八重山上布

沖縄県

17世紀初めに現在の鹿児島県西部にあたる薩摩に琉球が侵攻され、課せられるようになった人頭税のために織ることを強制されたことが、八重山上布の技術の向上につながりました。
人頭税廃止後の明治の終わりに組合が結成され、産業としてたいへん盛んになりました。しかし、昭和の大戦で一時途絶えてしまい、戦後は数名でほそぼそと続けられていました。

  • 告示

    技術・技法


    次の技術又は技法により製織されたかすり織物とすること。

     
    (1)
    先染めの平織りとすること。

     
    (2)
    よこ糸の打ち込みには、「手投杼」を用いること。


    かすり糸の染色法は、「手くくり」又は「手摺り込み」によること。

    原材料

    使用する糸は、ちょ麻糸又は「手うみ」のちょ麻糸とすること。

  • 作業風景

    糸の原料の苧麻(ちょま)の栽培から、染めて織るところまで、手作業で行います。染め方には、手で糸を括(くく)って染料につける括染(くくりぞめ)と、竹の筆で染料を刷り込む捺染(なっせん)の2種類があります。絣(かすり)の柄は、水の流れ、鳥、蛍など、身近な生き物や生活の道具を図案化したものです。上布を税として納めていた時代に、首里の王府から指示書として送られた御絵図帳の図案が今も引き継がれています。

    工程1: 苧麻から糸をとる

    苧麻はイラクサ科の植物で、年に4、5回収獲できます。刈り取ったら数時間水に浸し、表皮の内側にある繊維を、切れなくなった小刀などでしごき取ります。陰干しした後、水でしめらせながら、爪先で細かくさいて紡ぎます。経糸(たていと)は糸車でよりをかけます。緯糸(よこいと)は紡ぎながら手でよりをかけます。一定の太さにしなくてはならないので、経験と根気がいる作業です。80代のおばあちゃんたちが中心になって紡いでいます。

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    工程2: 整経

    図案に従って、地の部分になる地糸と、絣の部分になる絣糸にわけて、本数と長さを計算して整えます。絣のずれと染めのしみ込みを防ぐため、のりをつけ、引き伸ばして干します。

    工程3: 括り(括染の場合)

    地の部分が染まらないように、定規板で糸に印をつけ、木綿糸やビニールひもでしっかり括ります。そのあと、湯水に入れて、染める部分ののりを落とします。

    工程4: 染色

    染料は自生するものがほとんどで、八重山特有のクール(紅露、和名はソメモノイモ)、フクギ、相思樹、インド藍などが使われています。

    クール
    皮をむいておろし、煮出してこした液を染料にします。赤褐色の色が濃いほど良質です。液に糸をつけて染め、発色をよくするために、ミョウバン、石灰水、木灰水、鉄などを使って媒染を行います。
    相思樹
    葉を煮出して染液を作ります。布でこした液に糸をひたして染めます。発色をよくするために媒染を行います。生成りから鮮やかな黄色まで、何種類もの色が出ます。
    インド藍
    枝ごと刈り取って水につけ、重しをして一昼夜おきます。枝を取り出し、液に石灰をまぜてかきまぜると、石灰と化合した藍の色素が沈殿します。上澄みを捨てます。この作業を繰り返して沈殿藍を作り、甕に入れます。木灰水、水などを加えると、約10日で発酵を始めます。藍がめに糸を入れ、取り出して空気に触れさせながら染めます。数回繰り返して染めます。

    工程5: 綾頭(あやつぶる)巻き取り

    染めて括りをほどいた絣糸を張りのばし、図案の通りに筬に通します。厚紙をはさみこみながら、絣の柄がずれないよう綾頭に巻き取ります。

    工程6: 捺染の場合

    クールをすりおろして、しぼった汁を天日に干して濃縮液を作ります。これが染液になります。緯絣の糸の数を計算し、織り幅の木枠にかけて、柄になる部分に竹筆で刷り込むように染液を刷り込んでいきます。仮筬通しをした絣糸は、綾頭に巻き取ってから捺染します。

    工程7: 地頭(じいつぶる)巻き取り

    仮筬通しをした地糸を、厚紙をはさみこみながら地頭に巻き取ります。

    工程8: 織り

    捺染された綾頭を機の上のほうに、地頭を下にセットし、綜絖と筬に通します。八重山式高機は綾頭と地頭に分れているので、巻き取りなどの作業がしやすく、重りで調節されているため、織りむらが出にくくなっています。機全体が短く、経絣のずれが少ないのも特長です。

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    工程9: 海ざらし

    天日乾燥、色どめをしたあと、海水にさらします。白上布がより白くなり、絣の色を定着させる効果もあります。海と太陽を利用した八重山ならではの手法です。

    工程10: 杵たたき

    洗い張りした上布を丸太に巻き、木綿の布の上から杵でたたきます。つやが出て、風合いや肌触りがよくなります。

     

  • クローズアップ

    熱帯の自然に育まれた繊細な美しさ

    手紡ぎの麻糸で織られる八重山上布は、サラッとした手触りと涼やかな色柄が身上。夏の着物として人気が高い。優れた作品でいくつもの賞を受賞している新垣幸子さんに、八重山の自然と上布についてうかがった。

     

    琉球王府の時代、八重山は染料の供給地だった

    新垣さんの作品には、若葉をわたる風のような清々しさと、自然をいつくしむやさしさが感じられる。たとえば、沖縄の美術工芸家が集う「沖展」の今年の出品作。緑色の濃淡の地に白の絣がなんともさわやかな一枚だった。
    「こちらは、1月下旬から2月いっぱいが山が美しいんです。若葉で明るくなります。一番好きな木は相思樹。葉が細くて木漏れ日がとってもきれい。よく木漏れ日を見にでかけましたよ」
    山を歩くのが好きという新垣さんは、上布は八重山の自然の産物だということを、控えめな口調で語ってくれた。
    八重山は、植物の分布で見ると熱帯の北限なのだという。だから、沖縄本島や宮古島にはない染料植物が手に入る。たとえばクール(紅露、和名はソメモノイモ)。芋のようなもので、刻んだりおろしたりして、絞った汁で染める。ほかの染料のように煮出す手間がいらない。琉球王国の時代には、王府の指令で久米島に出荷していたそうだ。

    八重山式高機で上布を織る新垣幸子さん

    植物で染めた色には、いやな色がないんです。

    ほかの染料も豊富で、山や庭にあるものを無理なく使っている。新垣さんは、フクギという木の皮を煮出した黄色と、藍を重ねて染めて緑色を出す。
    「緑の作品が多いので、好きなんですかと、よく聞かれるんですけどね、とくに好きというわけではなくて、たまたまフクギがたくさん手に入ったから染めたんです。」
    フクギは屋敷の防風林としてあちこちに植えられている。百年、二百年のものは、抱えきれないほどの大木になる。家を建て替えるときなどに、切り倒されるという話を聞きつけると、その家に皮をもらいにいく。幹は器を作る人たちが使う。見事なリサイクルである。庭のクチナシの実がいっぱい取れたときは、それを染料にする。台風のあと山にいったら大きなシイの木が倒れていて、染めてみたらきれいな銀鼠(ぎんねず)が出た。新垣さんは、「植物で染めた色はいやな色がないんです。みんな美しい色なんですよ。」という。

    この地域独特の染料、クールの断面

    コバルトブルーの海と太陽が布を白くする

    染料以外の条件もそろっている。石垣島は水がいい。これも染織には大切なこと。道具の面では、山があって材木が切り出せるので、昔から指物大工さんが多かったことが役に立った。機が改良されて、沖縄県で初めて高機ができたのがこの地域だったという。
    おしまいはコバルトブルーの海。織りあがった布は海水と天日にさらされて白さを増す。八重山上布特有のやわらかな白は、この「海ざらし」から生まれるのである。どこまでも透明な海に白い布が揺れる光景は、南の島ならではのものだ。

    海ざらしによって上布特有の白さが出る

    古典をふまえつつ、顔の見える作品を

    八重山上布は個性豊かだ。図案から、染め、織り、仕上げまでを一人が担当する。
    「一人一人が顔の見える作品を作っています。自分の体を動かせば、ひとつのものが出来上がるという喜びがあります」
    難しい括りや、単調な作業を乗り越えて完成したものは、苦労を帳消しにしてくれるという。新垣さんに今後の抱負を聞かせてもらった。
    「古典柄を見るとホッとするんですね。不思議な力があるんです。古典柄を復元していきたいですし、沖縄らしさをうまく取り入れた作品ができたらいいなと思っています」糸と向き合って30年。まだまだやりたいことがつきない様子だった。

    • 新垣さんの作品

    • 新垣さんの作品

    職人プロフィール

    新垣幸子 (あらかきさちこ)

    1945年生まれ。
    途絶えていた括染の八重山上布を、研究の末、見事に復活させた。作品は高く評価されている。

    こぼれ話

    失われた「括染」を復活させるまで

    「茶と白しかなかったところに、色が入ってきました。みんな色を使いたいから、括染をやる人がどんどん増えていったわけです。」
    捺染のほうも、海ざらしを復活させたことで品質がよくなりました。「ミリ単位の柄など、括染ではできないものが捺染ではできるんです」と松竹さん。今では絣の細かい繊細なものが作られています。白地に茶絣の捺染と、色とりどりの括染。二つの上布は今、個性を競いあっています。

    • 括染の復活でいろいろな色が出せる

    • 上布で作ったミニシーサーは若者に人気

    • 苧麻(ちょま)から手で紡いだ糸を使う

     

概要

工芸品名八重山上布
よみがなやえやまじょうふ
工芸品の分類 織物
主な製品着物地、帯、タペストリー、のれん
主要製造地域石垣市、八重山郡竹富町
指定年月日平成1年4月11日

連絡先

■産地組合

石垣市織物事業協同組合
〒907-0004
沖縄県石垣市字登野城783-2
TEL:098-082-5200
FAX:098-082-5200

特徴

図柄は他の沖縄織物と同じ琉球絣を用います。緯糸は手紡(つむ)ぎの苧麻(ちょま)で織られ、植物染料で染められ、手織りで生産されているので、微妙に色彩等が異なり、一つとして同じものはありません。また肌触りが良く、涼しげで夏用の着物として最適です。

作り方

糸は年に数回取れる苧麻の手紡ぎ糸を用い、染めは全国的にも知られる手括(くく)りの技法に加え、石垣島が北限と言われる紅露(クール)と呼ばれる植物染料を使い、捺染(なっせん)による染色も行われています。最後に海水に5時間ほどさらして仕上げます。

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