岩谷堂簞笥

岩谷堂簞笥の始まりは18世紀末に遡ります。当時の岩谷堂城主が家臣に車付箪笥や長持等の木工家具の商品化を研究させたのが始まりとされています。
現在の江刺市にあたる岩谷堂は、平安時代末期に平泉文化を築いた奥州藤原氏の初代清衡が、平泉に移るまでの約30年間、本拠地としていたこともあり、鋳金や木工等の伝統が古くからありました。

  • 告示

    技術・技法


    木材の乾燥は、自然乾燥及び強制乾燥によること。


    使用する板材は、無垢材とすること。この場合において、板材の厚さは、天板、側板、たな板、束板、かんぬき、地板及び台輪にあっては18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、16ミリメートル以上)、裏板にあっては6ミリメートル以上とすること。


    木地加工は、次によること。

     
    (1)
    本体の箱組みは、次の技術又は技法によること。

     
     

    側板に対する天板の接合は、5枚組以上の前留め組み接ぎ、前留めあり組み接ぎ又は留形隠しあり組み接ぎにより、側板に対するたな板の接合は、包み片胴付き追入れ接ぎ、包みあり形追入れ接ぎ又は剣留め両胴付き追入れ接ぎにより、側板に対する地板の接合は、5枚組以上の組み接ぎ又は包み打付け接ぎにより、側板に対する裏板の接合は、包み追入れ接ぎによること。

     
     

    天板、たな板及び地板に対する束板の接合は、包み片胴付き追入れ接ぎ又は剣留め両胴付き追入れ接ぎにより、束板に対する裏板の接合は、平打付け接ぎによること。

     
     

    天板に対する裏板の接合は、包み追入れ接ぎにより、たな板、地板に対する裏板の接合は、平打付け接ぎによること。

     
    (2)
    引出しに使用する板材は、無垢板又は化粧板張りとし、化粧板は、厚さ3ミリメートル以上の挽き板とすること。この場合において部材の接合は、包み打付け接ぎ、包みあり組み接ぎ、組み接ぎ又は片胴付き追入れ接ぎによること。

     
    (3)
    とびら又は引戸を付ける場合には、次の技術又は技法によること。

     
     

    板物にあっては、板材は、厚さ18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、16ミリメートル以上)の無垢板又は化粧板張りとし、化粧板は、厚さ3ミリメートル以上の挽き板とすること。この場合において、部材の接合は、本ざね留め端ばめ接ぎによること。

     
     

    枠物にあっては、板材の厚さは、枠板にあっては18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、16ミリメートル以上)、鏡板にあっては6ミリメートル以上とし、枠の部材の接合は、留形やといざね接ぎ又は留形挽き込み接ぎにより、枠板に対する鏡板の接合は、段欠き打付け接ぎ又は片胴付き追入れ接ぎによること。

     
    (4)
    台輪を付ける場合には、台輪の四方の角の部材の接合にあっては留形片桐付き追入れ接ぎ又は包み片胴付き追入れ接ぎにより、根太の接合にあっては追入れ打付け接ぎによること。


    塗装は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    ふき漆塗にあっては、生漆を繰り返し塗付した後、精製生漆又は透漆を用いて「仕上げふき」をすること。

     
    (2)
    「木地呂塗」にあっては、クロメ漆を用いて下塗をし、木地呂漆又は呂色漆を用いて上塗した後、上塗研ぎをし「胴摺り」をすること。


    金具の製造は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    使用する地金の厚さは、0.8ミリメートル以上とすること。

     
    (2)
    「鏨彫り」は、手作業により彫り鏨を用いて行うこと。

     
    (3)
    「打ち出し」は、手作業により木台及び金鎚を用いて行うこと。

     
    (4)
    蝶番、錠及び鍵作りは、手作業によること。

     
    (5)
    引き手作りは、手作業により「わらびて型」、「もっこ型」、「ひるて型」又は「角手型」に鎚打ちし成形すること。

     
    (6)
    さび止めは、焼いた金具に動物性繊維をすりつけた後、ろうを塗り布で磨くこと。

     
    (7)
    色仕上げは、生漆を塗付し焼き付けること。

    原材料


    木地は、ケヤキ、クリ、キリ、スギ、ニレ、タモ、キハダ、セン、カツラ若しくはホオ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。


    くぎは、「ガマズミ」製又はこれと同等の材質を有するものとすること。


    漆は、天然漆とすること。


    金具は、鉄製とすること。

  • 作業風景

    工程1: 木取り

    岩手県内、北上山系に多く存在する樹齢300年程度のケヤキの木を切り出した原木を数年ねかせて製材します。加工する前に製材したケヤキ材を野積みをして風雨にさらし、年月をかけて十分に自然乾燥させます。この自然乾燥の方法を「野ざらし」といいます。野ざらしすることによってケヤキのアクが抜けるため、箪笥を作った後、狂い、割れが減少します。このケヤキの素材を使用し、無駄なく用途に応じた部材を取ることを「木取り」と言います。

    工程2: 切り込み、組手加工

    木取りした部材を木地加工し、組み立てます。熟練した技術が必要な工程で、一貫して手作りで行われています。板材を組み合わせるための組手、ほぞをノミ、ノコギリで刻んで加工します。本体を組み立てた後、表面を滑らかにするために鉋(カンナ)がけを行います。

    工程3: 前仕上げ

    組立て仕上げた本体に引出しを作って差し込みます。部品の寸法を揃え、組手加工し、表面に鉋をかけて引出しの外枠を組み立て、底板を取り付けます。引出しが本体にぴったりと収まるように寸分の狂いなく鉋で削り合わせて仕上げます。

    工程4: 漆塗り

    箪笥の外側に漆を塗ります。外観が美しくなることはもちろん、耐久性も非常に優れたものになります。時を経るにつれ透明感が増し、重厚感と品格のある箪笥になります。漆塗りには、はけで塗っては布で磨く「拭き漆」と、砥粉と混ぜた漆で目止めをして、研ぎ、その後に精製漆を塗り重ねて仕上げる「木地蝋塗り」があります。この手間のかかる作業があって岩谷堂箪笥のケヤキの木目の美しさが映えるのです。

    工程5: 金具の製作(1)下絵つけ

    岩谷堂箪笥を特徴づけている飾り金具には「手打ち彫り」のものと「南部鉄器金具」の2種類があります。ここでは「手打ち彫り」の工程をご紹介します。塗装された鉄板、あるいは銅版に下絵を描いて貼ります。下絵に描かれる龍や唐獅子、唐草模様などの意匠(デザイン)は、長い間大切に受け継がれ今に至っています。

    工程6: 金具の製作(2)彫金

    板の裏に鏨(タガネ)を当て、金槌で叩いて図柄を刻んでいきます。表からは線刻し、絵模様の龍や獅子が生きているように浮き上がらせます。このとき用いられる鏨は数十種類あり、すべて職人の手作りです。(写真は花模様かたちの鏨と弧のかたちの鏨)

    工程7: 金具の製作(3)打ち出し

    彫金した金属板を裏側からハンマーで打ち出し、さらに膨らみを出し、立体的な彫金を仕上げます。この打ち出しの際に用いられる台はそれぞれの職人の持ち物です。各人の使いやすい形の台になっており、この台の使い方が職人さんの腕、個性、歴史を物語ります。彫金の終わった金具を切り抜いて、やすりをかけて仕上げます。

    工程8: 金具の取り付け

    最後に木地に金具を取り付けて完成です。飾り金具については、文様が映えるような場所に取り付けます。漆の透き通った品格と合わさって全体の重厚感を醸し出します。

     

  • クローズアップ

    ケヤキの杢目と金具の重厚さ 岩谷堂箪笥

    平安文化絢爛たる奥州藤原氏の時代から作り続けられてきたとされる岩谷堂箪笥。漆を透けて美しさが映えるケヤキの杢目(もくめ)と、金属の板を無数に叩いた飾り金具が調和して、使う人の暮らしに彩りを添える伝統の逸品。

     

    重厚さと気品を与える杢目と金具

    家に上がり、ふと目にしたところに座る絢爛たる箪笥。豪華な飾り金具と、二つと同じ物のないケヤキの杢目は、使う人の気品を感じさせる。北の都に受け継がれてきた岩谷堂箪笥は、どっしりとした風格の中にも実用性を兼ね備えている。熟練の木工技術と金工技術が融合した伝統の箪笥だ。

    岩谷堂箪笥

    鮮やかな飾り金具が岩谷堂箪笥の特徴

    岩谷堂箪笥の特徴といえば、何と言っても飾り金具の紋様の精密さ、美しさが挙げられる。龍や虎、唐草、松竹梅、獅子などを鮮やかに打ち出した金具は、箪笥の格調を一層引き上げている。この金具は文政年間(1820年前後)に徳兵衛という鍛冶が彫金金具を考案したのが始まりとされている。箪笥自体の起源は平泉が北の都として栄えていた頃の康和年間(1100年代)に藤原清衡公がこの地に木工産業を奨励したことに発すると言い伝えられている。
    時を経て受け継がれてきた岩谷堂箪笥作りについて、岩谷堂箪笥生産協同組合の理事長である菊池廣志さんに話をうかがった。

    獅子の金具丹念に打ち出すと模様を浮んでくる。

    ケヤキの杢目を際立たせる漆の力

    「ケヤキの杢目の美しさは時間が経つほどに際立ってくるのですよ。」と菊池さん。ケヤキの杢目の重厚さにたいそう惹かれたという。杢目を美しく見せるためには漆がかかせない。岩谷堂箪笥では漆を塗っては拭いて刷り込んでいく「拭き漆塗り」と透明の漆を塗っては磨き厚い層を作り出す「木地蝋塗り」の二つの技法がある。
    「漆を丹念に丹念に塗っていきます。」漆を塗ることで外観の美しさと耐久性がぐっと増す。今でも岩手県は日本一の漆の産地であり、平泉の遺構にも漆拭きが施されていた。材料であるケヤキも当地、北上山系には質のよい木がふんだんにあった。「時間が経つほどに漆が“さえる”のです。はじめは黒く濁っているような漆の塗装がだんだん透明になってきます。ケヤキの赤い色調と杢目が映えるようになってくるのです。」

    「ケヤキの命を生かしたい」

    ケヤキは長い間生き続ける木である。現在では少なくなってしまったが、かつては神社の境内には樹齢千年を越える大木が日本の各地にあった。ケヤキの杢目に惹かれた岩谷堂箪笥の職人は「ケヤキの命を箪笥として生かしたい。」という気持ちになってくるという。丹念にそして精巧に作られた岩谷堂箪笥は、大事に使えば何百年も使い続けることができる。切られた後もケヤキの命を大切にしたい、森や木には神が宿ると信じてきた日本人の精神が箪笥作りには受け継がれている。

    大切なケヤキに心をこめて

    岩谷堂箪笥のいろいろ

    岩谷堂箪笥には珍しい形のものも多い。箪笥の下に車輪のついた車付箪笥は移動を行うことを考えて作られているという。岩谷堂箪笥は外側をケヤキで、内側をキリで作られているが、キリは万が一の家事の際も燃えにくく、また天然の防虫効果もあり、大切な衣類を永きに渡って守り続ける。舟箪笥は船に積み込まれて金庫の役割を果たしてきた。珍しいところでは箪笥の上部に段差がある階段箪笥は、その名の通り階段としても使われてきた。一貫した手作りで丈夫な岩谷堂箪笥ならではの多彩な使い方である。

    車輪の付いた車付箪笥移動を考えて作られている。

    みちのくの伝統の技は時を越えて

    明治になり、人々の生活が豊かになり始めると、堅牢さ、美しさを兼ね備えた岩谷堂箪笥は各地から求められるようになった。北上川の水運で運ばれて東北の各地に広まって行った。その後、時代の厳しい波に揉まれながらも、伝統の技を厳しく守り続けてきた。今では一般の人にも広く使ってもらえるような汎用品も揃え、さまざまな需要に応えている。
    伝統的工芸品の世界は後継者不足に悩みがあるが、近年、本物の技を志向する若者も増えている。都会で育った人が一念発起し当地に移り住み、地道に伝統の技を学び身につける事例がある。新しい時代の風を受け入れながら伝統の技と融合させていく岩谷堂箪笥。二十一世紀、二十二世紀とこれからも時を越えて受け継がれていくみちのくの伝統である。

    職人プロフィール

    菊池廣志 (きくちひろし)

    木地作りで20年の経験を積んだ後、金具作り歴28年。「現代の名工」にも選ばれている伝統工芸士。

    こぼれ話

    岩谷堂箪笥金具はすべてオリジナル

     

    • さまざまな金具を使って叩き出した金具

     

概要

工芸品名 岩谷堂簞笥
よみがな いわやどうたんす
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 整理箪笥、車付箪笥、小箪笥
主要製造地域 奥州市、盛岡市
指定年月日 昭和57年3月5日

連絡先

■産地組合

岩谷堂箪笥生産協同組合
〒023-1131
岩手県奥州市江刺区愛宕字海老島68-1
TEL:0197-35-0275
FAX:0197-35-0972

http://www.iwayado-tansu.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

ケヤキやキリ等の木を素材とし、漆塗りの上に、手打ち手彫りで作られた堅牢で優美な金具が取り付けられています。金庫の役目をするために、鍵のかかる金具が使われます。重厚で伝統的な和箪笥です。

作り方

自然乾燥後、さらに人工的に乾燥させた無垢板(むくいた)を使用します。箪笥の組み立てには、厚さ18mm以上の板を使います。組み立て後、拭き漆塗と木地呂塗(きじろぬり)の技法で板の表面を加工し、手打ち金具を取りつけます。

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