久米島紬

沖縄県

14世紀頃、南方貿易によりインドをルーツとする製織法が伝えられました。
また、中国から養蚕の技法等を習い、島民に教えたのが織物の始まりと伝えられ、日本の紬の発祥の地と言われています。江戸時代初期から明治時代の後半までは、人頭税として紬織物を代納していました。

  • 告示

    技術・技法

    1 次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。
    (1)先染めの平織りとすること。
    (2)たて糸に使用する糸は生糸とし、よこ糸に使用する糸は真綿の手つむぎ糸とすること。
    (3)よこ糸の打ち込みには、「手投杼」を用いること。

    2 かすり糸の染色法は、「手くくり」によること。この場合において、染料はサルトリイバラ、シャリンバイ等を原料とする植物性染料とし、媒染剤は泥土又は明ばんとすること。

     

    原材料

    使用する糸は、生糸又は真綿の手つむぎ糸とすること。

  • 作業風景

    久米島紬は、天然の染料を使い手織りで作られています。糸つむぎ、絣括り、染め、織りの手順で作業は進められます。根気のいる仕事の連続で、織り始めるまでの工程に何カ月もの時間がかかります。泥染めのほか、最後の「砧打ち」も久米島紬の特色のひとつです。木槌でたたくことによって、しなやかな風合いと光沢をまとった布に仕上ります。

    工程1: 糸紡ぎ

    経糸
    繭を煮て柔らかくし、糸口を引き出して必要な本数をまとめ、1本の糸にします。座ぐり機を使い、よりをかけながら巻き取るので、断面が丸く上質の糸になります。糸は小管に巻きます。小管を並べ、回転させながら縦方向にほどいてよりをかけます。
    緯糸
    熱湯で精錬したあとやわらかくなった繭をぬるま湯に浮かべます。繭の頭部に穴をあけ、裏返して手にかぶせます。適当な厚さになったら真綿がけにかけ、角真綿を作ります。ほぐして糸を引き出し、太さを指でそろえながら送り出します。軽く撚りをかけてボビンに巻き取ります。

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    工程2: 意匠設計

    模様を決めます。紬の柄は伝統的なもので、自然や動植物、日常生活から取り入れられています。

    工程3: 絣括り

    ウムクジというイモでんぷんで糊付けした経糸を糸繰りします。必要な長さと本数をそろえるために絣糸の整経をし、張り伸ばします。絣尺を使って絣の部分に印をつけます。ビニールで幾重にもくるみ、その上から湿った木綿糸で括ります。括りが弱いと染液がしみ込んで絣の鮮明さがなくなります。強すぎると絣と地のきわがはっきりしすぎて、絣足のやわらかさがなくなってしまいます。

    工程4: 種糸取り

    緯糸は絵図式によって括ります。図案と絵図台を固定し、糊付けされた木綿の白糸を絵図台にかけていきます。図案通りに筆でていねいに墨付けをして種糸を作ります。緯糸を糸繰りした後、種糸の長さに合わせて整経します。緯糸に沿って種糸を張り、墨印の部分を括ります。

    工程5: 染色

    島に自生する植物染料で染色します。テカチ(車輪梅)、ヤマモモ、クルボウ、グール(サルトリイバラの根)、ユウナなどを使います。湿度が低く糸の乾燥が早い時期に行ないます。
    泥染めの場合
    細かく割ったグールを2、3時間煎じます。熱い染液に糸を30分ほどつけ、日当たりのよい場所に干します。むらができないよう、たえず裏返しながら乾かします。これを一日4、5回、10日間繰り返します。絣足のにじみを出すため、糸は完全に干し上げます。
    グール染めの終った糸を今度はテカチで染めます。一日に6、7回、14日ほど繰り返します。
    その後泥染めをします。泥につけた後、置き干しして水洗いします。一日7回ほど行ないます。終ったらまたテカチ染めをします。思った通りの黒褐色になるまで、泥染めとテカチ染めを繰り返します。

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    工程6: 仮筬通し、巻き取り

    地糸を糊付けし、糸繰りします。必要な長さと本数をそろえる整経をします。図案の通りになるように、地糸をひと目に2本ずつ仮筬に通します。通した経糸をはり伸ばし、くしでとかして、張力を一定に保ちながら巻き取ります。

    工程7: 絣解き

    括った木綿糸をほどき、糊をつけて引き伸ばします。絣柄をあわせ、糊付け、引っ張りをします。緯糸も経糸と同じように絣解きをします。1本ずつ巻きとって小分けします。小管に巻いて織り機にセットします。

    工程8: 織り

    仮筬に通された地糸の間に絣糸を配列します。配列の終わった経糸を織り機の上に置き、2枚の綜絖に1本ずつ通します。そのあと筬に通して織ります。織り始めると1カ月ほどで一反が織り上がります。

    工程9: 砧打ち

    折りたたんだ反物を木綿の布でくるんで木槌でたたきます。布がやわらかくなり光沢が出て、久米島紬独特の風合いが生まれます。この後、湯のしをかければ出来上りです。

     

  • クローズアップ

    紬の里に脈々と伝えられる泥染めの技

    久米島は紬のふるさとといわれている。中国から養蚕を学び、17世紀前半には織りの基礎が固まっていた。祖母と母親から受け継いだ技を、若い人に伝えようとしている桃原禎子さんにお話をきいた。

     

    光沢のある黒の地に茶や黄色の絣(かすり)模様が映える久米島紬。この代表的な配色に使われる黒い地色は、泥染めによるものだ。茶褐色でも赤褐色でもない、しっとりときれいな黒を出すのはむずかしく、一カ月もの間、染めの作業を繰り返す。
    桃原禎子さんにおおまかな手順を教えてもらった。糸をただ泥に入れても黒くはならない。その前に、植物染料のテカチ(車輪梅)かグール(サルトリイバラ)で80回も染める。染めて干してを繰り返すから、これだけで25日かかる。
    糸が茶色く染まると、いよいよ泥染めだ。久米島のおばあちゃんたちは、午前3時に起きて作業を始める。山からとってきた泥を大きなポリバケツに入れ、糸をつけて2時間おく。洗って、またつけて、一日7回ほど行なう。
    翌日、またテカチに染める。そして2、3日して泥染め、テカチ……と繰り返す。泥そのものの色は、灰色がかっていて真っ黒ではない。なのに黒く染まるのは、泥の中の鉄分とテカチのタンニンが反応するためだ。
    島では10月の末から一カ月が泥染めの時期になっていて、一年分の糸を染める。一人ではたいへんな作業なので、「ゆいまーる」といって、近所の人が集まって協力する。そのころは庭先に糸が干してある光景がいたるところで見られる。

    作品を広げる桃原禎子さんの表情は明るい

    久米島は紬の島である。集落を歩けば機の音が聞こえてくる。桃原さんも子供のころ、母親の機の音で目を覚ましていた。中学生のころから手伝い始めた。高校を卒業して岐阜で働いていたが、まもなく沖縄に戻って県の工芸指導所で染織を学んだ。以来24年、久米島紬を織り続け、作品は展覧会で入選するなど高い評価を受けている。
    「布の出来は、括(くく)りと染めでほとんど決まります。」と桃原さんはいう。括りというのは、染める前に、糸の染めたくない部分をひもで巻いて染料が入らないようにすること。4反分の糸を2~4週間かけて括るので、糸で手の皮膚が切れてしまう。そんなきつさを口にしながらも、桃原さんはとても楽しそうだ。
    「私、準備の工程が好きなのよ。糸を機織り機にのせて織り始めるとき、模様が出てくるのがとっても楽しみ。あとは人にあげてもいいくらい」と笑う。
    真綿から糸を紡いで、図案を考えて、括って、染める。ここまでに何カ月もかかるから、織りはもうゴールのようなものなのだろう。計算した通りの絣柄が目の前に現れたときのうれしさは、想像にかたくない。
    「小さいときから触っているから、覚えるのに苦労はしなかったんだけど、やっているうちに本当のむずかしさがわかってきました。満足できる作品はまだありません。いい色が出なかったとか、糸が太すぎたとか、どうしても不満が残りますね。」
    桃原さんは今、昔の色柄を再現しようとしている。17世紀、琉球王府が久米島の女性に貢納布として久米島紬を織らせたとき、色柄を指定するために送った図案集「御絵図帳」にのっているものである。
    「昔のほうが色が豊富なんです。手がこんでいるし、柄も今より複雑。おもしろいですよ。」
    次の作品への意欲のほうが大きくて、苦労などものともしていないようだった。

    • 織り始めるとすぐに集中する。動作は速い

    • 御絵図帳の図案をひとつずつ復元している

    職人プロフィール

    桃原禎子 (とうばるていこ)

    1954年生まれ。作品は沖縄県工芸公募展などに入選している。指導者としても活躍している。

    こぼれ話

    始めから終わりまで一人でできる醍醐味

     

    • 左手前がグール、右がテカチ

    • 染織は体力的にもたいへんな作業です

     

概要

工芸品名 久米島紬
よみがな くめじまつむぎ
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地、洋装、帯、テーブルクロス、のれん、小物類
主要製造地域 島尻郡久米島町
指定年月日 昭和50年2月17日

連絡先

■産地組合

久米島紬事業協同組合
〒901-3104
沖縄県島尻郡久米島町字真謝1878-1
つむぎの里ユイマール館
TEL:098-985-8333
FAX:098-985-8970

http://www.kume-tumugi.com/

特徴

地色が渋いので、帯を変えれば親子2代でも3代でも着用できます。現在は夏久米島織も商品になっています。紡ぎ糸の持つしなやかな風合と植物染料と泥染めによる深いこげ茶色の色合いは、身に着ける人の体をすんなりと包み、その人の肌の色を白く写します。

作り方

蚕から取った絹真綿を紡いだ糸を原料とし、染色は草木、テカチ、グールー、琉球柿等で染めます。すべて手技で、手織りによるものです。手投げ杼(ひ)による手織ですので二本のふみ木を上下することによって一本一本が丁寧に合わされ、独特の絣模様が出来上がります。

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