京仏壇

京都府

仏壇は厨子(ずし)から変化したものですが、もっぱら武士階級のものとして用いられていました。
これが一般に広まったのは、江戸時代初期からで、徳川幕府が行った宗門改(しゅうもんあらため)によって、各家庭での仏壇を必要とする人々が増えたため、一般家庭用仏壇の生産が本格化したと考えられます。

  • 告示

    技術・技法


    木地の構造は、「ほぞ組み」による組立式であること。


    宮殿造りは、「ほぞ組み」及び「桝組み」によること。


    塗装は、下地造りをした後、精製漆を手塗りし、「ろいろ仕上げ」をすること。


    「重押し」による金箔押しをすること。


    加飾をする場合には、蒔絵又は彩色によること。

    原材料


    木地は、マツ、ヒノキ、スギ若しくはケヤキ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    金具は、銅若しくは銅合金又はこれらと同等の材質を有する金属製のものとすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    京仏壇の製作工程は、多岐にわたる分業体制が確立しており、なんと40以上の職種が存在し、各部門を専門に担当する職人たちの技術が統合されてできあがります。95名(2001年4月1日現在)の伝統工芸士をはじめとする専門の職人の手による高度な技の集大成、それが京仏壇です。

    工程1: 木地工程

    厳選された木材で仏壇の本体を作ります。京仏壇の主な材料はヒノキ・マツ・カエデなどで、各宗派ごとに定められた形で作られます。仏壇内部の様子も、各宗派寺院内陣の荘厳を模した造りとなっています。

    工程2: 屋根工程

    仏壇の内側の屋根の部分を作ります。細かい部品を一つひとつ手仕事で作り上げ、各々組み立て式に屋根を作ります。

    工程3: 木彫刻工程

    図柄を選定し、ヒノキ、マツなどの木材に、のみ、小刀などで手彫りします。彫刻する図柄は本山の様式に従いながら、宮殿・須弥壇(しゅみだん)・卓などの限られた範囲の中で、いかにして生命力、躍動感ある表現をするかが重要です。またその彫刻が見る者に心の安らぎを感じていただけるような技術の研鑚が必要です。

    工程4: 漆塗工程

    形作られた木地の上に下地加工したのち、天然精製漆にて手塗りします。木地の調整から始まり、重要な部分には刻苧(こくそ)を施して布や和紙を貼り下地錆(さび)を何度もつけて、砥石で研ぎ下地を仕上げます。そして、良質の天然漆をろ紙で濾し、下塗り中塗りをして、乾燥後墨研ぎをし表面を整えて上塗りします。

    工程5: 蝋色工程

    漆塗の表面を平らに研ぎ磨いて光沢を出します。蝋色漆などを塗り、さらに研磨して滑らかで豊かな漆黒の光沢を醸し出すもので、炭研ぎ、胴擦り、摺り漆、角粉(つのこ)磨きが必要です。炭研ぎは駿河炭、蝋色炭を使い、平滑緻密に研ぎあげるもので、仕上げを左右する重要な工程です。胴擦り後、摺り漆と磨きを三回繰り返し、特に三回目の摺り漆は薄くかつ十分に乾燥した後磨くことで一段と艶が深まります。

    工程6: 蒔絵工程

    漆で文様を描き、その上に金粉、銀粉、貝などを蒔き、さらに加筆または研ぎ出しするのが蒔絵です。蒔絵には、消し粉蒔絵、磨き紛蒔絵、研ぎ紛蒔絵などの技法があります。細かい金粉を使う消し粉蒔絵は、蒔いて乾燥させる単純工程で使用する粉の量も比較的少量。粗い金粉を使う研ぎ粉蒔絵では、蒔いた上から漆で塗り固めて木炭で研ぎ出さねばならず、使用する金粉の量は百数十倍、工程も時間も数十倍を要します。ほかにも様々な工程が加わり、京蒔絵の表現方法は無限です。

    工程7: 彩色工程

    金粉、顔料、絵の具などにて金箔のうえに、または直接下地づくりのうえに色付けします。彩色には、何度も色を塗り重ねる極彩色、淡い絵の具で木の素材を生かした木地彩色、金箔押しの上に淡い色使いで描く箔彩色の三種類があります。岩絵具・水干絵具は膠(にかわ)によって彫刻などに定着させます。また絵具の調合が大変重要な要素で、それによって京都でつくられたものだとわかるほどです。

    工程8: 純金箔押工程

    漆が塗られてきた品物に、漆を接着剤として純金箔を貼り、またはそのうえに金粉を施します。昔ながらの道具を用い、金箔を押す部分に箔押漆を塗り、拭き綿などで全体を均一に拭いていきます。下地漆の乾き具合や、その日の温度、湿度を感じ取り漆の種類や漆の拭き具合、残し具合を決めます。その微妙な漆の粘り具合が金箔押のすべてといえ、「重押(おもおし)」と言われる、京都独特の艶を抑えたむっくりとした重厚な輝きに仕上げます。

    工程9: 錺(かざり)金具工程

    銅その他の地金に手加工にて金彫りをした後、仕上げをし純金加工などを施して錺金具を作ります。錺金具の技法には、大別して、紋様を銅版に線刻した「平金物」(毛彫)と透かし紋様を切り抜いた「透かし彫」、そして立体的に薄肉彫に仕上げた「地彫」の三種類があります。洗練されたセンスとデリケートな技術が要求され、錺金具と本体が調和するよう心がけます。

    こうして各工程の完了したものが一カ所に集められ、総合的に組み立てられて、はじめて京仏壇ができあがります。

     

  • クローズアップ

    明日につなげる伝統の技・京仏壇

    芸術品としても高く評価される京仏壇。その荘厳な美しさを作り上げているのは、細分化された工程をそれぞれ担当する専門職人の技だ。京都ならではのしっとりした金色の仏壇には職人たちの心が打ち込まれている。

     

    高品質を支える多岐な分業体制

    各宗派百以上の総本山、三千数百もの寺院があり、国宝や文化財も数多くある京都。ここでは多くの仏壇を生産し、その繊細かつ荘厳な技は国内はもとより海外でも芸術品として高く評価されている。その高い品質を底支えするのは、多岐にわたる分業体制。細分化された工程を、それぞれの専門職人が担当するため、パーツの一つ一つに真剣な匠の技が施されるのだ。しかも職人たちは自分の仕事に精励するだけでなく、常に全体の工程を念頭におきながら仕事を進める。木地の段階から、あとで漆を塗る厚みを考えて余裕を持たせる。施主の求める納期に間にあわせるため、後の工程に迷惑がかからないよう早め早めに仕上げて次に渡す。こうした精緻な計算とこまやかな心遣いが、互いの技術を十分に引き出し、最高級の仏壇を生みだす。

    職人の動作は無駄な力を感じさせない

    長く厳しい修行を経てようやく一人前に

    専門職人とはいえ、担当する工程の中にはさらにいくつもの工程が含まれる。そのため、現在熟練の職人といわれる人たちは、みな一人前と呼ばれるまでに厳しい修行時代を経てきた人ばかりだ。純金箔押の職人・涌田さんは「私らの頃は、そりゃあ厳しいもんでした。」と振り返る。親方の家で掃除洗濯食事の支度と、家事労働を全部やりながら、基本の技術をみっちり仕込まれた。金箔押は、品物に漆を接着剤として金箔を貼っていく工程。金箔を押す部分に箔押漆を塗り、拭き綿などで全体を均一になるように拭いていく。下地漆の乾き具合や、その日の温度、湿度を感じ取って漆の種類や漆の拭き具合、残し具合を決めるが、その微妙な漆の粘り具合が金箔押のすべて、という。涌田さんも、最初はひたすら漆を塗っていたそうだ。「金箔の仕事に就いたはずやったのに、箔を触らせてもらえるようになったんは、やっと4年目からです。」

    丁寧な仕事で細部まで美しく光る

    何気なさの中に職人技が光る

    それに比べると今は修行も随分かわってきた。「私らが丁稚奉公の最後の世代でしょうな。今は、漆塗りだけ、なんて最初の1年だけです」と涌田さん。しかし、求められる技術の難しさが軽減したわけではない。高校卒業後、父の工房で修行を始めた息子の親(しん)さんも、「2年目から金箔押させてもろてるけど、やっぱり漆を塗って拭くのが難しい」という。「この仕事を始めるまでは、親父のやってるのを横で見てて、簡単やなあ、と思ってたんです。でも自分でやってみるとこれが難しい。親父ようやってんな、と尊敬の思いになりました。」職人の動作が、一見何の気なしにやっているように見えるのも、実は徹底的に繰り返し体得された技だからこそだ。何気なさの中に技の粋が光る。それはやはり修行を重ねてしか出せないものだろう。

    集中して金箔を貼る親さん。

    「箔は、貼るやない、押す。」心を打ち込んだ仕事

    涌田さんは「職人は、器用でなくてもできます。勘が大事なんです」と教えてくれた。「人に教えてもらえることは少ない、自分で考えてやらなあかんことが多いんです。」親さんも「親父と僕では体格も力も違うから、拭く時に親父と同じように拭いてたんでは仕上がりが違う。」自分の動作一つ一つを確認しながら、微妙に修正していく勘のよさが必要だそうだ。しかし仏壇職人にとって最も大切なのはその心がけだ。仏壇は信仰の対象であるだけに、扱いには最大限注意を払っている。「大事なもんですから、くる仕事くる仕事、全部心を打ち込んでせなあかんと思てます。」心を打ち込んでいるから、金箔にも「どしっと」という言葉がぴったりくる。「京都の箔は貼るじゃない、押す、です。」素人はついぴかぴかに光っているのが良いように思ってしまうのだが、それは「安っぽいんです」と涌田さん。「ぺらっと貼っただけの金箔は、踊って見えます。」「落ち着いた色合いで、しっとりと光っているのが京都の“重押(おもおし)”。ぴかぴかのものと比べたら、どしっとしてて、違いが納得してもらえると思います。」箔押しの出来は下地の漆塗りの出来が大きく左右するが、京都の仏壇は、下地からして専門の職人がきちんと仕事をしているので、やはり良いものができるそうだ。ぜひ一度京仏壇の品質、「重押」の美しさをじっくりと味わわれてはいかがだろうか。

    • 形に合わせ少しずつ箔押する

    • 教える者と教わる者、どちらも真剣

    • 伝統は父から子へと受け継がれていく

    職人プロフィール

    涌田實 (わくたみのる)

    昭和13年生まれ。
    中学卒業後、金箔押の修行に入り、昭和48年独立。金閣寺修復も担当。伝統工芸士。

    こぼれ話

    仏壇のおはなし

    ■仏壇の大切さ
    仏壇仏具は仏をまつる荘厳用具として、私たちの生活、習慣、文化と切り離せないものです。仏壇は、ご先祖や亡くなった人をまつるためだけにあるのではなく、目に見えない浄土や阿弥陀如来を形にあらわし、おまつりする場所。私たちは小さいころから、仏壇にお参りすることで、自然と感謝の心が芽生え、悔いのない毎日を過ごすことの大切さを教わります。お子様の情操教育の面からも、各家庭に仏壇は欠くことができません。

    ■仏壇の購入時期
    仏壇は心のよりどころ。ですから仏壇に手を合わせたいと思い立たれたら、仏壇を購入されるのはいつでも構いません。

     

概要

工芸品名 京仏壇
よみがな きょうぶつだん
工芸品の分類 仏壇・仏具
主な製品 仏壇
主要製造地域 京都市、宇治市、亀岡市、城陽市、向日市、長岡京市、木津川市、南丹市
指定年月日 昭和51年2月26日

連絡先

■産地組合

京都府仏具協同組合
〒600-8216
京都府京都市下京区東塩小路町607-10
サンプレ京都ビル3階
TEL:075-341-2426
FAX:075-343-2850

http://www.kyobutsugu.com/

特徴

京都には各宗派のもととなる総本山が100以上あり、それに加えて3,000余りの寺々や数多くの国宝・文化財があります。京仏壇は、各宗派の総本山の本堂の様子を忠実に再現小型化した精緻な工芸品として「京もの」と呼ばれ、格調の高さと精神性を誇っています。

作り方

京仏壇の製作工程は、細かい分業体制が確立しており、2,000程あるという各部分を専門にこなす職人たちの技術が統合されて出来上がっています。 「工部」と言われる職人たちは、木地、木彫、漆塗、箔押し、蒔絵彩色、飾り金具の各部門に分かれ、これらがさらに細かく分業されています。こうした複雑な工程をまとめ統合するのが「商部」で、製作された各部品を組立仕上げる最終工程を分担すると同時に、全国各地に向け販売しています。

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