大洲和紙

愛媛県

伊予の紙は平安時代に書かれた「延喜式(えんぎしき)」に出てきます。史実では、江戸時代中期に僧が大洲藩の紙漉(す)きの師として、技術を指導したところから藩内産業として紙作りが栄えたとあります。
藩の保護奨励のもとに次第に発展して、その品質は高い評価を得るようになりました。今なお多くの人が先祖の意志を継ぎ、和紙の生産に携わっています。

  • 告示

    技術・技法


    抄紙は、次の技術又は技法によること。

     
    (1)
    「流し漉き」によること。

     
    (2)
    簀は、竹製又はかや製のものを用いること。

     
    (3)
    「ねり」は、トロロアオイ又はノリウツギを用いること。


    乾燥は、「板干し」又は「鉄板乾燥」によること。

    原材料

    主原料は、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、アサ又はわらとすること。

  • 作業風景

    工程1: 水浸・煮沸

    まず最初に、原料となる楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)を水槽に入れて数日間水に浸し、原料を柔らかく膨潤させます。つぎにこの柔らかくなった原料を和釜に水を入れ、原料に対して1~2割のソーダ灰、苛性ソーダといった薬品も加えて、2~3時間煮沸します。こうして、非繊維部分までも溶けるようにするのです。

    工程2: あく抜き・漂白

    つぎにこの煮上がった原料を和釜から水槽に移しかえて水洗いし、非繊維部分やゴミなどを除き、約1週間水槽の中で水さらしと、日光ざらしをおこないます。続いて水槽に定量のさらし液と水を加えたところに、原料を広げてよくまぜ、有色繊維を漂白します。

    工程3: 水洗・叩解

    材料を漂白した後、水槽に水を入れその中で水洗いします。洗ったら、人手によってていねいに未漂白の繊維やゴミを最終的に取り除いていきます。ちり取りの終わった原料を叩解機(ビーター)によって、たばになっている繊維が一本ずつ、ばらばらの綿状になるようにします。こうして、紙すきのできる状態にほぐします。すき上げる紙に応じて、主原料、副原料を配合してよく混ぜ合わせます。

    工程4: 紙すき

    ようやくここからが紙すきの段階です。水の入ったすき舟に原料となる紙料と、紙すきに使う天然のノリを入れてよく混ぜ合わせ、桁をはめこんだスダレによって紙すきを行っていきます。この桁に適量の紙料のとけ込んだ溶液をすくい入れ、手前に、向こうにと揺すります。ここが紙すきのハイライトであり、職人さんの経験や勘がものをいうところ。均一な紙を作るために、神経を集中します。障子紙などの厚めのものを作る場合は、何度か紙料をすくい、揺らすという作業を繰り返します。天井から吊るされた縄の先には竹が結わえてあります。竹の適度な弾力がバネ変わりになり、水に溶け込んだ紙料の入った桁はかなりの重さですが、コツを覚えれば女性でも揺することができるようになっています。この仕掛けはずっと昔から変わらないもの。均一な厚みのものができたら、桁からスダレをそっとはずし、真後ろに置いた台の上にきれいに重ねていきます。

    工程5: 圧搾

    ある程度すき重ねた紙は、一晩置いておきます。翌日、圧搾機によって水分が半分くらいになるまでじっくり脱水します。書道用半紙の場合は丸一日かけて、障子用のものは3時間くらいかけます。

    工程6: 乾燥

    次にこの水分を絞った紙を、乾燥機で乾燥していきます。蒸気が中を通っている三角柱を横にした乾燥機に、水をかけた湿紙を1枚ずつそっとはがしてステンレスの板に広げ、専用の柔らかくて大きな刷毛で、しわができないように手早く伸ばし、貼りつけます。ステンレス板がいっぱいになればくるりと回転させ、前に貼って乾ききったものをまた、1枚ずつ今度ははがしていきます。それを台の上にそっと重ねていきます。

    工程7: 選別・裁断

     
     

     

  • クローズアップ

    日本一の書道用紙、大洲和紙

    平安時代にはすでに生産されていたと言われる、大洲和紙。江戸時代には、大洲藩の保護奨励政策のもとでおおいに繁栄した。この日本有数の和紙の生産地、大洲では今も昔ながらの製法を守り続け、書道用紙をはじめ障子紙など質の高い和紙を供給し続けている。

     

    古い歴史を持つ大洲和紙

    その起源ははっきりとはしていないが、平安時代に京都に図書寮紙屋院が置かれ、公用紙を定めることになった。その際に上納した40数カ国の中に、ここ大洲も含まれていたことが「延喜式」といわれる書物に記録されている。史実としては、五十崎(いかざき)町の香林寺にある過去帳に、善之進という僧がこの地に来て、紙漉の師としてその技術を伝え、大洲の藩内作業として繁栄を極めていったと、記されている。

    さまざまな色合いの和紙

    昔ながらの材料と製法

    和紙の原材料となるのは、楮(こおぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)、麻、竹、わらなどの自然のもの。これに、トロロアオイという天然のノリを加える。これらが蒸煮、叩解、抄紙などの工程を経て、紙となっていく。そして大事なのが、水。水道水ではカルキが入っているので、地下水を汲み上げて使う。江戸時代と変わらぬ材料、手法で大洲和紙は作られる。
    製品はおもに、書道用半紙、障子紙、画仙紙、版画用紙、表装用紙、色和紙、たこ紙といったもの。ここで作成される紙のうち9割が書道用半紙と障子紙で、それらはほぼ半々の割合である。特に書道用紙は質量ともに、日本一を誇っている。

    昔ながらの紙すき作業

    健康の秘訣は仕事

    作業場に足を踏み入れると、女性ばかりがてきぱきと作業している。みなさん小柄な体で実に小気味よく紙を漉(す)いている。わきでじっとその動きを見ているとよくわかるが、この紙を漉くという作業、腕・足・腰と全身を使った運動である。小柄な彼女たちには、けっこうな力仕事のはず。
    伝統工芸士である、稲月さんはこの道43年というベテラン。だいたい一日で書道半紙の厚地なら300枚、仮名用の薄地なら350枚、障子用だと200枚を漉くという。「真冬でもこの薄手のポロシャツ1枚でやってるんですよ。」この華奢な体のどこにそんなパワーが隠されているのだろう。「娘時代からほとんど体型が変わらないから、昔の服がずっと着られる」と、屈託のない笑顔で答える稲月さん。どうもスリムな体型を維持し、健康でいられる秘訣はこの仕事にあるよう。

    竹がバネがわりになる仕かけ

    謙虚な姿勢と努力が均一な紙を作る

    若い頃は出来高制なので、休憩をとるのも惜しいくらいに働き、自分ががんばった分だけ認められてとてもうれしかったということだ。今は歳もとってきたし、お茶の時間もとってのんきにやっているそう。みなさん、娘時代から見知っているからだろう、お互いを「ちゃん」づけで呼び合って、とてもなごやかな雰囲気で働いておられる。「その日の体調や気分が、紙の出来に影響する」ということ。だから健康でいること、心にも余裕があることを常に心がけているという。さすが、プロフェッショナル。
    遠方から稲月さんの作った紙のファンの方がみえられて、サインを求められたこともあるそう。「今でも一人前とは思っていない」と、話される稲月さん。そういう謙虚な姿勢が、40年以上もたゆまぬ努力を続けてこられた源泉なのだろう。
    紙にも作った人の個性が出る。ノリを入れる割合、タイミングなどは特に決まっておらず、個人に任せているという。もっとも苦労するのは、同じ厚さの紙を作ること。すべてが職人の経験と勘で行われるだけに、これは大変な作業である。それだけに「自分の漉いた紙の目方があったときのうれしさは、格別」ということだ。

    自信に裏打ちされた笑顔

    隣の部屋では、この漉いた紙を乾燥させる作業をされている。漉く人と乾燥させる人の連携作業がうまくいくことが、良い紙ができる重要なポイントである。三角柱を横にした大きなステンレス板の中には蒸気が通っていて、部屋の中は暖かい。この乾燥機にまだほんのりと湿った紙を専用の刷毛で広げて貼っていき、鉄板を回しては前の分をはがし、また貼っていくという作業のくり返しであり、こちらもけっこうな運動量である。紙を勢いよくはがす大胆さと、しわが寄らないように微妙な力加減で刷毛を動かす繊細さのふたつが必要だ。
    こうやって見ていると、どちらの作業工程にも女性の感性が生かされていることがわかる。「家族の協力があったから続けてこられた。体力の続く限り、やりたい」と話される稲月さん。その笑顔は、長くひとつの技術を磨いてきた確かな自信となって、まぶしいようだ。

    三角柱の形をした乾燥機

    職人プロフィール

    稲月千鶴子

    この道43年のベテランだが、きびきびと働く姿はほんとうにお若い。

    伝統工芸士、稲月さん

    こぼれ話

    こぼれ話タイちぎり絵、絵手紙・・・広がる和紙の魅力

    ふすま、障子、屏風、掛け軸、行灯・・・かつて日本の住まいは、和紙で満たされていました。実用性の中にも簡素な美を追究してきた私たちの祖先のグッドセンスを、もっと現代の生活にも生かしていきたいもの。手すきの和紙は、手にも目にも優しく、ホッとする安らぎや懐かしさを与えてくれます。
    そんな和紙の長所が生かされた、ちぎり絵や絵手紙が今、静かなブームです。どちらも材料費もそんなにかからず、気軽に始めることができるのが魅力です。ちぎり絵は、ちぎる、剥ぐ、貼るをくり返し、紙を重ねることで淡い色調から、深い色合いまで自由に表現できます。流れるような曲線も和紙ならでは。
    絵手紙は、ハガキという小さなキャンバスに、あふれる創作意欲をギュッと凝縮。絵手紙の基本は「ヘタでいい、ヘタがいい」。絵は苦手と思っている方こそ、始めるとその魅力にはまるそうです。なによりも心を込めて描いたものを人に送って、また喜んでもらえるのがいいですね。

     

概要

工芸品名 大洲和紙
よみがな おおずわし
工芸品の分類 和紙
主な製品 障子紙、たこ紙、書道用紙
主要製造地域 西予市、喜多郡内子町
指定年月日 昭和52年10月14日

連絡先

■産地組合

大洲手すき和紙協同組合
〒795-0303
愛媛県喜多郡内子町平岡甲1240-1
TEL:0893-44-2002
FAX:0893-44-2162

特徴

和紙は洋紙と違い、一枚一枚手作りであるところから、その温かさ、人間味等が伝わってきます。障子紙、書道用紙の他、最近ではちぎり絵等に多く使用される等、新しい用途が考えられています。

作り方

和紙の原料としては、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、麻またはワラ等を使い、材料となる植物を煮る「蒸煮」、煮たものを叩いて細かい繊維にする「叩解(こうかい)」、水に溶かした繊維を漉いて紙にする「抄紙(しょうし)」、「乾燥」等、今なお伝統的技法を受け継いでいます。特に紙漉きでは「流し漉き」の技法を使って昔ながらの技術を受け継いでいます。

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