輪島塗

石川県

輪島塗で最も古いものは、室町時代に作られた「朱塗扉(しゅぬりとびら)」ですが、遺跡調査等により、鎌倉時代の漆器や道具が見つかり、
さらに古い時代にも漆器が作られていたことがわかっています。江戸時代には、堅牢な漆器として全国の農家や商人の家で使われていました。
明治時代になると料理屋や旅館等でも使われるようになって、だんだんと豪華な沈金や蒔絵が付けられるようになりました。

  • 告示

    技術・技法


    下地造りは、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    木地に生漆を塗付した後、「着せもの漆」を塗付した麻又は寒冷紗を用いて「布着せ」をすること。

     
    (2)
    生漆に米のり及び「輪島地の粉」を混ぜ合わせたものを塗付しては研ぎをすることを繰り返すこと。


    上塗は、精製漆を用いて「花塗」又は「ろいろ塗」をすること。


    加飾をする場合には、沈金又は蒔絵によること。


    木地造りは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    挽き物にあっては、ろくろ台及びろくろがんなを用いて成形すること。

     
    (2)
    板物又は曲げ物にあっては、「こくそ漆」を用いて成形すること。

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    原材料


    漆は、天然漆とすること。


    木地は、ヒバ、ケヤキ、カツラ若しくはホオ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

     

  • 作業風景

    一般に漆塗りの工程は大きく分けると4つの段階で説明することができます。
    まず、堅牢性の高い木々からそれぞれの形に合わせて“木地”を作ります。この段階では歪みのない木地を得るための原木の適切な乾燥状態と、正確な寸法に仕上げる職人の技がポイントといえます。
    木地師によって作られた木地は塗り工程に進む前に下地付けへ回されます。漆器の堅牢さや上塗の仕上がり具合はこの下地作業の善し悪しによって左右されるといっても過言ではありません。
    下地工程を経るとようやく塗りに入ります。漆は、何度も“塗っては研ぎ”を繰り返し、下塗・中塗・上塗と工程が進んでいきます。塗った漆が“乾く”には湿気が必要とされ、乾くよりは“固まる”といった方がわかりやすいかもしれません。
    普段使いの漆器は上塗のみの仕上げが多いのですが、さらに絵や図柄をほどこすこともあります。これを“加飾”と呼びます。加飾には金銀粉を蒔き付ける“蒔絵”、花塗した面に模様を線彫りし、そこに金箔を付着させて金線の文様を表わす“沈金”、貝殻の薄片を模様の形に切り装飾する“螺鈿”などがあります。
    では、いくつかの主な工程を見てみることにしましょう。

    工程1: 木地

    木地師もその工程によって4種類に分かれています。椀木地は、ろくろを挽いて、椀、鉢、皿など丸い物を作ります。材料はケヤキ、ミズメザクラなどを使います。道具はろくろの他、カンナなど。カンナは椀木地師が鍛冶道具を使い全部自分で作ります。

    指物木地

    角物(かくもの)木地ともいいます。材料は主にアテなどを使い、重箱、硯箱、膳、角盆などを作ります。道具は鋸、鉋、ノミや型など。自動鉋などの木工機械もよく使います。

    曲物木地

    薄い板を水に浸し柔らかくして曲げ丸盆、轡型盆、弁当箱などを作ります。材料は主にアテの柾目板。道具は木工機械類に加えて、鋸、鉋、鉈(なた)やコロガシと呼ばれる曲げ用の型など。

    朴木地(ほおきじ)

    猫足、片口や銚子の口などの複雑な形を削り出す職人。材料は、ホオ、カツラ、アテなどを使い、座卓、棚、花台などを作ります。道具は木工機械類に加えて、鋸、鉋、ノミ、小刀、さし類、型類ですが、とくに複雑な曲面を削るための豆鉋を多く使います。

    工程2: 下地

    下地塗は木地の継ぎ目や節を補正して、痛みやすい部分を補強し、丈夫で緻密な塗肌を作る工程です。道具はまな板(作業台)、ヘラ、塗師小刀、鉋などを使います。研物(とぎもの)では研物ろくろ、砥石などが使われます。輪島塗の特徴である堅牢さを出すための地の粉を塗り込めた一辺地、二辺地、三辺地という工程もここに含まれます。

    工程3: 上塗

    上質の上塗漆を数回に分けてハケで塗ります。ごみ取りハケで細かなチリを払い、渡しハケで適量の漆を荒付けしてから、仕上げハケで仕上げ塗りします。作業中に付着したチリは、鳥の羽軸や蒔絵筆で丹念に拾い上げ、漆がたれないように回転風呂で反転させながら乾燥させます。

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    工程4: 加飾

    装飾段階である加飾にも種類があります。呂色は上塗を研炭(とぎすみ)でさらに平滑に研ぎ、漆を擦り込みながら磨くことを繰り返す作業。鏡のように透明な艶を出します。最後は毛筋ほどのキズも残さずに、人の柔らかな肌と指で磨き上げる繊細な工程です。

    蒔絵

    和紙に描いた下絵を転写した置目に沿って、漆で紋様を描き、金銀粉などを蒔き付けます。その上からさらに漆で塗り固め、研磨して金銀の光沢を出します。蒔絵には、平蒔絵、研出蒔絵(とぎだしまきえ)、高蒔絵(たかまきえ)など多彩な表現方法があります。

    沈金

    和紙に書いた下絵を転写した置目をあたりに、各種の沈金ノミを使って紋様を彫ります。その後、薄く漆を塗り込み、余分な漆は和紙でふき取ります。金銀の箔や粉を紋様に押し込み定着させた後、余分の箔や粉を拭き取ると鮮やかな紋様が浮かび上がります。

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  • クローズアップ

    「布着せ本堅地」堅牢輪島塗の秘密

    数ある漆塗り産地の中でも堅牢さにかけては随一と言われる輪島塗。その秘密は輪島ならではの素材を使った高度な技術によるものだ。一説には「神のお告げ」によるものという言い伝えもあるそうだが・・・。

     

    全国的にも知名度の高い漆器産地

    地元に惜しまれつつも、この3月末(2001年)に穴水-輪島間が廃止されてしまった“のと鉄道”輪島駅に降り立った。落ち着いたたたずまいの町並みをのんびり歩いてみると、新鮮な魚貝で有名な朝市通りへと向かう道の両側にも漆器の店が建ち並んでいる。輪島はおそらく、日本でもっとも知られた漆塗りの里だ。

    下地が肝心、輪島塗の神髄

    輪島塗の特徴はまず堅牢であること。生活用品から生まれた輪島塗は、とにかく丈夫であることが求められた。堅牢さの秘訣を塗師の市中泰雄(いちなかやすお)さんにうかがうと、「下地に一番神経を使います。」という。この下地の工程だけでも様々な工夫が凝らされている。その工程を少し詳しく見てみよう。
    まず、木地に生漆を染み込ませる“木地固め(きじがため)”をし、椀の縁などの割れやすい部分に布を張って補強する“布着せ”。さらに、布と木地の境目に漆を塗る“惣身付け(そうみつけ)”。
    ここから輪島ならではの地の粉(じのこ)を使った作業が始まる。粗めの地の粉を漆に混ぜて塗る一辺地付(いっぺんじつけ)。地の粉を細かくして二辺地付。もっと細かくして三辺地付。地の粉の微細な孔に漆が染み込み固まるため、堅牢さが増すという。もちろん各段階の間には、漆の密着性を上げるための磨きや研ぎが入る。下地がしっかりできていないと上塗りの段階で布着せの布がずれるなどの問題が出る。「何事も最初が肝心というでしょ。漆塗りも同じ。」

    輪島では机など家具調度品も作られている

    神のお告げ?「小峰山の土を使え」

    地の粉が使われるようになったいきさつとしては「神のお告げという言い伝えもある」という。輪島にある小峰山の土を使えというお告げがあり、珪藻土(けいそうど)が発見されたというのだ。しかしそのままの状態では漆塗りには使えない。それを焼いて粉状にすることで、ようやく地の粉として使うことができる。神のお告げの真意はともかく、いかにして強い漆器を作り上げるかという先人の挑戦と知恵には驚かされる。まさに職人の執念ともいえよう。今でも小峰山では毎年6月に地の粉祭りが行われ、祖先の労苦を偲び感謝をしているそうだ。

    新鮮な驚きのコーヒーカップは断熱性という利点も

    格好と艶が仕上がりのポイント

    塗り上がった品を見て「格好と艶がきれいに仕上がっているとうれしい。格好は漆の厚みがきれいにそろっていること。下地がうまくできた証拠です。」という。例えば木地固めの時にしっかり磨いておかないと布がうまくつかず、仕上がりの格好も悪くなる。
    漆器の色も重要な要素だ。「(漆を塗るときに)顔料や漆の調合、天候によっても色が変わる。今日、思い通りの色に塗れたなぁと思っても、明日雨が降ると乾燥の状態が変わってしまって、数日後に乾いたときには思っていたのと違う色になってしまう。それぐらい微妙です。だからこの色で塗ってくれという注文が実はとても難しいのです。」市中さんの好きな色を聞いてみると、「古代朱(こだいしゅ)。赤の中に黒が微妙に混じった深みのあるいい色。でも調合がとても難しい。」

    実物の椀で色の種類を解説する市中さん

    100年前の良い物を改良して新しいものを

    輪島の塗師は、形や模様についても考えるプロデューサー的な仕事も兼ねる。また、輪島塗の特徴に、行商という販売スタイルがある。塗師自身が全国のお得意さんをまわって、注文をとり商品を売るのだ。古くは北前船を利用したという歴史ある販売システムで、今も受け継がれている。「お客さんと直接話ができるので、いろいろと要望を聞けてありがたいです。」市中さんも大阪や兵庫、東京などに多数のお得意さんを持っている。
    市中さんのこれからの抱負を伺うと「100年ぐらい前の良い品物を改良して新しい物を作りたい。当時の物はデザインなど良い物が多い。父が考えたデザインで、まだ作りかけの物があります。かなり古い物だが、それも完成させてみたいですね。」と楽しそう。古くて新しい物を、ぜひ作り上げて欲しいと思う。

    イヤリングなど輪島塗の装飾品も

    職人プロフィール

    市中泰雄

    18歳から仕事を始めた2代目塗師。木地固めから上塗りまでをこなす

    こぼれ話

    漆器ならではの売り方、買い方

    今も昔も、漆器は職人の手間と時間のかかる高価な品物。簡単に買える代物ではありません。そこで考え出されたのが椀講(わんこう)という制度。輪島の塗師が漆器を販売する方法として活用しました。
    例えば10人の買い手が集まって代金を1/10ずつ出し合い、一年後、漆器が完成すると、くじを引いて1人の引き取り手を選びます。その後、また代金を集めて翌年、くじを引く。塗師には10年間の仕事が約束され、買い手はひょっとすると10年間お金を貯めないと手に入れることができない物が1年で手にはいるかもしれないという期待が生まれます。
    売り手と買い手の知恵が生んだ面白い制度。現代ならば、注文してから塗上がるまでの時間を利用した漆塗り貯金もいいですね。待っている間の楽しみも贅沢のうちです。

    • 自分の好みに職人が応えてくれる贅沢を味わう

     

概要

工芸品名 輪島塗
よみがな わじまぬり
工芸品の分類 漆器
主な製品 什器、装飾品、家具
主要製造地域 輪島市
指定年月日 昭和50年5月10日

連絡先

■産地組合

輪島漆器商工業協同組合
〒928-0001
石川県輪島市河井町24-55
TEL:0768-22-2155
FAX:0768-22-2894

http://www.wajimanuri.or.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

完成品からはわかりませんが、壊れやすいところに布を貼り、何回も漆を塗り重ねてあります。そこに沈金や蒔絵の豪華な模様がつけられます。また、傷んだ漆器を修理して、再び新品のように使うことができます。

作り方

良質の木材で作られた木地を使用し、壊れやすいところに漆で布を貼ります。下地塗りには、地の粉を漆に混ぜて、2回3回と塗り重ね、さらに欠けやすいところに生漆を塗ります。そして中塗り、上塗りをしたのち、沈金や蒔絵等の加飾を施します。

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