伝統工芸 青山スクエア

天童将棋駒

江戸時代後期に、この地方を治めていた織田藩が財政に苦しんでいた時に、それを救済するために下級武士に駒作りの内職を勧めたことが始まりです。

  • 告示

    技術・技法


    将棋駒の木地作りにあっては、玉切りした材を、大割り、小割り及び駒切りをすること。


    書き駒にあっては、駒木地に筆を使用し、漆を用いて、将棋駒独特の書体により、直接書くこと。


    彫り駒にあっては、字形から字母紙に陰影を写し取り、陰影を取った字母紙を切り取り、駒木地にのりで張り付け、印刀で彫り、目止めをしたあと、漆入れ、下地漆入れ、又は漆盛り上げにより仕上げること。

    原材料


    駒木地にあっては、ホオ、ハクウンボク、イタヤカエデ、マユミ若しくはツゲ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。


    漆は、天然漆とすること。

  • 作業風景

    一見単純そうに見える将棋の駒には、実は各種の種類があり、技法も異なります。
    ここでは文字を彫って漆を埋めた彫駒、駒の上に字が盛り上がっている盛上げ駒、天童伝統の書駒のできるまでをご紹介します。

    工程1: 駒木地づくり(乾燥~大割り)

    駒の原木としては、高級品用の本黄楊(ほんつげ)、普及品・中級品用のホオノキなどがあります。
    乾燥させ、寸法の狂いがなくなった原木を駒の形にまで加工します。原木を駒の高さに合わせ輪切り(玉切り)にします。玉切りした材を、木目に沿って割っていきます。これを大割りと呼びます。材にナタをあてて、ナタの上を槌で一叩きし、小気味よい音とともに原木が割られます。

    工程2: 駒木地づくり(荒切り~小割り)

    駒切りナタを使い、駒を重ねたような形にまで外周部を削ってから一枚一枚の駒に切り離します。
    材の両端を落としてから両側面を削って、駒独特の台形にします。駒の底を平らに削り、上方も山形に削ります。ここまで削ったら一枚一枚の駒に小さく割っていきます。

    工程3: 字母紙貼り(じぼしはり)、彫り、目止め

    字の書かれた紙を駒に貼りつけたら、駒を駒彫り台に固定し、印刀(いんとう)を使って一枚一枚文字を掘り込んでいきます。熟練した彫師は字母紙を貼らずに直接駒を掘り進める“透かし彫り”という技法を用います。彫る文字には各種の書体があり、作者がある書体は特別に“銘”と呼ばれています。
    彫った溝に目止め用のカキシブ、ニカワが塗られます。最近ではボンドが代用されることが多くなっています。

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    工程4: 漆入れ、研出し(けんだし)、瀬戸引き

    文字を彫った溝に漆を塗ります。溝に漆を塗っただけの駒が彫駒で、溝を完全に埋めた駒が彫埋駒です。
    漆を塗った後、駒の表面を研ぐ工程が研出しで、砥石を使って丁寧に研ぎ、磨きます。最後に瀬戸物を使って表面を磨きます。これを瀬戸引きといいます。
    彫駒、彫埋駒はここで完成です。

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    工程5: 盛上げ駒

    駒の上に文字を浮き出させた盛上げ駒にするには、彫埋駒の文字の上にさらに文字を重ねていきます。猫や鼠の毛をまとめて作った蒔絵筆を用いて、少しずつ文字を盛り上げていきます。一度にたくさんの漆を塗ることはできないので、塗っては乾かし、塗っては乾かし、少しずつ文字を盛り上げます。
    プロの棋士が対局で使うのがこの盛上げ駒で、作るのが難しい最高級品です。盛上げ駒を手に持った時に指先に触れる盛り上がった字の感触が名人、竜王などのタイトルを持った棋士の頭をさらに鋭くさせるのです。

    工程6: 書駒

    天童で伝統的に作られてきた駒は、文字を書いただけの書駒です。書いただけとは言っても、小さな駒に粘り気のある漆で文字を書くためには、高度な熟練の技が必要です。
    書体には一般的な楷書から書家並みの崩し文字である草書があります。小さな駒に書の芸術が生きています。

     

  • クローズアップ

    小さな駒に込められた工芸の技 天童将棋駒

    「たかが将棋の駒」と思いきや、その実、工芸ならではの熟練の技の賜物、天童将棋駒。木目と文字が織りなす小さな芸術は、棋士の心を揺り動かす。盤に駒を置くときの乾いた音の響きは頭を冴えさせる一服の清涼剤のよう。

     

    町全体が駒、駒、駒

    天童の駅を降り立つと、町のあちらこちらで将棋の駒をかたどったオブジェが目につく。電柱に駒、郵便ポストに駒、橋の欄干に駒。この町が将棋の駒づくりという地場産業を持っているのだな、ということが初めて訪れた者でも必ずわかる。
    そんな天童で駒づくりの話を聞かせてくれたのは、駒に文字を彫る職人である国井天竜さん。天竜という号(ごう)が物語るように、天童を代表する伝統工芸士だ。

    町中にあるオブジェが天童の駒を宣伝している

    職人は気難しい頑固者?

    「やあ、いらっしゃい。さ、上がって上がって。」号に気後れしていたが、お会いするとそれまでの緊張が一気にほぐれた。伝統工芸に馴染みのない方には“気難しい頑固者”というイメージのある職人の世界だが、実は意外と人懐っこい方が多いのだ。国井天竜さんは国宝級の技を持つ方でありながら、笑顔を絶やさず気軽に駒づくりの魅力を話してくれた。
    「まずはいたずらのつもりで彫り始めたんです。」国井さんが初めて駒に刀を入れたのは中学生の頃。近くの彫師の家で遊びがてらに始めた彫が今では並ぶ者のないほどの芸術の域に至っている。

    お茶を頂く時に自然に笑顔になってしまう

    木目の美しさが駒の芸術性を高める

    「この木目どうですか?きれいでしょ。これが孔雀杢(くじゃくもく)です。孔雀が羽を広げたみたいに見えるからそう呼ばれているのですよ。」多様な木目に名前がついている。縦に真っ直ぐな木目の入った“柾目(まさめ)”、虎の斑点のような“虎斑(とらふ)”、木の根から切り出しマーブル状の美しい木目の“根杢(ねもく)”などなど。同じ木目は二つとない、天然材料だからこその芸術だ。見ているだけで楽しくなってくる。
    「原木の種類の違いや目の入り方で彫る時の力加減がずいぶん違うのですよ。」熟練によりどんな木にも応じられる力加減を手が覚えている。「切り出してすぐは彫りません。次第に木が縮んでしまうので。」こういった木材の癖を見抜いて技を施していくことも天然の材料ならではだ。
    いい物になると駒一組の材料だけで20万円を超える値がつくという。「なかなかいい木目の材料は手に入らなくてね。いいのが出た、と聞くと買っておくのですよ。」とのこと。

    美しい木目を一組分揃えるのは難しい。それも天然材料ならでは

    木目が与えてくれるる心の平穏

    プロの棋士はどんな駒を使うのか尋ねてみた。「対局で使われるのは“赤柾”の“盛上げ”と決まっています。」赤柾とは、赤っぽい色をして縦に木目の入った駒のこと。盛上げとは、一度文字を彫った溝に漆を埋め、その文字の上に丹念に漆を塗り重ねて文字を浮き上がらせる技術のことだ。見た目に美しい虎斑や根木も、神経を研ぎ澄ませる対局では確かにうるさい感じがするのかも知れない。また、指先に触れる文字のかすかな盛り上がりが、棋士の戦略に直観を与えてくれることもあるのかも知れない。底知れぬ奥深さに知らず知らず惹きつけられてしまう。

     

    駒に印刀が吸い込まれていくような彫の技

    「ちょっと彫ってみましょうか。」国井さんはそう言うやいなや印刀(いんとう)を立て始めた。「この技法は“すかし彫り”といいます。駒に字を書かずに直接彫っていく技法です。これができる人はそういませんよ。」のっぺらぼうだった木片にあれよという間に文字が刻まれていく。
    国井さんの手で彫られた駒は別の職人の手に渡り、盛上げ駒になっていく。そして、ふと取り出した駒を見せてくれた。「この駒をどうですか?文字に力がないでしょう?これが機械彫りです。」どの駒にも同じ位置に同じ書体で文字が刻まれる機械彫りは個性のない味気ない駒になってしまう。よく見ないと見分けがつかないが、確かに何かが違う。国井さんの手彫りも素人から見れば均一に見えるが、ごくわずかなずれが手彫りの温もりを伝えてくれる。その違いを大事にできるからこそ職人なのだ。

    「たかが駒」とは到底片付けられない奥の深さ、技の繊細さ。駒づくりに触れることで“たかが駒”にすっかり魅了されてしまった。そして“たかが駒”を盤に置くときの澄み切った「パチーン」という音。この音が心まで澄ませてくれるようだ。駒を知って将棋を指すことを楽しむ。そんな心と時間の余裕が私たちには必要なのかも知れない。

    気が付いた頃には、達筆で“王将”の文字が彫られていた

    職人プロフィール

    国井天竜

    伝統工芸士。数々の表彰状が技術の高さを物語る。「遊びと小遣い稼ぎで始めた。」という彫の仕事だが、現在ではその技術の高さは国内随一。

    こぼれ話

    将棋で時間を浪費することの楽しみ

    将棋盤に駒を置くコンピュータゲームの流行で、最近、将棋をやる人たちが少なくなっていると聞きます。会社勤めのお昼休みによく見られた将棋を指す光景は、とんと見られなくなっています。特にハイテク企業に勤めるサラリーマンはやらないのではないでしょうか?
    将棋を指すには時間がかかります。忙しさのあまり将棋を指すこともできません。合理化して時間を作り出すための機械に、いつの間にか私たちは振り回されてしまいます。技術が進むほどに、なぜかますます忙しい。
    そんな現代人を落ち着かせてくれるのは、“まずは将棋を指すこと”から。なんていうのは、無理でしょうか?将棋を指すには時間だけでなく頭の回転も必要です。手先で駒を持って、動かしながら考える。若年性の痴呆の防止にも一役買ってくれそうな、そんな将棋を見直して見てもいいのかも知れません。
    「まあまあ、忙しそうなその手を休めて、まず一局いかがですか?」そんな声が聞こえるようになったら、たぶん日本は平和になるかも。

    人を駒に見立てた“人間将棋”。さすがにここまでやると時間の使いすぎ?

     

概要

工芸品名 天童将棋駒
よみがな てんどうしょうぎこま
工芸品の分類 その他の工芸品
主な製品 将棋駒
主要製造地域 天童市、山形市、村山市
指定年月日 平成8年4月8日

連絡先

■産地組合

山形県将棋駒協同組合
〒994-0013
山形県天童市老野森1-3-28
天童商工会議所内
TEL:0236-54-3511
FAX:0236-54-7481

http://www.tendocci.com/koma/

特徴

ホウノキ、ハクウンボク、イタヤカエデ、マユミ、ツゲ等の木地に天然の漆を用いて文字を書きますが、高級品は本ツゲに字を彫り、そこに漆を盛り上げて作られます。全国の将棋駒の生産量の95%以上を生産しています。

作り方

製造工程は、木地作り、駒彫り、駒書きと分業化されており、それぞれの職人の手作業の積み重ねによって作り出されます。

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