南木曽ろくろ細工

南木曽町の古い文献によると、南木曽ろくろ細工の始まりは、18世紀前半となっています。
盆、椀等の木地荷物を名古屋・大阪方面に出していたことが記されています。江戸時代中期には、白木の挽物(ひきもの)がこの地方で生産されていたことがうかがわれます。

  • 告示

    技術・技法


    木取りは、寸決め、玉切り、墨付け及び挽き割りをした後、荒挽きをすること。


    乾燥は、割れ止め及び外気ならしをすること。


    仕上げは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    白木製品にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    粗仕上げかんなを用いて縦ろくろによる縁挽き及び粗仕上げ挽きをすること。

     
     

    仕上げかんな及びシャカかんなを用いて縦ろくろによる仕上げ挽きをし、仕上げ磨きをした後、トクサ及び「スグキワラ」を用いて「水磨き」をすること。

     
    (2)
    漆拭き製品にあっては、次の技術又は技法によること。

     
     

    粗仕上げかんなを用いて縦ろくろによる縁挽き及び粗仕上げ挽きをすること。

     
     

    仕上げかんな及びシャカかんなを用いて縦ろくろによる仕上げ挽きをし、仕上げ磨きをした後、生漆を用いて漆拭きをすること。

    原材料


    木地は、トチ、ケヤキ、セン、カツラ若しくはミズメ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    ろくろ細工の名のように、製作上の特色はろくろによるカンナがけにあります。陶磁器のろくろ製作とよく似ていて、原木をろくろで回しながらカンナの刃を当てて彫り出していきます。南木曽ろくろ細工では、このろくろ挽き工程はもちろん、選木、木取りから塗装に至るまでの全作業を1人の熟練職人の手で行い、完成度を高めています。

    工程1: 選木

    原木の主なものは、木曽に産するトチ、ケヤキ、セン、カツラ、ミズメなどです。南木曽ろくろ細工の良さは、天然の木目を生かして素朴で暖かい手づくりの良さを木製品のすみずみにまで感じさせるところにあります。そのため、充分に選定された天然木それぞれの木質、木味など微細な変化に合わせて作る製品を決めるというように、原木の吟味には細心の注意が払われています。
    原木の皮をヨキという道具で剥ぎ、ブラシやたわしを使って汚れを取り除きます。そして木口面および表面の状態を調べ、これによって伐採時期や生育場所、成長過程および内部における木質や木味、色調、杢の有無とその範囲などを判断します。この判断と造ろうとする製品とを比較想定しながら木取りを行っていきます。

    工程2: 木取り(玉切り~荒挽き)

    入念に選木された原木を、輪切りにしていくのが「玉切り」と呼ばれる工程です。次に、こうして輪切りにされた木材の木口面を上にして切っていきます。これを「挽き割り」と呼びます。こうして挽き割られた木材を、木目や杢が充分生かされるように円形または楕円形にするため、外側を切り落とすのが「丸め」です。そしてろくろ機を使い、厚めの寸法にカンナで挽く作業を「荒挽き」と呼びます。

    工程3: 乾燥

    荒挽きされた木材をそのまま製品に仕上げることはできません。余分な水分を出して、木材としての堅労度を上げるために長期の乾燥を経ねばなりません。室の中に木材を並べ、ストーブまたはいろりによって約3ヶ月間乾燥させます。大きいものになると、3年かかるものもあり、木材の寸法によって乾燥期間は変ります。乾燥の目安は木材の含水度。10%程度になったらストーブなどの乾燥を止めて、普通の空気に順応させるために自然放置させ、含水率を12%程度まで戻します。

    工程4: 仕上挽き

    外気ならしを済ませた木材は、カンナを使って、ろくろで回しながら仕上げ面を平滑にしていきます。この作業は非常に熟練された技術を要します。特に刃の当て方や削り方には充分な経験が要求され、ろくろと刃とのコンビネーションは一朝一夕で得られるものではありません。
    この時に使用されるカンナには様々な種類があります。ろくろ細工職人は、加工品の形状を整える荒仕上カンナ、加工面をより平滑にする仕上カンナ、挽目の筋を取り除いて最終仕上面をつくるシャカカンナなどの道具を自在に使います。同じ種類のカンナでも常に2~3本を使用して挽き上げていきます。なお、これらのカンナは職人それぞれが挽くものに合わせ、挽きやすいように自分で造り、鍛えていきます。
    こうして仕上挽きされたものは紙やすりでさらに磨きあげられます。

    工程5: トクサ磨き・漆拭き

    仕上げには、トクサやスグキワラを使って水磨きを行う「トクサ磨き」と、天然漆を擦り込んで磨く「漆拭き」の2種類あります。トクサ磨きによって艶出しされたものは、木の目地の美しさをそのまま生かした白木製品に仕上がります。どちらも用途は似ており、シンプルな仕上げは見た目にも美しく、滑らかな表面に流れる整った木目が素材の良さを表しています。こうして注意深く造り上げられた茶びつ、茶盆、木地鉢、椀、茶筒、茶たくなどには、どれも木目を最高に生かした木取りの手法が鮮やかにうかがわれます。

     

  • クローズアップ

    手になじむ木肌の感触 南木曽ろくろ細工

    木肌に宿る木目の美しさを余すところなく生かし、自然の息吹と天然木の歴史を感じさせる南木曽ろくろ細工。素朴で暖かい手づくりの良さが、見るものの心を優しくする。

     

    実用品としての高い完成度

    古くから名木を産する豊かな森林資源に恵まれた木曽。南木曽ろくろ細工は、その木の良さを「ろくろ細工」という特殊な技法で引き出したものだけに、陶磁器にも似た柔らかくまろやかな感触が特徴だ。大蔵盛司さんは、長野県南木曽町でろくろ細工をつくるヤマダイ大蔵の4代目。この仕事をはじめて47年になる。「南木曽ろくろ細工の特徴は、湯飲みから大ぶたまで、つまり小から大まで幅広い製品をつくるところです。選木から木取り、塗装に至るまでのすべての工程がここでできるので、それだけに実用品としての高い完成度が得られます。」南木曽ろくろ細工は木の目地の美しさをそのまま生かした「白木製品」と、天然漆をすりこみ磨かれた「漆拭き製品」の2つに大きく分けられる。器、椀、鉢、盆、茶筒はもちろん座卓や丸コタツ板まで、製品の種類はさまざまだ。ろくろ細工は本来丸い型が主流であったが、これまで培ってきた技術を活用して四角い製品(机など)にも挑戦している、と大蔵さんは話す。

    自然木との真剣勝負、木取り

    南木曽ろくろ細工が仕上がるまでには、大変な手間がかかる。まずは、仕入れてきた原木を輪切りにしていく「木取り」だ。「確かにろくろを挽くことも難しいけれど、実は木取りが一番大変。いくら高価な原木を仕入れても相応の価値がある中身とは限りません。そのため木の良し悪しを見極める眼力と、木目を最大限生かして切る技術、この両方が必要とされます。」

    ろくろ細工の仕事は中学を卒業後すぐ、16歳からはじめる。47年技を磨いてきた熟練の伝統工芸士。

    プラスティックに負けない強さをつくる、自然乾燥

    さらに、木取りした原木を木口面を上にして大体の大きさに切る「挽割り」、外側を切り落とし円形に整える「丸め」、ろくろ機を使って厚めの寸法にカンナで挽く「荒挽き」の工程を経て一度自然乾燥をさせる。「電気乾燥だと1カ月くらいです。ただし、割れたり・歪んだりする確率が高くなります。一方、自然乾燥だと3カ月程。大きいもので3年はかかります」。このように、じっくり乾燥に時間をかけることにより、プラスティックや金属製の器具にも負けないほどに堅労度が増し、長持ちするのである。柿のようにアクがある木は水に浸けておくのだそうだ。アクが抜けた柿でつくられた茶筒は、なんともいえぬ渋みが素朴な味わいを引き立たせる。木の湿度が10%程になったら乾燥を止めて、普通の空気に順応させる。そして、最終工程である「仕上げ挽き」、「漆拭き(水磨き)」へと続く。

    永い時をかけて自然乾燥される荒挽き材。じっくりと仕上げ挽きされる日を待つ

    カンナ挽きに必要な呼吸

    ろくろ細工と名にあるとおり、製作上の特色はろくろによるカンナがけにある。陶磁器のろくろ製作とよく似ていて、原木をろくろで回しながらカンナの刃を当てて彫り出していく。手作業で行う「仕上げ挽き」は何よりも呼吸が大事、と大蔵さんは言う。カンナを胸に当てて作業をするため、呼吸を整えなければ手元がずれてしまうのだ。職人が使うカンナは各人が鍛え上げる。自分の道具は自分で使いやすくする、ここにも一貫作業へのこだわりが見受けられる。どのような形が自分の合ったものなのかが分かるには、5年はかかるそうだ。このような工程を経て、滑らかな表面に流れる整った木目の美しさが生み出されていくのである。大蔵さんは「木の良さを最大限生かしていくことの難しさがあるから、どの工程も気を抜けません。だからこそ仕上がった時に木目のいいところが出てくれると、うれしいですね」と話してくれた。

    それぞれの職人によって鍛え上げられるカンナ

    職人プロフィール

    大蔵盛司

    ろくろ細工の仕事は中学を卒業後すぐ、16歳からはじめる。47年技を磨いてきた熟練の伝統工芸士。

    こぼれ話

    輸入製品との見分け方

    現在、南木曽ろくろ細工に良く似た輸入製品がよく出回っています。主に中国からのものが多いようですが、産地のものと類似品とを判別するにはどうすればいいのでしょうか。ここではその判別の仕方についてご紹介します。
    まずは、原材料や外見。中国ではケヤキが多く採れないため、中国製のろくろ細工の原材料としてはハシブトナツメの木がほとんどです。産地のろくろ細工にもカンが使用されているものがありますが、細やかさは上です。ただ、素人目には見分けがつきにくく大体の人は違いが分かりません。
    他の判別方法として挙げられるのは金額です。中国製のろくろ細工は品物にもよりますが、小物など安いものでは500円程度で購入できるものもあります。産地のものは同じ形状のもので数倍以上と考えていいでしょう。
    伝統工芸マークはどうでしょうか。現状では、貼付されていない製品がほとんどです。なぜなら、ろくろ細工自体が呼吸をしているため、シールをはがした際に変色の原因となってしまうためです。
    一番信頼のおける購入方法は、やはり現地の直販店で、ということになります。直販店ならば店員が丁寧な説明をしてくれますし、ろくろ細工の体験をさせてくれるところもあります。「木曽の木地師」をめぐるツアーを利用して、作業工程などを見学しつつ製品を購入するというのはいかがでしょうか。

     

概要

工芸品名 南木曽ろくろ細工
よみがな なぎそろくろざいく
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 木地鉢、茶櫃(ちゃびつ)、盆、汁椀
主要製造地域 木曽郡南木曽町、下伊那郡阿智村、岐阜県/中津川市
指定年月日 昭和55年3月3日

連絡先

■産地組合

南木曽ろくろ工芸協同組合
〒399-5302
長野県木曽郡南木曽町吾妻4689-239
TEL:0264-58-2041
FAX:0264-58-2665

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

南木曽ろくろ細工の良さは、天然の木目を生かして素朴で温かい手作りの良さを、木製品の隅々にまで感じさせるところにあります。十分に選びぬかれた天然木の木質、木の味等細かな変化に合わせて、作る製品が決められます。

作り方

材料になる木の皮を剥(は)ぎ、ブラシ等で汚れを取り除き、木の切り口及び表面の状態を調べます。これによって伐採時期、生育場所、成長過程、そして木の内部の木質、木味、色調、杢(もく)と呼ばれる変わった模様があるかどうかとその範囲等を判断し、作ろうとする製品と比べながら、木振り、木目及び杢を最大限に活かして、予定の製品のイメージを原木の中に描いていきます。

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