伝統工芸 青山スクエア

村上木彫堆朱

新潟県

新潟県の村上地方は、平安時代から天然の漆の生産地として、広く知られています。
村上木彫堆朱は、15世紀の初めに、京都の漆器職人が中国の堆朱を真似て、木彫の上に漆を塗る技法として始め、その技法が村上地方で寺院を建てたときに伝えられたものです。最初に寺院を建てた宮大工が技術を覚え、江戸時代になるとその技術は武士の間にも伝わり、そして町民の間に広まって今日に至りました。

  • 告示

    技術・技法


    木彫堆朱にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    彫刻は、「引下げ彫り」又は「肉合い彫り」によること。

     
    (2)
    彫刻部分の下地造り、中塗及び上塗は、指の腹又はたんぽを用いて「たたき塗」をした後、「塗り上げ」をすること。この場合において、上塗には、朱合漆に本朱を混ぜ合わせたものを用いること。

     
    (3)
    仕上げは、艶消しをした後、「すり漆」をすること。


    木彫堆黒にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    彫刻は、「引下げ彫り」又は「肉合い彫り」によること。

     
    (2)
    彫刻部分の下地造り、中塗及び上塗は、指の腹又はたんぽを用いて「たたき塗」をした後、「塗り上げ」をすること。この場合において、上塗には、精製黒漆を用いること。

     
    (3)
    仕上げは、艶消しをした後、「すり漆」をすること。


    木彫朱溜塗にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    彫刻は、「引き下げ彫り」又は「肉合い彫り」によること。

     
    (2)
    彫刻部分の下地造り、中塗及び上塗は、指の腹又はたんぽを用いて「たたき塗」をした後、「塗り上げ」をすること。この場合において、上塗には、朱合漆に本朱を混ぜ合わせたもの及びきじろ漆をそれぞれ用い、きじろ漆の「たたき塗」の前には艶消しをすること。

     
    (3)
    仕上げは、艶消しをした後、「ろいろ塗」によること。


    木彫色漆塗にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    彫刻は、「引下げ彫り」又は「肉合い彫り」によること。

     
    (2)
    彫刻部分の下地造り、中塗及び上塗は、指の腹又はたんぽを用いて「たたき塗」をした後、「塗り上げ」をすること。この場合において、上塗は、多種の精製彩漆を用いて「塗り分け」をすること。

     
    (3)
    仕上げは、艶消しをした後、「すり漆」をすること。


    木彫金磨塗にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    彫刻は、「引下げ彫り」又は「肉合い彫り」によること。

     
    (2)
    彫刻部分の下地造り、中塗及び上塗は、指の腹又はたんぽを用いて「たたき塗」をした後、「塗り上げ」をすること。この場合において、上塗は、多種の精製彩漆を用いて「塗り分け」をすること。

     
    (3)
    「塗り分け」をした部分は、金箔押しをすること。

     
    (4)
    金箔押しをした部分は、上塗と同色の精製彩漆を塗付した後、研炭を用いて「研ぎ出し」をすること。

     
    (5)
    仕上げは、艶消しをした後、「ろいろ塗」によること。


    三彩彫にあっては、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    上塗は、中塗及び中塗研ぎをし、赤色、黄色及び青色の精製彩漆を重ねて塗付した後、精製黒漆を塗付すること。

     
    (2)
    仕上げは、「ろいろ塗」によること。

     
    (3)
    彫刻は、「むき彫り」によること。

    原材料


    漆は、天然漆とすること。


    木地は、ホオ、トチ若しくはカツラ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

  • 作業風景

    工程1: 木地作り

    十分乾燥させたトチやホオノキを用いて、熟練した木地師(きじし)が、堆朱のもとになる木地を作ります。

    工程2: 下絵

    彫師(ほりし)の手に渡り、花鳥、山水、牡丹などの下絵が木地に直接書き込まれます。

    画像をクリックすると動画が再生されます

    工程3: 彫刻

    下絵の上から裏白(うらじろ)とよばれる彫刻刀を巧みにあやつり、鮮やかな彫刻が施されます。

    工程4: とくさがけ

    塗師(ぬりし)の最初の工程で、彫刻された刀痕(とうこん)の荒さをサンドペーパー(古くは「とくさ」という草を使用)で研磨します。

    工程5: 木固め(きがため)

    生漆を刷毛(はけ)を使って木地全体に十分に染み込ませ、堅牢(けんろう)な堆朱の基礎固めを行います。

    工程6: 錆付(さびつけ)

    高級な漆器を作るための大切な下地の工程で、彫刻のない無地の部分に2、3回繰り返します。

    工程7: 錆研ぎ(さびとぎ)

    硬質の砥石(といし)を用いて塗面(とめん)を平らに水研ぎをします。錆付とともに、2、3回繰り返されます。

    工程8: 中塗(なかぬり)

    彫刻された模様を漆で埋めつぶさぬように、タンポ(うすいゴムの中に綿(わた)を入れたもの)や指頭(しとう=指先のこと)で漆をたたき、刷毛で塗り上げます。

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    工程9: 中塗り研ぎ(なかぬりとぎ)

    村上研石と呼ばれるきめ細かい研石で平面も彫刻部分も丹念に水研ぎを行います。

    工程10: 上塗り(うわぬり)

    色鮮やかな朱漆を用いて、彫刻部分を埋めないよう、中塗りと同様にていねいに塗り上げます。

    工程11: つや消し

    表面のツヤを木炭や研の粉(とのこ)で水研ぎをして消し、落ち着きある塗りものにします。

    工程12: 毛彫(けぼり)

    再び彫師の手に戻り、ツヤ消しされた肌に、先の細かい三角刀を使って細かい線の彫刻をします。

    工程13: 上すり込み(うわすりこみ)

    上質の生漆を刷毛を用いて器物全体にすり漆をし、塗肌をひきしめて完成です。

     

  • クローズアップ

    使い込むほど色のでる村上木彫堆朱

    高級な器というイメージのある木彫堆朱。「もったいなくて使えない」と押入れにしまう人が多い中、「使い込んでこそいいんです」と訴え続ける、自ら愛好家で村上堆朱事業共同組合の前事務局長、伊与部さんと、彫師の川村さんにお話を伺った。

     

    高級品、だからこそできる芸の極み

    どこから見ても真っ赤な器、全体にほどこされた大胆で深い彫刻。一度見たら忘れられない鮮烈な漆器、それが村上木彫堆朱である。この豪華絢爛な木彫堆朱は今から600年ほど前に、ここ村上ではじまった。村上は古い城下町。彫刻技術や漆塗りの技術を発達させようとした歴代藩主や幕府の保護のもと、非常に多くの手間をかけて作られてきたこの漆器は、豪華な装飾品や接待用に使われ、高級品としての名を欲しいままにしてきた。ハレの日に使うお重箱、旅館や料亭で使われるお膳類、お座敷の装飾に使われる棚…。粋を凝らせば凝らしていくほど価値が上がり、需要も増えた。もともと高級品として栄えただけに、堆朱作りにかける職人の芸の極みを至るところに見てとることができる。

    彫師さんの心意気が伝わってくる大胆な作品

    大胆な柄と対照的な、小さな小さな幾何学模様

    高級であるがゆえの面白さ、伊与部さんもそんな魅力にとりつかれた人の一人である。「いい品物には必ず「地紋(じもん)」という細かい柄が入ってるんです。」と器を見せてくれた。よくみると大胆な花鳥や植物の柄の間に、連続的で細かい幾何学模様の彫刻が施されている。この「地紋」の柄は菊、波、麻の葉など、20近く存在している。それを小紋のように、正確に少しもズレなく、彫師の川村さんが目の前で彫ってくれた。「思っているほど難しいものじゃないんですよ。」そうはいうものの、これだけの細かい柄を正確に早く彫れるようになるには8年はかかるとのこと。

    年月とともに移りゆく堆朱の色

    さて、地紋だけではなく、木彫堆朱といえば、やはり何といっても移りゆく赤の色が面白い。新しいお茶受けと6年前のものとを見せてもらうと明らかに色が違う。新しいのは少し黒っぽく、古い方の赤はより鮮烈だ。川村さんが説明をしてくれる。「漆ってのは乾いた時にちょっと黒くなる性質があるんです。塗ってる時は赤いけども、乾くとくすんだ色になるんですよ。漆は何年も経つうちにガラス状まではいきませんけども、透明になるんです。漆が透明になるから中にまぜた赤い色が鮮明になるんです。」実際上塗(うわぬり)の色は深紅よりも赤い、鮮烈な赤だった。その色が時ともに移りゆく。そこになんともいえぬ味がある。

    左が新品で、右が6年もの。右の方が明るい

    高くてももったいなくても、堆朱は使ってこそ味がある

    伊与部さんは「使う」ということにとても重きをおいている。「とにかく使ってもらわなきゃよくならない。みんな高くてもったいないからって押し入れにしまっちゃうんです。それじゃぁ色は変わらない。手の油とか、汚れたものを拭いてるうちにね、だんだんとツヤがででくるわけですよ。」しかも手入れも想像以上に簡単だ。「濡れたらすぐにふきんで拭けばいいだけです。彫刻の間にゴミが入ったらどうするんですかって聞かれるんですけど、たわしで取ってくださいって言うんですよね。たわしでこすっても絶対キズはつきません。真新しいのはだめだけど、1年以上経ってれば絶対に大丈夫。」

    上塗をしたての時は鮮烈な赤だが乾くと変わる

    「あんた方は日本一の幸せな先生についている」

    不景気、コストダウンの波にもまれる高級品、木彫堆朱。高級品であるがゆえの悩みを抱える一方で明るい兆しも見えている。「私は子供さんを大事にしてるんですよ。」と、ファイリングされた、子供たちからの手紙を伊与部さんが見せてくれた。現在小学校5年生が社会科の授業で、伝統工芸について学ぶことになっている。子供たちが見学に来たときのエピソードを話してくれた。「新潟に熱心な先生がいてね、塗物についてもよく調べてて、そのために夜にわざわざここに品物をとりにきてねぇ。子供たちはこの品物に触れたってことを一番喜んだんですね。それでみんな礼状の作文書いて送ってくれたんで、私も書いてやったんです。あんた方は日本一の幸せな先生についてるってね。」  

    600年前から伝わってきた、豪華で特異な木彫堆朱。時代の波が移りゆく中、変わらぬ伝統の一品を、自分の色にしてみてはいかがだろう。木彫堆朱は使ってこそ味がでる。毎日眺めて豊かな気持ちで過ごしていただきたい。

    職人プロフィール

    伊与部市郎

    根っからの堆朱愛好家の村上堆朱事業協同組合前事務局長。堆朱は使ってこそ味がでるとの普及活動に努めている。

    川村初男

    18の頃彫師に弟子入り、戦後タクシー運転手を経て再び彫師に。現在は全国各地で実演を行っている。

    こぼれ話

    村上の職人芸の極み、朱溜塗りと三彩彫

    村上にある木彫漆器は赤い器だけではありません。伝統的工芸品の指定をうけた技法は堆朱の他に5つもあり、それぞれ他の地域ではみられない特徴をもっています。その中でも特にご紹介したいのが朱溜塗り(しゅだめぬり)と三彩彫り(さんさいぼり)。彫師と塗師の競演、村上の木彫漆器。塗りに特に力を注いだ朱溜塗りと彫の極みの三彩彫。ぜひ村上にお越しの際はご覧ください。

    ■朱溜塗り
    本当に吸い込まれるような透明感、黒でも赤でもなく茶色ともいえぬ微妙な色。この色と深い透明感がかもし出す落ち着いた雰囲気には、ため息が出てしまうほど。
    木彫堆朱と同じ工程を行った後、つや消しをして、溜漆(ためうるし)という、色を混ぜない漆を塗ったものが、この朱溜塗という技法です。上に塗られた漆が年月を経て透明になり、だんだんと中の赤が浮かび上がってこの落ち着いた色合いが生まれます。そばにあるだけで心の底まで落ち着いていきそうな、とても不思議な魅力をもった塗物です。

    ■三彩彫り
    これぞ彫刻と塗の国、村上の職人芸の極みなのではないかとおもってしまう塗物です。これは赤、黄色、緑、最後に黒と、木地に色のついた漆を塗り重ねていったもので、最後に真っ黒な上から彫り、中にある色を用いて柄をつくっていくのです。葉っぱを彫るには浅く、花のところは少し深くと、非常に微妙なカンで彫りあげます。4つ合わせた色の厚みはせいぜい2ミリ程度です。一歩でも間違えれば色が変わる、そこを思いのままにあやつる職人芸。商品を見ただけでは気づき得ないこの色の生み方。塗っても色はつけられる。でもそこを塗らずにあえて彫る。そこに村上の職人魂を感じずにはいられません。

    • 朱溜塗り

    • 朱溜塗り

    • 三彩彫り

     

概要

工芸品名 村上木彫堆朱
よみがな むらかみきぼりついしゅ
工芸品の分類 漆器
主な製品 重箱、盆、茶器、花器、菓子器
主要製造地域 村上市、岩船郡朝日村、山北町
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

村上堆朱事業協同組合
〒958-0032
新潟県村上市松原町3-1-17
TEL:0254-53-1745
FAX:0254-53-3053

http://www.chuokai-niigata.or.jp/tuishu/

特徴

木製木地に細かい彫刻をすることを得意とし、その彫刻をより引き立たせる漆塗りの技術が独特です。村上木彫堆朱は、堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)、朱溜塗り(しゅだまりぬり)等6種類の技法の総称です。代表的な技法である堆朱は、朱の上塗りを艶消しで仕上げた、落ち着いた肌合いを特徴としています。

作り方

最初に木地を作る職人がホオノキ、トチの天然の木を使って木地を作ります。次に彫刻する職人が木地に直接下絵を描き、木彫を施します。その後、漆を塗る職人が天然の漆だけを使って漆塗りを行います。塗りは18~20工程で、完成前に再び彫刻する職人の手で細かい部分の毛彫りを行います。

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