置賜紬

山形県

置賜紬の始まりは、8世紀初めに遡ります。江戸時代初めに、領主の上杉景勝が奨励したことで産地としての体制が整いました。
素朴で伝統的な技法を用いた白鷹板締小絣(しらたかいたじめこがすり)、米琉板締小絣(よねりゅういたじめこがすり)、緯総絣、併用絣及び紅花等で染色する草木染紬等が生産されています。近年、消費者に手作りの良さが見直されています

  • 告示

    技術・技法

    1 米琉板締小絣にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)たて糸及びよこ糸に使用する糸は、「水より」をすること。
    (3)かすり糸は、たて糸及びよこ糸に使用すること。
    (4)たて糸のかすりとよこ糸のかすりとを手作業により柄合わせし、かすり模様を織り出すこと。
    (5)かすり糸の染色法は、「板締め」によること。

     

    2 白鷹板締小絣にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)たて糸及びよこ糸に使用する糸は、「水より」をすること。
    (3)地糸に使用するよこ糸は、「追ねん」をすること。
    (4)かすり糸は、たて糸及びよこ糸に使用すること。
    (5)たて糸のかすりとよこ糸のかすりとを手作業により柄合わせし、かすり模様を織り出すこと。
    (6)かすり糸の染色法は、「板締め」によること。
    (7)しぼ出しは、「湯もみ」によること。

     

    3 緯総絣にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)たて糸及びよこ糸に使用する糸は、「水より」をすること。
    (3)かすり糸は、よこ糸に使用すること。
    (4)かすり糸のかすりを手作業により柄合わせし、かすり模様を織り出すこと。
    (5)かすり糸の染色法は、「手くくり」、「手摺り込み」又は「型紙なせん」によること。

     

    4 併用絣にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)かすり糸は、たて糸及びよこ糸に使用すること。
    (3)たて糸のかすりとよこ糸のかすりとを手作業により柄合わせし、かすり模様を織り出すこと。
    (4)かすり糸の染色法は、「手くくり」、「手摺り込み」又は「型紙なせん」によること。

     

    5 草木染紬にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物又はしま織物若しくはこれに類する織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)たて糸及びよこ糸に使用する糸は、ベニバナ、カリヤス、ログウッド等を原料とする植物性染料を用いて染色すること。
    (3)かすり織物にあっては、かすり糸の染色法は、「手くくり」又は「手摺り込み」によること。
    (4)よこ糸の打ち込みには、「手投杼」又は「引杼」を用いること。

     

    原材料

    使用する糸は、生糸、玉糸又は真綿のつむぎ糸とすること。

  • 作業風景

    置賜紬には、米沢草木染、長井紬の緯総絣・併用絣、白鷹紬の米琉板締小絣・白鷹板締小絣があり、それぞれの工程が異なります。ここでは米沢紬の草木染の工程と白鷹紬の板締小絣の工程をご紹介します。

    米沢紬/草木染「紅花染」

    工程1: 紅花摘み

    夏の暑い時期にアザミに似た黄色い花が咲きます。昼になるとガクにトゲが立つので早朝に摘みます。

    工程2: 水洗もみ

    水に晒しながらもむことで花の色が黄から橙に変わります。

    工程3: 発酵

    発酵させると紅の色素量が十倍に増えます。更に発酵した紅花を突くことで色素量が増えます。鮮やかな紅の色になります。

    工程4: 紅花餅づくり

    紅花を丸めて餅状にし、乾燥させます。小さな餅にすることで、運搬しやすくなり、また、染色の際に染料の量を調整しやすくします。

    工程5: 色素の溶出、染色

    灰汁(アク、ここでは炭酸カリウム溶液)に浸すと紅花の色素が溶け出すので、糸や反物を染めます。その後、酸を加えて中和すれば鮮やかな紅が定着します。

    白鷹紬/板締小絣「板締絣」

    工程1: 糸とり

    繭を煮沸した後、繭から少しずつ繊維を取り出して糸にします。
    手で丹念に繰くることで、ふっくらと仕上がる自然な風合いを出すことができます。

    工程2: 絣板巻

    経糸と緯糸を絣模様が彫られた型板に巻きつけます。固くしっかりと締めないと絣模様がうまくでなくなってしまう大事な工程です。

    工程3: 染色

    糸を巻いた型板同士を重ね合わせ、固く締め付けます。染料を板と板の間の溝に流し、染色される部分とされない部分ができます。この良し悪しが絣のできを決めます。

     

    工程4: 製織

    高機、投杼(なげひ)で経糸と緯糸を組み合わせ、丹念に織り上げます。鮮明な絣模様ができあがります。

  • クローズアップ

    雪と寒さが生み出すやさしい紅、置賜紬(おいたまつむぎ)

    雪と寒さの厳しい置賜地方から生まれた置賜紬は、紅花に代表される米沢紬の草木染め、緯総絣の長井紬、板締め絣の白鷹紬からなる。上杉鷹山公の藩政再建策に端を発する置賜紬は、時代ごとの流行に合わせながら庶民に愛されてきた。

     

    名藩主、上杉鷹山公と共に

    自ら田畑を耕す姿を示し、藩財政を建て直したことで知られる米沢藩主、上杉鷹山公の命により、この地の紬は始まった。越後や京から織物職人を呼び寄せ、家中の女子に技術を習わせ、元来養蚕の盛んだった白鷹では農民に機を織らせた。置賜の地に紬の技術が根付くのと平行して藩財政は回復して行った。
    鷹山公は染色ができる樹木を積極的に植えさせた。胡桃、栗、梅、ざくろ、などの果樹と木の実は平時は草木染めに使われ、そして農作物が不作の年には食糧として人々の飢えを救ってきた。

    上杉鷹山公の時代、農民も武士の奥方も紬を織った。

    置賜紬いろいろ

    置賜紬は、地域が少し離れたところで発達した3種の紬の総称である。紅花や木の実、樹皮で草木染めをした米沢草木染。緯糸だけを絣染めした緯総絣と縦・緯糸ともに絣染めした併用絣の長井紬。板締にて絣染めし、亀甲・十字・蚊絣など小さな絣模様を複雑に絡めた白鷹紬。これらの紬が置賜紬として伝統的工芸品に指定されている。すべて糸を先染めし、平織りにて織り上げる手間のかかる紬だ。

    性格の違う染料を重ねていく

    お話しを伺った米沢市の染色家・新田英行さんの工房では20名の職人が働いている。職人になるためには、まず染色を一年半、手織りの図案を約一年、無地織を三年。基本の技術を習得するだけで最低五年の年月を経なければならない。
    「織の職人でも、色の表現力を身につけるためには染を学ばなければなりません。」織によって思い通りの文様を現すためには、糸を染めた段階から織物の仕上がりを想像できるようでなければならないようだ。
    「染料はそれぞれ性格が違います。その違いを覚え、数多くある染色技法を覚え、そして色を重ねて思い通りの色を表現します。」紫を出すには藍で染めた後に紅花で染め、橙を出すには黄で染めた後に紅花で染める。微妙な加減が無限の発色を作り出す。

    雪多いこの地の風土から鮮やかな紅が生まれる。

    置賜の地で紅を染めた日

    紅花染めは長く京都だけで行われていた。しかし、化学染料が入ってくると紅花の需要は減り、技術も廃れていった。紅花染は昭和38年、新田さんの先代により紅花の生まれ故郷、置賜にて復活を遂げた。
    紅花染をするには“寒の丑三つ時”が最もよいという。適度な寒さといい水がないと紅花のやさしい紅は出ないのだ。紅の美しさの裏側にある寒の中の作業。妥協なき染色の技がほかでは出せない艶やかな紅を生んでいく。

    着る人と共に生きる色

    「色は生きているのですよ。」年代物の布を引っ張り出して見せてくれた。昔染めた紅が今ではしっとりとした色合いになっている。「時と共に繊維の一本一本に少しずつ染料が染み込んでいき、次第に余計なものが取れていくのです。」若い頃に似合うまばゆいほどの紅が、着る者と共に時を経て落ち着いた紅に変わっていく。20歳の時に着た紅が50歳になる頃には歳に似合う紅になる。一生付き合える紅なのだ。

     

    お年寄りが敬われる職場

    年を取ったら早くリタイヤするのが会社で働く者の常だが、駆け出しの職人から一流の技能を持つ職人が同じ職場で働くこちらの工房では昔ながらの年配者への尊敬が生きている。職人は一生かけて技を研鑚していく。熟練の技においそれと若い者はかなわない。年月を経た者だけが持つ技の深み、隙のなさを日々肌で感じながら仕事に就く。義務的に年配者を敬う必要などここには存在しない。

    織に心が顕れる

    「無地の袴は一生織り続けますよ。」無地ほど簡単に織れ、かつ難しいものはないという。「無地では段、粗をごまかすことができません。自分の心が織にあらわれてしまうのです。」囲炉裏端で語る新田さんには、自らの仕事を求道的に追求する者の姿が見えた気がした。

    熟練しても「気持ちが顕れてしまう」という織の技

    職人プロフィール

    新田英行

    伝統工芸士(染織家)
    「先代から教わったのは“自然は無変なり”。」染色、織に迷った時は自然を見て自分のものにするという。

    こぼれ話

    紅花が辿った京への道

    今でこそ産地山形で染められる紅花ですが、江戸の頃は花を摘む農村の女性がこの艶やかな紅を身につけることなど決してありませんでした。紅花は最上川から北前船で京に運ばれ、京の職人によって染められていました。かつては“金一匁(もんめ)と紅花一匁”を交換したといわれるほど高価な紅だったのです。

    • 染めては乾かしまた染める。繰り返すほどに紅は深みを増す
    • 日中になるとトゲが立つ紅花は、霧がかかっている早朝に摘む

概要

工芸品名 置賜紬
よみがな おいたまつむぎ
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地、袴、帯、袋物
主要製造地域 米沢市、長井市、西置賜郡白鷹町
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

置賜紬伝統織物協同組合
〒992-0031
山形県米沢市大町5丁目4番43号
「菅野 染舗」内
TEL:0238-23-5044
FAX:0238-23-5044

特徴

置賜紬は、この地区で生産されている織物すべての呼び名です。その種類は米琉板締小絣、白鷹板締小絣、緯総絣、併用絣、草木染紬、紅花紬の6品種ありますが、いずれも糸を先に染めてから織る先染めの平織(ひらおり)です。

作り方

山形県米沢市、長井市、白鷹町の3地区で伝統的織物を生産していますが、それぞれの地域で製造方法が異なります。地域別の伝統的工芸品は次の通りです。
草木染は米沢市、緯総絣・併用絣は長井市、米琉板締小絣・白鷹板締小絣は白鷹町で生産されています。

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