京表具

始まりは平安時代に遡ります。当時、表具は経や書画に布地を貼って補強するためのものでした。それがその後、保存や鑑賞のために、書画等に布や紙等で縁取や裏打ち等をして、掛軸や額に仕立てたり、屏風や衝立、襖にする「表装」一般を扱うようになりました。
京表具のうち掛軸、巻物、額装は、床の間等の和室の装飾用として、また屏風や衝立、襖は部屋の仕切り、風よけ、目隠し用として一般家庭の日常生活に使われています。

  • 告示

    技術・技法


    掛軸及び巻物にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    乾燥は、「仮張り」によること。

     
    (2)
    本紙及び裂地の裏打ちは、「肌裏打ち」をした後、打刷毛及び撫刷毛を用いて「増裏打ち」をすること。

     
    (3)
    継ぎ合わせは、「付け廻し」によること。

     
    (4)
    「総裏打ち」は、喰い裂きした和紙を用い、上巻絹及び軸助を施すこと。

     
    (5)
    仕上げは、「裏摺り」をすること。


    襖、屏風、衝立及び額装にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    骨格は、木針を用いて框と組子を組み立て、角板を入れること。この場合において、框は「返り取り」し、組子はほぞ組とすること。

     
    (2)
    下張りは、「骨格縛り」、「胴張り」、「蓑張り」及び「蓑縛り」によること。

     
    (3)
    屏風の蝶番は、「羽根付け」、「蝶番組」及び「くるみ懸け」によること。

     
    (4)
    「泛張り」は、二回行うこと。この場合において、二回目は喰い裂きした和紙を用い、一回目よりずらして張ること。

     
    (5)
    張り合わせの仕上げは、「上張り」又は「縁取り」によること。

     
    (6)
    襖及び屏風の「椽打ち」は、折り合い又はアリ留めにより、衝立及び額装の外枠は、「はめ込み」によること。

    原材料


    紙は、手漉き和紙とすること。


    裂地は、天然素材の織物とすること。


    糊は、正麸糊、布海苔、膠又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    木地は、スギ、キリ、ヒノキ、サクラ、クワ、ホオ、イチイ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

     

  • 作業風景

    表具は本紙(書画・美術作品)・和紙(わし)・裂地(きれじ)で仕立てられています。これらに、水で湿気を与えたり、乾燥させたりしながら、何段階もの工程を経て完成します。

    工程1: 裂地(きれじ)の取り合わせ

    本紙を引き立て、掛軸の用いられ方にふさわしい裂地を、一文字(いちもんじ)・中縁(なかべり)・天地(てんち)の互いの調和を図りつつ選ぶ。裂地の選定は、時代性をも含めた本紙の特性や、掛軸全体の品格を重視しておこなう。

    工程2: 裂地の肌裏打ち(はだうらうち)

    裂地を盤板上に水張りして固定させる。張り代部分で調節して裂地の経緯(たてよこ)の織り目を通し、文様のゆがみを修正する。

    必要な大きさに裁断した裏打ち紙に、中心から満遍なく糊をのばす。

    裏打ち紙を裂地に張り、撫刷毛(なでばけ)で撫でて張り付ける。

    工程3: 増裏打ち(ましうらうち)

    裏打ち紙の端を水で湿らせ、竹ベラをあてて繊維が出るように喰い裂く。
    (継ぎ合わせの準備)

    重なる部分の厚みを表にひびかせないために、裏打ち紙を喰い裂き継ぎにする。喰い裂いた紙の繊維の部分のみで接着させる。

    工程4: 中縁(ちゅうべり)増裏打ち

    強度を増すためとさらに鑑賞を助ける手段として裏打ちという処理を施す。

    工程5: 付回し(つけまわし)

    本紙を中心に、一文字・柱・中縁・天地の順につなぎ合わせる。

    工程6: 総裏打ち

    上巻絹(うわまきぎぬ)にあて紙をあてて、打刷毛(うちばけ)で打ち、あて紙を外して撫で付ける。

    工程7: 風帯付け(ふうたいつけ)

    風帯を上軸の山に沿わせて折り目を付け、縫い代を残して余分を裁ち落とし、先端は折り込んで整える。生糸で上軸の所定の位置に縫い付ける。

    工程8: 仕上げ・完成

    下軸をつけ、風帯を糸でとめる。

    工程9: 検品

    軸先を持ってゆがまないよう、静かに下ろしていく。掛軸が、正しく水平に掛かっているか、少し離れた位置から確かめて修正する。

     

  • クローズアップ

    洗練された美意識で作品の魅力を引き立たせる

    本紙(作品)の持ち味を引き出し、しかも表具が目立ちすぎず…。高度な技術と繊細な美意識を特徴とする京表具は、日本一の洗練された表具と言われる。そこには、京都ならではの文化や歴史的変遷が深くかかわっている。

     

    日常生活の中に溶けこみ発展した京表具

    表具は仏教とともに中国から伝来し、経巻(きょうかん)を仕立てることから始まった。やがて仏画像を礼拝用に製作するようになり、これが現在の表装(掛軸・軸装)の基となる。中世平安時代以降の書院造りによって床の間が生まれ、室町末期から桃山・江戸時代にかけて茶道が興隆し、絵画が普及すると、それぞれ生活様式や書画・美術品の形状や内容にあわせた表装が施されるようになる。日本一洗練された表装と言われる京表具は、永く政治や文化の中心であった京都の、この歴史的変遷によって生み出されてきた。「茶人や文人・画家との間で、繰り返しその仕様について論じられ鍛えられた。そうして、独特の上品さが培われてきたんだと思います」そう語るのは、現在、京表具協同組合連合会の理事長を務める山本之夫さん。

    技術とセンス、そして審美的感性が織りなす総合美術

    表具師は、本紙といわれる「書」や「絵画」の美術品を介し、それぞれの時代の文化人や雅人と共に生きてきた。それ故、表具師には、彼ら雅人の厳しい審美眼を納得させるだけの、茶道や華道の専門的な知識が要求された。「本紙の意味を理解し、その意図や背景を汲んだ取り合わせで表装を完成させていく。そういう繊細な技術とセンス、そして審美的感性が要求されてきたんです」と山本さん。表具師の家に生まれ、自らもこの道50年の職人として生きてきた。「目立ちすぎず、しかも長く見ていて飽きのこないもの」。それがいつの間にか心の中に浸み込んだ。「“いいな”と思うものは、その対象を問わずこの一点に集約されます」。

    どんなものでも、本紙に向かう気持ちは同じ

    表具師にとって、お預かりしたそれぞれの家の宝(本紙)に向き合う気持ちは、その書画自体の評価にかかわらず、同じだと言う。どんなものでも、本紙を表具屋に預ける人の気持ちは一緒だと。京表具は、本紙の背景にある世界を汲み本紙の魅力を最大限に引き出すこと。その心は脈々と現在の表具師の心に受継がれている。

    ものづくりの夢を1000年の伝統に賭ける

    表具は「より良いものを目指して、新しい取合せをしようと挑戦しても、下手に触ればもともとあった伝統的な手法の方がずっとよかったという世界」。それほど難しいのだと言う。日本古来の住宅から、洋風化された住宅へと人々の住環境が大きく変化している現在。「和室」や「床の間」が消えゆく中で、掛軸・襖(ふすま)・額・屏風(びょうぶ)・巻物(まきもの)・画帳(がちょう)へと、書画を作り上げてきた表具師たちも又、新たな活路を模索している。こういう時代だからこそ「展示会に京表具を出しても、デザインも技術もセンスもそう簡単に盗まれんような、レベルの高いものを提供していきたい。それを見て、“ああ、こういうものが日本にはあったんだなあ。これが「京表具」だ”と感じてもらえるものを1つでも作っていきたいと思い、組合の皆さんにも“そうしていこう”と言うてるんです。この1000年を越す京表具の伝統も、守ろうとするだけでは守りきれない」。守りに入るのではなく、もっと先、まだ先を目指して挑戦して初めて現状が維持できるのだと、山本さんの言葉は熱い。 「自分の思っていることを人に伝える、というのは難しいこと」。これからは「職人が、自ら作り手の思いを伝えることも大事なこと」だと考える。だから「必ず自分の勉強になるから」と、表具展示会などで表具師自身が“自分の作品の意図や説明をする場”を設けるようにしているという。人とものを結びつける、理事長としての山本さんの課題だと言う。

    職人プロフィール

    山本之夫 (やまもとゆきお)

    S10年2月27日生。京表具師。
    現在、
    京表具協同組合連合会理事長
    京表具伝統工芸士審査委員長
    京表具伝統工芸士会顧問を務める。

    こぼれ話

    飽きのこない落ち着きある趣き

    生活様式の変化に伴い、和室や床の間は住宅から減ってきています。
    その半面で、インテリアに「和」の味わいを求める人が増えているのも確かです。本来は「床の間」に飾られていた「掛軸」も、フローリングの客間に“季節を感じさせるインテリア”としてコンソールの上などに掛けられています。
    飽きのこない、しっとりした趣をもつ京表具には、この新しい生活空間にも溶け込む不思議な魅力があります。

     

概要

工芸品名 京表具
よみがな きょうひょうぐ
工芸品の分類 その他の工芸品
主な製品 掛軸、巻物、額装、襖(ふすま)、屏風(びょうぶ)、衝立(ついたて)
主要製造地域 京都市ほか
指定年月日 平成9年5月14日

連絡先

■産地組合

京表具協同組合連合会
〒615-0042
京都府京都市右京区西院東中水町17
京都府中小企業会館5階
TEL:075-314-5700
FAX:075-313-1120

http://www.kyo-hyougu.jp/

特徴

京都の美しい環境と京都人の洗練された美意識に支えられ、湿度の高い盆地の風土が表具作りに適していたこともあって発展しました。また、床の間の発生や室町時代末期から江戸時代にかけて茶道が盛んになったことから、茶人たちの美意識を反映した表具が完成しました。

作り方

掛軸、巻物は、本紙や布地の裏に糊で紙を貼って補強し、その各部分を接ぎ合わせた上でさらに全体を総裏打ちします。襖、屏風、衝立等は骨格の上に下張り、張り、上張りの順に糊で紙を貼り重ね、最後に外枠をはめ込みます。

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