雄勝硯

宮城県

雄勝硯の歴史は大変古く、室町時代初期に遡ると言われています。
江戸時代の初めには、牡鹿半島の遠島(とおじま)へシカ狩りに来た伊達政宗に、硯を二面を献上して、いたく称賛され、褒美を授かったことが伝えられています。
また伊達家の二代目忠宗もその巧みな技に感服して、硯師を伊達藩に召し抱え、硯の原料が採れる山を「お止め山(お留山)」として、一般の者が石を採ることを許さなかったと言われています。

  • 告示

    技術・技法


    使用する石材は「石きず」、「ひび」、又は「割れ目」のないものとすること。


    「縁立て」には、「彫りのみ」及び「小丸のみ」を用いること。


    「荒彫り」にあっては、「くりのみ」を用いる「くり彫り」をすること。


    「荒彫り」した後、手作業による「仕上げ彫り」をすること。


    「加飾彫り」をする場合には、「毛彫り」又は「浮き彫り」とすること。


    「仕上げみがき」には、「砥石」を用いること。


    仕上げは、次のいずれかによること。

     
    (1)
    「漆巻き」を必要とするものにあっては、「漆巻き」をした後、「つや出し仕上げ」又は「やき仕上げ」をすること。

     
    (2)
    「漆巻き」を必要としないものにあっては、「墨引き仕上げ」をすること。

    原材料


    石材は、雄勝石とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    古くから産業として成り立っていた雄勝硯は、雄勝石の採石、切断、砂すり(原石の表面をすり鍵盤で滑らかにする作業)、そして彫りと、分業されていました。今回は彫りから硯を仕上げていく工程をご紹介します。

    工程1: 縁立て

    一枚の石から、縁を作っていきます。ノミの柄の部分を肩に当て、重心をかけ、体中の力を集中させます。石を彫るという強い力と同時にやさしい曲線を描くという技術が必要です。

    工程2: 荒彫り

    墨堂(墨をする部分)と海(磨った墨が溜まるところ)を大まかに彫ります。大体の深さを一気に彫ります。

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    工程3: 海彫り

    石全体の1/3が海の部分になります。その深さは一番深いところで全体の石の厚さの2/3程です。この海の広さ、深さとも手で石を触り確かめながら彫っていきます。この墨堂から海にかけてのなだらかな斜面が、水と磨った墨の流れを決めます。

    工程4: 磨き

    彫り上がった硯は中磨き、外磨き、仕上げ磨きの三段階に分けて砥石・耐水ペーパーを使い、磨きます。中磨きは硯の中でも墨を磨るという一番肝心なところを磨く作業です。手で丁寧に感触を確かめながら磨きます。

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    工程5: 底を平らにする

    その後、底を平らにします。墨がよく磨れ、墨の流れも絶妙な硯でも底がしっかりしていなければ台無しです。硯を支える底は、全体に力を均等にかけながら整えます。石を磨くということは彫るのと同様、かなりの力を要します。やはり、からだ全体の力を腕に集中させ、勢いをつけて底を磨き整えます。

    工程6: 仕上げ

    仕上げは、漆を使ったつや出し仕上げ、やき仕上げ、墨を使った墨引き仕上げの三つの方法があります。それぞれ違ったつやが出ます。

     

  • クローズアップ

    東北の歴史を綴る文房具 雄勝硯

    歴史を綴ると共に芸術でもある書。その道具の一つである硯は高品質であること、そしてなによりも使いやすいことが望まれてきた。雄勝硯には雄勝石の材質を生かし、磨った墨の流れが計算し尽くされた彫りの技術が凝縮されている。

     

    「石を見る」と書いて「硯(すずり)」と読む

    墨を磨るということは、細やかな墨の粒子を硯で削りながら水に馴染ませていくということ。「どんな石でもその形に彫れば硯になるわけじゃない。硯という字を見てもわかるように石をよく見て、硯の条件に合った石でなければ硯にはならないんです。」と雄勝硯生産販売協同組合の千葉さん。その硯となる石の条件とは、

    ・墨を磨る際、歯の役目をする鋒鋩(ほうぼう)がバランスよく含まれていること
    (鋒鋩は、大根おろしの歯のような役目をします)
    ・磨った墨の粒子を水に馴染ませる吸水率の低いこと
    ・化学的作用や永い年月にも変質しないこと
    ・美しい石肌の自然模様であること

    この条件をすべて兼ね揃えた石が、ここ雄勝一帯の地下の2.5億年以上前の断層からなる雄勝石なのである。

    受墨竏柱・が墨を受けること。鋒鋩がバランスよく林立している硯でなければ墨は磨れず、受墨しない。そのバランスがすばらしい雄勝硯

    世界にただ一つしかない蓋との組み合わせ~天然共蓋付硯~

    太古の川の底の泥が堆積されたものが固まってできた雄勝石は、2.5億年まえの断層そのものである。つまり、ある方向には比較的、きれいに割ることができる。蓋付きの硯はこの性質を利用してできている。雄勝石をスパっと割り、片方は硯に彫り、もう片方は蓋として完成される。ふちは割ったままの状態で双方をあわせるとぴたっとはまる。石を割った瞬間に決まる、世界でただ一つしかない硯と蓋の組み合わせは、天然の石ならではである。

    天然共蓋付硯。石肌が美しい雄勝石だからこそ切ったそのままの口が生かされている

    意外な形の伊達政宗公愛用していた雄勝硯

    「仙台藩主伊達政宗公愛用の硯」と聞いて、どんな硯を想像するだろうか。多くの方がどっしりと大きくてまわりにすばらしい彫刻があるような、華々しいものを思い浮かべるだろう。ここ雄勝硯伝統産業会館には、仙台市博物館所蔵の仙台藩主伊達政宗公が愛用した雄勝硯(レプリカ)がある。しかし、その形はあまりにもシンプルで小さいことに驚く。「戦場にも持っていく愛用品は持ち運びが楽なように、小さく、機能的にも無駄がなく、そして品のあるものなんです。」と雄勝硯生産販売協同組合の千葉さん。なるほど、納得である。政宗公は、戦場にてこの硯を使い、戦火の中書状を書いていたのだろうか。

    この、シンプルな政宗公愛用の硯と同じ硯をつくるのは不可能な程、難しい技術だという。一見小さな四角い硯だが、よく見るとふちには角がなく美しい丸みを描いている。また、墨を磨る部分(墨堂)は盛り上がっており、磨れた墨は両側から海(磨った墨がたまる所)へ流れていく。墨の流れが計算し尽くされ、しかもふち、墨堂、と丸みを帯びた部分は左右とも少しの狂いもなく滑らかな曲線を描いている。この小さな硯の中に、最高の技術が凝縮されているのである。

    • 現在の測定技術も敵わないほど洗練された、最高の技術がつまる伊達政宗公愛用の硯

    • 磨った墨の流れ、海の深さ、そして美しく丸みを帯びたふち、墨堂……。この小さな一見普通の硯の中に、目を見張るポイントがたくさんある

    職人プロフィール

    高橋仁夫 (たかはしたねお)

    昭和7年生まれ。
    21歳の時から硯工人となる。
    「やっぱり美しいくり(丸み)をつくるのが一番難しいねえ。」

    こぼれ話

    御留山の名前の由来

    雄勝湾に面する御留山はかつては「お止山」と呼ばれていました。藩祖伊達政宗公がこの雄勝周辺に鹿狩りに来た際、硯二面を献上したところ、いたく賞賛、褒美を賜ったとあり、また二代忠宗公もやはり鹿狩りの折り、その巧みな技に感服し硯師伊達藩お抱えとし硯を産する山を御留山とし一般の採掘を許さなかったそうです。現在は御留山は個人の所有になっています。

     

    • 硯以外の雄勝石の一面がみられます。意外と私たちの生活のまわりにも使用されているかも

概要

工芸品名 雄勝硯
よみがな おがつすずり
工芸品の分類 文具
主な製品 自然石硯、天然共蓋付き硯、特殊硯
主要製造地域 仙台市、石巻市
指定年月日 昭和60年5月22日

連絡先

■産地組合

雄勝硯生産販売協同組合
〒986-1335
宮城県石巻市雄勝町下雄勝2丁目17
TEL:0225-57-2632
FAX:0225-57-2632

http://www.ogatsu-suzuri.jp/

実店舗青山スクエアでご覧になれます。

特徴

硯にとって最も大切な部分は、墨をする際に歯の役割を果たす鋒鋩(ほうぼう)です。雄勝硯の特徴は、この鋒鋩の荒さ、細さ、堅さ、柔らかさが丁度良いバランスになっていることです。色は黒または暗い藍色で、豊かな艶があり、石肌は滑らかです。

作り方

雄勝硯は、室町時代の昔から優れた硯として称賛され、以来600年の歴史と伝統を誇っています。昔ながらの手作りの製法により、硯作りの職人の腕一つで丹念に彫り上げています。

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