赤間硯

山口県

赤間硯は鎌倉時代の初めに、鶴岡八幡宮に奉納されたという記録があります。江戸時代中期には各地で売り広められました。
毛利氏が藩を治めていた時代には、原料となる石が採れる山は御止山(おとめやま)として一般には入山を禁じられ、参勤交代の贈り物等として硯が必要になると、藩主の命令で採掘がされました。こうした事情から、長州藩の名産として簡単に手に入れることのできないものでした。

  • 告示

    技術・技法


    使用する石材は、「石きず」、「ひび」、「割れ目」、「砂気」、「貫入」又は「針」のないものとする。


    「縁立て」には、「縁立てのみ」を用いること。


    「海」及び「あげ」を「荒彫り」した後、手作業による「仕上げ彫り」をすること。


    「加飾彫り」をする場合には、「毛彫り」、「浮かし彫り」、「たたき彫り」又は「透かし彫り」した後、「仕上げ彫り」をすること。


    「みがき」には、「砥石」を用いること。


    仕上げは、「ろう引き」又は「漆仕上げ」によること。

    原材料

    原石は、赤間石とすること。

  • 作業風景

    赤間硯の原石は、輝緑凝灰石(きりょくぎかいせき)。6000万年以前の白亜紀に噴火により噴出した岩粉が積もってできたもので、赤みを帯びた紫色をしています。中には紫色に混じって緑色を帯びた層が入っているものもあります。硯作りは、おおまかに「採石」「削る」・「彫る」・「磨く」・「仕上げ」の工程があり、石質の選別・彫刻などの技術を修得するには、普通で10年は必要だと言われています。赤間硯特有の精巧な飾り彫りは、ノミを使った手作業によるもので、花鳥風月など日本の美しい情景などが映し出されるのです。

    工程1: 採石(さいせき)

    硯作りは、原石となる石を製作者が自ら採石するところから始まります。採石場の穴の深さは30から40メートル、高さはかがんで入れる程度。岩滝地区の赤間石は、厚さ10メートルの層をなしていますが、原料として使用できるのは約1メートルの層に含まれている石だけ。層を見極め、黒色火薬を使って岩にヒビを入れ、電動ドリルや削岩機などで採掘。切り出した石を、クサビ状のタガネで割ります。その後、硯として適している石かどうかを選別します。

    工程2: 縁立(ふちた)て

    表裏を大ノミで削り一定の厚さにして砂と水を使って底や側面を平らにする<じぎり>という工程を経て、丸・四角・自然の形を生かしたもの(野面)など、硯の形を決め、内径を3ミリくらいの深さに切り込み、縁をたてていきます。彫刻をほどこす場合は、その分縁を厚く大きく残します。

    工程3: 荒削り(あらけずり)

    硯の内径の海(墨がたまるくぼみの部分)と傾斜、丘(=墨をするたいらな部分)を荒く削って作ります。ノミの柄を肩に押し当てて、上半身の力で押しながら削って行きます。丘の部分には目に見えない細かい突起(鋒鋩=ほうぼう)が無数にあり、おろし金のような役目になります。赤間石は、細かく一定した鋒鋩があるため、硯として優れた石質なのです。

    工程4: 仕上げ彫り

    赤間石は、美しい色合いと彫刻に適した粘りが特徴。赤間石だからこそ、独特の加飾彫りができるのです。用途により、幅2ミリから10ミリのノミを巧みに駆使して、手作業でさまざまな加飾彫りを施します。形を浮かす「浮かし彫り」、浮かし彫りの間に透かしを入れた「透かし彫り」、石の自然な肌を出すためタガネでたたく「たたき彫り」、毛筋のように繊細な線を出す「毛彫り」などがあり、精巧な加飾彫りでは数日かかるものもあります。

    工程5: 磨き

    ノミの後が強く残っているので、まず砥石でとぎ、滑らかにし、さらにサンドペーパーで表面の細かい部分まで磨きあげます。ただし、あまり磨き過ぎると、実用的な硯としては墨がすりにくくなるため、最後に目立て石で磨き、墨をすりやすくします。観賞用の場合は、さらに細かいペーパーで磨き上げます。この後、仕上げに墨をする部分以外の表面に、漆を塗ります。

     

     

  • クローズアップ

    石を磨き、彫る。匠の技で輝く赤間硯

    書をたしなむ人にとって「文房四宝」と呼ばれ、大切な道具の一つが硯(すずり)。中でも赤間硯は、豪華な装飾が施された高級品として名高い。赤間硯の第一人者である下井百合昭さんに、自然の石に命を吹き込む匠の技についてお聞きした。

     

    赤間硯だからこそできる豪華な彫刻

    日本の硯の三大産地の一つ、山口県楠町。赤間硯の歴史は、鎌倉時代にさかのぼると言われている。その歴史にこの楠町が登場するのは、江戸時代。楠町で採掘された石が、下関(赤間関)に出荷され、硯に加工されていたという。明治の初め頃、下井さんの祖父が、この地で硯作りを始めて広がり、今では楠町の岩滝地区が赤間硯の里といわれほどになった。
    褐色のチョコレートを想わせる、柔らかく滑らかな石肌は優美さを醸し出し、一言で書道具として片付けられない輝きを放つ。赤間石の石質は、きめ細かく、しかも適度な粘りがある。だからこそあの精緻な彫刻ができるのだ。
    「祖父も、父もシンプルな硯を作っていました。私は、硯作りというより、赤間石で何かいろいろと作ってみたいという思いがあったので、下関の職人や絵画の先生に学んで、彫刻を施すようになったのです。」

    定番型の硯

    匠の技は、石の見極めから彫刻・磨きまで

    硯作りと言っても、磨き・彫る工程だけでなく、石を見極め採石する技術での比重が大きい。石は層になっているため、その方向性を間違わずに採掘しなければならない。また採掘した石が、硯に適しているかいないかの見きわめも難しい。せっかく切り出しても無駄になる石も多いのだ。
    「いい石を見つけたとして、この石のどこにタガネを打ち込もうかと、打ち込む瞬間にためらいや迷いがあると、石をダメにしてしまうこともありますね。」選りすぐられたわずかな石が、匠の技によって硯として命を吹き込まれるのだ。

    赤間硯らしい豪華な加飾彫りの硯と、独特の蓋つき硯

    硯石を超えた赤間石の魅力を伝えたい

    多忙な現代人の生活において、筆ペンや墨汁、またワープロやパソコンも普及し、硯で墨をする時間は贅沢とさえ思える。そんな時代にむけて、下井さんは、高額になりがちな大きな硯だけでなく、ミニ硯や、オブジェとして使える硯、ペーパーウェイトなど、新しい商品開発にも意欲的である。
    「石でありながら、暖かみがあり柔らかい。この石の魅力をみなさんに知っていただきたい。山の採掘場にいくと原石がゴロゴロある中で、どうにもならないと思うような石でも、その自然の形を生かし、自分の力で美しさを引き出だせた時、もっといいものを作りたいと欲が出る。それが職人の性なんですな。」

    <コラム>

    約10年かけて作り上げた、下井さん愛用のノミ。今も暇があれば、道具を作る。山で拾った木の枝を柄に加工した、独特の形状がおもしろい。カラダになじむ加減など、一番使いやすいのは柿の木だという。柄のところを肩にあてると、安定して体重がかかり、削りやすい。
    下井さん手作りノミ。柄がえぐれているのは、木に葛がまきついたあと。木の枝をそのまま生かした大小のノミ。刃先も微妙に異なる。

    職人プロフィール

    下井百合昭 (しもいゆりあき)

    硯作りにたずさわって48年。楠町で祖父から3代続く硯職人。

    こぼれ話

    赤間石の美しさを引き出す新しい形

    間違って食べてしまいそうなほど、質感が似ている栗のペーパーウェイト。大きい方は、セラミックと組み合わせたペーパーウェイト。別の素材との組み合わせなど、新しい発想はどんどん広がる。下井さんには、この道に入った時から「赤間石は、石質を活かせば、硯だけでなく他に何かできるのでは」という気持ちがありました。日本建築の家が減ってきた現代の住空間にもなじみ、この石の滑らかな肌や深い色合いを生かした作品ができないものか?そんな思いの中で作りだしものが、ペーパーウェイトやオブジェなど、モダンアート的な作品。赤間硯の歴史が育んだ伝統の技を生かしながらも、新たな魅力が引き出されています。後継者となる息子さんの若い感覚も取り入れながら、固定観念にとらわれず豊かに発想を広げる下井さん。赤間石の美しさは、これからまた新しい輝きを放つことでしょう。

    カッパの硯なんともいえない愛嬌のあるカッパの顔。頭の皿をはずすと硯として使え,蓋をしておけば観賞用としても楽しめる。下井さんの息子さんの作品。

     

     

概要

工芸品名赤間硯
よみがなあかますずり
工芸品の分類 文具
主な製品
主要製造地域下関市、厚狭郡楠町
指定年月日昭和51年12月15日

連絡先

■産地組合

山口県赤間硯生産協同組合
〒757-0214
山口県宇部市西万倉793
日枝玉峯堂内
TEL:0836-67-0641
FAX:0836-67-0641

http://www.stellar.meon.ne.jp/~kusunokichoshokokai/nakama/stay/suzuri.htm

特徴

赤間石は材質が硬く、緻密で、石眼や美しい文様があり、しかも粘りがあるため細工がしやすく、硯石として優れた条件を持っています。また、墨を削る歯の役割を果たす「鋒鋩(ほうぼう)」がみっしりと立っているので、よく墨を磨き、墨の発色が良く、早く墨がすれ、さらっとのびの良い墨汁が得られます。

作り方

硯に適した原石は、厚さ1メートル程度の地層になっているため、層に沿って斜めに穴を掘って採石します。採石した原石は選別して、縁たて、荒彫、浮かし彫、加飾彫り、仕上げ彫、磨き、漆による仕上げ等、十数工程を経て硯となります。 この作業工程や技術、技法は、100年を経た現在もほとんど変わらず、幅2ミリから10ミリ程度の「のみ」を使い、師匠や親から受け継がれた技術によって彫られています。

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