大阪泉州桐簞笥

農業をするかたわらに行われた、近所で採れるキハダやキリの木を使った、箱等の簡単な指物作りは、江戸時代中期に始まったと言われています。江戸時代後期から明治時代にかけて一大産地を形成しました。
キリの柾目(まさめ)を活かし、木釘と各種組み接ぎ(くみつぎ)技法を凝らした組立から、磨き着色に至るまで、伝統技法を脈々と伝えています。

  • 告示

    技術・技法


    乾燥は、自然乾燥によること。


    使用する板材は、無垢板とすること。この場合において、板材の厚さは、天板、側板、たな板、束板及び地板にあっては20ミリメートル以上、裏板及び引出しの底板にあっては8ミリメートル以上とすること。


    側板に対する天板、地板及びたな板の接合は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    側板に対する天板の接合は、9枚組以上の前留め組み接ぎ、前留めあり組み接ぎ又は包みあり組み接ぎによること。

     
    (2)
    側板に対する地板の接合は、9枚組以上の前留め組み接ぎ又は胴付き追入れ接ぎによること。

     
    (3)
    側板に対するたな板の接合は、胴付き追入れ接ぎによること。


    引出しの部材の接合は、包みあり組み接ぎ、包み打付け接ぎ、あり組み接ぎ又は組み接ぎによること。


    とびら又は引戸を付ける場合には、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    板物にあっては、板材の厚さは、20ミリメートル以上とし、芯材の枠の接合は、平留め接ぎによること。

     
    (2)
    枠物にあっては、板材の厚さは、枠の部材にあっては20ミリメートル以上、鏡板にあっては、7ミリメートル以上とし、枠の部材の接合は、留形やといざね接ぎによること。


    仕上げは、うづくりかけをし、やしゃぶしを用いる着色をした後、ろうみがきをすること。

    原材料


    木地は、キリとすること。


    くぎは、ウツギ製又はこれと同等の材質を有するものとすること。


    金具は、銅、銅合金又は鉄製とすること。

     

  • 作業風景

    桐箪笥製造では、木材を木取りし、ほぞを作り、組み立てて仕上げるまでの行程のほとんどを一人で仕上げる場合が多いです。長短ある木材が、一人の職人さんの手に掛かると、どんどんと組み上げられ行き、いつしか立派な一竿の箪笥になるのです。それでは、大阪泉州桐箪笥の作られる製造工程を、順を追って紹介しましょう。

    工程1: 造材

    年輪の通り具合により、柾目、板目を区別し製材します。その後1~2年程度天然乾燥させます。たくさんの材木が製作所のまわりを取り囲むほどです。

    工程2: 木取り

    木寄せ、柾目直しを行い3~4枚を糊で接着固定します(柾寄せ)。

    工程3: 歪み直し

    乾燥の際に生じたくるいを火であぶって修正し、両面を平らに削ります。大型プレス機で圧力をかけ、まるでアイロンをかけたかのように、真っ直ぐにゆがみを直す場合もあります。

    工程4: 矧(は)ぎ加工

    板の接合面を削り、糊を付けて固定し接合させます。木目の流れの合った材木を選び出し、横に並べて接着すると、まるで1枚の板のように見えます。

    工程5: 木地造り

    加工した板を寸法どおりに切断し、引き出し前板木地、開き戸木地、引き戸木地をつくります。

    工程6: 組み手加工

    本体正面の部分に柾材を練り付け、乾燥後、表面を削ります。
    そして、組み手ほぞをつくります。「ほぞ」とは、板同士を組み合わすことによって、接合させるための「みぞ」のことです。ほぞ作りは職人の腕の見せ所です。板の上に片足を置くという、独特のポーズで行われます。寸法通りにできたほぞは、組立合わせた際にキッチリとはまり、ビクともしません。

    工程7: 本体組み立て

    足取り付け、裏板打ち付けて、組み立て鋸で削り調整し、水拭きの後、仕上げ削りをします。

    工程8: 引き出し・引き戸加工

    引き出し、盆をそれぞれ削り、引き戸開き戸部分をつくります。本体に合わせて引き出し盆作りを行い、仕込みをします。

    工程9: 仕上げ加工

    仕上げカンナで調整し、着色、金具をつけます。

     

  • クローズアップ

    上品な顔立ち、堂々とした風格。それが大阪泉州桐箪笥の魅力

    日本の風土が育てた美しい素材である桐。淡い色調と美しい木目、そして光を抑えた金具。伝統工芸ならではの細かい手仕事が結集した桐箪笥は、優雅な雰囲気をもたらす。その柔らかな質感は思わず撫でてしまいたくなるほどだ。

     

    良質の桐材は会津から

    江戸時代中期に大阪で桐箪笥の製造技術が確立された。その後、桐箪笥は堺を経て和泉に広がり、泉州地域に産地が形成されたといわれる。その昔、文政2年に農家の副業として桐苗の植え付けが許されたため、桐の植樹が増加し、のちに桐箪笥の原材料となったというのだ。
    かつて「女の子が産まれると庭に桐の木を植え、その子が嫁入りの時にはその木を切って桐の箪笥をこしらえた」といわれるよう、桐の成長は比較的早い。桐箪笥の材料となる桐は福島県の会津地方を中心に取り寄せられているが、近頃ではアメリカのバ-ジニア州、ペンシルバニア州等からの輸入材が入ってくる。中国でも人民公社が日本に輸出するために植林しているが、やはり、自然林と比べると年輪が大きくなってしまっている。その点ペンシルバニアなどは、緯度が会津地方に近いため、良質な材料が育っているのだ。

    伝統の技が施された気品ある桐箪笥

    伝統的工芸品を愛し,バイタリティーあふれる田中氏

    独特の道具で切断の目安となる線を入れる

    桐箪笥は木目あわせが肝心

    大阪岸和田にある田中家具製作所を訪れた。作業場を取り囲むように切り材が並べられている。桐箪笥の伝統工芸士田中稔氏は、その一画で桐材の選別作業をしていた。「木目や長さによって箪笥のどの部位に使うか分けていたんです。そして木目を揃えて印を付け、矧(は)ぎの工程に渡します。私はこの工程が結構好きなんですよ。」木目の微妙な流れをよんでいるので、横に並べて矧いでも、全く継ぎ目が分からなくなる。さすが長年桐材を見ているだけある。そのすばらしい選考眼には驚かされた。彼が立ち上がったその後には、長年使っていると思われる座布団が残されていた。そしてそのまわりには長短様々な切り材が放射線状に並べられている。それはまるで座布団を花心とし、材木の花びらを持つ大きなひまわりのような光景だった。

    木材の選別コーナーは大輪の木材の花が咲いたよう

     

    盆を作る。完成に近づく

    道具一つにも職人の個性が表れる

    田中製作所では、比較的多く、若い職人さんが腕を振るっている。伝統的工芸品の工房においては、少し珍しい光景だ。中には大学を出てサラリ-マンを経験したけれど「どうしても工芸の仕事がしたい」と高等職業学校に通ってこの世界に入った人もいる。田中氏はその若者が工房に来た時、「私は、『修行の世界は大変だよ。やっていけるかい?』と心配しました。でも彼が持っている道具を見てハッとしたんです。こんなに手入れの良い道具をもっている者なら大丈夫だ。きっとすばらしい職人になるだろうと確信したんです。」と、当時を振り返った。桐箪笥を作るのには、ノミやたがねなど色々な種類が必要だ。しかしそのひとつひとつが手に馴染み、使いこなしていくのには、5年以上の歳月が必要なのだ。素人目には分からないが、道具の手入れ方法にさえ、職人の個性が表れているという。

    製作中の目は真剣だ

    箪笥作りを楽しむ職人たち

    大阪泉州桐箪笥は釘を使わずに「ほぞ」と「ほぞ」をはめ合わせることで、組み上げていく。そのために、「組み手加工」の工程では、寸分の狂いもなく「ほぞ」をくり抜かなければならない。その精密さはまるで寄木細工を見ているようだ。中でも田中氏が手がけ日本伝統工芸士作品展で受賞した貴重品箱付き衣裳箪笥は、隠し扉やからくり箱のような仕掛けがあり、扉を閉めていては分からない『遊びのような技巧』の部分が印象的だった。
    工房ではみんな黙々と仕事をしている。その姿はどこか、桐のたおやかな手触りを楽しみながら作業しているようにみえる。この製作所では、木取りから組み手、仕上げに到るまで一つの箪笥をつくりあげる全ての工程を、分業することなく一人の職人さんが担当している。工程を分業でしていない分、出来上がった箪笥は、職人さんにとって、自分の分身、あるいはかわいい子供のように思えてくるのではないだろうか。

    • 上段はかんな、下段はほぞを作るための特別な道具

    • 木取りに使う金具

    • 色紙入れなどの小物も手がけている。

    こぼれ話

     

概要

工芸品名 大阪泉州桐簞笥
よみがな おおさかせんしゅうきりたんす
工芸品の分類 木工品・竹工品
主な製品 収納家具、各種桐箪笥
主要製造地域 岸和田市、堺市、和泉市、東大阪市、大阪市、泉北郡忠岡町
指定年月日 平成1年4月11日

連絡先

■産地組合

大阪泉州桐箪笥組合
〒596-0002
大阪府岸和田市吉井町1-19-8
TEL:0724-43-5691
FAX:0724-43-5692

特徴

使用する桐材は1~2年かけて十分自然乾燥させてから使うので、アクが出ることはありません。桐材は20mm以上の厚い無垢板(むくいた)です。前面には、年輪の細かい木目が真っ直ぐ通った桐の柾目板を揃えて、高度な技法である「矧(は)ぎ加工」を施してあるので見栄えがします。

作り方

それぞれの部材別に大きさで分類し、キリ材を切断して幅合わせをし、どの板をどこに使うかを決めます。矧ぎ加工は、柾目を揃えてつなぐことで、一枚の幅広い板にする技法です。組手加工は、それぞれの部分を組手で組立てて、釘は一切使いません。着色加工は、手あかや汚れの付かない特殊な着色を施してあります。

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