近江上布

滋賀県

愛知川の豊かな水と高い湿度といった環境や、近江商人の活躍等により、この地方では鎌倉時代から麻織物が発展しました。
江戸時代には、琵琶湖東岸の彦根市の辺りを支配していた彦根藩の振興によりさらに発展し、安定した地場産業となりました。その頃から染めの技術も大きく進歩し、近江上布独特の上品な絣模様が生まれました。

  • 告示

    技術・技法


    生平にあっては、次の技術又は技法により製織された生織物とすること。

     
    (1)
    たて糸にはちょ麻糸を、よこ糸には「手うみ」の大麻糸を使用した平織りとすること。

     
    (2)
    よこ糸に使用する糸は、水に浸すこと。

     
    (3)
    製織には、「いざり機」を用いること。


    絣織にあっては、次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。

     
    (1)
    先染めの平織りとすること。

     
    (2)
    かすり糸は、よこ糸又はたて糸及びよこ糸に使用すること。

     
    (3)
    かすり糸のかすり及び耳印を手作業により柄合わせ及び耳合わせをし、かすり模様を織り出すこと。

     
    (4)
    かすり糸の染色法は、「羽定規」を用いる「櫛押なせん」又は「型紙なせん」によること。

     
    (5)
    しぼ出しをする場合には、「手もみ」によること。

    原材料

    使用する糸は、ちょ麻糸又は「手うみ」の大麻糸とすること。

     

  • 作業風景

    工程1: 設計

    布のデザインをします。型紙は、色別に作るので、色の数だけ型紙が必要になります。また、型紙と型紙の継ぎ目が出ないように柄の配置を考えなければいけません。

    工程2: 染色

    緯糸を金枠に巻き付ける羽根巻きという作業をします。それに型紙を置いて、駒ベラで染料を置いて行きます。蒸し器で10分程糸蒸しをしたのち、水洗をして乾燥させます。 緯糸だけを染めて、絣の柄にする横絣が一般的ですが、経糸も染める併用絣もあります。また、くくり染め、クシ押捺染め等の染め方をすることもあります。

    工程3: 絣わけ

    羽巻きの時にまとめて巻いていたものを一本ずつに分け巻き直し、綛(かせ)の状態にします。それを、糸枠に巻き直し、さらに小管に巻き直します。これで、緯糸は完成です。

    工程4: 整経

    織るのに必要な経糸の数や長さを調整します。筬通し(おさどおし)を使って筬に経糸を通し織幅に広げます。つぎに綜こうに経糸を通して、緯糸を通す杼(ひ)道を作ります。

    工程5: 手織

    絣模様がずれないように、細心の注意を払って織って行きます。最近では、服地など幅の広い布も手織りするので、高機の種類も多くなりました。

     

  • クローズアップ

    琵琶湖の自然と伝統の芸術、近江上布

    鈴鹿山脈の伏流水が流れ込む愛知川の美しい水と高温多湿の盆地という、麻織物にとって最高の自然環境に恵まれて、七百年もの昔から受け継がれてきた近江上布。近江商人の活躍により、今もなお、多くの愛好家が全国に広がっている。

     

    最後の伝承者

    近江上布の伝統工芸士である大西新之助さんは、その年齢を感じさせないバイタリティーに溢れた方。小柄ではあるものの、大西さんの存在感の大きさは、上布に人生のほとんどを費やしてきた職人の魂の大きさなのかも知れない。笑みを絶やす事なく、目をキラキラと輝かせて、上布について話をして下さる大西さんから、熱い情熱を感じ取る事が出来た。しかし「昔は、15~6軒の家で上布をしていたんですが、今では服地などは機械化され、手織りしているのは、私を含めて2社だけですよ」と、現実は厳しい状況だ。最後の伝承者としても大西さんに寄せる期待は、限り無く大きい。

    大西新之助さん。近江上布と共に人生を歩んで来られた大ベテランの伝統工芸士

    職人としてのこだわり

    寝具店に勤めていた頃から、商品の織物を目にしていた大西さんは、次第に織物に対して興味が湧きはじめた。そんな大西さんの姿を見ていた寝具店の主人は、才能を見抜いたのだろうか、「近江上布を織ってみてはどうか」と勧めてくれたという。能登川の工業試験場で学びはじめ三十七歳の時に独立。近江上布を始めた。麻の繊維は染料が定着しにくく、渋さや涼感を出す為に、寝る間を惜しんで取り組んできた。それでも、商品として出来上がるまでに5年の歳月を要してしまった。上布をはじめ、絣の着物は先染めの糸を織り上げて模様を創るわけだが、製作行程の説明を伺ってもなかなか理解できないくらいややこしいのである。素朴な疑問が湧いてきた。なぜ、後染めではいけないのか。「絣は、表も裏も無いんで、古くなったら裏返して仕立て直せば、さら(新品)のようにして着れるんですよ。昔の人の知恵ですな」

    上布を織る大西さん

    時間と労力の代償

    きもの一たん織り上げるにも、一カ月はゆうにかかってしまう。完成した時の「達成感」はもちろん、何よりも嬉しい時は「お客さんに喜んで頂いた時の笑顔」だと言う。東京などのデパートで展示会をされている大西さんは、直にお客さんと話ができることが、自身の仕事への意欲を高めさせてくれる。また手紙などで、作品の評価を頂く事や、実際に近江まで訪ねてきて下さる方々も多いという。「苦労を忘れてしまいますな」と恥ずかしそうに笑いながらおっしゃった。そして、その笑顔は、プロとして職人として輝いていた。

    近江上布を使った新しい発想

    着物だけには留まらず、大西さんが手掛けていらっしゃる物には、「若い人に親しまれる物」がある。額やタペストリー、テーブルセンターなど、個性的な部屋づくりを好む現代人にも受けている。またネクタイなどは、涼し気で上品で風合いがある。のれんにしても裏表が無いので、どちらから見ても美しい。最近では、幅を広く織る事で、屏風にしたり、服地にしたりと大西さんの上布は、さまざまな物になっていく。「こんなんやってみたらどうかな、それやったらどないしたらええかな。毎日考えてましたら、若さが保てましてな」と大西さんの笑顔は、若さと自信に満ちていた。

    大西さんの新作。幅を広く織るには、専用の機が必要

    こぼれ話

    手おりの里金剛苑

    五千坪の広い苑内には、資料館、金剛庵、染色工房、蚕室、庭園、桑園があります。近江上布や秦荘紬の特性や美しさを、資料や実演を通して広く知る事が出来る施設です。苑内で栽培された藍草を使って織糸の藍染めを見学することができ、見学者が実際に藍染めや秦荘紬などの織り方を体験できるコースも用意されています。現在の製作工程ばかりでなく、織物会館には、近江上布などの制作で昔使われていた居座り機などの道具類も展示されています。そのほか、金剛庵では生活民具が展示されています。

     

概要

工芸品名 近江上布
よみがな おうみじょうふ
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地、帯、婦人服地
主要製造地域 東近江市、愛知郡愛荘町、犬上郡多賀町
指定年月日 昭和52年3月30日

連絡先

■産地組合

滋賀県麻織物工業協同組合
〒529-1331
滋賀県愛知郡愛荘町愛知川32-2
近江上布伝統産業会館内
TEL:0749-42-3246
FAX:0749-29-9045

https://omi-jofu.com

■海外から産地訪問
画像
近江上布~産地訪問記事

特徴

近江上布は、「緯糸絣」と「経緯併用絣」があります。緯糸絣は主に緯糸を羽根巻にして「型紙捺染(かたがみなっせん)」を行います。また、経緯併用絣は両糸に「櫛押捺染(くしおしなっせん)」をし、経糸と緯糸の絣を合わせながら織るので最高級品となります。麻は、水気を良く吸うので、身に付けると涼しく爽やかな着心地です。

作り方

紡績で極細く紡(つむ)がれた糸に絣染めを施します。主な技法に「櫛押捺染」と「型紙捺染」があります。織り上がった反物に「シボ付け」という近江独特のちぢみ加工をし、丁寧に仕上げます。

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