匠を訪ねて~駿河塗下駄 失いたくない駿河塗下駄の文化
2015年7月21日 青山スクエアにて制作実演中の成滝嘉宥さんを訪ねました。
駿河塗下駄を塗り続ける匠:成滝嘉宥さん
駿河塗下駄とは静岡に伝わるユニークなデザインと綺麗な色味で構成された独特の世界観が魅力の伝統工芸品です。普段使いの履物として使用するのはもちろんのこと、装飾品として家に飾る人もいるほどの存在感があります。
一つ一つに思い入れのある塗下駄
お客様と話をしながら作り上げていく楽しさがある
この下駄は、イベントに参加した時に私のファンになってくれた人と作り上げたものです。
自分一人でデザインを考えて創る塗下駄もいいのですが、お客様の要望を聞きながら「こういうのはどうだろう」「あぁいうのはどうだろう」「それならこれは?」とお互いに意見を出し合いながら作るのも楽しい、と成滝さんはおっしゃいます。
その方と一緒に作った時は、青と黄の二色ではなく一色のものを作ったのですが、それから数年して色味を増やしてみるのも面白いかもしれない、と思ってデザインをしてみたのだとか。
また、この下駄は塗り方にもこだわりがあり、目の肥えている浅草の履物屋の女将にも仕入れて貰っているそうです。
結婚式の引き出物に依頼された駿河塗下駄
この塗下駄は元皇族の方がご結婚される際に、引き出物として依頼された品。
今でも一足ずつ手作業で作っており、シンプルでシックですが当時のデザインのままでも見劣りしない素晴らしい履物。
当時はこの塗下駄を100足以上作っており、依頼があった際はこの塗下駄にかかりっきりになったのだとか。
職人の思いがそっと込められた塗下駄
この塗下駄には、1足ごとにヒョウタンの絵が三つ描かれており、一組で六つのヒョウタンの絵が描かれています。そこに成滝さんの思いが隠されているようです。
どういった思いが込められていると思いますか?
ヒントは「ヒョウタンが6つ」というところ。
答えは、「無病息災(むびょうそくさい)」です。
6つのヒョウタン・・・つまり「むひょうたん」で「むびょう」。
さらに健康は足からという意味もあって、この塗下駄を考えたそうです。
他では見ることの出来ないユニークな駿河塗下駄たち
ただ一つの問題は後継者が誰もいないということ
今現在、静岡で塗下駄をしている職人はたったの5人しかいないそうです。しかもその5人はみなさん60歳を超えているのだとか。
成滝さんは身体が元気なうちは、この仕事をしたいとおっしゃっていましたが、気がかりなことが一つだけ。
それは後継者が誰もいないということ。
静岡の駿河塗下駄がこのままなくなってしまうのはもったいないとは思うものの、若者たちに強く勧めることも出来ないそうです。なぜなら今は、塗下駄だけで生計を立てるのが難しくなっているから。
成滝さんが若いころは、工房にこもってひたすら塗下駄を作り続け、静岡の商人たちに作品を渡して売ってきてもらっていたそうです。
ですが時代が変わり、静岡にいる商人もほんのわずかとなり、塗下駄を渡す人がいなくなってしまいました。
今は自ら出張をして、東京や神奈川などのイベントに参加し、自分の塗下駄のファンを作っていくという地道な営業活動をされています。
イベントでお話をする人は、一般の方から小売業などのお店の方々。さらに一般の方から直接依頼が来た際には、日本のどこに住んでいる方であっても、成滝さんご本人が直接届けるそうです。