日本 ここに技あり!~木綿の日常着 弓浜絣~

 あらゆる種類の洋服が手ごろな価格で手に入るようになった現代、着物にあこがれる人は多いものの、一着何十万とかかり、手入れも大変、決まりごとも色々あるみたいだし・・・、となかなか手が届かないのが現状です。しかし、昔の人はどんなに貧しくたってみんな着物を着ていました。本当に着物って手の届かない高級品なのでしょうか?弓浜絣を知れば、着物をもう少し身近に感じられるかも知れません。

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松林の向こうは日本海

 鳥取県境港市、弓ヶ浜半島にある弓浜絣の生産地を尋ねました。海岸線には松の防風林が並び、半島の先端まで行くと、600mほど先の対岸には島根県の山々が見える、独特の景観を持った土地です。そこで作られる弓浜絣は、色調や柄の素朴な織物です。織る前の糸を並べ、型紙を当てて墨を摺りこみ、墨の部分を防染した糸を緯糸として模様を織り出す「絵絣」が特徴です。

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並べて張らせた緯糸に形で墨のしるしをつける

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しるしをつけた部分は染めず、白抜きの絣柄となる

 絣は木綿で出来ています。誰もが着物で生活していた時代、木綿は庶民の普段着に使われていました。色調や柄の素朴な弓浜絣もまた、普段着として着られていました。洗うときは洗剤を使わずに、一晩お湯につけて、2,3度すすいだのちに陰干しするだけでいいそうです。洗えば洗うほど肌触りが良くなり、絹のように裾が簡単に擦り切れることもありません。

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杼(ひ・シャトル)にセットする糸を巻く機械、機械に頼れるところは頼って、生産効率をあげることも大切

 そんな木綿は綿から作られますが、普段私たちが綿の色として思い浮かべる白い綿の他に弓浜絣には、元々ベージュっぽい色のついた茶綿も使っているそうです。茶綿は白い綿と比べると、弾力が強い感じがします。また繊維が細く、簡単に繊維同士が絡まないので、自然と太い糸ができます。収穫したばかりの綿は薄いベージュなのですが、年月が経つとだんだんと茶に近づいてきます。そして織り上げた後にも変色は続くので、着ていくうちにだんだんと風合いが変わってくるそうです。こういった製品の変化は、自然の色を使っているからこそ楽しめるもの。着物を着る上での決まりごとはもちろんありますが、まずは楽しむ気持ちが大切なのではないでしょうか。

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手前は柿渋で染めた経糸と茶綿と白い綿を合わせた緯糸で織ったもの

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左は茶綿で右が普通の綿、茶綿の方が握るとキュッキュと弾力がある

 弓浜絣の産地へ行って驚いたのは、若い職人さんがいたことです。伝統工芸のあらゆる産地が深刻な後継者不足で悩む中、弓浜絣の産地では自治体をあげて後継者育成研修が行われました。この研修では3年間かけて弓浜絣の制作技術をみっちり学びます。そんな3年間の研修を終えた若い職人さんたちが作った弓浜絣なら、もう少し着物にも親しみを感じることが出来るかもしれません。

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後継者育成研修で使われていた藍を入れるかめ(弓浜がすり伝承館)

 9月18日(金)~9月30日(水)の特別展「日本 ここに技あり!」で弓浜絣を見ることができます。着物や帯だけでなく小物もありますので、初心者さんはまずはコースターや巾着からチャレンジしてみては?

弓浜絣についてもっと詳しく知るには:鳥取県弓浜絣協同組合 伝統的工芸品 弓浜絣

その他の参加産地情報:出雲石燈ろう 房州うちわ 二風谷イタ、アットゥシ 

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