京石工芸品

京都府

石と人間生活との関わり合いは、遠く石器時代から始まります。奈良時代後期、仏教の伝来によって石造文化が生まれました。
その後の石造美術の発展とともに、貴重な文化的石造工芸品が作り出されました。比叡山麓、白川の里からは良質の花崗岩(かこうがん)が切り出される等、材料にも恵まれた京石工芸品は、千年もの間文化の中心であった京都の土地柄に支えられて、他の地方には見られない石工芸の技術を築き上げ、現在にまで伝えています。

  • 告示

    技術・技法

    1 使用する石材は、「はっぱきず」、「やまきず」、「まざり」又は「ぼせ」のないものとすること。

    2 型造りには、「片刃」、「両刃」、「はいから」、「のみ」及び「鎚」を用いること。

    3 灯籠及び層塔の各部の接合は、「織部型」及び「泉涌寺型」を除き、ほぞ接ぎ又は大入れ接ぎによること。

    4 彫りは、「のみ」、「こべら」、「型あわせ」、「片刃」、「刃びしゃん」又は「打出し」を用いる浮かし彫り、沈め彫り、透かし彫り、筋彫り又は肉彫りとすること。

    5 仕上げは、「のみ切り仕上げ」、「びしゃん仕上げ」、「たたき仕上げ」、「消しつつき仕上げ」又は「筋消し仕上げ」によること。

     

    原材料

    1 原石は、白川石、太閣石、北木石、宇治石、庵治石、青木石、豊島石又は大島御影石とすること。

    2 挽臼の芯棒に用いる原木は、カシ又はこれと同等の材質を有するものとすること。

  • 作業風景

    石燈篭は、宝珠、笠、火袋(ひぶくろ)、中台、柱、下台の6部分からできています。ここでは主に笠の製造工程をご紹介します。

    工程1: 石まわし

    荒石(原石)に完成時の形、大きさをあらかじめ墨で線引きする作業です。

    工程2: 荒取り

    まず石に矢穴をいくつか掘り、矢穴に入れた矢をたたいて四隅を大きく落とし、そのあと「はいから」で墨出しした線の外側を角落としし、「のみ」ではつって(=削って)整えます。

    工程3: 下場造り

    下場、すなわち笠裏の部分を平らにします。石のねじれをよく見てから墨を差し、はいから、中切りのみ、はびしゃん、びしゃんなどの道具で整えます。側面を垂直に立てる基準面をつくる大切な作業です。

    工程4: 軒場造り

    平らに整えた下場から、軒場すなわち側面を垂直に立てるための作業です。

    工程5: 笠裏造り

    笠の裏の段の数や蕨手(わらびて)と呼ばれるまろやかな突端加工の墨出しをし、それに沿ってはつっていく作業です。笠裏に対し蕨手が傾かないよう心がけます。

    工程6: 蕨手造り

    曲線のバランスをみながら、欠け落とさないよう細心の注意でのみをさばきます。帯を切り出します。

    工程7: 笠上場(うわば)造り

    笠上部の傾斜面を仕上げます。石をはつる作業は一見荒っぽくみえますが、ちょっとしたのみ先の角度、槌(つち)を打つ力の加減に微妙なこつがあります。ためらいなく打ち込んでいるように見えるのは年季の入っている証拠です。

    画像をクリックすると動画が再生されます

    工程8: ほぞ穴造り

    宝珠のほぞと組み合わせる穴を彫ります。ほぞは、石燈篭を組み立てたときに、凹凸にかみ合わせることで笠と宝珠を組み合わせる役目をします。

    工程9: 裏大入れ造り

    笠裏に火袋のおさまるくぼみをつける作業です。

    工程10: 仕上げ

    全体をならして仕上げます。

    さらに、下台、火袋、中台、柱、宝珠をそれぞれ仕上げ、組み立てて燈篭が完成です。

    画像をクリックすると動画が再生されます

  • クローズアップ

    京石工の技と誇りを後世に

    京都・白川地区。比叡山麓のここはかつて上質の白川石を産出し、村中で石工芸に従事していた石工のふるさとの地。その地で、伝統の技で古典の姿を蘇らせる日本屈指の名石工、西村金造さんにお話を伺った。

     

    目利きに鍛えられる京都の職人

    石工芸は、平安時代に仏教とともに発展、室町時代には庭の装飾品として茶人たちによって愛好されるようになったとか。特に仏教の本山がひしめき、茶道文化の中心の京都では、伝統と格式を重んじる寺社仏閣、数寄者で目の肥えた茶人たちに鍛えられ、石工芸に磨きがかけられた。もちろん今も京都には目利きが多く、京都の職人は「自分も目を肥やさなあきません。学ぶことが多いです。」と語る。

    燈篭に囲まれ「ここでは時間を忘れます」

    実測で古典に学び、応用する

    職人として最大の転機は二十代で見た韓国の石工芸品。以来、日本の石文化の原点のような韓国に通い詰めた。「やっぱり本物はすごいと感動して、いいものをもっと見たい、と。しかし見ているだけではだめ。」「どんな風にできているのか、実測する。それで初めて自分のものになります。」めったに触らせてもらえない名品も、つてを頼って実測、図面におこした。「形やバランスのよさが数字でわかると、次にそれを応用できるんです。」技術や感性は、勘だけに頼っていては身につかないということだろう。

    理詰めの研究熱心さを本棚が語る

    柔らかな石の感触

    店の裏手の陳列場に案内してもらう。山を切り開いてできた野趣あふれるそこには、西村さんが作ってきた燈篭と気に入って買い集めた燈篭が渾然と並んでいて壮観だ。いいものは、作られた時代や場所に関係なく調和する。「新品の燈篭は、味わいが少ないものです。ここに置いておくと、いい具合にさびがついて、なんともいえん風情になります。」西村さんの燈篭に触らせてもらった。石なのに、掌に吸い付いてくるような柔らかい感じ。「全部手でやってますから。機械で削るとつるつるです。」と教えてくれた。

    様々な燈篭が立ち並ぶ陳列場

    死んでからも責任をもてるものを。だから、ライバルは先人達

    堅牢で永続性の象徴でもある石。しかし石素材でも後世に伝わるのはほんとうによい作品だけ。「自分は死んでも石は残りますわな、だから責任もってつくらなあきません。自分が生きてる間に精一杯ええもん、あとに残るもんつくらなあかん思てます。」と西村さん。石を扱う職人の覚悟だ。また「鎌倉や室町のころに比べたら、道具も技術もようなってる。昔の人には負けてられません。」「先人よりも、ええもんつくらなあかんのです。」現代の名工のライバルは遠い先人達だ。

    京の石工芸を守り受け継ぐ

    西村さんは、日本の技術の伝承を絶ってはいけないと強調する。京都の石工芸は、京都の石で、京都の職人が、守り育ててきた。だから白川で石が採れない今も、あくまでも国産の石で国産の職人がやる仕事にこだわる。受け継いで培ってきた技に自信があるからこそ、「技術の安売りはすんな。」と若い者に口うるさく言う。「なんぼ石が硬い言うたかてね、つまらんもんは壊されます。安い大量生産のもんは残らんものですよ。そんなもんにせっかくの技術を使うようなことすんな、言いますねん。」「わたしらはね、後世に残す価値のあるようなもん、作らなあかんのですよ。」石工の自負は石よりも硬く、これがある限り、技は後世に継がれていくのだろう。

    仕事場。息子さんたちも腕をふるう

    職人プロフィール

    西村金造 (にしむらきんぞう)

    「西村石灯呂店」4代目。
    昭和13年生まれ。
    代表作に金沢兼六園の琴柱燈篭の写しなど。

    こぼれ話

    京都石工芸の歴史を辿る~茶道文化と石工芸

    古くは古事記に登場する「石工」。京都では、平安遷都によって大内裏の造営とともに、石造品が盛んに作られるようになり、また仏教の隆盛とともに寺社造営の礎石、石仏、石塔、石燈篭など、石工技術がますます発展しました。
    鎌倉時代以降、政治の中心が関東に移っても、依然、文化の中心であった京都には優れた石工芸品が残っています。桃山時代から江戸初期にかけては築城と造園、さらに茶道文化との結びつきが石工芸に大きな影響を与えます。茶人の求めるわび、さびの表現として、古くから伝わる石燈篭の模作を庭の装飾にし、水鉢、層塔、その他の彫刻物が盛んに庭に持ち込まれました。茶の心に則る「美」が追求され、それに応えるべく石工芸技術は著しく向上しました。現在、庭園装飾用に石灯篭等を用いるには、こんな歴史的背景があったのですね。

    • 日本庭園には欠かせない石の美

概要

工芸品名 京石工芸品
よみがな きょういしこうげいひん
工芸品の分類 石工品
主な製品 石灯籠、鉢物、挽臼(ひきうす)、層塔(そとう)、彫刻物
主要製造地域 京都市、宇治市、亀岡市、向日市、八幡市
指定年月日 昭和57年3月5日

連絡先

■産地組合

京都府石材業協同組合
〒602-8035
京都府京都市上京区六町目6-210
TEL:075-256-2955
FAX:075-256-9698

http://kyoishikumiai.jp/wp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

京石工芸品は、ほとんどが庭園装飾用で1人の石工(いしく)がすべての工程を手がけています。用途や形により様々な製品が作られています。特に石灯籠は桃山時代以後、茶道の流行に伴い日本庭園の欠かせない主役となっています。

作り方

石灯籠、層塔、鉢物、挽臼、彫刻物と種類によって異なりますが、それぞれ共通して「原石加工」「成形」「彫刻」「仕上げ」という工程に大きく分けられます。これらのいずれの製法にも、古くからの伝統的技法が使われています。屋外に設置する製品のため、特に気を使うことはありませんが、衝撃を与えると欠けたりひびが入ったりすることもあります。石灯籠の設置は庭等の周囲の環境と調和するように工夫することが大切です。

totop