伝統工芸 青山スクエア

越前漆器

福井県

始まりは古く、6世紀にまで遡ると伝えられています。当時の天皇に冠の塗り替えを命じられた漆塗りの職人が、
黒塗りの食器を献上したところ、その艶の見事さに深く感銘され、製作を奨励されたのが越前漆器の始まりと伝えられています。

  • 告示

    技術・技法


    下地造りは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    渋下地にあっては、柿渋、地炭粉及び松煙を繰り返し塗付することにより「渋下地造り」をすること。

     
    (2)
    地の粉下地にあっては、生漆に地の粉、米のり等を混ぜ合わせたものを繰り返し塗付することにより、「地の粉下地造り」をすること。


    上塗は、精製漆を用いて「花塗」又は「ろいろ塗」をすること。


    加飾する場合には、沈金又は蒔絵によること。


    木地造りは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    挽き物にあっては、「立木」に木取りしたものを、ろくろ台及びろくろがんなを用いて成形すること。

     
    (2)
    板物にあっては、仕上げ削りした後、生漆に米のり及び木の粉を混ぜ合わせたもの等を用いて成形すること。

    原材料


    漆は、天然漆とすること。


    木地は、トチ、ミズメ、ケヤキ若しくはカツラ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

  • 作業風景

    一般に漆塗りの工程は大きく分けると4つの段階で説明することができます。
    まず、ケヤキ、ミズメザクラ、トチ、サクラ、クリ、ホオなどの堅牢性の高い木々から生地として木取りをしてそれぞれの形に合わせて木地を作る“木地”。この段階では歪みのない木地を得るための原木の適切な乾燥状態と、正確な寸法に仕上げる職人の技がポイントといえます。
    木地師によって作られた木地は塗り工程に進む前に下地付けへ回されます。この下地作業の部分は完成した漆器では見ることができません。しかし、漆器の堅牢さや上塗の仕上がり具合はこの下地作業の善し悪しによって左右されるといっても過言ではありません。木地の接合部や傷などの穴・裂け目を充填する刻苧(こくそ)(越前では“粉糞”と表現)や傷つきやすい部分を補強する布着せといった作業が含まれます。
    下地工程を経るとようやく塗りに入ります。漆は、何度も“塗っては研ぎ”を繰り返し、下塗・中塗・上塗と工程が進んでいきます。塗った漆が“乾く”には湿気が必要とされ、乾くよりは“固まる”といった方がわかりやすいかもしれません。この乾燥の速度は日々の天候などにも左右され、職人の技術が問われる部分です。最後の上塗はわずかなほこりやちりも付着させないよう、塗師も細心の注意を払って行います。
    普段使いの漆器は上塗のみの仕上げが多いのですが、さらに絵や図柄をほどこすこともあります。これを“加飾”と呼びます。加飾には金銀粉を蒔き付ける“蒔絵”、花塗した面に模様を線彫りし、そこに金箔を付着させて金線の文様を表わす“沈金”、貝殻の薄片を模様の形に切り装飾する“螺鈿”などがあります。では、いくつかの主な工程を見てみることにしましょう。

    工程1: 木地作り

    大きく分けて椀などの丸物と箱・盆などの角物があります。丸物は水目桜(みずめざくら)、トチ、ケヤキなどをろくろで削って形を作ります。角物はカツラ、ホオなどを裁断し、削り込み、組み立てます。

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    工程2: 下塗

    塗り工程には下塗と上塗があります。下塗は、製品の表面には出ませんが漆器の品質を左右する大切な部分で、塗りと研ぎを何度も繰り返します。

    工程3: 上塗

    上塗は、均一な厚さに塗る熟練の技と、一定の温度、湿度を保つデリケートな乾燥の技術が勝負です。漆の乾燥には湿度が必要で、風呂と呼ばれる乾燥庫に入れ、漆が偏ったりしないように回転させながら乾燥させます。

    工程4: 蒔絵

    漆器を彩る加飾には様々な技法があります。その一つ、蒔絵は蒔絵筆に漆を含ませて模様を描き、そこに金・銀粉などを蒔きつけ、研ぎ・磨きを繰り返して作り上げます。

    工程5: 沈金

    沈金も加飾の技法のひとつ。沈金刀で線彫り、点彫りなどの技法を用いて絵柄を刻み込み、その彫り跡に金・銀箔、金・銀粉、顔料などを漆で定着させ、仕上げます。

     

  • クローズアップ

    堅牢と優美の高次元の調和、越前漆器

    漆器ファンや地元の人には、河和田塗(かわだぬり)の名で親しまれている越前漆器。起源は古く、6世紀まで遡ると伝えられている。今日でも盛んな漆器産地だ。現在は分業が進み、木地、塗り、加飾の各職人が阿吽の呼吸で作り上げる。

     

    漆の里に生まれたら後を継ぐのは当然

    「親も兄弟も漆に関わる仕事、当時は後を継ぐのは当然という雰囲気だった。」と河和田の職人は口を揃える。分業が進んだ漆器作りについてお話を伺ったのは、角物の“木地”の井上徳(いのうえとく)さんと山口怜示(やまぐちりょうじ)さん、木地に漆を塗る“塗師”の大久保隆三(おおくぼりゅうぞう)さん、塗り上がった漆器にほどこす加飾技法の一つ“沈金”の清水恒夫(しみずつねお)さんと服部正和(はっとりまさかず)さん。いずれも河和田を代表する職人だ。

    自然の素材を相手に、それぞれがこだわりの仕事を成し遂げる

    木地には木地の、塗りには塗りの、加飾には加飾のそれぞれの段階での仕事に対するこだわりがもちろんある。どの仕事も「すべて自然が相手」であることは同じだ。
    例えば、木地では「ねじれ、狂い、反り、腐りが問題。一つひとつの素材ごとに状態は異なるのでそれを見極めないといけない。(山口さん)」「重箱など上の段と下の段で狂いが出るとガタついてしまってダメ。(井上さん)」
    塗りも、温度や湿度に大きく左右される。「同じ日の午前と午後で同じ漆を塗っても色が変わってしまう。季節によってももちろん違ってくる。1年の中では10月が一番塗りやすいかな。(大久保さん)」越前漆器の特徴である堅牢な下地造りも大久保さんの重要な仕事だ。木も漆もすべてが自然の素材。同じ状態には留まってはくれない。それを見極めるのは“職人の第七感”と大久保さん。
    沈金は沈金刀で彫って金・銀を入れる加飾技法。「塗り上がった品物にひとノミ入れてみるまで(状態が)わからない。外見はみな同じに見えます。(清水さん)」「沈金は漆の厚さ分での繊細な仕事。塗り上がってから作業に入るまでの期間も大事。漆が乾きすぎても刃が滑ってしまう。(服部さん)」

    • 清水恒夫さん。沈金歴52年

    • 服部正和さん。沈金歴34年

    互いを知り尽くしたチームワーク

    分業では自分の作業以外の部分への配慮も必要だ。「長年やっているのでそれぞれの段階での職人一人ひとりの癖を知り尽くしている。次の人が喜んで仕事をしてもらえるように気を配っています。(山口さん)」自分の作業さえよければそれでいいなどと考えるようでは腕の良い職人とは言えないのだ。

    山口怜示さん。角物木地歴48年

    モノづくりの喜び、使ってもらう喜び

    職人はどんなことをよりどころに毎日仕事に打ち込むのだろう。「物をつくることそのもの。それに完成した喜び。(清水さん)」「一番は売れたとき。でももっとうれしいのはお客さんに毎日使ってもらったとき。押入に入れられるのは・・・。(大久保さん)」「木地師は自分で形を考えるのが仕事。新しい物を考えて、お客さんに喜んでもらえた時がうれしい。(井上さん)」モノづくりに対する真摯な姿勢と、自分が作った物が人から求められ役立つことへの喜びが職人を支えている。

    • 井上徳さん。角物木地歴45年

    • 大久保隆三さん。丸物塗り歴55年

    これからは提案型の職人が求められる

    これから求められる仕事は?との問いには、「提案型。新しい物を考えて作っていけばまだまだ伸びると思います。(山口さん)」作るだけの職人ではいけないともいう。例えば「流通も考えなくてはならない。(大久保さん)」
    実際、河和田では面白い試みもなされている。「化粧品セットや酒瓶にも塗った。でも、仕事場に酒瓶がごろごろ転がってるのを見たときは悲壮感が漂ったけど・・・」と笑って話す大久保さん。
    伝統の技を受け継いだ腕の確かな職人達が力を合わせて知恵を絞る。新しい世紀の漆文化を作り出そうという息吹を河和田の里で確かに感じることができた。最後に塗師、大久保さんの言葉をもう一つ紹介したい。「今は忙しいから暇になったらいろいろやってみる、なんていうのはダメ。忙しい中でいろいろ試してきたことが今になって残っている。暇になってからなんて何もできないよ。」ひとつのことを極めつつ、さらに前へ進もうとする職人の気概だ。

    こぼれ話

    失敗から学ぶ職人の技

    この道数十年の職人とはいえ、時には失敗もあるそうです。いや、どの職人も失敗の経験は?と尋ねると「しょっちゅうだよ。」と笑って答えます。これには少し驚きました。職人の仕事は常に完璧でまったくミスがないと思い込んでいたからです。正しくは、世に出るものは完璧だけど、そこへたどり着く過程で失敗も出るということ。
    「すべてが自然相手だから当然失敗もする。」とは塗師の大久保さん。腕のいい職人はもちろん失敗が少ない。だがそれだけではありません。失敗にめげずにきちっと修正するということも必要。「若い人は(次の工程での検査にはじかれて)品物が戻ってくるのを見てやめてしまう。戻ってくる方が多いんだから。」失敗を糧に腕を磨いていくのが職人というものなのでしょう。

    • 手際よく角盆に漆を塗る大久保さん

    • 「これぞ塗師の仕事場って言われる。散らかってて・・・。」と笑う

     

概要

工芸品名 越前漆器
よみがな えちぜんしっき
工芸品の分類 漆器
主な製品 椀、膳、盆、重箱
主要製造地域 福井市、鯖江市、越前市
指定年月日 昭和50年5月10日

連絡先

■産地組合

越前漆器協同組合
〒916-1221
福井県鯖江市西袋町37-6-1
TEL:0778-65-0030
FAX:0778-65-0550

http://www.echizen.or.jp/

特徴

挽物はトチノキ、ミヅメ、ケヤキ等の木を縦方向に立木挽きします。塗りは花塗(はなぬり)という、刷毛の跡やほこりが付かないように仕上げの漆を塗り、そのまま乾燥させる技法が特徴です。堅牢な下地作りに塗り重ねた艶と、優雅な作りには定評があります。別名、河和田塗としても知られています。

作り方

挽物は、柿渋に地炭粉(しずみこ)と松煙という松を燃やして作ったススを混ぜ合わせたものを繰り返し塗ります。 板物は、地の粉下地で、生漆に地の粉、米で出来た糊等を混ぜ合わせたものを繰り返し塗ります。中塗り、上塗りは精製漆を使って刷毛で塗り上げます。また、加飾は、沈金や蒔絵等を施します。

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