東京手描友禅

東京都

江戸時代中期、武家政治の中心として文化や経済がともに栄えた江戸には、「くだりもの」と言われる関西方面からの産物が、たくさん集まってきました。こうした時代の流れにのって大名のおかかえ染師(そめし)等が多く江戸に移り住むようになり、
各種の技法が伝えられました。町人が経済の主導権をにぎるようになるとともに、町人文化が発達して、粋やさびといった感覚が一般的になり、模様絵師による手描友禅が発展しました。

  • 告示

    技術・技法


    下絵は、青花等を用いて描くこと。


    防染をする場合には、糸目のり、「白付けのり」、「堰出しのり」、伏せのり又はろう描きによること。


    「挿し」及び描き染めには、筆又は、はけを用いること。


    紋章上絵をする場合には、手描き又は紋章彫刻をした型紙を用いる刷り込みによること。


    刺しゅうをする場合には、手刺しゅうによること。

    原材料

    生地は、絹織物とすること。

  • 作業風景

    日本の代表的な着物、手描友禅は、四季折々の景色や植物などを図案化して一筆一筆丹念に手で色を挿し、絹織物に染めたものです。手法は京・加賀などと同じですが、江戸の気風を反映したいき・渋さ・洒脱な雰囲気が、東京の友禅の大きな特徴。今では明るい色調も取り入れて、現代風な仕上がりになっています。

    工程1: 構想・図案

    着る人の個性や季節に合わせて図案を考え、着物を一枚の絵画に見立てて和紙にラフスケッチを描きます。そして全体の構図・文様の展開・色調・各工程の技法まで、綿密な構想を練っていきます。場合によっては、素描きだけではなく彩色することもあります。

    工程2: 下絵

    青花液を筆に含ませ、着物の形に仮縫いした生地に、構想・図案にしたがって模様を線描きしていきます。青花液の原料は紫露草の花汁、水で洗うときれいに落ちます。仕上がりの絵柄のよさを決定する基本的な工程です。

    工程3: 糸目糊置き

    渋紙でつくった筒の先に先金をつけて友禅糊(糯糊(もちこ)・糠・塩を混ぜたもの)を入れます。下絵を描いた模様の輪郭に添って、筒から糊を絞り出しながら生地の表面に置いていきます。これは、他の模様部分と染料が混じったりにじんだりしないための防染工程、仕上がりに影響する大切な作業です。染め上がったとき、糊の線が糸を引いたように白く残ることから「糸目」と呼ばれています。

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    工程4: 手描友禅挿し

    糸目糊置きした模様の内側に、小さな刷毛や筆で染料液を色挿ししていきます。色がにじまないように火であぶって乾燥させながら行うため、暑い盛りは大変な作業。染料のもつ性質を考えながら色合わせをしたり、全体の色の調和を整えたりと、最も重要な工程です。色の濃淡・陰影の美・他の色とのぼかし合わせ・配色の妙など、職人にとっては自分の色彩感覚や美的センス、技などの見せ場となる工程です。

    工程5: 糊置伏せ

    地色の染料と混じらないための防染工程です。色を挿した模様の部分に、糊(糯糊と糠を7対3の割合で練ったもの)を置き、その上に糠を蒔きます。糊を置くときに使うへらは、職人自らが檜の板を削り出してつくります。

    工程6: 引染

    生地の地を染めます。大刷毛に地色の染料を含ませ、生地をピンと張って、染料液が均一につくよう一気に全体を染めていきます。大刷毛・小刷毛を使って種々のぼかし染をする技法もあり、熟練した高度な技術を要します。

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    工程7: 蒸し・水洗

    紙に挟んで枠にかけ、100度の蒸気で20~25分間蒸します。これによって、染料が生地に定着するのです。そして水洗、余分な染料や糊を洗い流していきます。昔は川で水洗(友禅流し)をしましたが、現在ではその風景もほとんど見られなくなりました。洗った後で生地が乾くと、糸目の白い輪郭が浮かび上がり、色模様がぐっと引き立ちます。

    工程8: 湯のし

    蒸気で熱した金属製のドラムに生地を通し、湯のしを行います。生地のゆがみを直して、丈や幅を一定に整えるための作業です。

    工程9: 仕上げ

    染め上がった模様の部分を、筆や刷毛などで補正して仕上げます。また、模様をいっそう引き立たせるため、部分的に金銀箔などを固着させたり、刺繍を施したりします。技法にもよりますが、1カ月~数カ月で、一枚の手描友禅が仕上がります。

    工程10: 紋章上絵

    家紋が必要な場合は、でき上がった友禅の上に専門の紋章上絵師が手描きします。切手ほどの小さな平面のなかに精緻な紋様を墨で描いていく、熟練を要する技術です。

     

  • クローズアップ

    渋くていきな東京手描友禅は、時空を超えて

    200年前、京の都から江戸の町に伝わった手描友禅。町人の気風に合わせて表面は渋く地味に、隠れたところに洒落心を活かしながら変化を遂げていった。その柔軟性こそ、東京の友禅が新しい時代に求められ続ける理由かもしれない。

     

    江戸っ子の反骨精神を表していた、江戸友禅

    「昭和も早い頃までは、川で友禅流しをする光景が見られたんですよ。今はもう、古き良き時代の遠い記憶になってしまったけれどね……」
    物心ついたときから絵を描くことが好きで、おもちゃのかわりに白い紙ばかりほしがっていた、という安達雅一さん。神田で染色工芸を創業した父に触発され、大学を卒業するとすぐ友禅染めの技法の手ほどきを受けた。
    京友禅が多色多彩できらびやかであるのに比べ、江戸友禅は渋くて地味である。江戸の町で友禅が町民の間に広く行き渡ったのは文化文政(1804~30)の頃。武士が凋落して商人が台頭し、江戸の文化は爛熟期を迎えていた。幕府は階級ごとに食事や着物などについて厳しい規制を敷き、とくに町人には華美な服装を禁じたのだ。町人たちは表向きはお触れに従ったかのように、無難で地味な縞模様などの着物をまとった。
    「ところが、吉原へ遊びに行くときなど、羽織りの裏をひょいと返せば華やかな金銀をあしらった生地がお目見えする。きっかけは権力に対する反骨精神だったものが、ふだんは隠れていて見えないところにこそお洒落をする、江戸っ子の粋に通じていったんだねえ」

    安達雅一さん。ここ15年来、友禅教室を月に数回開いている。友禅の技術・技法を後世に伝えるためと、後継者育成のため

    心動かされるものを着物に写しとっていく

    爾来200年。今、東京の友禅は、多分に現代絵画の発想に近づいている。そもそもは「何を描くか」がテーマだったが、現代では「いかに描くか」に焦点が当てられるのだ。図案は花鳥風月であっても、単なる写実に終わるだけではない。自分ならではの花や鳥を表現するため、目に見えない発想の部分を重視し、着物自体に物語性をもたせるのだという。
    「もちろん、写実という基本的な技術をなおざりにしてはいけません。私自身、デッサンの練習は今でも欠かさないしね。向島の百花園、本郷の後楽園、六義園、皇居の東御苑なんかに、よくスケッチしに出かけていきますよ。」
    技術の上に何を積み重ねていくか。それは、職人個人個人の感性と発想力の豊かさにかかっている。安達さんは、どこへ行くにも常にアンテナを張り巡らせているという。
    「麗しいもの、哀れを誘うもの……その瞬間瞬間でたくさん感じるものがある。たとえば、京都からの帰り道、ふと目に止まった黄昏時の近江富士、どんな名所旧跡よりも心に響いてきたね。そんなふうに心動かされるものを、着物に写しとっていきたいんですよ。」

    「うつし糊絵」技法が使われた作品。友禅特有の糸目の線がなく、文様の境はすべて色彩で分けられているため、独特の質感と立体感がある。まるで油絵のような雰囲気だ

    伝えるためには、変わっていくことも必要

    安達さんには、友禅を通して世の中に語りかけたいことがある。もはや右肩上がりの経済成長はありえない、ゼロ成長の時代をどう生きるか――。
    「本物の技術でつくられたいいものを大切にして、あなた一人の代で終わらせず、子供さんやお孫さんに手渡すことを考えてほしい。ものと一緒に価値観をも次の世代へ伝えていく。それが本当に豊かだということなんじゃないでしょうか。」
    そのためには、伝統工芸も変わっていかねばならないというのが安達さんの持論だ。伝統の技法を用いながらも、新しい時代の感覚に添うよう自己改革すべきではないか、と。ときには、既製の概念をいったん壊すことも必要になるだろう。発想の豊かさを強調する安達さんの創造力は、とどまるところを知らない。何と今、縄文にハマっているという。
    「縄文文化に触れていると、肌で土の匂いを感じて胸が高鳴りますね。デザインソースは1万年前のものだけれども、友禅という作品として高めるときは私独自の表現でなければならない。一度壊して再びつくり上げていく、それは心踊る仕事ですよ。」
    かつて京から江戸へと伝わったとき、友禅は土地の気風に合わせ融通無碍(ゆうずうむげ)に変化していった。今また、時代は大きな変わり目を迎えている。どうやら東京の友禅には、時空を軽々と飛び超える翼があるらしい。友禅を愛したゆまぬ創造を続ける人、その物語に引き込まれ袖を通したいと願う人の対話が途切れぬ限り、東京手描友禅は再生を繰り返しつつ後の世まで伝わっていくことだろう。

    • 縄文からひらめいた日展出品作品「聖跡創生」。古代シリーズはほかにも「古代の時層」「古代家族」「古代追想」「古代の聖跡」がある

    • 一筆一筆、丹念に色を挿していく。

    • 安達さん独特の「うつし糊絵」技法。糊と染料を混ぜ合わせたものを糊筒に入れ、乾いては挿し乾いては挿しを繰り返す。友禅では重ね挿しは色が濁るから邪道とされていたが、あえて伝統の禁忌(タブー)に挑戦した

    職人プロフィール

    安達雅一

    1935年生まれ。
    父とともに完成させた「うつし糊絵」は、従来の友禅の既成概念を打破する画期的な技法。友禅染だけでなく、染屏風の分野でも活躍。

    こぼれ話

    隅田川や神田川に沿って発展をとげた、江戸の友禅染め

     

    • あでやかな華をテーマに描かれた東京の友禅。2点とも、安達雅一さん作

     

概要

工芸品名東京手描友禅
よみがなとうきょうてがきゆうぜん
工芸品の分類 染色品
主な製品着物地、羽織、帯
主要製造地域特別区全域他
指定年月日昭和55年3月3日

連絡先

■産地組合

東京都工芸染色協同組合
〒161-0032
東京都新宿区中落合3-21-6
TEL:03-3953-8843
FAX:03-3953-8898

http://www.tokyotegakiyuzen.or.jp/

■海外から産地訪問
画像
東京手描友禅~産地訪問記事

特徴

江戸は当時から現代まで、大消費地として洗練されたファッションが求められてきました。東京手描友禅は、そうした土地柄を背景に色数をおさえた粋なデザインを特色とし、地味な感じの中にも明るい色調と新しさのあるデザインを特徴としています。

作り方

東京手描友禅には、大別して糸目友禅、蝋纈染(ろうけちぞめ)、無線描(むせんがき)の3通りの技法があります。いずれも防染技法による染色です。現在は、染上がりに、白い糸のような線が鮮やかに浮き上がる糸目友禅が主流です。

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