越後与板打刃物

新潟県

戦国時代、上杉謙信の家臣が、16世紀の後半に春日山より刀作り職人を招き、打刃物を作ったのが始まりです。
江戸時代中期には、与板の大工道具は「土肥のみ」、または、「兵部のみ」として知られるようになりました。
明治時代に入ると刀作り職人が鉋の製造を始め、その鉋は全国に知られるようになりました。越後与板打刃物は、400年余りの伝統的技術・技法に培われた刃物です。

  • 告示

    技術・技法


    刃物鋼は、鉄と炭素鋼を炉で熱し、鎚打ちにより鍛接すること。この場合において、のみにあっては、炭素鋼が「小羽」を包み込むようにし、「生地」を用いるかんなにあっては、「二枚付け」により行うこと。


    成形は、刃物鋼を炉で熱し、鎚打ちによる打ち延ばし及び打ち広げをすることにより行うこと。


    まさかりの全体接合は、「合わせ付け」により行うこと。


    ちょうなの「いぼ」と「ひつ」の接合は、「胴締め」により行うこと。


    のみ及びかんなの焼入れは、「泥塗り」を行い急冷すること。


    「刃付け」、「研ぎ」及び「仕上げ」は、手作業によること。

    原材料


    使用する素材は、鉄及び炭素鋼とすること。


    柄及びかんなの台は、木製とすること。

     

  • 作業風景

    工程1: 地金焼(じがねやき)・鍛造(たんぞう)

    熱したコークス中に地金を入れ熱します。現在はふいごの代わりに送風機で空気を送ってコークスをよく燃やします。熱した地金は1200度を越えているので、冷めないうちにスプリングハンマーで叩きます。

    工程2: 鍛接(たんせつ)

    固いが脆い刃の部分になる鋼と粘りはあるが柔らかい地金の異なる性質が組み合わさって刃になります。
    熱した地金に接合剤(ヤスリで鉄を削った残りカス)をふりかけ、軟鉄と鋼を乗せます。
    加熱の際の温度管理は炎の色と熱した鉄の色から判断します。機械化のできない、職人の経験と勘に頼った工程です。1000~1100度で熱した刃を火から取り出したらすばやくスプリングハンマーで叩きます。時おり水をつけた金槌で叩くのは表面の酸化膜を水蒸気と共に飛ばすためです。

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    工程3: 焼きならし・鍛錬

    950度で加熱します。高温の鍛接作業で粗くなった鉄の結晶がここで整います。その後、880度~900度の高温、840度の中温、750度の低温で熱しては叩きます。使用する鋼により鍛錬の温度を変えます。鍛錬の名の由来に納得する工程です。

    工程4: 焼き鈍し(やきなまし)

    鋼の部分に泥を塗った後、炉に入れ炭を充填して750度で3時間熱し、自然に冷却します。鋼に泥を塗るのは鋼に含まれている炭素成分が抜けないようにするためです。(脱炭防止)熱処理により、鋼の内部応力を取り除き、加工しやすくします。

    工程5: 荒仕上げ

    刃を硫酸水溶液で洗った後、グラインダーで刃先の厚みが薄くなるように削ります。

    工程6: 岡ならし

    400度の鉄が赤くならない温度で熱処理することで、鉄の組織が更に強化されます。

    工程7: 化粧打ち

    刃の裏に模様を施します。模様をつけるためには模様のついた金槌を打ち付けます。そして、刃の中央をややくぼませます。そうすることで台に取り付けた時に刃の出方が左右均等になります。また、刃と台の馴染みがよくなるので削る際の振動が減ります。

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    工程8: 焼き入れ・焼き戻し

    刃に泥を塗って800~820度の炭の中で7~8分焼きます。泥の成分は職人ごとの秘伝です。焼いた後、たっぷり水を貯めた水槽に刃を浸します。この時に使う水には新しい物を使わずに何度も繰り返し使った水の方が刃によく馴染みます。
    熱処理の度に、生じている歪を叩いて直します。
    そして160度の熱風を40分間吹きつけます。この時間が長くなると刃の切れ味が落ち、短すぎると刃が脆くなってしまいます。鉄のストレス(内部応力)を除ければ、切れ味のよい、よく粘り、長持ちする刃になります。

    工程9: 砥ぎ入れ・刃付け

    刃をグラインダーで研磨する際は、たっぷりの水をかけながら刃が熱を持たないようにします。刃先が0.3ミリメートルくらい出るよう丁寧に削ります。
    砥石を変えながら、表裏、側面を砥いで行きます。

    工程10: 台入れ

    刃を差し込む部分をくり抜いた鉋台に押え釘を打ち、裏金を差し込んで刃を固定します。木を削る際の台と木との摩擦を減らすため台の中央部を少しくぼませます。
    こうしてミクロン単位の削り屑を出せる職人のための道具が完成します。

     

  • クローズアップ

    叩き出しによって出る切れ味 越後与板打刃物

    熱い鉄を叩いて叩いてはじめて出る切れ味は、本職の大工から愛され続けてきた。打刃物と言えば包丁など家庭で使われる刃物の印象が強いなか、越後与板の打刃物は鉋(かんな)に代表される、職人が作る職人のための最上の道具としての地位に立ち続けている。

     

    藩主が変わっても守られ続けた伝統

    水運信濃川に恵まれた越後、与板の地に刃物がもたらされたのは上杉謙信公の時代。謙信公の四天王のひとり直江大和守実綱が刀剣師をこの地に連れてきたのが始まりと言われている。
    その後、藩主が移り変わっても、打刃物の伝統が守られ続けたのは、与板打刃物の名声が全国に轟いていたからだろう。

    職人が作る職人のための道具

    与板では伝統的に、鉋、のみ、釿(ちょうな)、鉞(まさかり)などの大工道具を中心に製造してきた。大工もまた職人だ。それがゆえに大工道具には優れた品質が求められる。道具作りの技と木工加工の技、これらが組み合わされなければ、日本の優れた木造建築は存在し得ない。日本人が求める木の家、神社仏閣の精巧かつ落ち着きのあるつくりはさまざまな職人の合わせ技なのだ。

    職人に選ばれ続けている職人のための打刃物

    鍛錬焼いては叩き、焼いては叩く

    「与板打刃物の特長は、手作りの叩き出しによる切れ味の鋭さですよ。」と語る伝統工芸士の久住誠治さん。久住さんは与板金物振興協同組合の理事長でもある。
    「地金に鋼をつける鍛接(たんせつ)から鍛造(たんぞう)、焼き鈍し(やきなまし)、何度も焼いては叩くを繰り返すことが切れ味を出す秘訣です。」体を鍛えることの語源“鍛錬”の言葉の意味がはじめて体感できる工程だ。しつこいくらい繰り返す。
    柔らかいが粘りのある地金に固いが脆い鋼を鍛接(たんせつ)し、焼いて叩いてひとつになる。違う性質のものが補完し合って鋭い切れ味が現れる。
    「ウチは先代から本職の鉋だけしかやってないよ。」とは鉋刃職人の田中昭吾さん。「職人に選ばれる道具を作っていることが誇りだね。」と自信の言葉。

    小気味良いリズムで刃物が鍛錬がされていく

    「鉋作りは、打刃物、研磨、そして台作りの分業制

    鉋は刃を焼いて叩いただけでは鉄の塊。厳密な温度管理の中で焼き込まれた刃は、次の研磨職人の手によって刃物になる。そして台作り職人が作った台に組み合わされて初めて鉋になる。鉋作りの技の競演は、次の共演者たる大工職人の手に渡って、そして初めて本当の道具になる。

    直接売りでも安くはできない。問屋との長い付き合い

    久住さんは人気の彫刻刀職人だ。新潟市で行われた展示即売会では5日間で200セットも売れてしまったという。全国から直接買いに来る人も多い。しかし、「問屋より安くは売れないな。」と、問屋との付き合いを大事にしている。「問屋が大工に卸してくれることで与板の打刃物は名声を得てきたんだ。そして問屋は売れない時には自分で在庫を抱えることで職人から買い取ってきたのだからな。」職人の確かな技と、それを卸してきた問屋との長年の付き合いをそう簡単にはなくせないらしい。そう言いながらも時代の波だろうか、「最近は在庫を職人に押し付ける問屋もいるな。」と日本の大メーカのやり方が伝統工芸の世界にも波及してしまっているようだ。

    「木造建築がある限りなくならない。なくしちゃいけない。」

    「最近は包丁を作る職人が増えたよ。」他の産地でよく見かける包丁は、ここ与板ではあまり見かけない。職人に選ばれ続けた道具作りのプライドが一般の人に売れやすい包丁を避けてきたのか。「与板の包丁は評判いいよ。よく切れるって。そりゃそうだろう。」
    日本人はなぜか木の家に住むと気持ちが落ち着くようだ。コンクリートの家ではどこか満足できない雰囲気がある。木の家の文化を失ったら、ただでさえ忙しい私たちは気の休まるところをなくしてしまうかも知れない。木の家に住む気持ちよさは、近い将来、人々の心を再び捉えるだろう。その時に、与板の職人の技がまた生きる。
    「職人の仕事というのは欲が涸れてきたくらいで丁度いいもんです。我が強いうちはまだまだ。」半世紀以上の時間を職人として生きてきた久住さんの言葉だけに説得力がことさらだ。こんな言葉が自然に口をつく職人たちの作る家に住めたら、きっと心も体も健やかになれる、そんな気にしてくれる与板打刃物だ。

    職人プロフィール

    久住誠治 (くすみせいじ)

     

    こぼれ話

    目に見えない結晶を管理する伝統の技

    打刃物を作る工程の特徴は、何度も何度も「焼いて叩く」ことを繰り返すことでしょう。1,000度以上の高温で焼いたと思ったら、160度の低温の風を吹き付けてみたり、400度で焼いてまた叩いたり・・・。温度の調整は職人の目と勘による火加減で行っているのですから長年の経験だけがなせる技なのでしょう。
    さて、この温度。なんでこんなにいろんな温度で焼くのかと思ったら、温度の違いが鉄の結晶に大きく関わっているようです。高温で焼くと結晶の組織が乱れ、それを中温、低温で整えます。刃の粘りや使い心地は、目には見えないこの結晶をどうコントロールするかにかかっています。それが焼き入れ、焼き鈍しだったのですね。
    近年になって結晶を顕微鏡で見ることができるようになり、素晴らしい職人の技がミクロの目で見て改めて評価されているそうです。

    与板の鉋は切れ味で他の追随を許さない

     

概要

工芸品名 越後与板打刃物
よみがな えちごよいたうちはもの
工芸品の分類 金工品
主な製品 のみ、鉋(かんな)、まさかり、ちょうな、彫刻刀、切り出し、やり鉋
主要製造地域 長岡市
指定年月日 昭和61年3月12日

連絡先

■産地組合

越後与板打刃物組合
〒940-2402
新潟県長岡市与板町与板甲134-2
与板町商工会内
TEL:0258-72-2303
FAX:0258-72-3328

特徴

与板の打刃物は、火作り鍛造技法によるもので、その切れ味、使いやすさに定評があります。

作り方

鋼、地鉄を所定の寸法にのばし、地鉄に鋼をのせ、丹念に赤くなるまで熱したところで叩いて、叩き型を作り、鋼の組織を良くするために、火に当てて軟らかくする焼き鈍し(やきなまし)をします。そして地肌を美しくするために磨き、ついで焼き入れ、焼き戻しと刃物の命とも言われる工程を行い、最後に研ぎ、台または柄に仕込んで完成品となります。

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