名です。

作り方

材料となる植物を煮る「蒸煮(じょうしゃ)」、煮たものを叩いて細かい繊維にする「叩解(こうかい)」、水に溶かした繊維を漉いて紙にする「抄紙」、「乾燥」等の主要工程のほとんどが手作業によって行われています。いずれも古くからの技術・技法が伝えられています。

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