豊橋筆

愛知県

江戸時代後期に、現在の豊橋市にあたる地域を支配していた吉田藩の藩主が、京都の職人を、藩のために筆を作る御用筆匠(ごようふでしょう)として迎え、下級武士に副業として筆作りを奨励したのが始まりです。
明治初年、芯巻筆(しんまきふで)を改良した、現在の筆と同じ作りの水筆の製法で筆が作られるようになり、豊橋筆の基礎となりました。現在筆作りの職人375人が、伝統的技術・技法を受け継ぎ、筆作りに励んでいます。

  • 告示

    技術・技法


    火のしかけ及び毛もみには、もみがらの灰を用いること。


    「櫛上げ」をした後、「分板」及びはさみを用いる寸切りをすること。


    混毛は、「練りまぜ」によること。


    「おじめ」には、麻糸を使用すること。

    原材料


    穂は、ヤギ、ウマ、タヌキ、イタチ、シカ、ネコ、ムササビ、リス若しくはテンの毛又はこれらと同等の材質を有する獣毛とすること。


    軸の素材は、竹又は木とすること。

  • 作業風景

    豊橋筆の制作工程は細かく40もの工程にわけられますが、ここではその大きな流れをご紹介します。

    工程1: 選別

    原毛から毛丈の長短、毛先の良否などを見て、用途別に選り分けます。その後、煮沸または湯通しした毛を乾燥させ、余分な綿毛を金櫛で抜き取ります。

    工程2: 毛もみ

    もみがらを焼いて作った灰をまぶして原毛に含まれる動物の脂肪分を取り除きます。墨の吸収をよくするため、鹿の皮を巻いて強く揉み上げます。

    工程3: 櫛上げ

    毛先をそろえて金櫛で丹念にすき、形を整えます。

    工程4: 練りまぜ

    「命毛(いのちげ)」と呼ばれる筆の一番先の毛、「喉毛(のどげ)」と呼ばれる穂先のすぐ下の毛、「腰毛(こしげ)と呼ばれる一番下の弾力のある毛をまぜ合わせる工程で、この工程を水を用いることが、豊橋筆最大の特徴です。熟練の職人によってまぜ合わされた穂は、どの穂をとっても命毛、喉毛、腰毛の配合が均一で狂いがなく、穂の脱毛は全くありません。

    工程5: 芯立て・上毛がけ

    芯一本分の大きさに分け、型に差し込んで芯の形をつくります。乾燥させた芯に上毛を巻き付けます。

    工程6: 仕上げ

    竹の軸に穂を差し込んだあと、穂に糊を含ませて巻き付けた糸を回しながら穂の形を整えます。軸の胴に商品名や作者名を彫って完成です。

     

  • クローズアップ

    描く人の個性ここにあり。墨で極めるオリジナリティを出す豊橋筆

    墨をよく吸い、墨はけが遅く、墨になじむ。すべるような書き味と多くの書家から絶賛される豊橋筆。高級筆の全国シェアの8割近くを占めるといわれる豊橋筆は、一本一本熟練の職人の完全なる手作業によって作られる。お客さんのどんな注文にもこたえられるという豊橋筆の、筆作り50年のベテラン榊原忍さんにお話を伺った。

     

    まるで田舎の動物園のよう

    「ちょっと小さい田舎の動物園くらいかねえ。」と、榊原さん。もちろん、実際に動物を飼っているのではないが、榊原さんの作業場に常備してある動物の毛(原毛という)は、山羊、馬、ウサギ、狸にイタチにムササビ、ムジナのなかま、白鳥まで10種類は下らない。江戸、明治の昔は近くの裏山でいくらでも捕れたこれらも(注:山羊だけは捕れなかった。日本にもともといなかったので。)最近は中国からの輸入が70%を占める。欲しいときに入ってくるとは限らないので、よいものが手に入る時にたくさん仕入れておくのだそうだ。

    筆のバリエーションは無限大

    筆全体のシェアは25パーセントだが、高級筆に限っては全国シェアの70~80パーセントを占めるといわれる豊橋筆の顧客にはプロの書道家も多い。榊原さんのところでも、東京の書道専門店に納品しているが、「もっとやわらかくてでも、しっかりこしのあるものを」とか「もっと毛先がかすれる墨含みの少ないものを」など、様々なオーダーが店を通して届くという。榊原さんはその顧客の注文に合わせて材料を吟味し、オリジナルの筆を作っていく。時には原毛の束のなかから選びだした数本ずつを集めていくため、一年以上待ってもらうこともあるという。気長な話である。「筆の種類?数えられませんよ。無限です。だから同時にいつでも、どんな注文にも答えられる技術を持っていなければならないんです。」水鳥の羽やい草の束で作ることもあるという。

    職人が一ヶ月に作る筆は700本ほど

    豊橋の筆は一から十までひとりの職人の手仕事

    豊橋筆の作業工程は細かくわけると40にもなるという。竹の軸を切る以外はすべて細かい手仕事だ。その手仕事を一から十までひとりの職人が行う。その点が、他産地の筆とは違う。他産地では、パートを雇って分業体制にしているところもあるが、それではトータルな品質管理はできないという。手元の品質基準になる筆をもとに常に高品質の筆を安定供給するのが豊橋の筆職人である。

    40もの作業工程はほぼ完全に職人の手作業だ

    使ってみなければわからないのが筆

    榊原さんが何度も語られた言葉に、「筆は使ってはじめてわかるもの」というものがあった。筆は試しがきかない。お金を払って墨を含ませて使ってみてはじめて、その筆が良い物かどうかがわかるのであって、返品も交換もきかない。だから、いいものを作らなければならない。常にいいものをつくらなければならないと榊原さんは言う。良い筆とはその筆を使う人それぞれによって変わってくるが、使うその人にとっての良い筆を、という榊原さんの姿勢に妥協はない。

    書と水墨画で使う筆

    榊原さんから、ちょっとお得な話を伺った。最近静かなブームになっている水墨画だが、ふつう水墨画は水墨画用の筆で描く。水墨画用の筆の方が、書の筆よりも少し短いのだが、「古くなった書用の筆の先をちょっと切ればいいんです。筆は一本一本違うと言ってきたけれども、まあ、いとこ同士のようなもの。そうやって気楽に楽しんでもらえればいいんです。」書と水墨画、両方を趣味に持つ人は多いという。
    「書が少し上達して飽きてきたら水墨画を、水墨画が少し上達して飽きてきたらまた書をやればいい。今、私が考えていることは子供たちにもっと書を楽しんでもらいたいということなんです。そのためには指導者が必要。今の若い先生は書になじみがないから、退職して地域にいる元先生に活躍してもらったらいいんじゃないかとか、私たちもいろいろ作戦を練っているんですよ。」
    息子さんたち2人も筆職人という榊原さんならではのアイデアはまだまだ出てきそうである。

    榊原さんの作る筆は東京の有名文具店に卸されている

    職人プロフィール

    榊原忍 (さかきばらしのぶ)

    1937年(昭和12年)生まれ。中学卒業後、16歳で親方に弟子入りして以来、50年近くこの道ひとすじ。今では息子さん二人ともが筆職人。

    こぼれ話

    意外に手軽~水墨画

    水墨画が静かなブームになっていると聞いて、名古屋市内のカルチャーセンターを訪ねました。この日やっていたのは武井泰道(むい・たいどう)先生の「はじめての墨彩画」教室。お手本を見ながら描いた絵に絵の具で薄く色づけします。新学期で新しい生徒さんも増えたということで、18人が今日の課題の満開の桜と三重の塔に挑戦していました。武井先生によると、お手本を見ながら(時にはお手本の上に紙をのせて透かして写し取っていました)描いていくのは構図の勉強に大変いいとのことです。お手本があるので上手に描けるし、一時間ほどで一枚仕上げられる手軽さも魅力で、初心者にはもってこい。参加していた70歳の女性は「家に持ってかえってすぐ飾れるのが気に入っています。家族にもほめてもらえます。」と話していました。

    • お手本を見ながら、一時間ほどで一作品完成です

    • 先生の指導も受けながら和やかに教室はすすみます

    • 武井先生のお手本をのぞき込む時には皆さん真剣

     

概要

工芸品名豊橋筆
よみがなとよはしふで
工芸品の分類 文具
主な製品書道用筆、面相筆、日本画筆
主要製造地域豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市他
指定年月日昭和51年12月15日

連絡先

■産地組合

豊橋筆振興協同組合
〒440-0838
愛知県豊橋市三ノ輪町5-13
TEL:0532-61-8255
FAX:0532-61-8255

http://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/501.html

特徴

豊橋筆は一般書道用筆が主体です。近年、値段の安い中国筆が進出しており、大きな打撃を受けています。しかし、日本人に向く高級品作りに全力を注いで、中国筆に負けないものを作っています。

作り方

筆作りの工程は約36工程です。大きく分けると、原料となる毛をより分け、毛もみをし、練り混ぜて毛を整えていきます。毛並みを揃えて芯を作りその外側に上毛(うわげ)として揃えた毛を巻き付け、軸を付け、軸に彫刻を施して完成します。豊橋筆の作り方の特徴は「水を用いて練り混ぜ」をすることです。長い歴史の中で培われた伝統的な技術・技法を受け継いだ、手作りによる優秀品ばかりです。

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