琉球漆器

沖縄県

琉球漆器は、14世紀から始まった中国へ貢ぎ物を送る貿易とともに発達したものと考えられています。
17世紀初頭には首里王府に貝摺(かいずり)奉行所という漆器の製作所が設置され、技術的にも芸術的にも水準の高い工芸品を作るようになりました。また、民間の産業としては、那覇の若狭町が漆器の生産地でありました。

  • 告示

    技術・技法


    下地造りは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    豚血下地にあっては、「布着せ」又は「紙着せ」をした後、豚血、桐油、「ニービ」及び「クチャ」を混ぜ合わせたものを塗付すること。

     
    (2)
    漆下地にあっては、「布着せ」又は「紙着せ」をした後、生漆、「ニービ」及び「クチャ」を混ぜ合わせたもの又は生漆、「ニービ」及び砥の粉を混ぜ合わせたものを塗付すること。


    上塗は、精製漆を用いて塗立又はろいろ塗をすること。


    加飾をする場合には、「堆錦」、螺鈿、沈金又は箔絵によること。「堆錦」にあっては、黒目漆と顔料を練り合わせたものを鎚打ちする「堆錦餅造り」をすること。

    原材料


    漆は、天然漆とすること。


    木地は、デイゴ、エゴ、センダン、ハマセンダン、イヌマキ、ガジュマル若しくはスギ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。

  • 作業風景

    琉球漆器には、デイゴ、シチャマギ(エゴノキ)など沖縄の木を使います。乾燥させた木を削ったり、はり合わせたりして形を作り、下地、中塗り、上塗りと何度も塗りを繰り返します。塗るたびに、ペーパーなどで研ぎます。加飾は、沈金(ちんきん)、螺鈿(らでん)、箔絵(はくえ)、堆錦(ついきん)など数多くの技法があり、その多彩さは琉球漆器の特徴になっています。

    工程1: 木地(きじ)作り

    板を組み合わせて重箱や膳を作る指物(さしもの)と、ろくろにかけてノミで椀や盆の形にする挽物(ひきもの)があります。木はどちらも約6ヶ月乾燥させてから使います。
    指物
    板に接着剤を塗って手早く組み立てます。固定して数時間乾かし、表面をカンナで削って重箱などの形にします。

    挽物
    輪切りにした木を使う竪挽き(たてびき)と、縦に切った木を使う横挽きがあります。デイゴは輪切りにして、ろくろで盆などの形に挽きます。シチャマギ(エゴノキ)は、乾燥窯で10日~15日、燻煙乾燥させてから、ロクロで削ります。ペーパー(紙やすり)で仕上げます。

    工程2: 下地付け

    表面の傷や亀裂をニービ(小禄砂岩)と生漆(きうるし)を混ぜたニービ下地で埋めます。「刻素(こくそ)」という作業です。ニービは砂より粒が細かく土よりは粗いので、デイゴなど目の粗い木に塗るのに丁度よいのです。
    そのあとクチャ(島尻泥岩)粉と生漆を混ぜたクチャ下地を塗ります。昔は豚の血と桐油(きりあぶら)、ニービ、クチャ(島尻泥岩)を混ぜた豚血下地(とんけちしたじ)が使われていました。塗り終ったら乾燥させます。

    画像をクリックすると動画が再生されます

    工程3: 水とぎ

    水をかけながら、砥石やペーパーでとぎます。最初は粗めのペーパーを使い、だんだん細かいペーパーにしていきます。この作業は下地や塗りの間に数回繰り返します。

    工程4: 中塗り

    上塗りの仕上りをよくするため、上塗りと同じ色の顔料を混ぜた漆を塗ります。

    工程5: 上塗り

    上塗り用の漆を作ります。生漆に赤外線や紫外線を加えながら水分を蒸発させます。この作業を「くろめ」といいます。くろめを十分に行なうと、透明な漆ができます。漆に朱色の顔料を混ぜます。混合機にかけてさらに混ぜ合わせます。トロリとした液を何枚もの和紙でろ過すると、上塗り漆になります。
    髪の毛で作ったこしの強い刷毛で塗ります。ゴミがつかないように、閉め切った部屋で行ないます。細かいほこりをていねいに取り除きます。回転風呂に入れて乾燥します。約10分ごとに回転させて、漆のたれを防ぎ、器をまんべんなく乾燥させます。

    工程6: 加飾

    琉球漆器にはさまざまな加飾法があります。
    螺鈿
    うすく削った夜光貝やアワビ貝を、絹針を使って模様の形に切ります。下絵を描いた紙の上に切った貝をはりつけます。貝のついた面を器にはり、紙をはがして貝だけを残します。その上から漆を塗ります。木炭でとぐと貝が姿を現わします。木炭のとぎすじを消すために、との粉と油を混ぜたもので磨きます。鹿の角でつくった粉でつやを出します。

    箔絵
    器に顔料のついた下絵をはって絵を写し、べんがら漆で縁取ってから、模様の中を塗ります。半乾きの状態で金箔を張ります。筆で余分な金箔を落とすと金色の模様が残ります。1日か2日乾燥させてから、黒漆で輪郭線を描きます。

    沈金
    器に顔料のついた下絵をはって絵を写します。模様の線を沈金刀で彫ります。線にくろめ漆をすりこみます。漆が乾かないうちに金箔を押さえるようにしてはります。乾燥させてからふきとると、線に金箔が残ります。

    堆錦
    堆錦餅を作ります。くろめ漆と顔料を金づちでたたいて混ぜ、餅状にします。これをローラーで平たくのばします。次に、餅の裏にくろめ漆を塗り、堆錦板にはりつけます。顔料のついた下絵を乗せて絵を写します。松、花、岩など、図案通りの形に堆錦刀で切っていきます。凹凸をつけたり、線を入れたり、顔料をすりこんだりして立体感を出します。堆錦板からはがして、下絵を写しておいた器にはります。

    画像をクリックすると動画が再生されます

     

     

  • クローズアップ

    沖縄らしさが際立つ透明感ある朱色

    日本には黒の漆器が多いけれど、琉球漆器は透明感のある朱色が持ち味。デイゴの木やニービ(小禄砂岩)といった沖縄ならではの素材と、漆に好条件の高温多湿の気候を生かして、人々は古くから独特の漆芸を育んできた。

     

    朱色に黄色や緑の取り合わせ

    南の太陽のもとでは鮮やかな色がきれいに映る。朱色に金色の線で花が描かれたなつめ、軽くて丈夫なデイゴの木で作られた朱塗りの盆。黄色いゆうなの花や緑の松がついたカラフルな硯箱は、琉球漆器特有の「堆錦(ついきん)」という技法で作られている。漆と顔料を混ぜて餅のようにした堆錦餅(ついきんもち)を、うすく伸ばして、花や松の形に切ってはりつけるのである。
    堆錦のほかにも、キラキラ光る貝をはりつける「螺鈿(らでん)」、模様の部分に金箔をはる「箔絵(はくえ)」、彫った線に金箔を入れる「沈金(ちんきん)」など、さまざまな技法がある。
    「これだけいろいろな手法を使っている産地はないと思う。」
    と話すのは、漆器作り40年になる松田勲さん。展覧会で数々の賞を手にしている伝統工芸士である。

    松田勲さん。昨年はフランスで螺鈿を実演

    失敗からヒントをもらう

    好奇心のおう盛さには驚かされる。漆器作りの職人は技法ごとに分業することが多いが、松田さんは、蒔絵(まきえ)、螺鈿、沈金、箔絵をそれぞれの師匠から学び、堆錦も含めていくつもの技法を使いこなしている。「ぼくは全部やりたかった。人があまりやらないこともやっています。」
    たとえば総張りといって、薄くのばした堆錦餅をなつめ全体に張り、さらに上から模様の形に切った堆金餅をはる。あるいは庭で拾った葉っぱに漆をつけて香合に張り、葉だけ取って葉脈の跡を残す。
    失敗からヒントをもらうことも多い。「だからおもしろい。ミスの中から、どこか使えないかなと考える。失敗したのをほったらかしておいて、あとで見たらきれいな色になっていた。それならこれを全体にやったらどうかな、とかね。」

    螺鈿に使うアワビ貝を図案の形に切る

    親方に教えられたこと

    小学校のころから絵が得意だった松田さんは、高校で漆器の勉強をした後、黒江漆器の産地、和歌山県海南市の会社に弟子入りした。6人兄弟の末っ子としてかわいがられて育った松田さんにとって、初めてのひとり立ちである。はじめの頃は、まわりに沖縄出身の人はほとんどいなかった。
    「寂しかったですね。親方はとてもいい人で、食事も一緒にして家族のように接してくれたけど、短気でね。こっぴどく叱られたときは沖縄を思い出した。つまずいたことは何度もあるけど、仕事でミスして怒られるのは当たり前。そんなことで負けないさー。」
    親方にすすめられて日本画や書道を習った。漆器の基本中の基本である写生は、親方に教えてもらった。当時覚えた草の描き方は今でも頭に残っている。
    4年間、蒔絵を学んで沖縄に戻った。ほかの技法も勉強して腕を磨き、展覧会に出品するようになっていった。

    シャープペンシルの軸に絹針がついている

    おもしろいものを探してる

    技術に熟練しても、デザインがまたむずかしい。写生帳や本を見てもなかなか決まらないことがある。パッと浮かんだときは、仕事もあっという間に進んで気持ちがいい。段取りも瞬時に組み立てられる。しかしそんなときでも、頭の中のイメージと実際にできた物との間には差がある。
    「仕上りは理想の70%から80%。100%の仕事は不可能に近いんじゃないか。完璧な物はまだない。」
    これからはどんな作品を?「いきあたりばったりよ。おもしろいものはないかと、いつも探してる。なんでも前向いて行かんといかんでしょう。」
    漆に出合って40年。好奇心はますます健在だ。

    松や岩の形に切った堆錦餅をはる

    職人プロフィール

    松田勲 (まつだいさお)

    1944年生まれ。伝統工芸士、県の無形文化財伝承者、沖展会員。

    こぼれ話

    琉球王府がまもり育てた漆器作り

    中国から漆器が伝わったのは、琉球王国が中国や東南アジア諸国と盛んに交易していた15世紀ごろのことでした。琉球では独自の漆芸が花開き、将軍家への贈り物として、また中国への朝貢品として、優れた品がたくさん作られました。王府は貝摺(かいずり)奉行所という機関を設けて、漆芸をまもり育てていたのです。
    貝摺奉行所では、貝殻を小さく切ってはる螺鈿(らでん)の技法を中心に製作していました。1日かけて一寸(3センチ)角くらいしかできない、かなり精巧な仕事をしていたようです。
    当時から作られていたもののひとつに、東道盆(トゥンダーブン)があります。中国からの冊封使(さっぽうし)をもてなすときに使った器で、8~9種類のごちそうが入るように中が区切られています。
    こういった大きな器には、デイゴの木が使われます。木の目が粗いので、大きさのわりにびっくりするほど軽いのです。それでいて丈夫で、乾燥しても変形することはありません。おもに沖縄本島中北部のものが使われています。また、お椀などの小さなものには、本島北部のシチャマギ(エゴノキ)を使います。

    • デイゴは半年ほど乾燥させてから使います

    • 自作の東道盆を前にする松田勲さん

     

概要

工芸品名琉球漆器
よみがなりゅうきゅうしっき
工芸品の分類 漆器
主な製品盆、茶椀、銘々皿、椀、重箱、棗(なつめ)
主要製造地域那覇市、浦添市、糸満市、沖縄市、豊見城市、中頭郡中城村、島尻郡南風原町
指定年月日昭和61年3月12日

連絡先

■産地組合

琉球漆器事業協同組合
〒902-0078
沖縄県那覇市識名3-19-6
識名公民館ホール1階
TEL:098-855-6789
FAX:098-836-2636

特徴

琉球漆器は主に朱色の漆や黒い漆を用いた花塗(はなぬり)で作られています。また模様つけの技法には「堆錦(ついきん)」や「沈金」、「箔絵」、「螺鈿(らでん)」等色々なものがあります。木地は、デイゴやエゴノキ、センダン等の木で、下地は豚の血等を使った「豚血下地(とんけつしたじ)」、上塗りは天然の漆を用いた塗り立てで、特に朱の鮮やかな美しさは他に例を見ません。

作り方

沖縄の「堆錦」は顔料と漆を練り合わせ、餅のようにしたものを、板上で薄くのばして模様に切りぬき、器に張りつけ、その上でさらに細い線を彫ったり着色したりして仕上げる琉球漆器独自の技法です。

totop