伊勢崎絣

群馬県

伊勢崎絣の歴史は古代にまで遡ることができますが、産地が形づくられたのは17世紀後半になってからです。
明治、大正、昭和にかけて「伊勢崎銘仙(いせさきめいせん)」とよばれて全国的に知られていました。伊勢崎絣の特色は括(くく)り絣、板締(いたじめ)絣、捺染(なっせん)加工の技法にあります。単純な絣柄から精密な絣模様まで、絹の風合いを生かした手作りの絣として、色々なものが作られています。

  • 告示

    技術・技法


    次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。

     
    (1)
    先染めの平織りとすること。

     
    (2)
    かすり糸は、たて糸及びよこ糸又はよこ糸に使用すること。

     
    (3)
    かすり糸のかすりを手作業により柄合わせし、かすり模様を織り出すこと。


    かすり糸の染色法は、「手くくり」、「板締め」又は「型紙なせん」によること。

    原材料

    使用する糸は、生糸、玉糸若しくは真綿のつむぎ糸又はこれらと同等の材質を有する絹糸とすること。

  • 作業風景

    伊勢崎絣の多彩な絣の表現は、さまざまな技法を駆使することで作り出されています。主な技法は、括り絣(くくりかすり)、板締絣(いたじめかすり)、併用絣(へいようかすり)、解模様絣(ほぐしもようがすり)、緯総絣(よこそうがすり)などで、それぞれ工程や仕上がりが異なります。
    ここでは、伊勢崎絣の中でも古くから行われている括り絣の工程を紹介します。括り絣は締括絣(しばりかすり)とも呼ばれ、伊勢崎絣を代表する技法のひとつです。

    工程1: 意匠づくり

    織物の意匠を決め、意匠紙と呼ばれる方眼紙に図案を描きます。構図や配色を決めるのと同時に、柄をつくるのに必要な経糸(たていと)の本数も計算しておきます。図案としてこれらの情報が書き込まれた意匠紙は、織物の設計図にあたります。これをもとにして、織物全体に必要な糸の量を算出し、精練・漂白・糊付けなど糸の準備をします。

    工程2: 糸の準備(精練・漂白・糊付け)

    絹絣に使用する糸には、主に精練された撚糸を用います。精練とは、生糸の表面を覆っているニカワ質を落とすことで、生糸を炭酸ナトリウムや中性石けんで煮沸して行います。精練によって、糸に絹ならではの美しい光沢が現われ、染色もされやすくなります。精練後の糸の黄ばみが激しい場合は漂白を施します。
    精練後の糸には糊付けを施します。糊付けすることで、糸は扱いやすくなり、毛羽立ちも防止されます。

    工程3: 糸繰り・整経(いとくり・せいけい)

    糊付けされた糸は一旦木製の糸枠に巻き取ります。この工程を糸繰りといいます。糸繰りの済んだ糸枠は数十枠並べられ、そこから織ろうとする反物に必要な長さと本数の経糸が引き出されます。一本一本の糸の張力を等しくし、配列が乱れないように注意して切り揃え、設計どうりになるように経糸を準備します。この工程を整経といいます。整経の済んだ糸の束は玉状に巻き取っておきます。この玉は経玉(へだま)といいます。

    工程4: 染色の準備(墨付け)

    経玉は解いて長く張ります。張った経糸に、図案の方眼紙を元にして柄の染め分けの目印を付けていきます。この作業を墨付けといいます。

    緯糸(よこいと)に絣を施す場合は、種糸を使って染め分けを行います。種糸は図案を写した印を付けた糸のことで綿糸を使って作ります。図案の上に、実際に織り上げる幅で枠を立て、そこに緯糸を通す回数分だけ糸を掛けて平面状にし図案を写し墨付けします。枠を外すと印で斑になった1本の種糸が出来ています。

     

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    工程5: 摺込捺染(すりこみなっせん)

    墨付けを元に、配色に従って染料を摺り込みます。

    工程6: 締括(しばり)

    摺込捺染した部分を十分乾燥させ、上から綿糸あるいはポリエチレンテープでしっかり括ります。括ることで、地色を染める際に染料が染み込むことを防ぎます。

    工程7: 浸染(しんせん)

    締括が済んだ糸を熱湯に漬け、熱によって摺込捺染部分の発色を促します。その後、地糸と呼ばれる絣柄のない部分の糸と共に、染液に浸して地色を染めます。染液を徐々に加熱しながら、まんべんなく染まるように適度に糸を動かします。90℃程度の液温で1時間程染めた後、十分に洗浄し、脱水後糊付けします。

    工程8: 糊張り・絣合わせ

    糊付けした絣は、乾燥する前に括りを解き、日当たりの良い屋外で、適度に張力を与えて十分乾燥させます。この時、絣の柄合わせがくずれないように所々止め縛りをしておきます。

    工程9: 経巻(へまき)

    糊張りの完了した経の絣糸は束になっています。これを織物の巾に広げるため、図案の指示に従って地糸を組込み、一本一本筬に通して巻き台に仕掛けます。巻き台に仕掛けた糸の絣柄を、専用の道具を使って整えていきます。絣柄が整ったら崩れないように巻き取ります。

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    工程10: 引込(ひっこみ・ひきこみ)

    巻き取りの済んだ経糸を織機に仕掛けます。綜絖(そうこう)と筬の2個所に経糸を通す作業は引込と呼ばれ、どちらも手作業で一本一本通していきます。

    工程11: 製織

    緯糸を管に巻つけて杼にセットし、織機に仕掛けられた経糸に、緯糸を杼で通し筬で打ち込むことで、糸から布が生れます。製織の技術が製品の価値を左右する重要な工程です。

    工程12: 整理加工

    織り上がった布は、余分な糊を取り除き、蒸気を吹き当てながらローラーにかけ、巾や長さを整えます。

    工程13: 検査

    解模様絣(ほぐしもようがすり)
    明治42年頃、括り絣では表現が難しい曲線の柄を表現するため経糸に型紙を使用し捺染加工する技法が産み出されました。それがこの解模様絣です。

    緯総絣(よこそうがすり)
    反対に緯糸に型紙を使用した捺染加工をするのが緯総絣です。

    併用絣(へいようがすり)
    そして、経糸も緯糸も型紙を使用した捺染加工をして織り上げるのが併用絣です。

     

     

  • クローズアップ

    職人の技の結晶、伊勢崎絣

    多彩な絣技法、鮮やかな色使いで繊細な模様を表現する伊勢崎絣。それを支えるのはそれぞれの工程に熟練した職人技の結集である。実にバリエーションに富んだその世界、ぜひ体感して欲しい。

     

    多彩な技法、新鮮な色使い、繊細な模様が伊勢崎絣の特徴

    括り絣(くくりがすり・締括絣しばりがすりともいう)、板締絣(いたじめがすり)、解模様絣(ほぐしもようがすり)、併用絣(へいようがすり)、緯総絣(よこそうがすり)など、それぞれに特徴ある技法が伊勢崎絣の多彩な色、柄のバリエーションを産み出していく。
    多彩な作品を産み出すのは工程ごとに分業化され、それぞれの工程に熟練した職人技の結晶に他ならない。
    実に様々な職人がいるなかで今回は括り絣の摺込捺染(すりこみなせん)、締括りなどを担当する職人松本品蔵さんにお話を伺った。

    摺込捺染に使う捺染棒

    さかのぼれば江戸時代の「太織(ふとり)」から

    絣の歴史は古代からあるが17世紀後半に産地形成し、明治から昭和にかけては伊勢崎銘仙として日本女性の代表的着物としてその名を知られるようになった。
    歴史の中で多彩な絣の世界を生み出してきた伊勢崎、そんな街に生まれた松本さんは小さい頃から伊勢崎絣に囲まれて育ち、物心つく頃には伊勢崎絣の職人になることを考えていたという。

    伊勢崎絣のクオリティーの高さの秘密

    松本さんのお仕事は「括り屋」と呼ばれる仕事である。30メートルはある糸を張り、図案にしたがって主要な模様となる部分を捺染棒という道具を使い、ひとつひとつ手作業で染色していく摺込捺染。この摺込捺染で染色した部分に、綿糸あるいはポリエチレンテープなどをしっかりと巻きつけ、後の染色で他の色と混じらないようにする締括りという工程を主に担当する。
    一見、単純そうにみえるこの作業。しかし、図案にしたがった模様を産み出すためには、寸分の狂いも許されない神経を使う仕事である。色とて同じ、200はゆうに超える染料の中から図案のイメージにあった色を微妙な調整で出していく。
    仕事中はほとんど雑念は入らず集中して作業しているという。「すべての工程で良い仕事がされてはじめてよい絣ができるんだ」とおっしゃる松本さん、分業化されているからこそ逆に、いっさいの妥協は許されない。それぞれの職人の心意気が、伊勢崎絣のクオリティーの高さの秘密である。

    括りの作業をする松本さんの奥様

    厳しさと温かさ

    いっさいの妥協が許されない伊勢崎絣の職人。松本さんも15歳の時にこの世界に入り、5年間ほとんど休み無しという厳しい修行時代を経て、職人としての誇りと自信を確立した今もその誇りと自信に変わりはない。
    でもそんな松本さんは厳しいだけの人ではない。実に53年にもわたる職人生活、そのうちの40年間を奥様とご一緒に仕事をされてきた。「自分の家で仕事をできるのがいいね。良い物が出来た時には孫に着せたいね」など、家庭を大切にする優しい笑顔を垣間見せてくれた。職人としての厳しさだけでなく、そんな暖かさを持っているからこそ親しみやすい伊勢崎絣が産み出されるのではないか、そんな気がしてきた。

    摺込捺染の作業をする松本さん

    職人プロフィール

    松本品蔵

    1933年生まれ。
    15歳から伊勢崎絣の世界にはいり、5年の修行時代を経て「括り屋」として約50年のキャリアを持つ。

    こぼれ話

    普段着として伊勢崎絣を着る

    伊勢崎絣はさまざまな技法を駆使し、バリエーションに富んだ新鮮な色使いと繊細な文様が特徴です。性別、年齢を問わず、そしてフォーマルな席だけでなく普段着としても親しんでほしいもの。元来普段着としての伝統を受け継ぐ伊勢崎絣。あなたの生活にきっと新鮮な風を運んでくれるはずです。現在は着物だけでなく、洋服地・マフラー・テーブルクロス・のれん・ネクタイ・タペストリーなどじつにさまざまな製品に伊勢崎絣が活用されています。あなたの日常生活の演出にぜひ伊勢崎絣をとりいれてみてください。

     

概要

工芸品名 伊勢崎絣
よみがな いせさきがすり
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地
主要製造地域 伊勢崎市、太田市 埼玉県/本庄市
指定年月日 昭和50年5月10日

連絡先

■産地組合

伊勢崎織物工業組合
〒372-0055
群馬県伊勢崎市曲輪町31-1
TEL:0270-25-2700
FAX:0270-24-6347

特徴

手作業を中心に数多くの工程を経て製作されているので、作品にかかわる職人によって、同じ柄の作品でも出来上がりはそれぞれ微妙に違います。

作り方

作り方は、括り絣、板締絣、捺染加工と多種多様で、2つ以上の技術を合わせて使ったりもします。製造方法も色々工夫を凝らして複雑になっています。

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