伝統工芸 青山スクエア

京黒紋付染

京都府

黒染の歴史はたいへん古く、10世紀まで遡りますが、黒紋付染として確立したのは、17世紀の初めと見られています。
江戸時代の中期以後は藍等で下染した「びんろうじ染」が中心となり、武士階級で黒紋付が愛用されるようになりました。明治時代に入ると、紋付羽織袴が国民の礼服に制定されたことで大いに広まりました。またイギリスの染色技術を習得し、フランスやドイツの染色を研究した結果から、手間のかかる「びんろうじ染」に代わって、現在の黒浸染(くろしんせん)と、「三度黒(さんどぐろ)」及び「黒染料(くろせんりょう)」の2つの技法による黒引染(くろひきぞめ)が確立しました。

  • 告示

    技術・技法


    紋章糊置きには、「糊筒」又は「糊板」を用いること。


    染色は、次のいずれかの技術又は技法によること。

     
    (1)
    浸染にあっては、紅又は藍の下染をした後、本染をすること。

     
    (2)
    引染にあっては、次のいずれかによること。

     
     

    「三度黒」による場合は、植物性染料を主染料とし、これと媒染染料等により、それぞれ2回以上の引染をすること。

     
     

    「染料黒」による場合は、紅又は藍の下染をした後、引染をすること。


    紋上絵をする場合は、手描き又は紋彫刻をした型紙を用いる刷り込みによること。

    原材料

    生地は、絹織物とすること。

  • 作業風景

    工程1: 検品

    生地にスレやオレがないか調べます。

    工程2: 墨打ち

    紋の位置を決めて青花(墨)で印を付けます。

    工程3: 紋糊置き

    防染のために、紋が入る部分に餅米を糊状にしてを両面に置きます。

    工程4: 枠掛け(侵染)

    糊が乾燥したら、生地を枠の針に掛けていきます。染ムラができないように、生地の間隔が空くように枠は作られていますので、生地をピンと張るように掛けていきます。

    工程5: 下染め

    黒の深みを出すために 紅下染や藍下染を黒染の前にします。この行程で、京黒紋付染の雅やかで品のある黒に染めることができるのです。

    工程6: 黒染め

    生地の種類や目方に合わせて、染浴を作ります。95度に設定された染浴の釜に浸して染色します。この時にも、染ムラができないように、何度も釜から引き上げます。熟練された職人であれば、釜から引き上げた時に、染まり具合が判ると言います。

    工程7: 水洗い・紋洗い・乾燥

    染加工中の余分な染料を洗い流します。また、防染のために置いておいた糊を外し、紋場のにじみや汚れを洗い流し、乾燥させます。最近は、乾燥を機械でするようにしています。

    工程8: 整理

    染め上がった反物の風合いと柔軟さを出します。そしてさらに、防水加工を施します。

    工程9: 湯のし

    染加工中に、縮んだりよれたりした生地を、元に戻す作業です。蒸気を当てながら、両端を針で引っ張り、ローラーで回転させます。

    工程10: 紋上絵

    紋場に家紋を墨で描いていきます。とても細かな作業ですので、筆や竹コンパスを使って丁寧に描く、集中力のいるところです。

    ※染の技法には、侵染の他に黒引染もあります。
    黒引染は、張り木で反物の両端を張り、3~40センチおきに伸子(しんし)針でたるみを引っ張ります。
    そして、黒染料をハケで引くように染めていきます。この時、表裏表を一行程として、三行程行います。一度目は植物染料を使ったログウッド引染め、二度目はログウッドに種々の媒染剤を加えた還元液のノアール引染め、三度目にログウッドの酸化発色に用いる重クロム酸引染めをします。こうして三回染めることを三度黒と言います。京黒紋付染でも使う事もありますが、多くは京友禅などに使われる技法です。

     

     

  • クローズアップ

    黒の極み、京黒紋付染

    飛鳥時代に大陸から伝わった黒染の技術。より完成された技法へと技術は革新され、今もなおその品格と雅やかな黒染を現代に伝えている。全国の95%以上のシェアを持つ京黒紋付染。その伝統工芸士である佐藤正憲さんに話を伺った。

     

    水の恵み

    佐藤さんを訪ねて、西洞院を歩いていると、「黒染」の看板が町家のあちらこちらにかかっているのを目にする。多くの染業者が昔からこの地で営んできたのだ。なぜなら、黒染めにとって重要な役割を持つのは水だからである。井戸から汲み上げられる硬質の水は、堅牢度を増すばかりでなく、黒を一層引き立てる力を持っているのだ。

    染め職人への憧れ

    もともとは、西陣で帯の販売をしていた佐藤さんだが、「職人としてもの作りをしたい」という夢を諦めることができず、21歳の時に染めの世界に足を踏み入れた。最初は枠掛けなどの単純な仕事を与えられた。
    「先輩から教えてもらうというより、自分で染料の研究をしたり、布によって染めの時間が違うことをメモにとってデータを出したり、最初から自分で考えることが多かったです」と、当時を振り返る。昔から佐藤さんは研究熱心だったようだ。

    熟練された職人の目

    染料の比率や生地の種類によっておおまかな浸染時間は割りだせる。しかし、単純計算できないところが、黒染の難しいところなのかも知れない。「長年やってるとね、だいたいわかるんですよ。釜から出した時に、染まったなとか、後少しだなってことが」黒の染料が、生地にどれだけ染まっているか、その見きわめは、どれだけ説明を受けてもわからない。何年も見続けて、何度も染めているからこそ言える言葉なのだ。

    染めの釜を見つめる佐藤さん

    黒を極める

    「黒は一色なんですよ」と前置きをして佐藤さんは「その黒を極めるために、絶えず研究を繰り返します」と語る。染料を試験しては、感覚をつかみ、釜に目を光らせて染めの時間を見る。完璧のさらに上を目指す佐藤さんは「日本一の黒染屋」でありたいと努力を惜しむことはない。釜の熱で気温も湿度も異常に高くなる工場で、佐藤さんは汗だくにありながら、今日も真剣勝負をしているのだ。

    黒という多彩

    「デパートでね、自分の染めた商品なんかを目にすると嬉しいもんですね」とにこやかに語る。佐藤さんの染めた商品は、必ず分かる。下染の色を絞りで端に入れているからだ。伝統的工芸品に指定されているのは、紅下染もしくは藍下染であるが、佐藤さんは紫や緑にも挑戦している。「よそで真似のできないものを作りたいんですよ」と下染に草木染料を使うこともある。佐藤さんの黒染は、黒一色でありながら、その深みや風合いがそれぞれに異なるのである。

    黒染の新天地を求めて

    今、着物だけにこだわらず、服地やかばん地も黒染している。佐藤さんの深く気品のある黒染は、枠を超えて多くの愛好家にその価値を認められている。染めの技術にも感銘を受けたが、その応用範囲の広さがあるからこそ、いつの時代にも多くの人の心を動かし続けてきたのであろう。

    職人プロフィール

    佐藤正憲 (さとうまさのり)

    昭和33年生れ。昭和54年、黒染の世界に入る。平成7年京黒紋付染伝統工芸士の認定を受けた。

    こぼれ話

    近代化する黒染 黒染の多種・多様な変貌

    時代の変化と共に黒染は、紋付だけにこだわることなく、さまざまな分野に広がりを見せています。絹の素材感や光沢を活かし、深い黒の風合いを出せるのは黒染ならではです。服地を染める工場では、反物に比べ巾が広いため、専用の深い釜を使用しています。しかし幅が広い分、生地が浮き上がってしまうので、何度も引き上げなければいけません。また、引き上げる瞬間を染浴の熱の伝わり具合に合わせなければ、染めムラができてしまうので、より高度な技術が要求されています。
    そしてかばん地など、織りが多様化しているものも、織りに合わせた染め方が必要なのです。時代の流れと共に発展して行く黒染は、染めを愛する人々と、日々研究に取り組む職人との思いが一つに重なり合って生まれる現代美と言えるでしょう。

    • 近代的な黒シルクのポーチ

    • 近代的な黒シルクのハンドバッグ

     

概要

工芸品名 京黒紋付染
よみがな きょうくろもんつきぞめ
工芸品の分類 染色品
主な製品 着物地、羽織、ネクタイ、腕章
主要製造地域 京都市、宇治市、亀岡市、久世郡久御山町他
指定年月日 昭和54年8月3日

連絡先

■産地組合

京都黒染工業協同組合
〒602-8143
京都府京都市上京区堀川丸太町下る京都社会福祉会館 別館2階 200号室
TEL:075-468-1076
FAX:075-468-1076

特徴

生地は絹織物です。化学染料を用いても、深みや微妙な味のある黒色を出すために、紅または藍等の下染も行っています。紋章上絵付けは、手描きの場合と型紙による型刷りの場合とがあります。

作り方

白生地を引っ張って木枠にかけ、蒸気で幅出しをします。ついで反物のまま、紋章の部分が染まらないよう糊を置いて防染してから、「浸染」あるいは「引染」をします。「浸染」は、紅または藍で下染してから黒染料に浸す方法です。「引染」は刷毛による染め技法で、紅または藍の下染後、黒染料を塗ります。植物性染料と媒染(ばいせん)染料をそれぞれ2回以上塗るのが「三度黒」です。紋章上絵は最後の工程で描かれます。

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