琉球絣

沖縄県

沖縄の織物の始まりは、14~15世紀の中国や東南アジアとの交易がきっかけとされています。
南方系の絣から生まれた幾何学文様が主体となっています。本格的な織物の産地となったのは大正時代です。沖縄独自の伝統の技術・技法が行き渡り、現在に至っています。

  • 告示

    技術・技法


    次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。

     
    (1)
    先染めの平織りとすること。

     
    (2)
    よこ糸の打ち込みには、「手投杼」を用いること。


    かすり糸の染色法は、「絵図」、「真芯」、「手くくり」又は「手摺り込み」によること。

    原材料

    使用する糸は、生糸、玉糸、真綿のつむぎ糸、綿糸又は麻糸とすること。

  • 作業風景

    琉球絣は、図案に合わせて糸を括って染め、織るという手順で作られます。16の工程があり、一反を仕上げるのに約1カ月かかります。各工程は分業で専門的に行なわれています。糸はほとんど絹糸が使われます。図案は、伝統的な絣の柄を基本に、大きさや配置を変えたり、いくつか組み合わせたりして作ります。絣模様を括って染めるときに、絵図式という方法を使い、織る人が早く織れるようにしています。

    工程1: 意匠設計

    伝統的な絣の柄を組み合せて新しい図案を生み出します。

    工程2: 整経

    図案を元に、必要な長さの経糸、緯糸をそろえます。織物の反数と織り縮みを計算して長さを決めます。

    工程3: 絣括り

    整経し、糊付けして張り伸ばした経糸に、真芯を行ないます。図案に従って絣の種類ごとに経糸の本数をそろえ、上下に引きずらします。括りは手でやるので力がいる作業です。

    工程4: 染色

    糊を落としてから染めます。植物染料は鍋染め、化学染料は主として綛糸染色機を使います。藍は本島北部でとれる琉球藍を使います。染色後、再び糊付けして張り伸ばします。

    工程5: 絣解き

    絣の括り糸を解きます。真芯を解き、図案通りに絣を配列して張り伸ばします。

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    工程6: 筬通し

    絣糸と地糸を図案通りに割り込んだあと、筬に通します。糸をひとつの目に2本ずつ通していきます。

    工程7: 巻き取り

    糸がもつれたりたるんだりしないように巻いていきます。動力化して作業のスピードと正確さを高めています。

    工程8: 綜絖がけ

    既製の綜絖は使わず、経糸に糸をかけて綜絖を作り出します。かけ終わった経糸を機に取りつけます。

    工程9: 種糸取り

    緯糸には、種糸を取る絵図式を用います。種糸で印をつけた部分を括り、染色します。糸を1本1本分ける絣分けをして、ヤーマを使って小さな管に巻きます。

    工程10: 織り

    手なげ杼に緯糸をセットして織り始めます。織り上がったら、水洗い、湯のし、幅だしをして干し、完成します。

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  • クローズアップ

    祖母と父が残してくれた宿題に取り組む

    東南アジアとの交易によって伝えられた絣は、沖縄から日本各地に広がっていった。沖縄の織物にはたいてい絣柄が取り入れられている。一大産地である南風原町で作られたものを琉球絣と呼んでいる。

     

    絣の柄は暮らしの道具や動植物から

    十種類もの織物がある沖縄で、圧倒的な生産数をほこるのが琉球絣である。秘密は、分業制と合理的な手法を取り入れていること。絣を括るときに「絵図式」という方法をとるので、織り手は絣模様のズレをさほど気にしないですむ。1週間で一反というスピードで織ることができるのである。
    分業は、デザインと絣括り、染め、織りの準備、織り、と分れていて、何人もの人の手を経て完成する。大城織物工場でデザインと染めに取り組む大城哲さんにお話をきいた。
    琉球絣の柄は500種類もある。トウイグワァ(つばめ)、ティズクウン(げんこつ)、ジンダマー(銭玉)、コウリグム(雲)など、身の回りの品や動植物を図案化したものだ。
    「伝統的な柄はくずせないので、配置や大きさを変えたり、組み合わせたりしてデザインを決めます。新しく考えるというよりアレンジですね。祖母や父の時代に作られていた見本があるので、それを見ながら今の時代に合ったものにしていきます。」
    哲さんは90年に父の清栄さんから家業を継いだ5代目。祖母のカメさんも大胆なデザインをする作家としてよく知られていた。
    「うちには、おやじのころ、ばあちゃんのころ、もっと前の見本もある。たくさん物を見ないと新しいデザインは浮かんでこないから、これは強みですね。」という。

    日本伝統工芸展の入選作

    微妙な変化が出る草木染めの魅力

    祖母の血をひいたのか、哲さんの作品は色使いが大胆だ。草木染めが基本だが、それだけにこだわってはいない。
    「私は化学染料を使ってもいいと思っています。草木染めでカバーできる色の範囲は狭いし、最近は染材を手に入れることがむずかしくなってきています。山で簡単に木を切ってくるわけにもいきませんから。」
    黄色が出るフクギの皮が手に入ると、ストックしておく。月日がたつと、染まる色がレモンイエローから渋い色に変っていく。哲さんは、そんな微妙な変化が起きる染めがおもしろくて仕方ないようだった。草木の場合、相思樹、ヤマモモ、イジュ、ティカチ、ゲッキツ、ホルトの樹などを、銅、鉄、みょうばんで媒染して色を出す。染材と媒染の組み合わせ、回数によって何千通りもの色が出る。つきることはない。染めだけで一生かかるという。

    斬新な色づかいは哲さんの持ち味

    昔の高い技術に追い付きたい

    糸がうまく染まっても、思った通りの作品になるわけではない。
    「色も柄も、自分が思い描いていたものとピッタリ重なることはほとんどありません。いいのができたなと思って織ってみるとアレッとなったり。逆に意外によかった、というときもありますけどね。」
    経糸と緯糸が重なって初めて布は生まれる。括りや染めの成果は、織ってみないとわからないのである。
    「祖母と父の時代に作った、ものすごく細かい絣があるんです。今の目標はこれですね。各工程にプロフェッショナルがいてできたものなんですが、自分の染めの技量がまだ追い付かない。技術というのは、その人が確立していく部分が大きいから、やっぱり経験しかない。昔の技術力はすごい。やらざるをえません。」
    と哲さんは力強く話していた。

    藍甕が床に埋めこまれた染色の仕事場

    職人プロフィール

    大城哲 (おおしろさとる)

    1963年生まれ。日本伝統工芸展に入選。日本工芸会正会員。

    過去の作品の見本帳を眺める大城哲さん

    こぼれ話

    琉球絣の町、南風原町で親子3代

    那覇市の隣に位置する南風原町は、琉球絣の産地として知られています。「沖展」などの展覧会に出品している大城廣四郎織物工房の大城一夫さんも、機の音を聞きながら育ちました。子供のころから父親の廣四郎さんの手伝いをし、デザイン、括り、染めの仕事について32年になります。
    「町の人もみんな織りの仕事をしていましたから、ごく当たり前にこの世界に入りました。だんだん物作りのおもしろさにはまっていきました。」といいます。
    南風原町は戦後、織物によって沖縄の中でもいち早く復興をとげました。「沖縄中部、北部は米軍関係の仕事をする人が多かったのですが、ここには基地がなく、昔からあった織物に力が注がれたのです。」
    機や材料は失いましたが、技術は残りました。戦前の産地だった那覇の泊からも技術を持った人が集まってきました。効率のよい分業体制で、絣括りに合理的な手法を取り入れることで、手織りながら生産数を増やすことができました。現在は、年間約5500反が作られています。
    一夫さんは、「作るのは楽しいが、売れないとどうしようもない。職人というのは、売れたときがうれしいんですよ。」と笑います。一緒に仕事をしている息子の拓也さんは、デニム地の絣を作って東京のファッション関係者からも注目を集めています。南風原からは常に新しい動きが出ています。

    • 藍と白のコントラストが美しい見事な一枚

    • 熟練した手さばきで絣を括る大城一夫さん

     

概要

工芸品名 琉球絣
よみがな りゅうきゅうかすり
工芸品の分類 織物
主な製品 着物地
主要製造地域 那覇市、島尻郡八重瀬町、島尻郡南風原町
指定年月日 昭和58年4月27日

連絡先

■産地組合

琉球絣事業協同組合
〒901-1112
沖縄県島尻郡南風原町字本部157
TEL:098-889-1634
FAX:098-889-2275

http://ryukyukasuri.com/

特徴

沖縄の自然や動植物の名前を取り入れた図柄が多く、今でも方言名で呼ばれています。主として絹糸を使用し、染料は草木染の他、化学染料等が使われています。反物を中心に織られており、夏物の壁上布(かべじょうふ)も生産されています。

作り方

経糸、緯糸、それぞれ決められた図柄によって手括(くく)りで仕上げられ、これを染色し、その後括られた部分をほどいて絣模様を作り出し、木製の高機(たかはた)に乗せて、手投げ杼(ひ)によって織り上げています。

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